ポリーナ・パーシモン 26 ゴブリンアール退治

いよいよゴブリンアール退治をするに当たって、ポリーナが二人に頼む。


「おそらく大丈夫だとは思いますが、万一私が失敗した時に、御二人は逃げてください」

「わかったよ。その時はポリーナちゃんを抱えて逃げ出すよ」

「ええ、任せてください」

「はい、よろしくお願いいたします」


二人に頼むとポリーナはうなずき廃村へと進む。


「では・・・行きます!

出でよ!ロカージョ!」


ポリーナが叫ぶと、その目の前に岩石状のジャベックが現れる。


「ロカージョ!先頭に立ってちょうだい。

ヴェルダ、フラーバ、フォリオ、私に付いてきてちょうだい!」

「かしこまりました」


村の100メルほど近くまで来ると、ポリーナは呪文を唱える。


「アニーミ・ミル・エスト」


途端に村の周囲に大量の白い甲冑騎士型タロスが現れて村を囲む。

その数、一千体だ。

それを見たオーベルとクレイグが驚く。


「これは・・・!」

「ははっ!凄いな」


ポリーナは資格的にはまだ魔法士でしかないが、元々の魔力量が多い家系の生まれと、高祖父アルマンと、師であるエレノアの訓練の結果、魔法士であるにも関わらず、タロスを2千体以上も生成可能となっていた。

もちろんこれは極めて稀な事で、魔法士でこれほどのタロスを生成出来る者はまずいない。

そもそも魔法修士や魔法学士であるオーベルやクレイグよりも魔力量が多いので、二人が驚くのも無理はない。


「村全体を戦闘タロス千体で囲みました。

これでもうこの村からゴブリンは逃げられません」

「そうかい?

しかし確かに1千体のタロスで囲ったのは凄いが、少々目が粗いんじゃないかな?」

「ええ、これでは何匹かには突破されそうですが?」


二人の言う通り、すでにこちらのタロスに気づいたゴブリンたちが村の各所から出てきて、戦闘タロスたちと戦おうとしているのがわかる。

しかしポリーナは落ち着いて二人に説明をする。


「大丈夫です。ここからが大御爺様に教わった秘伝です。

見ていてください。

ヴェルダ、フラーバ、フォリオ、ロカージョ、私をしばらく守ってね」

「承知しました」

「お任せください」

「大丈夫です」


ポリーナの言葉に三体が答え、ロカージョも無言でうなずく。

ポリーナは持っていた魔力回復剤を使うと、その場で祈りを捧げるように両手を組んで一心に何かを念じる。

すると驚いた事にそれまでポリーナの出した戦闘タロスと戦っていたゴブリンたちがお互いに村の中へ戻り、そこで同士討ちを始める。

その光景にオーベルとクレイグが驚きの声を上げる。


「おいおい!これは一体何が起こったんだい?」

「驚きですね?」


やがて祈りを終えたポリーナが笑顔で話し始める。


「さあ、これでゴブリンたちが村の外に出る事はありません。

いよいよゴブリン退治を始めます」


そう言うとポリーナは先ほどとは違う形の灰色の戦闘タロスを100体ばかり出して、ヴェルダたちに命令をする。


「ヴェルダ、松明に火をつけて。

フラーバとフォリオはそれを配って」


ヴェルダたちがポリーナの命令通り、持ってきた大量の松明に一気に火をつける。

松明にはたっぷりと油を染み込ませた布を巻いてあるので、激しく燃え盛る。

それをフラーバたちがタロスたちに配ると、タロスたちはそれを自分の両肩にある穴に挿すと、村の中へ突入していった。

たちまち村の中はゴブリンの同士討ちと戦闘タロスとの戦いで、阿鼻叫喚の地獄絵図となる。

しかも松明を持ったタロスが手当たり次第に村の家屋に火をつけてまわるのだ。

単にその状況だけを見れば、まるで村中が放火魔と山賊にでも襲われたかのようだ。

根拠地を急襲され、焼かれ、あまつさえ同士討ちすらしている状況は、まさにゴブリンにとっては地獄絵図だ!

その様子をポリーナは淡々と見ている。

そばで見ていたオーベルとクレイグが押し殺したように話す。


「凄いな・・・これは・・・本当に容赦ない」

「ええ、これを彼女一人でやっているかと思うと恐ろしいほどです」


やがてゴブリンの姿が少なくなって来るとポリーナが話す。


「そろそろ参りましょう。

ヴェルダ、あなたは上空で監視して、タロスの包囲網から逃げ出そうとするゴブリンがいたら退治してちょうだい。

いつものように鷹型タロスを警戒にだしてね」

「かしこまりました」


命令を受けたヴェルダが空に舞い上がり、上空監視を始める。

そして鷹型のタロスを数羽出すと、ゴブリンたちが村の外に出ないように全体を警戒する。


「ロカージョ、先頭に立ってちょうだい。

フラーバとフォリオはまだ生き残っているゴブリンを見かけたら止めをさして。

さあ、御二人とも行きましょう」


ポリーナたちはフラーバとフォリオ、そして数体のタロスを護衛として村の中へ入ったが、ゴブリンのほとんどはすでに息絶えていた。

たまに生き残りが襲い掛かってくるが、あっさりとフラーバとフォリオ、そして護衛の甲冑騎士型戦闘タロスに迎撃されて終わる。

その様子にオーベルとクレイグは感心する。


「凄いな・・・こりゃ」

「ええ、本当に」


やがて一行は村の中央にある大きな石造りの屋敷に到着する。


「おそらくゴブリンの頭目はこの中に潜んでいると思います。

オーベルさん、ここ以外にゴブリンが生き残っているか、確認していただけませんか?」

「わかった」


しばらくオーベルが探知魔法で探る。


「ああ、確かにこの屋敷の中には何匹か残っているね。

後は、あの小屋の中と・・・あの小屋の中にいるだけだな」


オーベルが2箇所の小屋を指差すと、ポリーナはうなずいて命令する。


「フラーバ、フォリオ、あの2箇所にいるゴブリンを退治してきてちょうだい」

「かしこまりました」


二人は返事をすると、すぐさま指定された小屋へ向かう。

その間にポリーナは屋敷全体を囲むように呪文を唱える。


「アニーミ・ミル・エスト」


たちまち屋敷の周囲は針を出した物体に囲まれる。


「これは・・・?」


驚くクレイグにオーベルが説明をする。


「これがポリーナちゃんが考案した「ポリーナ式針鋲しきしんびょう」さ。

こうしてポリーナ式針鋲陣を敷けば、もはや中にいるゴブリンはここから逃げられないという寸法さ」

「なるほど、コレが噂に聞いた「ポリーナ式針鋲しきしんびょう」ですか?

初めて見ました」


やがてフラーバとフォリオが生き残ったゴブリンを始末してくると、ポリーナが再び確認をする。


「オーベルさん、これで村の中には、この屋敷の中以外はゴブリンはいなくなったでしょうか?」


再び探知魔法を使ったオーベルがうなずく。


「ああ、残っているのはこの屋敷の中だけだね」

「では中に入りましょう。

お二人もついて来てください」

「ああ、わかったよ」

「お供させていただきます」


中に入ったポリーナは魔力回復剤を使うと、何やら杖のような物を振りかざして、それを使う。

それを使うと少々ふらついて慌ててオーベルが支える。


「おっとと、大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です。

ありがとうございました」


その後でポリーナは再び魔力回復剤を使用する。

今しがた使ったばかりなのに再び魔力回復剤を使ったポリーナを見て、少々驚いたオーベルが尋ねる。


「ほう?何だか知らないが、その杖は相当魔力を消費するものみたいだね?」

「ええ、そうなんです。

これはゴブリンワングと言って、ゴブリンを非常に弱体化させるものなんです。

ですが御覧の通り、非常に魔力を消耗するので、最後にだけ使う事にしているのです」

「なるほどね」

「ちなみに最初に使ったのはゴブリンの指輪と言って、ゴブリンに簡単な命令を強制する事が可能な品物なのです。

先ほど私はそれでゴブリンたちに決してこの村を出ずにゴブリンを見かけたら倒すように命令をしました」


そう言ってポリーナは自分の指に嵌っている指輪を二人に見せる。


「ほう!それがかの有名な「ゴブリンの指輪」か!

なるほど!それでさっきの奴等は同士討ちを始めた訳か!」

「ええ、その通りです」

「それは便利な指輪ですね?」

「ええ、でもそちらもゴブリンワング同様、非常に魔力を消耗するので、あまり使えないのです。

大御爺様にもレベル100を越えない限り決して使ってはならないと言われましたし、エレノア先生にも使う時にはよくよく注意して使うようにと言われました。

大御爺様は、この二つの品物はレベルが低いうちや、魔力量が低い者が使えば、即座にその場で気絶してしまうだろうとおっしゃっていました。

幸いにも私は魔力量の多い家系に生まれ、また先生の訓練により、高いレベルと魔力量を得る事が出来たので、何とかこの二つを使う事が出来たのです。

普通の人がこれを使うと良くて気絶、最悪魔力を吸われ過ぎて死んでしまう可能性もあるそうです」

「なるほど」

「そういう事でしたか」

「では参りましょう」


ポリーナたち一行が中へ進むと、ほとんどのゴブリンは同士討ちとタロスとの戦いで息絶えていて、広間まで全く抵抗は受けずに通る事が出来た。

そして奥の広間につくと、そこに残っているゴブリンは一匹だけだった。

そのゴブリンもどうやら自分の護衛と戦ったらしく、すでに全身が傷だらけだった。


「なるほど、あいつがゴブリンアールか?」

「どうやらそのようですな?」

「ロカージョ!かかりなさい!」


ポリーナの命令でロカージョが勢いよく飛び掛る。

ゴブリンアールは迎撃するが、すでに弱った体ではロクに戦う事も出来ず、2・3発ロカージョが殴りつけると、それで息絶えたようだ。


「オーベルさん、一応鑑定をお願い出来ますか?」

「わかったよ」


オーベルがそのゴブリンの死体を鑑定してうなずいて答える。


「ああ、間違いない。

ポリーナちゃんの予想通り、こいつはゴブリンアールだ。

間違いないよ」

「そうですか、ではこれでゴブリン退治は終了ですね?」

「ああ、そうだな」

「お疲れ様でした、ポリーナさん」

「いいえ、私もお役に立てて嬉しかったです」


その後、消滅していないゴブリンの死体を集めて、焼却して、残っていた武器や魔法具などを回収してから一行は帰途へとついた。


メディシナーに帰ったオーベルとクレイグが、レオニーとレオンハルトに報告をする。


「そんな訳で無事にゴブリンは退治してきたよ。

いやはや、しかし全くポリーナちゃんには参ったね!

何しろ村全体に蔓延っていた数百匹のゴブリンを一人で退治してしまったんだからね!」

「全くです。

オーベルさんなどは鑑定したり探知したりと、まだする事があって良かったですよ。

私なんて本当にただついていっただけですからね。

弟子のポリーナさんでこれほどなら、往年のゴブリンキラーさんだったら、一体どれほど凄かったのでしょうね?」


驚いて話すクレイグにオーベルが説明をする。


「いや、すでにポリーナちゃんは、知識や経験はともかく、技量では師匠であるアルマンさんを超えているんじゃないかな?」

「確かにそうかも知れませんね」


ポリーナの凄さを目の当たりにしたクレイグはうなずくが、ポリーナが驚いて答える。


「とんでもありません!

私などゴブリン退治に関しては、まだ大御爺様の足元にも及びませんわ」

「いやいや、どうしてどうして大した物さ」


オーベルの言葉にレオンとレオニーもうなずいて賛同する。


「そうだな、そもそもアルマンさんだって15歳の時に、これほどの事が出来たとは思えないからな」

「そうね、それを考えれば凄いと思うわ」


こうしてポリーナはメディシナーでもゴブリンキラーの名を轟かせたのだった。


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