ポリーナ・パーシモン 20 メディシナーへ
ポリーナはそのエレノアからもらったジャベックにそれぞれフラーバ、フォリオ、ロザーヌ、ロザードと名づけた。
黄色い髪で魔戦士がフラーバ、若草色の髪で戦魔士がフォリオ、メイドがロザーヌでボーイがロザードだ。
師匠であるエレノアからは思いがけずに高レベルなジャベックを貰い、シノブからも餞別をもらったポリーナはパーシモン村へと帰った。
久しぶりに帰った村の様子は全く変わっていないので、ポリーナは一安心した。
ポリーナは自分の家へと向かった。
やがて見えてくる自分の診療所も何も変わりは無い。
家に着くとポリーナは留守番をしていたジャベックたちに挨拶をする。
「ただいま!ラッシュ、マギーラ!エステル!ペロリン!」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
「お帰りニャ」
「セルーヌ、セルディア、セルトリも!ただいま!」
「はい、お疲れ様でございます。ポリーナ様」
セリーヌが答え、セルディアとセルトリもうなずく。
「留守中、何か変わった事はなかった?」
「はい、大丈夫でございます」
「何も問題はございません」
「そう?良かったわ。
紹介するわね。
これは私の御師匠様からいただいてきたジャベックよ。
フラーバ、フォリオと言って、ヴェルダと同じ位に優秀なの」
「それはようございました」
「そしてこちらはロザードとロザーヌ、この二人も魔法は使えないけど、レベルは65でとても優秀なのよ」
「承知いたしました」
ポリーナは留守の間に家を守ってくれていた、ジャベックたちに改めて感謝した。
自分も決してジャベックたちをないがしろにしていた訳ではないが、シノブたちはジャベックを全く人間と同様に扱っていたのだ。
それは主人たるシノブの感覚だと知って、自分も見習おうと思った。
ポリーナは数日村に居て、診療所の様子や薬草畑の状態を確認した。
全て異常がない事を確認すると、ポリーナは訓練のためにメディシナーに行く事にした。
「ラッシュ、マギーラ、私はメディシナーへ行って来るわ。
魔法治療士としての修行に行くの。
今度はひょっとしたらこの前よりも、もっと長くなるかも知れないわ。
もし何かあったらメディシナーの無料診療所を尋ねて頂戴。
どうしても居場所がわからなかったら、メディシナー当主のお屋敷に行って尋ねてね」
「はい、承知いたしました」
現在ポリーナはヴェルダを筆頭にジャベックを13体も所有している!
レベル170で汎用戦魔士型のヴェルダ、
レベル160で汎用魔戦士型のフラーバ、
レベル160で汎用戦魔士型のフォリオ
レベル135で岩石型戦闘ジャベックのロカージョ
レベル130で汎用魔道士型のマギーラ
レベル120で汎用戦魔士型のラッシュ
レベル100で高位治療魔法型のエステル
レベル60で治療魔法型のペロリン
レベル65のロザーヌとロザード、
そしてレベル50のセルーヌ、セルディア、セルトリだ。
そしてその内の7体もが魔法を使えるジャベックだ。
これほど魔法ジャベックを所有している人間は珍しい。
しかもペロリンを除けば、その魔法ジャベックのすべてがレベル100以上の汎用ジャベックだ。
このような事は極めて稀有だ。
《こんなに優秀なジャベックをたくさん持っているなんて、本当に贅沢よね?》
ポリーナは前回と同じメンバーを留守に残す事にした。
そしてヴェルダ、フラーバ、フォリオと共にメディシナーへ向かった。
師であるエレノアにもなるべくフラーバとフォリオには経験を積ませておいた方が良いと言われていたからだ。
ロカージョとロザーヌ、ロザードの3体はグラーノ化して持っている。
今や魔法士とは言え、レベルが150を越えて組合員の
「ここが医療都市メディシナー・・・」
そこは医療の道を目指すものであれば、一度は訪れると言われている一大医療都市だ。
一応アムダール帝国の一部とはいえ、その実態は自治領で、ほぼ独立国家に等しいと聞いている。
すでに自分の村で魔法診療所を開き、魔法治療士を目指しているポリーナとしても、一度は来たかった場所だ。
「まずは宿を探しましょう」
幸いな事に良い宿が見つかり、ポリーナはそこへ泊まった。
翌日になってポリーナは多少メディシナー観光をする事にしてみた。
無料診療所はとても忙しく、シノブに働き始める前に観光をしておいた方が良いと聞いたからだ。
ポリーナはヴェルダ、フラーバ、フォリオを連れてあちこちを見て回りながらシノブの言葉を思い出していた。
「僕はすぐに修行を始めたから全然メディシナーの町を見る暇がなかったんだ。
今にしてみればエレノアが自分の事を隠しておきたいので、あまりその辺をうろつかせたくなかったんだろうけどね。
だからポリーナは最初に観光をしておいた方が良いよ」
シノブは笑ってそう言っていた。
ポリーナが街を歩いていると、ガレノス三高弟公園と言うのがあった。
そこにはガレノスの三高弟の銅像が飾られていて、エレノアの銅像もあった。
ポリーナは自分の師匠が銅像になっているのを見ると、改めて驚いて、しげしげとそれを見た。
ポリーナがジッとそれを見ていると、一人の見知らぬ老婆が話しかけてくる。
「お嬢さん、ずいぶんと熱心にその像を見ているね?」
「え?ええ」
「観光で来たのかね?」
「いいえ、私は魔法治療の修行で来たのですが、その前に多少メディシナーの事を知っておきたいと思ってあちこちを見学しているんです」
「そうかい、そうかい・・・その方はエレノア・グリーンリーフ様と言って、とても偉い人なんじゃよ」
「はい、よく存じております」
この人に自分はつい一昨日まで弟子入りして鍛えてもらっていたと言ったら、さぞかし驚くだろうなあとポリーナは思った。
しかしその話をするのはやめておいた。
シノブにメディシナーでエレノアの名前は不用意に出さない方が良いと言われていたからだ。
下手に名前を出すと、何かに巻き込まれる可能性が高いと聞いている。
ポリーナは老女の話を一通り聞くと、公園を出た。
ある程度気ままに観光が終わると、ポリーナは宿屋で無料案内所という物があると聞いていたので、そこに行ってみた。
無料案内所に着くと、ポリーナは壁になっている大きなメディシナーの地図を見ていた。
ポリーナがそれを見ていると、係員らしき女性が声をかけてくる。
「いらっしゃいませ!
お嬢さん、どこかお探しですか?」
「ええ、その・・・レオンさんのお屋敷を探しているのですが・・・」
ポリーナの言葉に係員の女性がいぶかしげに答える。
「レオンさん?この地図は観光用で大きいので、名所や主な施設は載っていますが、流石に個人宅までは載っておりませんよ?」
「ああ、いえ、大きな御屋敷と伺っているので、この地図にも載っているのではないかと思って・・・その・・・正確にはレオンハルト・メディシナーさんと言うのですが」
ポリーナの言葉に案内係が驚いたように尋ねる。
「レオンハルト・メディシナー?
まさかメディシナー侯爵家の御当主のですか?」
「はい、そう伺っています」
ポリーナの言葉に係員の女性は合点がいった様に答える。
「メディシナー侯爵家なら観光馬車でも通りますよ?
観光名所の一つですから」
「あ、いえ、場所さえわかれば、散歩がてら自分で歩いて行きますので大丈夫です」
「メディシナー家はここからだと少々歩きますよ?
何か御用事なのですか?」
「え、その・・・レオンハルトさんに御会いするために行くのですが・・」
「え?御当主様にですか?」
「はい」
ポリーナがそう答えると、その女性は困ったように答える。
「それは流石に無理かと・・・お知り合いでもなく、何もお約束もない方では・・・」
「あ、いえ、確かに会うのは初めてなのですが、その方は私と兄弟弟子で、紹介状を私の御師匠様からいただいておりますので、大丈夫だと思います」
「え?御当主様と兄弟弟子で、師匠からの紹介状?」
その事をそばで聞いていた年配の男性が声をかけてくる。
「紹介状?どなたのですか?
よろしければ拝見させていただいてもよろしいですか?」
「ええ、別に構いませんが・・・」
ポリーナが紹介状の封書を渡すと、その男性が表書きを見る。
「ほう・・・確かに「親愛なる弟子 レオンハルト・メディシナーへ」と書いてある。
・・・えっ?弟子?」
男性がその紹介状の裏をクルッと返すと、そこで差出人の名前を見て驚き、小さく叫び声を上げる。
「なっ!?」
その裏に書いてあった名前を見て、男性がガタガタと震え始める。
「こここここれはっ!」
「どうしたのですか?所長?」
隣にいた女性係員が不思議そうに、その紹介状の送り主の名を覗き込む。
「まっ!まさか!」
その名を見ると、その女性も一緒に震え始める。
男性は震えながらポリーナに質問をする。
「お、お嬢さん?
念のためにあなたの御師匠様の名前を伺いたいのですが?」
なるべくエレノアの名を出すなとシノブに言われてはいたが、紹介状を見せてしまっては仕方がない。
ポリーナは正直に答える事にした。
「え?私の御師匠様の名前はエレノア・グリーンリーフ様と申しますが?」
「そ、そのお方は、もしやエルフでいらっしゃいますか?」
「ええ・・・そうですが?」
それを聞いた瞬間、男性が係員の女性に慌てて声をかける。
「君っ!すぐに馬車を用意したまえ!」
「はいっ!かしこまりました」
すぐさまに係員の女性はすっ飛んでいく。
「はは~っ!大変失礼いたしました!
御嬢様の御名前は?」
「はい、私はポリーナ・パーシモンと申します」
「ポリーナ様、今すぐ馬車を御用意させていただきますので、少々お待ちください!」
馬車を用意すると聞いて、ポリーナは驚いて返事をする。
「え?いえ、場所さえ教えていただければ、歩いて参りますので大丈夫です」
「とんでもございません!
エレノア様の御弟子様を歩かせるなどしたら、私の首が飛んでしまいます!
どうか今しばらくお待ちください!」
「えぇ・・?」
驚くポリーナに対して即座に馬車が用意されて、強引にそれに乗せられる。
「あ、あの、私・・・」
「どうぞ、どうぞ!
こちらの馬車で御当主様のお屋敷までお送りさせていただきますので!
そちらの方々は?」
ヴェルダたちを見て男性が質問をする。
「あ、それは私の供のジャベックたちです」
「そうですか?ではそちらのジャベックもどうぞご一緒に」
「はあ・・」
「申し遅れましたが、私はここの所長でダンジールと申します。
ポリーナ様を御当主様の御屋敷まで御案内させていただきますので、なにとぞよろしくお願いいたします」
「は、はい」
もはや馬車に乗るのを拒否できる雰囲気ではない。
仕方なく、ポリーナはその用意された馬車にヴェルダたちと共に乗った。
やがてポリーナたちを乗せた馬車は動き出してメディシナー侯爵家に向かう。
恐ろしく大きな屋敷が見えてきて、その正門らしき場所で馬車は一旦停止する。
馬車が門の前で止まると、門番に誰何される。
「何の御用事ですか?」
「エレノア・グリーンリーフ様の御弟子様を御当主様に御送りに上がりました!」
「エッ、エレノア様の?
どうぞ!お通りください!」
門番がかしこまって馬車を通す。
門から中に入ってポリーナは驚いた!
恐ろしいほどの大きな屋敷だ。
ポリーナがロナバールで見たシノブの屋敷も大きかったが、大きさが違う!
これではまるで御伽噺に出てくるお城のようだ!
何しろ田舎の村で育ったポリーナには、貴族の知り合いなどいなかったので、これほど大きな屋敷に住んでいるのは想像すらできなかったのだ。
メディシナーの本家は侯爵家だと聞いていたが、こんなに大きな屋敷なのか?とポリーナは愕然とした。
しかも周囲は鉄柵や堀に囲まれて、まるで要塞のようだ!
実際メディシナー家は開祖が独立に苦労したので、このような堅固な城の様な屋敷になっていた。
ポリーナは本当に自分のような者が、こんな場所に来てしまって良かったのか?と今更ながらに体が震えて考え始めたが、もはやどうしようも無かった。
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