ポリーナ・パーシモン 15 ゴブリンキング討伐!

 ゴブリンキングを倒すために進む一行の前には何も出てこなかった。

アルマンたちに一緒について来た魔法学士の中隊長の一人が呟く。


「やはりゴブリンは、ほとんど討伐された様子ですね?」

「そうじゃな、おそらく残っているのはキングとその直属の強力な配下だけであろう。

数は少ないとはいえ、油断召されるな?」

「はい、大丈夫です」


そのまま何の障害もなく、一行が進むと、やがて広い場所に出る。

そこの奥の方には玉座のような物があって、そこにはゴブリンキングと思われる者が座っており、その左右には四匹ほどのゴブリンがいた。


「どうやらあやつが目的のゴブリンのようですな」


一人の中隊長の言葉にアルマンがうなずく。


「そうじゃな、左右にいるのはゴブリンドルイドとソーサラー、それにゴブリンジェネラルのようですな」

「何と!ジェネラルですか?」

「さよう、護衛では最上級とも言われておるゴブリンです」

「なるほど、それは手強そうですな」

「では、かかりましょう」


一行はゴブリンたちに襲い掛かる。

ゴブリンたちも戦闘タロスを出し、攻撃呪文を放って応戦する。


「中々やりますな!」

「ええ、流石です!」


しかし、そのうちに中央にいたゴブリンキングが魔法で戦闘タロスを出すと、アルマンが叫ぶ!


「違う!こいつはキングではない!」

「何ですと!」

「キングは魔法を一切使わないはず。

こやつは今戦闘タロスの魔法を使い、しかも剣でも攻撃してくる・・・

こやつはおそらくゴブリンマーシャルじゃ!」

「ゴブリンマーシャル?」

「そうじゃ!こやつはゴブリンウイザード並に厄介だが、わしも会ったのはこれが初めてじゃ」

「ではここの主はそのゴブリンマーシャルだったという訳ですか?」

「・・・わからん!」

「とにかくこの連中を倒しましょう!

話しはそれからです!」

「その通りじゃ!」


やがて一行はゴブリンマーシャルと思われるゴブリンとその手下を倒す。

アルマンがその死体を確認して全員に報告をする。


「やはりこれはキングではない。

ゴブリンマーシャルじゃ」


その死体を見た中隊長の一人がアルマンに尋ねる。


「では、やはりこの洞窟の主は、このゴブリンマーシャルだったのでしょうか?」

「いや、確かにマーシャルはキングやウイザードと共に他のゴブリンとは格が違う。

しかし、これほどの数のゴブリンをマーシャルが統制出来るとは考えにくい。

それにもしこやつがここの群れの総大将であったならば、我々の攻撃に対して戦わず、少なくとも途中からは逃げに入ったはずじゃが、こやつはわしらに戦いを挑んできた・・・

解せぬ・・・」

「それではどういう事でしょうか?」

「むう・・・」


アルマンはしばし考えてからその場にいた者たちに指示を出す。


「この中で探知魔法を使える者は、直ちにこの近辺を探索していただきたい」


その言葉に魔法学士二人とヴェルダとマギーラが探知を開始する。

その結果、全員が一致してある場所を指す。


「ここの一体に何かの妨害があって探知不能です」

「私もそこだけ探知出来ません」


アルマンはその言葉を聞くと、うなずいてその周辺を調べ始める。


「ふむ、なるほど・・・」


そのままアルマンは慎重に洞窟の壁を杖で叩いたり、手で触って調べていくと、ある場所で止まる。


「おかしい?

 ここの見た目は石の壁に見えるが、手で触った感触は木材としか思えぬ」


再度その辺の壁を探ると、確信してアルマンが仲間に叫ぶ。


「ここじゃ!

ここには幻惑魔法がかけられておる!」


アルマンはそう言うと数歩下がり、ロカージョに命令する。


「ロカージョ!

そこの壁を思い切り叩け!」


ロカージョはいつものように無言でうなずくと、そこの壁に思い切り腕を繰り出す。

するとそこの壁にロカージョの右腕が当たると、バキバキバキッ!と木の扉が破壊されるような音がする。

しかし見た目は洞窟の石の壁のままだ。


「ロカージョ!

そのまま前に進んで行け!」


アルマンの命令どおり、ロカージョが前に進むと、石の壁の中に姿が消えていく。


「間違いない!

ここの中にキングがいるに違いない!

全員!戦闘タロスを出してこの中へ突入させるのじゃ!」


アルマンがその命令を出して、その場にいた者たちが戦闘タロスを出してその壁に突入させようとした時だった!

今まで岩の壁にしか見えなかった部分が、突然破壊された木の扉となり、そこにはポッカリと穴が空いていた。

そしてその穴から無数のゴブリンタロスが湧き出てきた!

そのゴブリンタロスの群れにロカージョも押し戻されて外に出てくる。

そのままゴブリンタロスたちはアルマンたちの出したタロスに襲い掛かる。

たちまちその一帯で激しい戦闘が始まる。

そのゴブリンタロスの後方から三体の大型のゴブリンが出てくる。

その内の一体を見たアルマンが叫ぶ。


「奴だ!あいつこそこの巣窟の主のゴブリンキングじゃ!

間違ってもあやつを逃がしてはならん!」


そう言って全員に命令するが、残りの2匹のゴブリンがさらにゴブリンタロスを出して、キングとアルマンたちを分ける。

その間隙をついてキングが裏口方面へ一人逃走し始める。

その様子を見たアルマンが一番裏口よりにいたポリーナたちに大声で叫ぶ。


「ぬうっ!しまった!

ぬかったわ!

ポリーナ!奴を追え!決して逃がしてはならん!

ヴェルダ!ラッシュ!ポリーナと一緒に行け!

奴を逃がすな!」

「はい!大御爺様!」


アルマンの言葉に従い、ポリーナがゴブリンキングを追いかける。

その後をヴェルダとラッシュが追いかける。

自分たちの主であるキングを守ろうと、2匹のゴブリンが高位火炎魔法をポリーナに放つ!

ボウッ!ボウッ!と火炎魔法がポリーナを追撃する!


「こやつら!ウイザードか!」


2つの火炎魔法の狙いは過たずポリーナに当たるが、ポリーナの着ていた魔法外套マギオマントロが、その魔法を弾く!

しかし3度目の高位攻撃呪文を受けたそれは、もはやボロボロになっていた。

自分たちの魔法が弾かれた事にゴブリンが驚く隙に、アルマンたちがポリーナたちとゴブリンウイザードたちの間に入る。


「お前らの相手はわしらじゃ!

己らに、今こそゴブリンワンドの力を見せてくれるわ!」


そう言い放つと、アルマンと二人の魔法学士、中隊長の組合員がゴブリンウイザードに攻撃を開始する。

アルマンのかざしたゴブリンワンドが光り輝き、ゴブリンたちの動きが鈍くなる。

ゴブリンウイザードはアルマンがゴブリンワンドを持っていた事に驚き、慌てふためく。

そしてロカージョとマギーラも戦闘に入る。


 ゴブリンキングは一人で必死に出口へ向かって走っていた。

キングはまさか万を越える自分の軍団が、たかだが数百人程度の人間に追い詰められるとは思ってもいなかった。

そしていくらタロスを中に送り込んで中の手下たちを倒しても、しばらくすれば人間どもは諦めるだろうと高をくくっていたのだった。

しかし人間どもは諦めなかった。

執拗に洞窟の中を攻撃し、ついには1万以上もいた自分の手下も上位種の数匹のみとなっていた。

しかも最後には確認のためか、タロスではなく、人間の集団までもが洞窟の中へ乗り込んできたのだ!

最初に入って来た数人は大した事はなかった。

そいつらは大広間に着いた直後に即座に殺し、問題はなかった。

しかし、次には大部隊がやってくるかも知れない。

そう考えたキングはゴブリンマーシャルに自分の身代わりを務めさせ、自分は2匹のゴブリンウイザードと共に、隠し部屋の中に隠れ、しかもその部屋の入口には幻惑魔法をかけて決してわからぬようにしておいたのだ。

これでマーシャルが人間どもを倒せば良し、万一やられたとしてもマーシャルを倒した人間どもは、この洞窟の主を倒したと安心して、洞窟の外へ出て行くはずだった。

その後でまた自分がここで手下の数を増やし、再び人間を攻めれば良い。

どちらにしても自分は安泰だ。

キングはそう考えていた。

しかしこの人間どもはマーシャルを倒しても外へ出て行かなかった。

執拗に探査魔法をかけて、隠し部屋を探し出し、自分を暴き出したのだった!

もはやこうなれば逃げるしかない!

長年住み慣れて、大軍団を作り上げた巣窟だったが、貴重な自分の命には代えられない。

キングは二匹のゴブリンウイザードに人間どもを任せて、自分一人で逃げ出したのだった。

しかし背後から何人かが自分を追ってくる!

キングは必死になって出口へ走った。

出口に着けば逃げられる!

そう考えてキングは必死に走ったのだった。


洞窟の外に出たゴブリンの王は驚いた!

いつの間にか自分の洞窟の出入り口には両脇に頑丈な柵が出来ており、その外側では人間どもが槍を構えて待っている。

これでは柵に沿って進むしかない!

しかもグズグズして迷ってなどはいられない!

自分の背後には人間どもが迫って来ているのだ!

そいつらの姿はもうすぐそこに見えている!

慌ててその柵に沿って走って逃げ出すと、しばらくすると柵はなくなったが、そこには人間たちが自分を囲むように、あらゆる武器を構えて待ち構えていたのだ!

愕然としたキングはそこで止まって空を見上げると、さらに驚いた。

そこには人間の航空魔道士が何人も上空待機しており、あまつさえ、鷹型のタロスらしき物が100羽近く飛んでおり、仮に空へ逃げたとしても、即座に地面に落とされる事は明白だった。

キングは自分がもはやどうしようもない立場になったのを知って呆然とした。


裏門担当のアレックスは、見慣れぬ大型のゴブリンが出てきたのを見て、討伐隊員たちに命令をする。


「全員!構え!

但し、まだ弓も魔法も撃つなよ!

撃てばおそらく後ろから来るアルマン隊長たちに当たる!

だが、この囲みを突破しようとしたら即座に突き殺せ!」


明らかに今にも自分に向かってあらゆる攻撃をせんとする討伐隊たちを見て、キングは後ろを振り返った。

そこには自分を追いかけてきたポリーナ、ヴェルダ、ラッシュの三人がいる。

ポリーナが叫ぶ!


「それがゴブリンキングです!

皆さん!取り囲んで決して逃がさないようにお願いします!」

「何と!こいつが本命ですか!

承知しました!

総員!決して気を抜くなよ!」


アレックスの命令にその場にいた全員が雄たけびを上げる!


「「「「「「おお~~っ!」」」」」」


キングはもはや自分が絶体絶命なのを悟った!

もはやこの場を切り抜ける方法は一つしかない!

キングは後ろに向かって走り出すと、ポリーナに向かって飛び掛った!

こいつを人質にすれば、この囲みを突破できる!

そう考えて、一番か弱そうな人間のメスに飛び掛ったのだった。

しかし、主たるポリーナの左右にいたヴェルダとラッシュは、そのキングに左右から切りかかった。


「グガアアッ!!」


二人の攻撃は過たずゴブリンキングに当たり、キングは深手を負って、ヨロヨロとそのまま数歩、ポリーナへと向かう。

自分へ向かって手を伸ばすゴブリンキングにポリーナが呪文を放つ!


「クヴィンデク・プロセント・フルモバート・アグレシー・・・パーフォ!」


ポリーナから凄まじい電撃がほとばしり、ゴブリンキングに命中する。


「ガギャアアアア!!!」


それはポリーナの魔法力の半分を電撃に変えた攻撃魔法だった。

それは高位電撃魔法にも匹敵し、すでに深手を負っていたゴブリンキングに耐え切れる物ではなかった。

ついにゴブリン大軍団の主であった、ゴブリンキングはその場に倒れ、絶命したのだった。


ヴェルダが倒れて半ば焦げた死体となったキングの首を刎ねて、念のために残った体の心臓部分も突き刺して完全に絶命させる。

その様子を見たポリーナが全員に指示をする。


「皆さん、おそらくこれで大丈夫だとは思いますが、大御爺様を待ってください。

最後の確認と検分をしていただきたいと思います」


ポリーナの指示にアレックスがうなずく。


「もっともですね。

このままアルマンさんを待ちましょう。

みんなまだ気を抜くなよ!」


やがて護衛のウイザードたちを倒したアルマンたちも洞窟から出てくる。

そのアルマンにポリーナが指示を仰ぐ。


「大御爺様、御言いつけ通り、ゴブリンキングを倒したと思いますが、確信を持てません。

どうか検分をしてください」

「うむ、わかった」


アルマンはその死体を検分し、確実に死亡している事を確認する。

そしてその傍らにあった指輪を見つけて、それを拾うとアレックスに尋ねる。


「アレックス殿、これが何かわかりますかな?」

「いえ、見覚えがない品物ですね?

鑑定してみましょう」


アレックスが鑑定魔法で調べると、驚いて説明を始める。


「アルマンさん、これは「ゴブリンの指輪」ですよ!」

「何と!これがあの「ゴブリンの指輪」ですか?」

「はい、間違いありません!」

「では、こやつがキングで間違いはありませんな!」

「ええ、そうですね」


興奮する二人にポリーナが尋ねる。


「それは何ですか?」


ポリーナの質問にアルマンが答える。


「ゴブリンの指輪というのはゴブリンキングが落とす品物と言われていて、それはゴブリンたちを従わせる効果があるらしい。

現存する物で確認されているのは、魔法協会総本部に保管されている物と、帝国魔道具保管庫にしかないと言われておる」

「まあ、では?」

「ああ、こやつがゴブリンキングで間違いない!

そしてそいつは完全に息の根が止まっているのも間違いはない!」


そこまで言うと、アルマンは周囲を見渡して討伐隊の隊員たちに向かって叫ぶ。


「討伐隊諸君!

ここにゴブリンキングは倒した!

これで我らの所期の目的を達成した事を、討伐隊長としてここに宣言する!

これも諸君の協力のおかげだ!

ありがとう!」

「「「「「「「「おおおおお~~~~っ!!!!」」」」」」」


そのアルマンの言葉にその場にいた全ての者から歓声が上がった!

ついにゴブリンキングは倒されたのだった。

その報告は魔法念話で正面部隊にも伝えられて、ゴブリンキング討伐隊は任務を達成した。


こうして無事にゴブリンキングの討伐は終わったのだった。

洞窟の出入り口は木戸で封鎖され、許可のない者は入れない事となった。

またその出入り口にはジャベックが三体ほど配置されて、魔法教会か、アースフィア広域総合組合の発行した許可証を持たない者は、一切入れないように命令を受けていた。


討伐隊一行はパーシモン村を経由してオリナスの町へ戻り、そこで解散となった。

討伐隊に加わった人間たちには全員に等級に応じた報奨金と「ゴブリンキング討伐参戦章」が与えられた。

これにより、今回の討伐に参加した者は、周囲に大いに自慢する事が出来て大喜びだった。

また希望者には洞窟で発見された武器・防具・魔法具などが褒美として与えられ、希望が多かった品物は抽選となった。

アルマンたち副隊長以上の者たちは優先的に品物が与えられ、アルマンは今後の研究のためにも「ゴブリンの指輪」をもらった。

隊長補佐のポリーナは、エルネストら副隊長の計らいで2番目の優先権が与えられて、ちょうど失った魔法外套マギオマンテロと同じ物があったので、それを希望した。

アレックス支部長は魔力九割削減の指輪があったのでそれを希望した。

エルネスト支部長は報奨金は受け取ったが、自分の部下が失態をしたという事で、魔法具の授与は辞退した。

残りの品物は換金され、品物を希望しなかった者に特別報奨金として分けられた。

死者はわずか数人で、しかもそれは自業自得としか言えない死に方で、仕方がない事だった。

それ以外は軽傷者がわずかにいただけで、事実上死者を出さずにゴブリンキングの討伐を果たしたという歴史上にない快挙を成し遂げて、ゴブリンキラーことアルマン・パーシモンの名は帝国中に広まっていった。

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