ギルバートと仲間たち 09 驚異の戦闘タロス
しかし迷宮へ行ってみて四人は驚いた。
ギルバートたちはまだ初心者なので、北東の迷宮でも行く場所は、せいぜい3階だ。
しかしその3階の魔物たちをこの二体のタロスは一撃で倒した!
紺色の方のタロスは魔物を一瞬で切り倒し、銀色の方は相手を一発で殴り倒したのだ!
どの魔物でも一回の攻撃で瞬殺だ!
しかも動きも素早く、ギルバートたちが誰も動くまでもなく、出てきた魔物を即座に打ち倒す!
「おいおい!このタロスたち、どいつもこいつも魔物を瞬殺じゃないか!」
「ああ、魔物が二体しか出なけりゃ、あっと言う間だ」
「確かに魔物を見たら即座に倒せとは命令したが・・・」
「もう少し強い奴が出る場所へ行ってみるか?」
「そうだな」
しかしその一つ下の迷宮4階に行ってみても、ゴーレムたちはまだ一撃で魔物を倒した。
もちろん相手の攻撃など一回も受けない。
「ここでもまだ一撃なのか?」
あきれたように話すギルバートに、デボラが不思議そうにウォルターに尋ねる。
「そういえば、誰も聞かなかったけど、このタロスのレベルはいくつくらいなんだ?」
デボラに聞かれたウォルターも首を横に振って答える。
「わからん・・・俺も自分の作るタロスと同じ形なので、レベルも大して変わらないのだろうと勝手に思っていたが、どうやらこのタロスが俺のタロスと似ているのは見掛けだけで、中身は全くの別物のようだ」
その言葉にヨハンもうなずく。
「どうやらそうみたいだな?」
「どうする?もう少し下に行ってみるか?」
「そうだな・・・」
ギルバートたちはタロスと共に迷宮5階まで行ったが、そこでもまだ魔物を一撃だ。
しかも魔法を使ってくる魔物がいても、それを使われる前に倒すか、もし呪文を使われたとしても、素早くそれを避けて次の瞬間には一撃を入れて終わらせるのだ!
「まだここでも一撃で終わりか!」
「どうする?」
「これ以上、魔物の強い場所へ行ったら、俺たちの手には負えないが・・・」
「しかしこいつらはまだ一撃で余裕があるぞ?」
「うむ、この連中がどれほど強いのか気になる・・・」
考え込む3人にギルバートが提案をする。
「では、こうしたらどうだ?
このまま順番に昇降機で下へ降りて行って、こいつらが一撃で魔物を倒せない場所まで行ったら一つ前の場所へ戻る。
そして初めての階層では決して安全地帯から遠くへは行かない。
そしていざとなったら、この二体に任せて俺たちは一目散に逃げる」
「賛成だな、命あっての物種だ」
「ああ、この二体ならかなり強い相手でも、俺たちが逃げる間くらいは持つだろう」
「俺もそう思うよ」
「よし、では行こう」
しかしギルバートたちは下へ降りていくに連れて驚いた!
この二体は6階や7階でも、ものともせずに、魔物を一撃で葬りさるのだ!
「おい!ここの迷宮の7階の魔物って、レベルいくつ位なんだ?」
「確か、強い奴は40位はあるはずだぞ?」
「それでも一撃か・・・」
「本当に凄いタロスだな・・・」
そして四人はいよいよ地下8階までやってきた!
「いよいよ8階か・・・」
「大丈夫か?」
こわごわと聞くデボラの質問にウォルターが答える。
「ああ、少なくともこいつらが一撃でやられる事はないだろう。
それに念のために俺のタロスも3体出してあるしな」
しかし迷宮8階の魔物でもこのタロスたちは一撃で倒すのだった!
その事実にギルバートたちは驚くのを通り越してあきれ始めた。
「ここでもまだ一撃なのか?」
「どうする?まだ下に行くか?」
「いや、さすがにこれ以上深い場所へ行ったらまずいだろ?」
「そうだな」
「これ以上の場所へ行ったら俺たちが持たないぞ?」
「今の魔物は?」
「確かチーフオーク・・・レベルは47・・・位か?」
「47・・・つまりこいつらはレベル50以上は確実にあるって事か?」
「いや、レベル47を一撃で倒すには、レベル70か80位はないと無理だろう?」
「ああ、おそらくこの様子だと、タロス限界値の100で作られているんじゃないかな?」
「レベル100か・・・」
それを聞いた一番年下のヨハンが、からかうように2体のタロスに質問をする。
「おい、お前たちはレベル100なのかい?」
すると驚いた事に、そのタロスは2体ともうなずくのだった!
ギルバートが驚いて叫ぶ。
「これは驚いた!
こいつらヨハンの質問にうなずいたぞ!」
ウォルターも驚いて叫ぶ。
「俺の作るタロスはそこまでの知能はないぞ?」
デボラや冗談で質問をしたヨハンも驚いて呟く。
「このタロスは強いだけじゃなくて、そこまで頭もいいって事か?」
「俺は冗談のつもりで言っただけなのに・・・
全く、驚いたぜ・・・」
そんな戦闘タロスにはお目にかかった事もない四人が押し黙る。
何しろ自分たちの師匠である正規の魔道士であるボロネッソの出して見せたタロスでさえレベル50少々なのだ。
それですらギルバートたちは自分よりも上のレベルのタロスに驚いたものだった。
それがこのタロスはレベル100なのだ!
ウォルターが無言で立っている銀色のタロスを見つめて呟く。
「全く見た目は同じでも、俺の作ったタロスとは段違いだな?」
「どうする?」
「いくらこいつらのレベルが100でも、これ以上の場所へ行ったら万一の時にこっちが危ない。
一階上に戻ろう」
「いや、2階上に戻った方がいいんじゃないか?」
「そうだな、6階ならこいつらは確実に一撃で相手を倒すだろうし、相手が三体以上出てきても、何とか俺たちでも持ちこたえられるしな」
「ああ、それに今日俺はここに来るまでに2つもレベルが上がったぞ?」
「俺もだ」
「これは今日一日6階層辺りで魔物を倒しまくれば、うまく行けば今日一日でレベルがもっと上がるかも知れないぞ?」
「信じられないな・・・」
「ああ、でもやってみよう!」
「そうだな」
ギルバートたちは6階へ戻り、魔物たちを倒した。
正確には連れていたタロスたちが倒したのだが、彼らはこれほど高レベルの魔物を大量に倒したのは初めてだった。
何しろ相手を一撃で倒すので、タロスの被害は全くと言ってもない。
たまに相手の攻撃も喰らうが、ほとんど傷もつかない所を見ると、この二体は防御力も恐ろしく高いようだ。
「なあ、おい!俺はもうレベルが21になったぞ?」
「俺もだ!」
「全く凄いな!」
結局その日は全員がレベル22までにもなった。
迷宮から出てきた四人は驚いて二体のタロスを見る。
その姿はほとんどどこにも傷を受けていないようだ。
「・・・凄いな・・・」
「ああ、凄い」
「たった半日で4つもレベルが上がるとはな!」
「まさかこのタロスがこれほど使えるとは・・・」
そう言いながらギルバートが改めて二体のタロスを眺める。
「あと、もう一日これが使える訳か・・・」
「いや、貰ったグラーノも4個あるんだろ?
見かけは違うらしいが、あっちもこれとほとんど同じ強さだと言っていたぞ?」
「あっちは確か3日持つと言っていたな?」
「なあ?ちょっと今日の迷宮での稼ぎを売りに行きがてら、それを鑑定してもらってみないか?」
「そうだな」
四人は魔法協会の売買場へと行った。
「いらっしゃいませ」
「迷宮で取った品物を売りに来ました。
それとこのグラーノを鑑定してみて欲しいのですが・・・」
「はい、鑑定には銀貨1枚がかかりますが、構いませんか?」
「はい、お願いします」
鑑定をすると、その魔道士はちょっと驚いたように言った。
「おや、これはレベル100の戦闘タロスですね?
しかも非常に出来が良いですね?
とても性能が良い上にこれなら三日間は持つでしょう。
非常に珍しいです!
これほどの作りなら買い取り値は大銀貨3枚でも良いですよ」
「え?大銀貨3枚?」
そのタロスとは思えない高値にギルバートたちは驚いた。
大銀貨3枚と言えば、四人の現在の1日の稼ぎより上だ!
タロスを1体売っただけで、自分たちの1日の稼ぎを上回るとは驚きだ!
「ええ、どうしますか?」
「もしこのタロスを買うとしたらどれ位になりますか?」
「そうですね・・・これはレベル100のタロスでもかなり強い方でしょうから、大銀貨5枚という所でしょうか?
場合によっては大銀貨6枚以上になるかも知れません。
何しろこれほど屈強なタロスは
「タロスが大銀貨6枚以上・・・」
それは自分もタロス使いであるウォルターからすれば、衝撃の事実だった。
今聞いた通りならば、あの少年はタロスを一体売っただけで、自分たち四人の稼ぎよりも稼げるのだ!
「あ、あの、こっちのタロスの鑑定もお願いできますか?」
そう言ってウォルターが連れていた銀色のタロスを指差すが、鑑定士が断る。
「いえ、うちではすでに生成された生タロスの買取は行っておりませんので・・・」
「いえ、単に鑑定していただくだけで良いのです!
鑑定料はお支払いいたしますので!」
そう言ってギルバートが銀貨1枚を支払う。
「わかりました・・・それでは・・・
ほう?これも・・・優秀なタロスですね?
こちらもレベル100のタロスで打撃戦闘に特化していて、これならレベル60程度までの魔物なら一撃で倒せるのではないでしょうか?」
「やはり・・・」
タロス自身に質問をした時にレベル100である事はわかっていたのだが、やはり間違いはなかったのだ!
「これをグラーノにして売れば、かなり高く買い取りしますよ?」
「いえ、残念ながらこのタロスのグラーノは持っていないのです。
しかしもし、これを作るとなると、どれ位の技量が必要ですか?」
ウォルターに質問をされて鑑定士が考え込む。
「そうですねぇ・・・これほどのタロスとなると・・・まずレベル100のタロスを作るのに最低でもレベル150程度は必要ですからね。
そしてこのタロスの精密で複雑な作りから言って、製作者は相当な技巧者ですね。
おそらくレベル180・・・いえ、200以上なのではないでしょうか?」
「200?」
「ええ、最低でもその程度の技量がないと、ここまでの物は作れないと思いますよ?
ところで私も個人的に興味があるので、そちらの青いタロスも鑑定してみましょうか?
もちろん鑑定の御代はいりません」
「はい、是非御願いします」
「それでは・・・ほほう?やはりこちらもレベル100の戦闘タロスですね?
しかもこちらは数値のバランスが非常に良いですね?
そちらの銀色の方は、単純に力と体力に性能を分けてますが、こちらは攻撃だけでなく、防御や魔法耐性などもかなり凄いですね?
そちらの銀色のタロスよりも、こちらの紺色の甲冑タロスの方が、遥かに複雑な作りです!
総合的にはこちらの方が性能は上でしょう。
これを作れるほどの技量となると、最低でもレベル200以上は間違いないですね」
「そうですか・・・
ありがとうございました」
そして四人が迷宮で手に入れた物を売ると、それは大銀貨4枚分近くにもなった。
ロナバールに来て以来、これほど稼いだ事は初めてだった。
しかしもちろんあの少年からもらった4個のグラーノは売っていない。
「凄いな!」
「ああ、こんな稼ぎは初めてだ!」
「これはやり方をうまく考えればもっと稼げるだろう!」
「いや、せっかくなんだから儲けよりも、俺たちのレベル向上の方を考えて動いた方が良いんじゃないのか?」
「それもそうだな」
四人が興奮して話しながら魔法協会の一階を歩いていると、受付で声をかけられた。
見事な金髪巻き毛の美人魔道士だ。
それは四人に魔法を教えたボロネッソ講師だった。
「あら?ギルバートさんたち?」
「あ、ボロネッソ先生、こんにちは」
「今日はずいぶんと珍しいタロスを連れてらっしゃるのね?」
「ええ、実は昼を一緒に食べていた人にこの二体をいただいたのですよ」
「え?二体?そっちの銀色の方は、いつものウォルターさんのタロスではないのですか?」
もちろん4人に魔法を教えたボロネッソは、ウォルターのタロスも知っている。
軽く驚いて質問するボロネッソにウォルターが苦笑しながら答える。
「はい、恥ずかしながら見かけは同じですが、中身は全くの別物です。
このタロスは今日昼に知り合った人が私のタロスを真似て作った物です。
しかしレベルが100もあって、北東の迷宮8階の魔物でさえも一撃で葬るほどなんです」
「なるほど、でも皆さん、いつの間にシノブさんとお知り合いになったのかしら?」
「え?シノブさんとは?」
「ええ、
その紺と金の甲冑型タロスはシノブさんからいただいた物ではないの?」
あまりにも予想外の名前が出てきてギルバートたちが一斉に驚く。
「ええっ?!」
「
「いや・・・このタロスは身なりの良いカップルの少年からいただいたのですが・・・」
それを聞いたボロネッソが慌てて答える。
「あ、そうだったの?
まあ、似た様なタロスを出す人もいますからね?
私の勘違いだと思うわ。
ごめんなさい。
気にしないでくださいね?」
「はあ・・・」
ボロネッソの話を不思議に思いながらも4人は宿へ向かったのだった。
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