ポリーナ・パーシモン 14 抜け駆け
それは翌朝の点呼でわかった事だった。
この討伐隊では一応死者、行方不明者、脱走者などを調べるために朝夕に点呼をしていたのだが、組合員の数人が朝の点呼でいない事が判明したのだ。
すぐさま行方を捜した結果、数人が砦の外へ行った事が判明した。
当直の見張りに聞いた所、洞窟内の先行偵察に行く命令を受けたというので通した事が判明したのだ。
失踪した中の一人が小隊長だったので、見張りも何も疑問に思わず通してしまったらしい。
そしてその時の人数と失踪者の数が一致したので、いなくなった者は全員同じ集団だと判明した。
アルマンとエルネスト、アレックスの三人は、即座にこの状況の会議を始めた。
「一体、どういう事でしょうな?」
「わしらは計画通りに事を進めていた。
それも何も問題が無いほどに順調にじゃ。
もう少しで討伐が可能なのは誰の目にも明らかじゃ。
この状況下で脱走するとは解せぬ。
しかも一人や二人ならともかく、数人がまとまってじゃ」
考え込むアルマンにアレックスが意見を述べる。
「・・・これは抜け駆けを狙っての行動ではないでしょうか?」
「抜け駆け?」
「ええ、このまま行けば確かにキングを討伐可能なのは間違いないでしょう。
おそらく現在洞窟の中にいるのはキングとその護衛数匹・・・
もはや討伐は時間の問題・・・
それほど我々は順調に事を進めていました。
しかしこれは逆に言えば、このまま終わってしまえば、大きな手柄が立てられない事になります。
それでは褒賞が少なくなると考えて・・・」
「馬鹿な!相手はゴブリンキングとその護衛隊ですぞ!
半端な実力の者が、ちょっとやそっとの人数でどうにかなる相手ではない!
その程度もわからぬとは!」
そこへエルネストへ報告をする者がある。
「うん、うん・・・そうか・・・その者をここへ呼んでくれ」
報告を聞いたエルネストが苦虫を噛み潰したように話し始める。
「皆さん、どうやら失踪した連中はどうやらキング退治に行ったのは間違いないようです」
「なんと!」
「やはり・・・!」
驚く二人にエルネストが報告を続ける。
「たった今入った報告によると、失踪した小隊長は、数日前から「ゴブリンキングなど、どうという事はない。俺でも簡単に倒せる!」などと周囲に吹聴していたそうです」
「おろかな・・・」
「キングと言えど、所詮はゴブリンと侮っていたのでしょう。
どうも応援で他支部から来た者だったようですが、私が説明をしっかりとしなかったせいかも知れません。
うちの組合員が申し訳ない」
詫びるエルネストにアルマンが話す。
「いや、そういう事は討伐の最初の時にわしがあれほど侮るなと言うておる。
こういった輩はどう言っても無駄でしょう」
「そうですな」
「しかし彼らはどうなるでしょう?」
エルネストの質問にアレックスが答える。
「な~に、洞窟の出入り口には両方とも見張りがついているのです。
その見張りに見つかって終わりでしょう」
「しかしそれにしてはおかしいですな。
出て行った時間から言って、もはや諦めて帰って来ているはずですが?」
「そういえばそうだな?
ちょっと各班の中隊長に魔法念話で状況を聞いてみましょう」
「頼む」
エルネストの要請にアレックスがうなずくと、各部隊に魔法念話で連絡を取り、報告をする。
「各部隊の中隊長によると、確かにそういう連中が来て、偵察を命令されたと言って、中に入ろうとした連中がいたらしいですが、そんな命令は受けていないと追い払ったそうです。
しかしその後、その連中はいなくなったのですが、見張りが誘導路の扉が一箇所開いているのを発見したそうです」
「何と!ではその連中は?」
「う~む・・・」
三人が考え込んでいると、一人の組合員がやって来る。
正規の魔道士だ。
「御呼びでしょうか?」
「おお、君が失踪した小隊長のいた部隊の者かね?」
「はい、そうです!
自分はその小隊の副小隊長をしております」
「その小隊長は一体どういう人物かね?」
「はっ!彼は元スラールの中級魔道学校の生徒でしたが、魔法の才能はありましたが、素行が悪く、それによって放校処分を受けた者です!
その後、組合員となって稼いでいた様子ですが、腕は悪くないようですが、やはり素行が悪く、あちこちで問題を起こし、その度に組合支部を変えて渡り歩いていたそうです。
そして今回、このゴブリンキングミッションを聞き及んで、自分がキングを退治して見せると吹聴して参加したそうです」
「キングを倒すだと?」
「はっ!ここ数日、洞窟の中はほぼ一掃されて、中にいるのはキングとその護衛の数体と聞き及びました。
彼はそれを聞いて、今なら自分とその部下数人でキングを討伐できると考えて今回の行動に及んだと思われます!」
「何と!」
「愚かな・・・」
「私もその行動に参加するように要請を受けたのですが断りました。
しかし私も知らない間に、彼は数人の部下を伴い、事に及んだようです。
彼は先ほど言った通り、魔道士崩れで、透明化魔法が使えます。
私はたまたま魔道士学校で彼と同級生だったので、その辺は間違いありません!
そして私も魔道士学校を卒業した後で、今回このミッションで数年ぶりに彼に会って以上の事を聞いたのです」
「なるほどな・・・」
「これで大体の事情はわかりましたな」
「報告御苦労、その小隊の指揮は今後君が執ってくれ」
「承知いたしました!」
副小隊長の報告が終わると、再び三人が話し始める。
「そういう事か・・・」
「確かに見張りもまさか味方が透明化してまで中に入ろうとするとは考えないだろうからな。
洞窟の中から出てくる者には注意をしていても、外から透明になって入る者までには・・・」
「むむむ・・・実に愚かな・・・!」
「しかしもしそうならば向かった時刻から考えて、もはや手遅れでしょう。
仮に救助隊を送り込んだとしても、どうしようもない・・・」
「しかし捨て置く訳にもいきますまい。
一応、タロスによる救助隊を突入させてみましょう」
タロスによる救助隊が突入した結果、二人が死体となって、そして一人だけがかろうじて救助されて出てきた。
その一人にエルネストが激しく
「この愚か者め!
一体どういうつもりでこんな事を仕出かしたのだ!」
「あんな・・・あんな奴だとは思わなかったんです・・・
まさかゴブリンにあんなのがいたなんて・・・
俺は小隊長に唆されて簡単に倒せると思って・・・」
事情を話す男にアレックスが呆れながら問いかける。
「キングと言っても所詮はゴブリン、自分たちなら簡単に倒せるとでも言われてその気になったのかね?」
「はい、そうです・・・」
その答えにエルネストが激昂して叫ぶ。
「もう良い!
貴様は重大な組合規範違反だ!
オリナスに戻って、謹慎していろ!
除名は勘弁してやるが、降級と活動停止は覚悟しておけ!
命が助かっただけでも儲けものだと思え!
誰か航空魔道士を!
こいつをオリナスまで運んで、我々が帰るまで牢にぶち込んで置け!」
一通り指示を出すと、エルネストがアルマンに詫びながら尋ねる。
「全く申し訳ありません。
しかしこれで作戦にどんな違いが出ますかな?」
エルネストの質問にアルマンが考えながら答える。
「今までは中に入ってくるのはタロスだけだったので、奴は安心していたでしょう。
タロスならどんなにやってきても自分とその護衛隊ならいくらでも対応できると・・・
しかし人間が入ったとなると、奴は警戒心を上げたでしょう。
これは早めに突入しないと、逃げにかかるやも知れません」
「では直ちに突入を?」
「そうですな。
こうなっては奴が何か考える前に早くした方が良いでしょう。
奴が対応策を考える前にすぐにでも突入した方が良い」
「では誰を突入させますか?」
「うむ、ではわしとわしのジャベックたち、それと中隊長の四人、それに魔法協会のジャベックをレベルの高い順に10体ほどお貸し願いたい。
そして御二人はそれぞれ正面と裏口の出口で待ち構えて、出てくる者は全て討ち取っていただきたい」
「承知いたしました」
「こちらも了解です」
その時にポリーナが叫ぶ。
「私も連れて行ってください!」
しかしアルマンが即座にそれを却下する。
「ならん!相手はキングとその護衛軍じゃ!
ウイザードの比ではない!
お前が行くには危険すぎる!」
「いいえ、それを言うなら大御爺様こそが危険です!
この間のウイザードの時にどうしましたか?」
「む・・・・」
アルマンがポリーナに助けられた事を思い出し、言葉に詰まる。
そのやり取りにエルネストが笑う。
「ははは!これは一本取られましたな!
アルマンさん!」
アレックスもうなずいてポリーナを擁護する。
「大丈夫です。
ポリーナさんは自分をわきまえておりますし、護衛がこれだけいるのです。
連れて行ってあげてください」
「わかりました。
しかしポリーナ?危険と思ったら即座に逃げるのじゃぞ?」
「はい、わかりました」
こう言ってアルマンとポリーナは、中隊長やヴェルダたちと共に洞窟の中へと入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます