ポリーナ・パーシモン 13 突入!
そしていよいよ突入の時が来た。
以前のように肩に二本の松明を差したレベル100の戦闘タロスが正面、裏口の二つの穴から突入する。
但し、今回は一つの穴から1500体を投入する。
しかも今度は背中に燃え盛る薪まで背負っての突入だ。
これにより、ゴブリンを炎で焼き、煙で燻し出し、さらには煙により他の出入り口の有無を確認するためだ。
戦闘タロス部隊が突入すると、途端に洞窟の中では叫び声が上がり始めた。
先鋒500体の戦闘タロスは防御も考えず、ただひたすら前進し、ゴブリンが邪魔をすれば叩き伏せた。
分かれ道があれば、その分かれ道の数に分かれて先へと進んだ。
彼らの役目は中を混乱させ、可能な限り奥へと進み、火をつける事だった。
それ以降の1000体は、先鋒隊から逃れたゴブリンたちを切り裂き、叩きのめし、火で焼きながら進んでいた。
しかし外へ逃げようとするゴブリンがいれば、特に追うでもなく、先へと進んだ。
1500体の戦闘タロスたちは奥へ奥へと進んで行った。
そしてたまに戦闘タロスの攻撃を掻い潜って外に出てくるゴブリンがいた。
洞窟から出てきたゴブリンたちは待ち構えている者たちに驚き、直ちに攻撃しようとするが、そこには討伐隊が左右に築いた二重の誘導防護柵があった。
その作られた誘導柵に近づこうものならば、外側から組合員たちによって倒される。
何しろ近づけば槍衾であっという間に刺し殺されるのだ。
一部のゴブリンたちは柵越しに戦おうとするが、短剣や棍棒程度しか武器がなくては相手に全く届かない。
しかも柵は二重になっているので、それを越えて相手に攻撃するのは不可能に近い。
それに柵に近寄れば、そこにはポリーナ式針鋲陣が敷かれており、足に穴が開く羽目になった。
山を登って逃げようとするゴブリンもいたが、そんなゴブリンにも対応策は考えられていた。
空には大型の鷹形タロスが百羽も遊弋しており、ゴブリンたちが山の斜面を登ろうものなら、すぐさま近づき、下へと突き落としていた。
洞窟の中から出てきたゴブリンたちは、そこに止まれば槍で突かれ、中に戻ればレベル100の戦闘タロスと戦わなければならず、山の斜面へ登れば鷹型タロスに落とされる事となった。
従ってゴブリンたちは否が応でも誘導柵に沿って前に進むしかなかった・
そしてその終点ではぐるりと周囲を囲まれて人間どもが万全の体制で待ち構えていたのだ。
この突入により煙が出てきて発見された出入り口が二つほどあったので、その2箇所も他の出入り口同様に直ちに封鎖された。
この作戦により討伐隊が布陣している2箇所以外の出入り口は全て封鎖されて、ゴブリンたちは完全にこの大洞窟に封じ込まれる事になった。
そして30分後には正面から二回目の突入が開始された。
今度は50体の戦闘タロスが投入される。
その50体はゆっくりと進み、今度は目に付いたゴブリンを可能な限り殺戮して行った。
そしてその10分後には第3陣が、さらに10分後には第4陣が次々と中へ進んでいった。
この攻防は24時間、三日三晩続いた。
戦闘タロスは10分おきに正面の穴から50体ずつの投入となり、それが三日間続けられたのだった。
実にそれは430次攻撃隊まで続いた。
出入り口を封鎖している部隊以外の全部隊が8つの班に分けられて、それぞれが正面と裏口の2つに別れて、4組が迎撃、待機、待機予備、休憩を3時間毎に繰り返した。
中隊長の4人は2組の班を受け持ち、6時間交代で出入口の指揮を執った。
大魔力量を持つアルマン、ヴェルダ、マギーラ、アレックスの4人は誰か一人が常に正面の穴から戦闘タロスを送り込み続け、中でゴブリンたちに戦闘を強いる。
正面から入っていった戦闘タロスに追いやられて、裏口から何とか逃れて出てきたゴブリンたちを24時間交代で待ち受けている組合員や魔道士が片端から倒し続けた。
これはゴブリンを疲れさせて、休む隙を与えない作戦だった。
ゴブリンが全く休み時間がないのに対して、人間側は3時間ごとに休憩し、食事をして睡眠を取る事が出来た。
この三日三晩続いた作戦により、さしものゴブリンたちも、大幅にその数を減らし始めた。
洞窟内部にはまだ5000匹以上のゴブリンがいるはずだったが、徐々にその抵抗は小さくなっていった。
時たま状況打開を図ってか、ゴブリンの大規模な攻勢もあったが、ことごとくアルマンの周到な防衛策により、その作戦は失敗した。
やがて戦闘タロスを突入させても、双方の出入り口から全くゴブリンが出なくなってきた。
そこで今度は30分おきに100体のタロスを突入させて、半分を攻撃に、残りの半分を洞窟内の清掃収集作業用とした。
この集団は正面出入り口から突入し、50体の攻撃隊はそのまま中で戦闘を続け、残り50体の清掃収集隊は洞窟の内部の物を持って、裏口から外へと運び始めた。
これは最終的に突入させる本隊の進行の邪魔になる物を片付けるためと、死体を装って攻撃するゴブリンを無くすため、そして貴重な物品の取りそこねを無くすためだった。
突入した清掃収集のタロスたちは次々とゴブリンの死体や大きな石や岩、松明や薪の燃え残り、中で見つけた物品などを外に持ち出した。
ゴブリンの死体は松明や薪の燃え残りと一緒に山積みにされて、ある程度集まると魔道士によって焼却された。
岩や石は粘土で塞がれた出入り口の前に積まれて、より出入りを困難にした。
中で見つけられた武器・防具・魔法具などは多岐に渡り、これは一覧表を作り、後方基地であるパーシモン村に次々と送られていた。
これらの品物は、後に討伐隊に加わった者たちに公平に配られる予定だ。
やがてこの突入が始まって1日ほど経つと、それすら出てこなくなり、清掃収集タロスが持って出てくる物は小石程度の物しかなくなって来た。
タロスの戦闘もほとんどなくなり、ゴブリンの死体は出てこなくなった。
そして送り込まれる戦闘タロスで勝つ者はいなくなり、戦って敗れる者だけになっていった。
この様子を見てアルマンはエルネストたちに呟いた。
「どうやら残りはキングと護衛隊だけとなったようじゃの」
「そのようですね。
戦闘はほとんど行われなくなり、ゴブリンの死体は全く運び出されなくなったのに、戦闘はこちら側が一方的に負けています。
これは中に敵が少数残っており、それが強力な個体である証拠ですね」
「ではそろそろ止めを刺しに行くとしますかな?」
アレックスの言葉にアルマンが首を横に振る。
「いや、もう少し様子を見た方が良いでしょう。
何しろ相手はゴブリンキングです。
別に急いでいる訳でもなし、用心に越した事はない」
「確かにそうですな」
「その時は、やはりアルマンさん自ら?」
「そうですな、しかし相手はキングです。
奴は警戒心が強く、いざとなれば逃げに入るはずです。
御二人は残りの兵力を二つに分けて、この正面ともう一方の入口で待ち構えていて、もしキングの奴が出てきた時には必ず討ち果たしてくだされ。
奴がそのままどこかへ逐電してしまえば、数年経ったらまた最初からやり直しになります。
責任は重大ですぞ」
「承知いたしました」
「はい、お任せください」
しかし、この時に意外な事が起こった。
しかもそれはゴブリン側ではなく、討伐隊の内部で起こった事だった。
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