トム・サテナ 01 おかしな奴ら
俺の名はトム・サテナ。
とある村から、はるばるここマジェストンまで魔道士になるためにやってきた!
嬉しい事に俺にはたまたま魔法の才能があったらしい。
そして俺の村は小さいにも関わらず、偶然にも正規の魔道士が一人いた!
これはこんな小さな村には珍しい事らしい。
俺は運良く、その村に一人だけいた魔道士の先生に習い、何とか使空魔法士程度の実力をつける事が出来た!
しかも頑張れば、先生同様に正規の魔道士になれるほどの才能もあるらしい。
先生は俺にマジェストンへ行って、正規の魔道士になって村のために働くのが良いと言って、村長様に頼み込んで、魔法学校と寮の費用まで出してくれた!
そしてある程度の魔法を覚えて20歳になった俺は、マジェストンへ来る事が出来た!
先生と村長様には感謝しかない!
この恩を返すためにも、何としてでも俺はこのマジェストンで魔道士になって、村へ帰らねばならない!
そして魔道士として村のために働くのだ!
しかしながら自信はある!
先生の下で魔法の修行もした上で、様々な魔法関係の本も読んでいて知識も万全だ!
先生が持っていた、ここ十数年分ほどの魔道士名鑑も読んで、有名な魔道士の業績や顔も全て覚えている!
この知識はここで大いに役に立つ事だろう。
まずは短期初等魔法学校とやらだ。
ここへ通って魔法使いの一番初歩の資格である、魔法士の資格を取らないと、魔法使いとしては何も始まらない。
ここは魔法士の実力がある者ならば、一ヶ月で卒業が出来て、正式に魔法士の資格が取れると先生から聞いている。
そうすれば俺も魔法士になって、来月からは中等魔法学校へ通えるのだ!
中等魔法学校を卒業すれば正規の魔道士になれる!
頑張るのだ!
ふむ、ここがその教室か?
なるほど、誰も彼もが、いかにも魔法使いと言う顔をしている。
この教室にいるという事は、当然ここにいる連中は、全員俺と同じ位の魔法は使えるという訳だよな?
中にはあんたはもう魔法士どころか、魔道士なんじゃないの?と聞いてみたくなる堂々たる見掛けの御仁までいる。
俺が適当に席を見つけて腰を下ろすと、なにやら騒がしい集団がやってきた。
どうやらこいつらもここの生徒のようだ。
しかし何やら浮ついた連中だ!
若い男女の3人と俺と同じ位の年齢の男二人の五人組だ。
その若い男女の一人は17歳程度に見えるが、あとの二人はまだ12・3程度にしか見えない。
こいつら本当に魔法使いなのか?
おいおい?お前ら二人は普通に、魔法初等学校へ行けばいいんじゃないのか?
わざわざこんな場所へ来る事もないだろうに?
しかもよく見ると、女二人は奴隷の首輪をしている。
どうやら若い男の奴隷のようだ。
この若い男は身なりも結構いいし、どこかの御坊ちゃんなのか?
すると残りの無口な二人は、さしずめこの金持ち小僧の護衛という所か?
しかしここは魔法士の資格を取るための教室だ。
つまりあの奴隷女二人と、護衛っぽい男二人も生徒のはずだ。
しかし見た目はどう見ても御付の侍女奴隷と護衛にしか見えない。
事実、女どもは、あの小僧にいちゃついているとしか思えない!
そして屈強な男二人は、明らかに周囲に目を配って主人である少年を守っているように見える。
息子のためにわざわざ護衛二人と女奴隷二人を一緒に生徒に仕立て上げてまで送り込むとはどんだけ過保護な親なんだよ!
まったくあきれるな!
村から身一つで来た俺を見てみろよ!
俺が憤慨していると、もう一人、俺や金持ち小僧の護衛と同じ位の年齢に見える赤毛の男がそいつらに近づいていった。
おっ?そいつらに文句を言ってやるのか?
よし!言ったれ!
俺は心の中で応援するぞ!
しかしそいつは自分の自慢話を始めただけだった!
こいつはどこかの高名な魔道士の内弟子だとか自慢話をし始めやがった!
はん!どうせ俺は田舎の名もない魔道士の弟子だよ!
え?でも師匠が天魔道士グロスマン?!
俺、その人知っているよ!
先生の持っていた魔道士名鑑にも顔や姿が載っていたし、確かちょっとした特集も組まれていた事もあったんじゃなかったかな?
うう、凄い・・・こいつ、そんな有名な魔道士の弟子だったとは・・・
確かに自慢したくなるのもわかる気がする。
しかしこいつら、かの天魔道士グロスマンを知らないのか!
一番ちっこい女の子は知っているみたいだが、他の二人は知らないようだ。
護衛っぽい二人はだんまりだ。
そう言えばこの二人、まだ一言もしゃべっていないな?
やはりあの小僧の護衛なのか?
赤毛の男は今度は大師匠の自慢を始める。
ん?グロスマン天魔道士の師匠って誰だ?
確かに興味はあるな・・・
なにぃ~っ!!
あいつの大師匠は、あのガンダルフ賢者なのか!
ぬう~・・・
ちっこい女の子は興奮して騒いでいる。
赤毛の男にキャアキャア言っているぞ?
まあ、当然だろうな。
こんな所で、かの大賢者の孫弟子に会えるとは俺だって驚きだ!
う~ん・・・
ちょっと、いや、かなりうらやましい・・・
俺もあの輪に加えてもらおうかな?
いや、やめておこう!
しかし・・・あの二人はガンダルフ様も知らないのかよ!
あ、赤毛の男とちっこい女の子があきれ返っている。
まあ、そうだよな。
魔法使いのくせに、賢者ガンダルフを知らないなんて、ありえんわ!
赤毛の男の言う通り、本当にこいつら魔法使いなのか?
おかしいだろ!
そして残りの二人はあいかわらずだんまりか?
赤毛の男はあきれ返っているが、今度はあの連中の事を聞きだしているみたいだ。
ふ~ん・・・あの5人も誰か有名な魔道士の弟子なのかな?
え?奴隷で天賢者?
奴隷はともかく、天賢者ってアレだよな?
資格要綱は魔法辞典や魔道士便覧とかに載っているけど、実際にはそんな資格を持っている人間はいないとか言われているような奴・・・
先生も本当にいるのかわからんとか言っていたもんな?
そもそもそんな凄い資格を持っているのが奴隷って有り得ないだろ?
何をおかしな事を言っているんだ、こいつら?
赤毛の男があきれて色々と言っている。
おう!言ったれ、言ったれ!
でもちっこい子が説明をしたら一応納得しちゃったみたいだ。
何だ!使えない奴だな!
もうちょっと反論しろよ!
そしていよいよその天賢者とやらの名前だ。
えれのあ・ぐりーんりーふ?
は?????
全然知らん!
赤毛の男は俺と同じで高名な魔道士の名前には詳しいようだが知らないようだ。
俺も全く聞いた事がない。
俺は毎年の魔道士名鑑で特集しているような魔道士は全部知っているはずなんだが、見た事も聞いた事もないぞ?
先生の所蔵している物は、何回も読んで全部覚えているから間違いはない!
やっぱりこいつらその奴隷に騙されているんじゃないのか?
おや?今度はそのエセ天賢者とやらの弟子の話をし始めたぞ?
・・・ぶほっ・・・!
おい!俺は今、飲み物を飲んでいたら絶対に吹いたぞ!
メディシナーの最高評議長や侯爵様が弟子だとぉ!
ふざけんな!
そんな訳ないだろう!
しかもついこの間まで一緒に治療魔法を習っていたぁ?
頭おかしいのか?こいつ?
おがっ!
今度はあのユーリウスを弟子扱いにしやがった!
あの人がそんなのの弟子のわきゃないだろうが!
伝説のゴーレム魔道士でエルフなんだぞ?
エ・ル・フ!
しかも賢者で天魔道士のはずだ!
魔道士名鑑でだって、何回も特集されている人だ!
確かもう年齢も250歳は超えているはずだ。
そんな人が弟子のわきゃないだろが!
アホか!
こいつら!
そんなんで人を騙せると思うなよ?
いや、騙されているのはこいつらか?
かわいそうに・・・
その自称天賢者とか言う奴隷に騙されているんだな?
きっとちょっとばかり魔法が使える奴隷が、何も魔法の事を知らない金持ちを騙して自分は天賢者だとか言って、この息子の教育をしたんだろうな・・・
そう考えると哀れだ・・・
ああ、俺は田舎の村とはいえ、まともな先生に習えて良かったなあ・・・
しかし黙って聞いていたらこいつらユーリウスにジャベック魔法を教えに行ったとか言い始めやがった!
あのなあ・・・伝説のゴーレム魔道士だぞ?
そんな人にお前らがゴーレム魔法を教えられるわきゃないだろうがよ!
何なの?こいつら?本当にもう・・・
周りの連中も笑っているぞ?
あ、赤毛の男も頭を抱えて考え込んじゃったぞ?
まあ、当たり前か?
今度はロナバールのゼルバトロス魔道士が弟子だとか言い始めやがった!
しかも時々こいつの家で一緒に食事しているとか言っている!
アホか!
あの人、有名だけど、いつも仮面を被っていて、絶対に人前ではその黒い仮面をはずさないって聞いているぞ!
こんな奴の前で、その仮面を取る訳ないだろ!
ダメだ!こいつら!
完全に詐欺師だ!
よほどうそつき!と言いに行ってやろうかと思ったら、こいつら自己紹介を始めやがった。
まあ、そこまでは聞いてやるか?
怒鳴りつけるのに名前を知っていた方が言い易いしな?
は?何?あの護衛っぽいの無口だと思ったらアイザックだったの?
いや、アイザックなんて俺の田舎村じゃいないんで見るの初めてだけど本当かな?
アイザックか人間かなんて、俺には区別がつかん・・・
また詐欺でウソついているんじゃないのか?
でも自分でアイザックていう人間もいないか?
いや、いるのか?・・・わからん・・・
そもそもアイザックどころか、ジャベックだってそんなに見た事ないんだからな?
う~む・・・人間がアイザックってうそついて、何か良い事があるだろうか?
もはや、どこからどう文句をつけたらいいのか、わかんなくなってきたぞ!
俺が考え込んでいたらこいつらまたおかしな事を言い始めたぞ?
ここを卒業したらすぐに魔道士になって1年以内に賢者になるぅ?
んな事が出来る訳ないだろ!
そもそも魔道士検定なんて聞いた事がないぞ?
なんだそりゃ?
もう、頭おかしいの通り越して、完全に訳わからんわ!
あれ?でも赤毛の男がこいつら鑑定して驚いているぞ?
つーか、あの男、鑑定魔法使えるのかよ?
凄いな!魔法学士並じゃないか!
あの小僧より、赤毛の男の方が凄いわ!
いや、しかしあの小僧がレベル358ってありえないだろ?
他の連中も180だの237だのって、本当かよ?
あの男の鑑定魔法がおかしいんじゃないのか?
あれ?でもあの赤毛の男、納得しちゃったよ!
いいのか?それで?
どう考えてもおかしいだろ?そいつら?
自分で鑑定したんで納得したのか?
う~ん・・・
おっと、いよいよ授業の始まりか?
あんな奴らに構っているどころじゃない!
もうあんな奴らなんかどうでもいいや!
俺はここでしっかりと勉強して、魔法士にならなきゃなんないんだからな!
出来れば良い先生に当たると良いな・・・
・・・何と!この先生は、あの伝説のゴーレム魔道士ユーリウス賢者の弟子だったのか!
こりゃ良い先生に当たったな!
しかも大当たりだ!
これで俺は伝説の魔道士の孫弟子じゃないか!
何かの時にはユーリウス賢者に会えるかも知れないぞ?
あんな詐欺師の小僧と違って、こっちは本物なんだからな!
あんなイカサマ小僧には腹が立ったけど、村の先生と言い、俺は教師運は良いみたいだ!
周りの連中も驚いている。
そりゃそうだ!
普通はこんな初等魔法士学校にこんな凄い人が来る訳ないもんな?
それにしても俺が言うのも変だけど、本当に何でこの人、ここの担当になったんだろう?
・・・え?
ウソだろ?
この先生、あの小僧を先生扱いしているぞ?
先生、先生と言って、感激している!
え?本当にあのユーリウス賢者にジャベック魔法を教えたって?
ウソ!ウソ!ウソ!
絶対にウソだろう?
あんな小僧が有り得ない!
だってあいつ、どう見ても俺より年下だぞ???
って言うか、さっき赤毛の奴が16歳って言ってたから、間違いなく年下だ。
それが伝説の魔道士にジャベック魔法を教えたって・・・???
あの人、250歳以上なんだぞ?
しかしあくまでこのシンドラー先生は、あの小僧を先生扱いだ?
自分よりも使役物体魔法に詳しいとも言っている!
ユーリウス学派の直弟子よりも?
しかもこの先生がここの担任になったのは、あの小僧がいるからだって?
もう、訳がわからん!!!
ふ~・・・ともかく落ち着け、俺!
とりあえず授業が始まった。
うん、授業は普通だな?
全て村の先生に教わった通りだ。
俺にとっては復習みたいなもんだ。
それにこの先生は教え方もうまくて、やっぱり良い先生みたいだ。
さっきの事は何かの間違いだろう!
無事に初日の授業が終わって、後は学生寮に帰るだけだ。
何だか今日は凄い疲れたからとっとと帰ろう・・・
おや?さっきの5人組と、赤毛の男があそこにいて、何か話しているな?
ちょっと気になるから、もう少し近づいて話しを聞いてみよう・・・
おっ!あっちから何か凄い絶世の美女のエルフがやって来たぞ?
おおう・・・こんな美女がこの世に存在するのか!
そう言えばエルフって俺は初めて見るな?
当たり前だけど、村には一人もいなかったもんな。
さすがは魔法都市マジェストンだよ!
こんな美女エルフがいるなんてな!
あれ?あの6人と話し始めたよ?
・・・ええ?このエルフが、その天賢者で奴隷なの?
やっぱりウソだろう?
赤毛の男だって胡散臭がっているぞ?
うん?今度は魔道士っぽい人がやって来たな?
あれ?
あの人、見た覚えあるぞ?
確か魔道士名鑑に載っていたグロスマン天魔道士じゃないのか?
おおっ!やはり!あの赤毛の男が「師匠!」と言ってかしこまっている!
本当にグロスマン天魔道士なんだ!
すっげー!あんな有名人を生で見ちゃったよ!
さすが魔道都市マジェストンだな!
あんな有名人がそこいら辺を歩いているのか?
あれ?グロスマン天魔道士が突然恐れ入っているぞ?
そんでもって、赤毛の男がすっげぇガスガスと杖で殴られている!
えっ?
うっそ!!!
あのエルフって本当に天賢者だったの?
しかもあの大賢者ガンダルフ様の師匠~~??
グロスマン天魔道士も、あのエルフの孫弟子~???
そんでもって本当にあの美女エルフがガンダルフ賢者にユーリウス賢者、パラケルス侯爵様の師匠だったの~っ?????
・・・ダメだ!
もう俺にはあの連中は全然理解出来ない世界になった!
完全に俺の理解の外だ!
うん、俺はまじめに授業を受けて魔法士になろう!
それがいい!
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