ギルバートと仲間たち 14 伯爵仮面との出会い

 ギルバートたちと盗賊たちの前に一人のスーツ姿の男性と、一人の派手な金色の夜会ドレスのような格好をした女性が現れた。

そしてアンナは紺色に金の線が入った鎧を着ている、短い薄茶色の精悍な姿の男性に助けられていた。

その3人は全員が顔に派手な金色の仮面をつけていた。

そしてその3人を見た盗賊たちが驚く!


「き、貴様は!」

「伯爵仮面・・・!」

「何でこんな所に?」

「こいつは南西の迷宮近辺に現れると聞いていたが?」


その盗賊たちに長身のスーツ姿の男が静かに話し始める。


「たまたま今日は気まぐれでこちらの迷宮へ来てみれば、このような場面に出くわすとわな?

全く、いつまでも盗賊家業と言う連中はいなくならないものよ」

「にっ!逃げろ」


盗賊の頭がそう命令するが、既に遅かった。


「逃がすか!4号よ!」

「はっ!」


伯爵仮面が命令すると、金色の仮面を被った紺色の鎧姿の男がアッというまに残っていた盗賊たちを目にも留まらぬ速さでバタバタとなぎ倒す。

すでに盗賊の半分近くがギルバートたちによって倒されていたが、次の瞬間には10人の盗賊たちは全員がそこに伸びていた。


「ふむ、いつもながら見事なものだな?4号?」

「恐れ入ります」

「そちらの諸君は無事かな?」


スーツ姿の男に尋ねられてギルバートが答える。


「はい!大丈夫です!ありがとうございます!」

「うむ、それは良かった」

「あの、あなたはもしや組合でも有名な伯爵仮面様ですか?」

「うむ、確かに私は伯爵仮面だが・・・組合で有名?」

「はい!御高名は伺っております!

貴族でありながら組合員に身をやつし、強きをくじき、弱きを助ける正義の味方と聞き及んでおります!」


そのギルバートの説明を聞いて伯爵仮面は戸惑う。


「正義の味方か・・・いや、その名は私には少々重いな・・・

その呼び名は私以外にふさわしい者がいくらでもいる。

私はその名にふさわしくない、私は自分の過去を償っている、ただの精進している者に過ぎない」

「御謙遜を!

この度は助けていただきありがとうございます!」

「何、それほどの事でもない。

諸君らであれば、自力であの場も切り抜けた事だろう。

私たちは少々手伝っただけだ」

「とんでもございません!

あなた方がいらっしゃらなければ、我々はどうなっていた事か!

本当にありがとうございました!

しかし不躾ながら一つ伺いたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ふむ、私に答えられる事ならなんなりと」

「その・・・実はそちらにおられる伯爵仮面様が4号とお呼びになっている・・・」

「ん?伯爵仮面4号がどうかしたのかな?」

「はい、実はその方は青き薔薇ブルア・ローゾのラピーダというジャベックではないかと思うのですが、間違いはないでしょうか?」


その質問に伯爵仮面は再び少々戸惑いながらも正直に答える。


「む・・・確かに彼はラピーダだが、君はなぜそれを知っているのかね?」

「ええ、実はラピーダはガルドと共に組合でただ二人だけ三重水晶階位トリプルクリスタルランクと聞いております。

そしてその紺色に金色の線が入った男性は、その組合員証を首から下げております。

さらに先ほどの素早さ・・・二人のうちの特に速さに優れているというラピーダではないかと推察した次第でございます」


そのギルバートの推察に伯爵仮面は感心して答える。


「ふむ、まさにその通りだが・・・諸君らはラピーダに何か用があるのかね?」

「はい、実は我々は故あって、青き薔薇ブルア・ローゾの団長を探しているのですが、ここ半年近く見かけない上に、最近はその噂すら聞きません。

それでどうしたものかと考えていたのです。

そこでたった今、青き薔薇ブルア・ローゾのジャベックであるラピーダを見かけたので、団員の皆様の事を伺いたいと思った次第でございます」

「なるほど・・・青き薔薇ブルア・ローゾの行方なら一応私も知っているが、その前に諸君がなぜ彼らを探しているのか聞かせてくれないか?」

「はい、実は・・・」


ギルバートは伯爵仮面にこれまでの話をした。

自分たちがウォルターの腕を治療してくれた人物と資産家のような少年に恩があること、その二人が誰だったのか知りたい事、そしてもしその人が青き薔薇ブルア・ローゾの団長ならば、是非礼を言いたいので探している事などを説明した。

その説明に伯爵仮面も納得した。


「なるほど・・・君たちからの話を聞いた限りでは、最初にウォルター君の腕を治した者はわからないが、そのタロスをくれた人物は、確かに青き薔薇ブルア・ローゾの団長だと私も思う」

「そうですか!」

「やはり!」

「やった!」


伯爵仮面の答えにギルバートたちは賑わい喜ぶ。

初めて謎の少年の正体を教えてくれる人物が現れてギルバートたちは嬉しかった。


「うむ、しかしこれは魔法協会と組合の秘密事項なのでな・・・

あまり君たちに話す訳にいかないのだが、事情が事情だ。

君たちの気持ちもわかるので、説明をしてあげよう。

しかしここはあまりそう言った話にはふさわしくない場所だ。

まずはあ奴らを組合にでも連行してから続きを話そう」

「はい、わかりました!」


ギルバートたちは伯爵仮面たちと共に、気絶している盗賊たちを縛り上げると、伯爵仮面は4号に命じて組合へと運ばせた。


「では、私は先に組合に行って、あやつらを引き渡す手続きをして来る。

君たちは後から来て、組合に来て待っていてくれたまえ」

「はい、わかりました!」


そしてギルバートたちが組合に到着すると、そこにはすでに伯爵仮面が待っていて話しかけて来た。


「やあ、ちょうどこちらも手続きが終わった所だ。

あの盗賊たちの中の3人には賞金がついていた。

これは君たちの物だ。

受け取り給え」


そう言って伯爵仮面が金貨を8枚ほど渡して来た。

それを驚いてギルバートが断る。


「え?そんな!これは受け取れません!

どうか伯爵仮面様が御受取ください!」

「いや、半分以上は君たちが倒していた訳だし、私は最後に少々手伝っただけだ。

これは君たちに権利があるのは間違いない。

もちろん、あの盗賊連中を捕まえたのも君たちだと言う事で報告はしてある」

「しかし・・・」

「ふむ、そうだな?

それではこれからプロフェッショナルで話をしよう。

そこでの支払いをこの賞金で君たちに頼もう。

それなら良いのではないか?」

「はい、わかりました」


伯爵仮面の言葉にギルバートがようやく承知する。


「ふむ、では話の続きをするか?

場所は今言った通り、プロフェッショナルで良いかな?

あそこなら人もあまりいずに静かに話せるだろう」

「はい、あの、私たちも一緒でよろしいのでしょうか?」

「大丈夫だ、私は御覧の通り2級なのであそこを利用可能だ。

君たちも私と一緒なら大丈夫だ。

支払いもその賞金程度で十分に出来る」

「はい、わかりました」


プロフェッショナルに着くと、そこには誰もいなかった。

席に座ると伯爵仮面が話し出す。


「ああ、これはちょうど都合が良かった。

誰もいないので我々の話を聞かれる心配もないしな。

では話しの続きをするか?

但し、これは他の者に話してはいかんぞ?

これから話す事を君たちが誰かに話せば青き薔薇ブルア・ローゾの団長に迷惑がかかる。

私は君たちを信用して話すのだ。

その点は良いな?」

「はい、わかりました!大丈夫です」

「ええ、恩人の迷惑になる事など決してしません!」


その言葉にうなずくと伯爵仮面が話し始める。


「うむ、実はな、君たちが出会った時のシノブ、つまり青き薔薇ブルア・ローゾの団長は、同じく団長補佐のミルキィ嬢と一緒に盗賊の囮捜査をしていたのだ」

「囮捜査・・・?」

「ああ、彼は君たちも知っての通り、一見その辺のか弱そうな少年にしか見えない。

そしてミルキィ嬢も見栄えはどこぞの麗しい御令嬢のようだ。

そこでそんな彼らが金持ち風の初心者の格好をすれば、盗賊たちの格好の餌と言う訳だ。

それを利用して彼らは組合からの要請で、自らを囮として盗賊捕縛の秘密捜査を行っていたのだ。

あの二人はたまにそういった秘密ミッションもするのだ。

諸君らが会ったのは、その囮捜査の最中だったという訳だな」


その説明を聞いてギルバートたちもようやく納得する。


「そうだったのですか・・・!」

「そんな秘密ミッションをあのお二人が?」

「だからあの格好の二人を探してもいなかったのか・・・」

「どうりでどこにもいないはずだよ!」

「ああ、しかし今の話でわかるように、これは決して他人に話してはいけない。

そんな事になれば、今後の彼らの囮捜査に支障が出るからな。

これは魔法協会と組合員のごく一部と、彼に近しい友人しか知らない事項なのだ。

だから君たちもこれ以上この事に関して詮索をしてはいけない。

私がこの事を君たちに説明したのも、これ以上君たちがこの事に関して詮索をしないようにするためだ。

君たちの様子からすると、今までもおそらく誰かにこの事を聞いて、相手が困った事があったのではないかと思う」

「あ・・・」


それを聞いてギルバートたちは思い当たる節が多々あった事を思い出した。


「それじゃボロネッソ先生が慌てていたのも・・・」

「カベーロスさんが口を濁していたのも・・」

「その事だったのか?」

「俺たちは自分の恩人を探そうと一生懸命になって、事情を知っている色々な人たちに迷惑をかけていたのか?」


そのギルバートたちの反応を見て伯爵仮面もうなずいて先を続ける。


「うむ、おそらくはそういう事だ。

私もそうだろうと考え、これ以上君たちが詮索をすると困る者がいるだろうからと考えて敢えて君たちにも彼らの事情を話したのだ。

しかしこの事は今説明した通り、本来は秘密事項なのだ。

だから君たちもこれ以上はそれに関しては詮索しない事だ。

それに彼らは後、2年少々もすればここに戻って来るだろう」

「あの人たちは今どこへ行っているのですか?

もし差し支えなければ教えていただけませんか?」

「うむ、彼らは今マジェストンで魔法を学んでいるのだ。

2年後に戻って来る頃には立派な魔道士や魔法学士になって帰って来る事だろう。

私はその間、このラピーダをシノブが貸してくれたので、こうして自分を迷宮で鍛えていたという訳だ。

迷宮へ行く途中の森には盗賊どもが跋扈しているので、それを退治する事も含めてな。

その途中でたまたま君たちと出会った訳だ」

「そうだったんですか・・・」


この伯爵仮面の説明によって、ギルバートたちは今までの疑問の半分は解けた気がした。


「うむ、これで事情はわかっただろう?

そういう訳だから君たちもこれ以上の詮索はせずに、彼らがここへ帰って来るのを待ちたまえ」

「はい、わかりました!

わざわざ我々の疑問に丁寧にお答えしていただきありがとうございました!

しかし伯爵仮面様は青き薔薇ブルア・ローゾの団長と、とても仲がよろしいのですね?

我々は青き薔薇ブルア・ローゾの団長はガルドとラピーダを非常に大切にしていると伺っております。

そんな大切なジャベックまで貸していただけるとは、御二人は良い友人同士なのですね?」


そのギルバートの言葉に伯爵仮面がまたもや戸惑う。


「うむ、友人と言うか、私は彼と副団長のエレノアにはとても大きな恩があってな。

私にとっては友人と言うよりも、大切な恩人だ。

特にシノブのおかげで私の人生は大きく変わったと言えるだろう。

彼がいなければ今の私はありえない。

ふむ、そうか・・・そういう意味では私の立場は君たちと同じとも言えるな?

同じ人物を恩人に持つ者同士という訳だ。

しかも自分の人生を良い方向へ大きく変えてもらった者同士でもある訳だ。

ならばこれも何かの縁だ。

私は数日後には用事があってロナバールを離れなければならないが、それまでの間・・・そう、二日ほど、私と一緒に迷宮へ行ってみるかね?

君たちの修行を少々手伝ってみようと思う。

私のレベルは君たちよりは高いので、多少は意味があると思うが?」


その伯爵仮面の申し出にギルバートたちは驚く。


「え?よろしいのですか?」

「伯爵仮面様と一緒に迷宮へ?」

「ああ、その程度は構わぬ。

理由はわからないが、君たちから聞いた事情からすると、シノブは君たちをおそらく鍛えたいようだしな?

私が君たちを多少なりとも鍛えれば彼も喜ぶだろう。

ならば私も彼に対する恩返しになるだろう」


その伯爵仮面の申し出にギルバートたちは喜んだ!


「ぜひそれはお願いします!」

「はい、高名な伯爵仮面様に迷宮で鍛えていただけるなんて光栄です!」

「うむ、では今日の所はこれで帰るとして、明日の朝10時頃に魔法協会の広場で待ち合わせでどうかね?」

「はい、よろしくお願いします」


こうしてギルバートたちは翌日に伯爵仮面と一緒に迷宮へ行く事となった。


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