ポリーナ・パーシモン 21 メディシナー侯爵家で
やがて玄関前に馬車が着くと、案内所の所長がポリーナを下ろす。
「ささっ、どうぞ、お降りください。
ポリーナ様」
「は、はい」
所長が玄関の人間に取り次ごうとすると、ちょうど屋敷の中からキリッとした感じの赤毛の女性が出てきて尋ねられる。
「どうしたのですか?
この馬車は何ですか?」
その女性に案内所の所長が答える。
「はっ!私は無料観光案内所所長のダンジールと申します!
ただ今、エレノア・グリーンリーフ様の御弟子様、
ポリーナ・パーシモン様をお連れいたしました!」
「エレノア様の御弟子さん?
ポリーナ・パーシモン?
聞かない名前ですが?」
いぶかしげに問う女性に案内所の所長が答える。
「はっ!しかしエレノア様の紹介状をお持ちでしたので!」
「エレノア様の紹介状を?
ポリーナさんとやら、その紹介状を見せていただいてもよろしいですか?」
「はい」
ポリーナがレオンハルト宛の封書を見せると、その女性の顔色がサッと変わる。
「親愛なる弟子 レオンハルト・メディシナーへ・・・これはっ!」
裏書を見るまでも無く、その女性がポリーナに恭しく頭を下げる。
「失礼いたしました!
私は御当主様の筆頭秘書を勤めさせていただいている、マーガレット・パターソンと申します。
ただいまレオンハルト様の下に御案内させていただきます」
その聞き覚えのある名前を聞いてポリーナも軽く驚く。
「え?あなたがマーガレットさんなのですか?」
「はい?私を御存知なのですか?」
初対面の相手が自分の事を知っている様子なので、マーガレットも驚く。
「はい、私、シノブさんからあなたに言付かっている事があります」
「まあ、シノブ様から?」
「ええ、シノブさんから教えていただいた料理に関する事で・・・」
「まあ、それは・・・ともかく御案内いたしますのでどうぞ」
「はい、よろしくお願いいたします」
マーガレットは所長を労う。
「御案内ご苦労様でした。
後はよろしいですよ」
「はっ!後は宜しくお願いいたします!」
「ええ」
ポリーナはマーガレットに広い屋敷を案内される。
歩きながらマーガレットはポリーナに尋ねる。
「エレノア様やシノブ様はお元気ですか?」
「はい、御二方とも、とてもお元気です」
「そうですか」
ポリーナも名前だけとは言え、自分が知っている人物に案内されて、少々気分が落ち着いてきた。
途中でマーガレットはチラッとヴェルダたちを見て問いかける。
「そちらの方々は?」
「あ、これは私の共のジャベックたちです」
「そうですか」
ポリーナに説明されたマーガレットは、ヴェルダを見て少々不思議そうな顔をするが、そのまま無言で案内をする。
やがて大広間に到着する。
そこでマーガレットはポリーナに話しかける。
「ではジャベックたちはここに待たせて中に入っていただけますか?」
「はい、わかりました」
ポリーナはマーガレットに言われた通り、ヴェルダたちを置いて大広間の中に入る。
そこには貴族の様相をした青年と、その護衛らしき人間、そしてその近くには、やはり貴族のような様相をした金髪のポニーテールの女性と、そのおつきらしい赤毛の女性がいた。
マーガレットがその一団にキビキビと報告をする。
「レオンハルト様!
ポリーナ・パーシモン様を御案内させていただきました!」
「ポリーナ・パーシモン?聞いた事がないな?
メグ、それは誰なの?」
「はい、エレノア様の御弟子様だそうです」
とたんにその青年が色めき立つ。
「何っ!グリーンリーフ先生の?」
「はい、そのようでございます」
「え~と?ポリーナさん?
エレノア先生にいつ習っていたんですか?」
「はい、その、つい先日まで」
「へえ?じゃあ俺の妹弟子って訳か!」
それを聞いて横にいた金髪の女性も嬉しそうに話す。
「あら?では私の妹弟子でもあるわけですね?」
「ははっ、そうだね。
あっ!思い出した!
そういえばオーベルがシノブんところでポリーナっていう名前の娘さんと会ったって言っていたな!
その子が一緒にグリーンリーフ先生の弟子になったって」
「まあ、そんな重要な事を忘れてはダメじゃないの!」
「ごめんごめん、姉さん」
「あの・・・これは一体・・」
居心地が悪そうに尋ねるポリーナに、その青年が笑いながら答える。
「ああ、すみませんね、
紹介が遅れました。
私がここの当主のレオンハルト・メディシナーです。
こっちは姉のレオニー・メディシナーです。
我々は二人ともグリーンリーフ先生の弟子なんですよ」
「どうぞ、よろしく、ポリーナさん」
「はい、それは伺っております。
ポリーナ・パーシモンと申します。
よろしくお願いいたします。
するとそちらの方がレオニー・メディシナーさん?」
「ええ、そうですよ?何か?」
「あの・・・私、ちょうど御二人への御手紙を預かっております」
「え?私への?」
「はい」
「俺のも?」
「はい、そうです。
これです」
そう言ってポリーナがそばにいたマーガレットに2通の封書を渡す。
その封書をマーガレットから渡されて見た二人が嬉しそうに話し始める。
「おっ!見てくれよ!姉さん!
ちゃんと親愛なる弟子、レオンハルト・メディシナーへって書いてあるぜ!」
「ええ、私のにも親愛なる弟子、レオニー・メディシナーへって書いてあるわ」
二人は自分の名前を読み上げただけで大喜びだ。
そして中身を開けて二人が手紙を読み始める。
「ほうほう、なるほど・・・」
「つまりポリーナさんがメディシナーで魔法治療の修行を出来るようにしてあげれば良いのね?」
「そうだな、お安い御用だ」
「そうね、ポリーナさん、大丈夫よ。
メディシナーにいる間は私が面倒をみてあげますからね?
安心して頂戴」
「はい、ありがとうございます」
ポリーナが礼を言うと、レオンが横槍を入れる。
「おいおい!姉さん、面倒を見るのは俺だぜ?
こうやって先生から紹介状をもらっているんだからな!」
「あら、私だっていただいているのよ?
それに私、妹がいなかったから、こんな可愛い妹弟子が出来たら嬉しいわ」
「そりゃ俺だって同じさ」
「あら、あなたはクラウスとかいう弟弟子が出来たって喜んでいたでしょう?」
「確かにあいつも俺は気にいっているけど、あいつは基本的にはシノブの弟子だって!」
「それにオーベルだって、あなたの弟弟子なのよ?
あっちの面倒を見てあげなさいよ!」
「いや、あんなむさい弟弟子はいらないって!
むしろアレは姉さんの担当でしょうが!」
「あ・あの・・・」
自分のせいで二人が言い争いを始めてしまったので、ポリーナが驚く。
ただでさえこんな城のような屋敷に招かれて緊張していたポリーナは自分のせいでこの二人が言い争いをし始めてしまったと思って、緊張が頂点に達して固まってしまっていた!
そして二人が騒いでポリーナが動揺している所に一人の男が入ってくる。
「おいおい、どうしたんだい?何か騒がしいけど?」
「あっ!オーベル」
「オーベル、丁度良い所に来ましたね?」
「え?何です?」
「あ~ん、オーベルさ~ん!」
色々な事が重なって、我慢できなくなってしまったポリーナは、見知った顔を見つけて泣き出してしまった。
状況を把握できないオーベルにポリーナが泣きながら抱きつく。
「あれっ?ポリーナちゃんじゃないの?
こんな場所でどうしたんだい?」
「私のせいで・・・私のせいで・・・」
泣きじゃくるポリーナを見て、レオニーとレオンがオーベルを責める。
「あ~、オーベルがポリーナを泣かした~」
「オーベル?一体これはどういう事なのですか?」
「えっ?ちょっ!何ですか?これ?
どういう事?
ポリーナちゃん!説明してよ!」
泣き崩れていたポリーナが状況を説明すると、ようやくみんなが納得をする。
「ごめんごめん!別に俺と姉さんはケンカしていた訳じゃないさ」
「ええ、そうよ?でも驚かしてごめんなさいね?」
「いえ、私もこのような場所に来て少々緊張していたので・・・申し訳ありませんでした」
「ははっ!まあ、誤解も解けてよかったじゃないか?」
オーベルもポリーナが泣いていたのは、自分のせいではないとわかると、ホッとして話す。
「そうと決まればポリーナさんの歓迎会よ!」
「そうだな。ポリーナちゃんは荷物は宿に預けてあるのかな?」
「いえ、荷物は全て持っていますが、宿には今夜も泊まると言ってあるので」
「では今夜はここに泊まると良いわ。
宿の方にはこちらから連絡を出しておくから」
突然、このような屋敷に泊まる事を薦められてポリーナが驚く。
「え?よろしいのですか?」
「もちろんさ、とりあえず部屋に案内するからゆっくりしておいで」
「はい、ありがとうございます」
「メグ、ポリーナちゃんを部屋に案内してあげて」
「はい、承知しました」
会見が終わり、マーガレットがポリーナとヴェルダたちを部屋に案内する。
「こちらでしばらくお休みください。
食事の時間になりましたら、私が迎えに参りますので、それまで旅の疲れを癒してください」
「はい、ありがとうございます」
案内された部屋の中でヴェルダたちとだけになれたポリーナはようやく落ち着いてきた。
「ふう・・・それにしても驚いたわね?
レオンさんが侯爵様なのは知っていたけど、まさかこんなお城のような場所に住んでいたなんて・・・」
レオンハルトたちの人柄の良さに一安心をしながらも、貴族などと付き合った事のないポリーナはこれからのメディシナーの生活に不安を覚えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます