ポリーナ・パーシモン 23 人材派遣と不思議な縁
「あ・・・それは・・・」
「どうしたの?」
「その・・・手伝いたいのは山々なのですが・・・その、エレノア先生に・・・」
「グリーンリーフ先生に何か言われているのかい?」
オーベルの質問にポリーナが答える。
「はい、決してしばらくはメディシナーでも、他の場所でも店は出していけないと固く言われています」
「え?何で?」
「ええ、実はこの肉まんの店をロナバールでシノブさんが開いたのですが、先ほども説明した通り、とても大人気なのです」
「そりゃそうだろ」
「ええ、このおいしさですものね」
「しかし、それがあまりにも大繁盛しすぎて、人だけでなく、ジャベックにも手伝わせて10人以上で肉まんを作って売っても、手が足りないほどの状態になっているのです。
それで今シノブさんたちは修行を中断しているほどなのです」
「そんなに!」
「そりゃ凄いな!」
「ええ、ですから他の場所で作っても同じ事になるでしょうし、そうなると私はここに魔法治療の修行に来たのに、とてもそんな事をしてはいられなくなるだろうとエレノア先生がおっしゃられて、しばらくの間は決してメディシナーや他の場所では私に店を開いてはいけないと戒められたのです。
もしレオンハルトさんやレオニーさんたちが私に店を開くように薦めても、自分の名を出して止めるようにとまで言われました」
「なるほど・・・」
「確かにこのおいしさではそうなっても仕方がないわね」
「ええ、私もそう思います」
「すると、当分はメディシナーでこの店を開くのは無理かなあ・・・」
レオンの言葉に皆がしんみりとしていると、最長老たるパラケルスが話し始める。
「ならば、こちらから人を派遣してはどうかの?」
「え?人を?」
「うむ、ポリーナちゃんが言う通り、これほどうまい料理ならば、いくら作る料理人がいても足りないくらいじゃろう。
それならば、こちらからも信用の出来る、若い者たちを選抜して送り込んで、シノブさんの所で学ばせれば良かろう。
それほど、人手が足りないのならば、こちらから調理人を送り込めば、あちらでも助かるじゃろうしな。
おそらくあちらでも手が欲しいところじゃろうし、しばらくはあちらで色々と学ばせて、覚えたらこちらへ戻らせて、その魔法食堂の支店をやらせれば良かろう。
シノブさんとグリーンリーフ先生が望めば、何人かはそのまま、あちらに残しても良いようにしてな」
パラケルスの提案にレオニーとレオンもうなずく。
「それは良い案ですわね?」
「ああ、そうだな」
「ポリーナさん?
今あちらでは何人でお店を運営しているのかしら?」
「そうですね。
私が最後にこちらへ向かう時には、人間が7人、いえ、仕入れのアルフレッドさんを入れれば8人、ジャベックが護衛や店の手伝いを入れて、9体でした。
そしてエレノア先生から餞別に、ジャベックをいただいたのですが、それと同じようなジャベックを4体と、レベル65の汎用ジャベックを六体追加するとおっしゃっていましたから、今は人間6人と、ジャベック10体前後で店をやっていると思います。
それでも人手が足りないとシノブさんはおっしゃっていましたから」
「そんなに?」
「ええ、店の手伝いだけでなく、護衛も必要ですから。
それと魔法協会とアースフィア広域総合組合から支店を出して欲しいと言われて、困っているとも言っていました。
それで新しく雇った店の子の知り合いの女の子たちを、さらに6人ほど呼び寄せる事になっているはずです」
「護衛って言うのは?」
「それはあまりにも店が繁盛するので、店で働いている人や、店自体が襲われたからです。
店に通う往復の荷馬車や、店が閉まっている夜に空き巣や強盗に狙われて大変なんです。
そういう事もあるので、エレノア先生は私に店を開くなと戒められたのです。
それとマーガレットさん以外にはレオンハルトさんとレオニーさんが許可を出した者以外には調理法を教えないようにとも言われています」
「なるほどね、そりゃもっともだ」
ポリーナの説明にレオンがうなずく。
その言葉を受けてパラケルスが考えて話す。
「ふむ、それならばうちからも30人ほど送れば良いのではないかな?
そして必ず集団で行動するようにと言い含めてな。
シノブさんの屋敷にはそれ位は入るかな?」
「はい、確か8人部屋が4つはあると聞いているので、それ位の人数なら大丈夫なはずです」
1ヶ月修行のために泊り込んだ事もある、レオンハルトとレオニーもうなずいて答える。
「ああ、それ位なら大丈夫なはずだよ」
「そうですね?」
「では、そうしよう。
そうすれば、ポリーナちゃんはここで魔法治療の訓練に打ち込める。
シノブさんとグリーンリーフ先生は店の手伝いが増えて喜ぶ。
わしらは店の人員を育ててもらって助かる。
全て丸く収まるという訳じゃ。
まずはシノブさんとグリーンリーフ先生にその人員を送っても良いか、手紙で尋ねてみてはどうかな?」
「そうですわね」
「ああ、それがいい」
「ポリーナちゃんや。
そこで働く条件にはどんな物があるのかな?」
パラケルスに聞かれてポリーナが考えながら答える。
「ええと、まず計算が素早く出来て、物の販売が出来る事、それと料理が出来て、ある手度魔法を使えて信用のおける人とシノブさんが言ってました」
「魔法を?料理なのに?」
「ええ、この肉まんを作るのは普通の竈でも出来るのですが、シノブさんは発熱するタロスで料理する事を考案されました。
他にもいくつか魔法で作る料理を考えているようなので、お店で料理する人には出来れば魔法士を希望しているようです」
「へえ~?発熱するタロスで料理をね?
相変わらずあいつは変わった事を思いつく奴だな!」
「ええ、私も本当にそう思います。
店の名前もシノブ魔法食堂という名前なので」
「ふむ、では魔法士で料理と計算販売が出来て、信用のおける者を30人ほど探せば良い訳じゃな?」
「ええ、そのようですね」
こうして、ロナバールのシノブの屋敷に30人の人員が派遣される事になった。
「所でポリーナさんはここでどういった修行をしたいのかしら?」
「はい、亡くなった高祖父とシノブさんやエレノア先生に、こちらにある無料診療所でしばらく働いてみるようにと言われました」
「まあ、大御爺様に?」
「はい、高祖父は魔道士で私に魔法を教えてくれた人なので」
「そうなのですか・・・」
しんみりとするレオニーにオーベルが陽気に話す。
「ははっ、しかも驚いた事に、その高祖父って言うのは、かのゴブリンキラーなんだよ」
「ええっ?ゴブリンキラーって、あの有名な?」
「そうさ、ポリーナちゃんは、その玄孫で唯一の愛弟子って訳さ」
「それは凄いな!」
驚くレオンに慌ててポリーナが説明をする。
「いえ、私なんて亡くなった大御爺様と比べればまだまだです」
「亡くなった?ゴブリンキラーさんは亡くなったのかい?
その亡くなったポリーナちゃんの大御祖父さんが、ゴブリンキラーだったのかい?」
「ええ、先日ゴブリンキングを倒した後で、全てを終えて安心したかのように・・・」
「そうか・・・」
「あ、でもレオンハルトさんにはとてもお礼を言いたかったんです!
エステルとペロリンをありがとうございました!
おかげで大御爺様も大分楽になりましたし、村の人たちも大喜びです!」
「ははっ!そりゃ良かったけどね。
全くアレックス先輩に強引に昔の借りのカタに取られた時はやれやれと思ったけど、役にたったのなら良かったよ」
「ええ、大御爺様も大変楽になったと喜んでいました。
ベープの時と言い、自分は運が良いと・・・」
「ベープの時?」
「はい、何でも足の病気が悪くなってベープに行った時に、腕の良い魔法治療士に会って治していただいたとか・・・」
「へえ・・・」
「それである程度元気になって私の村に来れたそうで、その若い男女の魔法治療士に感謝しているそうです」
そのポリーナの説明にレオンハルトが驚いたように尋ねる。
「え?若い男女の魔法治療士?
ベープで?」
「はい、そうですが・・・?」
「その人たちの名前って聞いている?」
「いえ、名前までは・・・・あ、でもヴェルダに聞けば知っていると思います」
「え?ヴェルダ?」
「はい、大御祖父様にずっと付き添っていたジャベックで、今は私に付き従ってくれています」
その話を聞いてレオンハルトとマーガレットが顔を見合わせる。
「まさか・・・」
「いえ、間違いないと思います。
実は私は先ほどポリーナさんと一緒にいた緑色の髪のジャベックを見て、少々驚いたのです」
マーガレットの話を聞いたレオンハルトがポリーナに尋ねる。
「ポリーナちゃんの大御祖父さんって、名前は何て言うの?」
「名前ですか?アルマン・パーシモンですが?」
その答えに突然レオンが反応する。
「アルマンだって?」
その言葉に一緒にいたマーガレットも反応する。
「ええ、もう間違いはありませんね」
「そうだな」
うなずく二人にポリーナが不思議そうに尋ねる。
「御二人とも高祖父を御存知なのでしょうか?」
「ああ、多分ね。
ベープの町で温泉治療に来ていた老人と知り合いになって、話を聞いて思い切った魔法治療をしてみたんだが・・・」
「まあ、そうだったんですか?」
「ああ、どうやらそうらしいよ?
ポリーナちゃんが連れているジャベックはヴェルダって言うんだろう?」
「ええ、その通りです。
ヴェルダは高祖父が各地を旅している時に連れていたジャベックです。
高祖父が亡くなった後に私に譲られました」
その説明を聞いたマーガレットが答える。
「私も先ほど見て恐ろしくヴェルダに似ていると思って驚いたのですが・・・
やはりあのジャベックはヴェルダだったのですね」
「ああ、そうだな、あのアルマン爺さんがゴブリンキラーでポリーナちゃんの高祖父だった訳だ」
それを聞いたポリーナが嬉しそうに答える。
「それはありがとうございました!
高祖父は大変喜んでおりました。
おかげで村へ来て、私に会う事が出来て感謝していると」
そのポリーナの言葉にレオンとマーガレットも感慨深く答える。
「そうか・・・それにしてもあの人がゴブリンキラーだったとはなあ・・・」
「はい、私も驚きです」
「それにしても不思議な縁ね?」
「ええ、本当に」
その不思議な縁に、そこにいた面々は驚くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます