男爵仮面の日常 03

 宴会は盛況だった。

私のために友がこれほど祝いに来てくれるとはありがたい。

シノブ少年も友人たちと一緒に来てくれた。


「やあ、少年よ!それにエルフ殿たちもよく来てくれた!」

「男爵仮面、レベル100達成おめでとう!

これからも頑張ってね」

「なに、少年たちに比べれば、まだまだだ。

このような若輩で祝いをするなど、少々おこがましいと思ったのだが、この前も言ったように、何しろ父の遺言でな。

レベルが100になった場合、必ずこの部屋で祝いをするようにと言われていたのだ。

私も少々不思議に思ったのだが、遺言を無視するのもどうかと思って、こうして祝いの会を開かせてもらった訳だ。

まあ、少年たちも楽しんでいってくれ。

紹介したい人間も何人かいるのでな!」

「うん、わかったよ。

それにしてもここにいる人たちは皆レベルが高いね?

驚いたよ」

「ああ、今日呼んだ友人たちは、そのほとんどが「正義の執行委員会」に所属している人間が多いからな。

やはり悪を倒すにはそれなりの強さが必要だからな。

正義なき力はだめだが、力なき正義もまただめなのだ。

そのために皆、己を研鑚している集団なのだ。

もちろん私も所属している」

「そ、そうなんだ・・・あ、これは御祝いに持ってきたんだ。

良ければ何かの時に使ってね」

「ほう?それはわざわざすまないな?

どれ・・・」


私がそ包みを開けると、そこにはナックルダスターが2つ入っている。

どうやらこれはアレナックで作られているようだ。

色も私に合わせて赤くしてくれているようだ。


「ほほう・・・これは・・・」


私は実際にそれを指にはめて見てうなずく。


「うむ、これは中々良さそうだ。

早速盗賊退治に使わせていただこう。

かたじけない」

「それでね、その武器は・・・・」


少年がその武器の説明をしようとすると、娘のアネットが勢いよく話しかけてくる。


「こんにちは!あなたがシノブさんですか?」

「え?はい」


驚いた少年が私に説明を求めて来る。


「この子は?」

「うむ、紹介しよう。

これは私の娘のアネットだ。

一度少年にも会わせておこうと思ってな」


そしてその娘が再び勢いよく少年に話しかける。


「初めまして!

私はアネット・ダンドリーと申します!

いつも父がお世話になっております!」

「あ、いえ、お世話になっているのは、むしろこちらでして」

「いえ、先日も昇降機設置という正義の偉業に参加できて嬉しかったと言っておりました。

そのような事に父を誘っていただき、ありがとうございます!」

「いえ、どういたしまして」


アネットはずいぶんと積極的に少年に話しかける。

アネットの攻勢に驚いている少年に、私は笑って話しかける。


「はっはっは、これも我が娘ながら中々正義の心がこもっておってな。

私が少年の事を何回か話していたら、自分も一回話してみたいと言われて困っておったのだよ」


私の言葉にアネットもうなずいて答える。


「ええ、おかげですっきりしました!

後で正義に関してまたお話しましょう!

これからも父と、それと私もよろしくお願いします!」

「それはどうも・・・」


アネットが立ち去ると私は続けて従兄弟のマックスを紹介する事にした。


「これは私の従兄弟で審判の騎士ジャッジメントナイトのマックスという。

こやつも少年に紹介しておきたいと思ってな」

「やあ、初めまして!

審判の騎士ジャッジメントナイトのマックス・ダンドリーです。

今後ともよろしく!」

「え~と?「審判の騎士ジャッジメントナイト」というのは?」


シノブ少年は審判の騎士ジャッジメントナイトを知らない様子なので、マックスが説明をする。


審判の騎士ジャッジメントナイトとは魔法協会から選ばれた、法の裁きをする事を許可された人間の事です」

「戦闘法務官のような物ですか?」

「ええ、審判の騎士ジャッジメントナイトは戦闘法務官の中から選ばれます。

ま、言うなれば魔法協会公認の正義の味方といった所です。

戦闘法務官との違いはレベルは必ず100以上で、単独で調査、逮捕の権限がある事ですね」

「なるほど」


マックスの説明でシノブ少年も納得したようだ。


「ルドルフ兄さんと共に今後とも宜しくお願いします」

「え?ルドルフ兄さん?」

「ああ、ルドルフというのは私の事だ。

私の本名はルドルフ・ダンドリーだからな。

こやつは私の従兄弟だが、昔から私を兄扱いしておるのでな」

「ええ、そうなんですよ」

「なるほど、こちらこそよろしくお願いいたします」


さらに私は少年に親友のナスカを紹介する。


「そして、この男はナスカ・ゴロヴと言って、私の親友だ。

中々忙しい奴で、あちこちで正義を執行している。

しかし私と違って綿密な調査をする奴でな。

今も大物を追って、あちこちを調査している所だそうだ。

私も滅多に会えないので、ここで少年にも紹介しておこうと思ってな」


そのナスカがシノブ少年に握手を求めて話しかける。


「やあ、こんにちは、シノブ君!

男爵仮面から噂は聞いているよ?

中々正義のこもった人物だとね!」

「はは・・・どうですかね?」

「彼が説明した通り、今ちょっとした奴を追っているんだけど、こいつが中々尻尾を出さなくてね。

そいつの手下の一人の見当はついたんだが、こいつがある街の名士で中々手が出せなくてね。

困っている所なんだ。

闇に潜む悪と言うのは実に厄介でね」

「へえ、そんな悪い奴がいるんですか?」

「ああ、デニケンという奴なんだが、こいつが中々曲者でね。

用心深くて手を焼いているところさ」


しかしここでそのデニケンという言葉に少年は驚いた様子だ。


「えっ?デニケン?

それはまさかノーザンシティの理事のデニケンですか?」

「おや?君たちもデニケンを知っているのかい?」

「はい」

「それなら何か知っている事があるなら教えてくれないか?」


ナスカの言葉に少年が私たちに話し始める。


「男爵仮面も聞いて。

ちょっとナスカさんに話したいことが事があるんだけど、他の人たちには聞かせられない事なんだ。

いいかな?」

「わかった、少年よ、では別室を用意しよう」

「ありがとう」


私は少年たちに別室を用意すると、そこでシノブ少年が話し始める。


「実はもちろん内密にしていただきたいのですが、このフレイジオは今は名を隠していますが、本当の名はシャルル・クロンハイムと言って、元ノーザンシティの理事だったシモン・クロンハイムさんの一人息子なのです」

「何だって?あのシモンさんの?」

「ええ、しかし父親であるシモンさんは、デニケンに殺されてしまったようなのです。

ですがその証拠はありません。

それどころか、それが本当かどうかもわからないのです。

我々も何とかその証拠や過程を調べようとしているのですが、中々それがわかりません」

「なるほど・・・」


考え込んでいるナスカにシャルル君も説明をする。


「ですからナスカさん、もし何か父の事がわかったら我々にも教えてください。

私の方でもデニケンに関して何か話があればお知らせします。

他の事でも私に協力できる事があれば、お手伝いさせていただきます」


その説明にナスカもうなずいて答える。


「わかった、心に留めておくよ。シノブ君、シャルル君」

「ありがとうございます。

よろしくお願いいたします」


話が終わると私たちは再び宴会場に戻った。


 和やかに祝いが進む中、私はふと父の人形の異常に気が付いた。

部屋に飾ってある父の人形の様子がどうもおかしい。


「あれ?あの人形・・・?」


そばにいたシノブ少年もおかしな様子に気づいたようだ。


「む、これは一体どういう事だ?」


他の人たちも気がついたようで、部屋の中で皆がざわざわと驚き始める。

一同が不思議がっていると、突然その人形から声が聞こえ始めた。


「息子よ。よく聞け。

わしはお前がレベル100になった時に助けになると思って、ある贈り物を用意した。

そのためにこの部屋で祝いをするように遺言をしたのだ。

今こそそれを受け取るがよい。

その名を「ジャスティス」と言う」


父親の人形がそう言い終わると、その人形に一筋ピシッ!とひびが入り、崩れ始める。

ピリピリと全身にひびが広がっていき、ガラガラと音を出して人形が崩れ落ちる。

その様子を見ていた招待客たちが驚く。


「おお・・!」

「何だ?」

「これは?」


部屋に集まった一同が驚く中、崩れた人形の中から何かが出てくる。

人形の破片を振り払いながら、ついにその全身を現す。

その銀色の人型物体に、その場にいる者たちは息を飲む。


「何と!これは一体?」


その出てきた物体が私に近寄ると、スッと手紙らしい物を渡す。


「ふむ?」


手紙を読むと、何とこのジャベックは父から私への贈り物のようだった。

手紙を読み終えた私は招待客たちに説明を始める。


「諸君!

これは名前を「ジャスティス」と言って、父が私のために作っておいたレベル200の強化ミスリル製の戦闘ジャベックだそうだ」


その私の説明に周囲が「おおー」と感嘆の声を出す。


「何でも私のレベルが100になった時に目覚めるようになっていたらしく、それで今この場で目覚めたらしい。

これからも正義のためにこの強化ミスリルジャベック「ジャスティス」と共に歩むようにとの事だ」


私の話を聞いて興奮したシノブ少年が私に話しかけて来る。


「男爵仮面、これ凄い格好いいよ!

お父さんに良い物をもらったね?」

「うむ、そうか?」

「ああ、そうだよ!大事にしなよ?」

「そうだな」


私がうなずくと、そばにいたグレイモンが言葉をかける。


「うむ、私も同じような物を父に遺してもらったのだが、その・・失くしてしまってな」

「そうなのか?伯爵仮面?」


私がそう聞くと、なぜかグレイモンが慌ててシノブ少年に話す。


「あ、いや、シノブやエレノアのせいではない!

あれは言わば自業自得だからな!

決して恨んではいないので安心して欲しい。

それにその代わりと言っては何だが、アレをもらえたのだからな」

「ああ、そうだな」

「そうなのか?」


ははあ・・・なるほど、そういえば伯爵は以前この少年にジャベックをけしかけてやられてしまったような事を話していた。

どうやらそれが父からもらったものだったようだ。


「うん、ところで男爵仮面、このジャベックはどんな性能なのかな?」

「うむ、この手紙によると、様々な性能を持っているようだが、何故か詳しい事は書いてないのだ」

「へえ?、僕が知っているロボット・・・ジャベックの一種だと、これが腕を飛ばして敵を倒したり、口から火を吹いたり出来るだろうけどな」

「ほほう、腕を飛ばしたりだと・・・?」


私ががそう言うと、ジャスティスが突然右手でジャキン!とポーズを取ると、いきなり右腕のひじから先がバシュッ!と飛び出した!


ガキイィィィーン!


右腕は激しい勢いで壁に当たり、ガラガラ・・・と壁が崩れる。


「おお・・」

「これは?」


ジャスティスの突然の行動に、周囲で見ていた人が驚く。

肘から飛んだ右腕と、腕の上の部分は、細い紐か、鎖のような物で繋がっていて、それに引っ張られて、右腕はあっという間にシュルシュルッと元に戻る。

その様子を見て私は驚く。


「むお?腕が!」

「本当に飛んだよ・・・」


驚いた私が思わず少年から聞いた言葉を呟く。


「口から炎とも言っていたな・・・」


私がそう言うと、今度はシャカッ!とジャスティスの口が開き、そこから火炎弾をドドドドッ!と飛ばす!

激しい炎が飛び、壁に当たる!


「うおっ!」


そこの部分の壁は黒こげになっている!

私は驚いて少年に尋ねる。


「これは・・・少年はなぜこのジャベックの機能に詳しいのだ?」


しかし少年も驚いているようだ。


「いや、これは偶然で、別に知っていた訳じゃ・・・」

「ふむ、では少年はこのジャベックには他にどんな機能が付いていると思う?」

「え、そうだね?

例えば頭が割れて、そこからヘリ・・・いや、何か空を飛んで敵の様子を見に行ってくれる物が出てくるとか・・」

「ふむ、頭が割れて・・だと?」


私がそう言うと、ジャスティスの頭が二つに割れて、中からうずくまっていた、身長20セミメルほどの人型妖精の形をした物が、立ち上がって出てきた。

それは自前の浮遊魔法で、ふわふわとそこに浮かんでいるようだ。


「こ、これは・・・」


その妖精の様な物が私たちに話しかける。


「初めまして!

私はシーカーと申します」

「シーカー?」

「はい、このジャスティスの頭脳兼説明役ジャベックでございます」

「ほほう?」

「このジャスティスは話せないために、私がこのジャベックの性能や動きを代わりに説明させていただきます」


なるほど、どうやらこれが説明書の代わりのようだ。

私も納得してシーカーに話しかける。


「なるほど、しかしこの場では少々危険なようだ。

今日の所は止めておいて欲しい。

後日試験をしたいので、その時に頼みたい」

「かしこまりました。

私を御呼びする場合は「シーカーゴー!」と御呼びください」

「うむ、わかった」


そしてシーカーはジャスティスの腰に下げていたインカムのような物を私に渡す。


「これはジャスティスに命令する装置です。

これがなくても男爵仮面様の御命令は伝わりますが、これを使えば、より遠くまで確実に御命令を伝える事が可能です」

「うむ、わかった」

「では、また後日に・・・」


そういうとシーカーは再びジャスティスの頭の中に入り、そこが閉じる。

シーカーが格納されると、私はシノブ少年に話しかける。


「ふむ、そういう訳だ。

少年よ、頼みがあるのだが?」

「なに?」

「このジャスティスの試験をする時に少年にもいて欲しい」

「え?何で?」

「どうも少年はこのジャベックの事に詳しいようだ。

実際に試験の時に付き添って色々と助言をして欲しい」

「うん、それは構わないよ」


グレイモンも興味を持ったらしく、私に同行を申し込む。


「私もつき合わせてもらって良いだろうか?」

「ああ、もちろんだとも」


シノブ少年の友人のシャルル君も興味を持ったようで、見学を申し込む。


「僕も見せていただいても宜しいですか?」

「ああ、構わないとも」


私たちは後日、このジャスティスの性能を調べてみる事にした。


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