ある男の話 02
やがて少年の乗った馬車は、ついに憧れの町、大都市ロナバールに到着する。
少年はこれからの事を考えると、ワクワクしてくる。
親について来た事はあるが、自分一人でここに来たのは初めてだ。
少年は御者に軽く礼を言って馬車を降りる。
「おっさん、ありがとよ!」
急いで去ろうとする少年に御者が話しかける。
「おい!お前!護衛料はいらないのか?」
「おっとっと!忘れるとこだったぜ!」
急ぐあまりに少年は護衛の報酬の事を忘れていたのだった。
「ほらよ!」
そう言って御者は銀貨2枚を渡す。
「あれ?銀貨1枚じゃなかったのか?」
「まあ、思ったよりも役に立ったからな。
餞別も含めてくれてやるよ」
「あんがとよ!おっさん!」
そう言うが早いか、少年は走り出した。
最初の仕事でいきなり倍の報酬を貰うとは中々幸先が良い。
(きっと俺は幸運に恵まれているんだな!)
そう思うと気分は良く、足も自然と速くなる。
急げ!急げ!
俺は冒険者として名を上げるんだ!
一日でも早く!
一秒でも早く!
当然目指すは冒険者組合だ!
そう考えながら少年は走った。
しかし100メルほど走って、少年はある事に気づいて止まった。
「あり?冒険者組合ってどこだ?」
考えてみれば、少年はそれがどこにあるかも知らなかったのだ。
とにかくロナバールへ行けば、何とかなると思っていたからだ。
慌てた少年はその辺を歩いている男に聞く。
「なあ、あんた、冒険者組合って、どこにあるんだ?」
「総合組合か?
それならあっちだな、大通りに出たら左に行ってすぐだ」
「ソーゴー組合?
そんなのじゃなくて冒険者組合だよ!」
「冒険者組合の事を普通は総合組合って言うんだよ。
お前そこで登録する気か?」
「ああ、そうさ!
俺はこれから魔物狩人になって大儲けするんだぜ!」
「だったらちゃんと正式な名称くらいは覚えておけ。
冒険者組合じゃなくて、アースフィア広域総合組合だ」
「アースフィアコーイキソーゴー組合?」
なんだか長ったらしくて呼びにくい名前だと少年は思った。
「ああ、そうだ、その程度も知らないで登録しようだなんて恥をかくぞ?」
「そうか!わかったよ!あんがとな!おっさん!」
「ああ、頑張れよ」
少年は再び走り出す。
(アースフィアコーイキソーゴー組合、アースフィアコーイキソーゴー組合と)
心の中で今聞いた名称を呟きながら走る。
やがて言われた通りの場所にたどり着く。
だが、少年はその巨大な建物を見て驚いた。
「ここが冒険者組合か・・・」
建物には大きく「アースフィア広域総合組合総本部」と書いてある。
間違いない。
しかしそのあまりの見上げるばかりの大きさに少年は縮こまった。
こんな大きな建物など見た事がない!
少年の故郷の町、ハーブニアは人口3000人の町で、町としては普通の大きさだったが、総合組合の支部はなかった。
迷宮もないし、平和な町なので、特に組合が支部を作っていなかったのだ。
だから少年の親が経営する宿屋へ泊まりに来る冒険者たちは、みんな通りすがりの者たちだった。
かろうじて魔法協会の支部、いや正確に言えば大きな分所はあったが、それも高さ3階程度の建物だった。
しかしそれでもハーブニアではかなり大きな建物だったのだ。
少年は驚いたが中へと入っていった。
その中は恐ろしく天井が高く、奥行きは広く、とても建物の中とは思えなかった。
思わず中を見回して呆然としていると、後ろから誰かにぶつかられる。
「おい!こんな所でボーッと突っ立っているんじゃない!
出入りの邪魔だろう!」
「あ、ごめん!」
そう言ってヨロヨロと数歩歩くと、そこには「総合受付」と書いてある場所があった。
そこにいた女性がにこやかに笑って話しかけてくる。
「いらっしゃいませ!
アースフィア広域総合組合にようこそ!
今日はどんな用事でいらっしゃいましたか?」
「あ、その冒険者の登録に・・・」
「組合員登録ですね?
それではあちらの窓口でお受けしています」
そういって女性が案内する方向を見ると、なるほどそこには「新規登録受付」と書いてある。
少年はおぼつかない足取りでそこへ向かった。
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