ポリーナ・パーシモン 11 防衛砦での攻防
翌日は中隊長以上を集めて会議となった。
中隊長には魔法協会から派遣された魔法学士2名、組合から派遣された一級組合員2名の4名が任命された。
会議と言っても、ほぼ作戦はアルマンが考えた物がそのまま採用されたので、基本的にはその確認と、各中隊長たちに作戦内容を説明し、各自の役目を周知させる事だった。
話し合いの結果、作戦に多少の変更が行われ、計画に組み込まれていった。
ポリーナも隊長補佐として会議に参加し、昨夜考えたある作戦を話し、それは驚きを持って迎えられたが、採用となり作戦に加えられた。
そしてさらに翌日になり、いよいよゴブリン討伐隊が出発する。
討伐隊はまだ暗い内からパーシモン村を出発し、進軍を始めた。
ゴブリンの巣窟までの道はすでにアルマンとマギーラのタロスで切り開いてあったので、行軍は楽だった。
途中でそのタロスたちが切り倒してあった材木を、現地の建築材料とするために回収していく。
もちろんその途中で多少の魔物は出てきたが、この大部隊の敵ではなく、一人の損耗もなく、討伐隊は砦として予定していた現地にたどり着いた。
現地に到着すると、早速討伐本部の砦作りが始まる。
ようやく夜が明けて、日が上り始めて明るくなってきた平原で、アルマンたち討伐隊中隊長以上の上層部が相談を始める。
アルマンが目の前にある山と、そこにある洞窟の入口を指差してエルネストとアレックスに説明をする。
「あそこがゴブリンの巣窟になっている大洞窟です。
どうやら昔ドワーフが金鉱として掘っていた場所を廃棄された後にゴブリンが利用したようですな。
ですから中は中々広いようです。
ここからならよく相手の動きがよくわかる。
わしの偵察によると、あの正面入口以外に洞窟の入口は少なくとも2箇所はあります。
ここに討伐本部を設置したら、そちらにも処置をしましょう。
その間に他に出入り口がないかも、徹底的に探しましょう」
まずは縦200メル、横300メルほどの広範囲な平地に頑丈な防護柵が作られて、その内側に丸太による小屋と、寝るための幕屋がいくつか建てられる。
急いで近くの川から水が引かれ、それが急ごしらえの砦の中の飲料水となる。
念のために砦の中には井戸も掘られる事となった。
砦と防護柵の間には深さ3メル、幅5メルはある、深く幅の広い堀が掘られて、引いてきた川の水を流し、それによりゴブリンの侵攻を食い止める事となった。
水道や堀の穴を掘るなど労力に数が必要な部分はアルマン、ヴェルダ、マギーラ、アレックスの四人が土木作業用工作タロスを大量に作りだして急いで完成させた。
四人はそれぞれ1000以上の工作タロスを作り出し、魔力回復剤も惜しみなく使ったので、すべてで一万体以上ものタロスが働く事になって、作業は大いにはかどった。
掘り出された大量の土は、そのまま砦の土塁として利用し、高さ5メルほどの土塁で砦の周囲を囲む。
本来だったら数日はかかる作業だったが、大量のタロスと、それを作った人間が熟達した魔法使いだったために半日で砦は完成した。
そしてそれは必要な事だった。
何故ならば夜になれば、大規模なゴブリン攻勢が予想されているからだ。
夕闇が迫る頃には完全に砦の防御は完成していて、いつゴブリンたちが攻めて来ても大丈夫なようになっていた。
長径100メル、短径50メルほどの楕円形の土塁に囲まれた砦の中では全員が大わらわだった。
その土塁の内側は一段低い構造になっており、そこに立てば内側から外の敵を見張り、弓矢や魔法などで攻撃する事も出来る。
ゴブリンの夜襲に備えて矢倉がいくつも作られて、組合員が警戒と見張りに当たる。
その他に魔道士数人が交代で空を飛んで、上空警戒もしている。
他にも竈を作り、食事の準備をする者、持ってきた食材で人数分の料理をする者、運び込まれた木材を加工し、松明や弓矢を作る者など、各自が防戦のために動いていた。
土木作業が終わった1万にも及ぶタロスたちはそのまま防衛に回されて、砦の周囲に配置された。
そこで再び防護柵を作り始め、それを外郭防衛線として「第二防護柵」と呼称する事となった。
その作業が終わると、その工作タロスたちは、その第二防護柵の外側で防衛に当たる事となった。
その第二防護柵の内側には戦闘用タロスが1千体ほど配置され、さらにその内側には多少の距離を置いて魔法協会所属の防衛用ジャベックの全てが配置されてゴブリンの襲撃に備えた。
そしてさらにその内側は第一防護柵、水堀、土塁と順に囲まれていて、砦は半日で作ったとは思えないほど強固な物となった。
討伐隊の中には、いくら数が多いとはいえ、たかがゴブリンを相手にこれほど強固な砦が必要なのか?と驚いた者もいたが、その強固な砦は完成した。
この作業の間、ゴブリンたちは全く動きを見せず、洞窟の中から一切出てこないのが少々無気味だった。
全ての防戦の準備が終わると、討伐隊の面々は食事をして、一部に見張りを残すと、夜に備えて仮眠を取った。
果たして夜になると、予想通りにゴブリンたちが砦に攻めてきた。
ゴブリンたちにとって、この砦はかなり鬱陶しい物だったらしく、それを破壊するべく、夥しい数のゴブリンが攻めてきたのだった。
ゴブリンが攻めて来ると、まずは最外郭防衛線の第二防護柵に配置した1万を超える土木工作用タロスたちが戦闘に入った。
遠くに工作タロスとゴブリンのぶつかり合いの音が聞こえるようになると、討伐隊全員が飛び起きた。
鐘が鳴り響き、見張りが叫ぶ!
「敵襲!敵襲!ゴブリンどもが攻めてきたぞ!」
ゴブリン来たり!の報で、全員が持ち場に着き、戦闘体制を整える。
アルマンが指示をするまでもなく、エルネストとアレックスが予定通りの命令を下す。
「弓兵隊は土塁の内側に並んで弓を持って待機!
槍隊は万一土塁を上って近づいたゴブリンを突き倒せ!」
エルネストが組合員に指示を出すと、アレックスも同様に魔法隊に指示を出す。
「魔法士はゴブリンの頭上に最大発光で発光弾を放て!
一人最低でも10発は放つように!
その後、土塁に登り、その内側で任意に魔法で敵を攻撃する用意をせよ!
但し、まだ攻撃はせずに、攻撃開始の合図を待て!
同じく魔道士と中位以上の魔法攻撃が可能な者は矢倉に登り待機せよ!」
直ちに無数の発光弾が放たれ周囲が昼間のように明るくなる。
草原にゴブリンたちの姿が映し出されると、その数に一同が驚く。
明らかにその数は軽く5000は超えていた。
アルマンは最初の夜に1000匹を超える大規模攻撃があるだろうと予測して待ち構えていたが、まさにその通りになった。
いや、それ以上だった。
それを見た討伐隊の隊員たちは、日中にこれほど堅固な砦を築いていなければ、一体どうなっていただろうと、驚いていた。
討伐隊が息を飲んでゴブリンの襲撃を見ていると、そこではすでに工作タロスとゴブリンたちの戦いが始まっていた。
アルマンとポリーナも指揮用の矢倉の上に登り、その様子を見守っていた。
工作用タロスは戦闘用ではない物の、レベルはゴブリンよりもはるかに高く、力は強く、大型シャベルや
しかもその攻撃が当たれば、ゴブリンは一撃で即死するほどの攻撃だ。
しかしアルマンたちが見ていると、それでも工作タロスは押され始めた。
もっともこれは討伐側、特にアルマンが十分に予測していた事だった。
これはゴブリン討伐初心者がよく陥る状況と同じだった。
ゴブリン退治の初心者は言う。
「ゴブリンなど大した事はない。
今までに何匹も倒してきたし、俺のレベルはゴブリンよりもはるかに高い!
いくらでも退治できる!」
そう言って自信満々に討伐に出かけるが、散々な目に遭って帰って来たり、中にはそのまま全滅したりする場合も少なくない。
これは完全に人間側に落ち度がある事だ。
ゴブリンは確かに単体では大した魔物ではない。
これは最下級のゴブリンに限った事ではなく、ゴブリンチーフやホブゴブリンなどにも当てはまる事で、人間のレベルが35もあれば楽に勝てる相手だ。
しかし集団となると、まるで話しが違ってくる。
ゴブリンは連携での戦闘に慣れており、人間が自分たちを舐めている事を知っている。
そこで素早く近寄り、人間の足に何度も掠り傷をつけてその疲労を蓄積させたり、その後で一匹が後ろから人間の足を捕まえ倒したりした瞬間に残りの者が一斉に襲い掛かり、確実に人間の息の根を止めるのだ。
また一匹が囮になり、人間の攻撃が届かないギリギリの範囲で挑発したり、やられそうになる振りをするのもよくある手だ。
これで油断した初心者は残りのゴブリンの後ろからの攻撃にやられる確率が高い。
今まさに工作タロスたちはこのような状況に陥っていた。
最初こそゴブリンたちは工作タロスたちにやられていたが、すぐに連携動作に入り、工作タロスたちを翻弄し始める。
単純な工作タロスたちは、そのゴブリンたちの連係動作に対応できず、次々にやられ始める。
目の前にいるゴブリンを倒そうとして、鶴嘴を振りかざして攻撃をするが、その隙に後ろから攻撃をされて倒れ、ゴブリンの餌食となる。
レベルは工作タロスたちの方がはるかに上で、数も1万を越えているにも関わらず、全体的に工作タロスたちはゴブリンに押され始めていた。
小隊長級の中には工作タロスと言えどもレベルが高く、1万もの数がいれば夜襲をして来るゴブリンなど撃退可能なのでは?と甘く考える者もいたが、アルマンたち上層部は工作タロスではいくら数がいてもゴブリンの群は撃退不可能だろうと予測していた。
彼らの役目は数減らしと時間稼ぎだと割り切っていた。
果たしてゴブリンたちはしばらくすると工作タロスを押し始め、第二防護柵を越えて進入し始めたのだった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます