ポリーナ・パーシモン 02 パーシモン魔法診療所

森の入口へ着くと、ポリーナはヴェルダとラッシュに言った。


「さあ、ここからは森よ。

魔物が出るから二人とも気をつけてね?」

「承知いたしました。

それではここからはポリーナ様の護衛を出しましょう」

「護衛?」


この二人が護衛ではないのか?とポリーナが不思議そうにしていると、ヴェルダが呪文を唱えて濃い緑色の甲冑型タロスを六体ほど出す。


「護衛はこの六体に任せますので、ポリーナ様は摘む薬草の種類などを我らに教えてください」

「まあ・・・」


ポリーナは父がタロスを出すのを見た事があったが、ジャベックであるこのヴェルダがタロスを出すのを見て少々驚いた。


「では参りましょう」

「ええ」


森の中を進むと、そこここに薬草が生えていた。

魔物がいて危険なので、村の誰も来ないために薬草もたくさん生えている。


「凄いわ!取り放題ね!

これがこの辺では一番良い薬草よ。

覚えておいてね?」

「はい、承知いたしました」


二人はポリーナの言う事を聞いて、様々な薬草や毒消し草を覚えていく。

三人とも採集した薬草を背負い籠の中に放り込んでいく。

そしてしばらく森の中を進むと、案の定魔物が出てくる。

大サソリが3匹だ。

1匹ならポリーナでも相手できただろうが、3匹ともなると難しい。


「ポリーナ様、お下がりください」

「ええ」


ポリーナが見ている前で、ヴェルダが腰に下げていた剣を振り回すと、あっという間に大サソリを退治する。

レベル170の戦魔士では、大サソリなど何匹居ても片手間にもならない。


「ありがとう。さすがはレベル170ね」

「恐れ入ります」


再び三人で薬草を積み始めると、今度はゴブリンが出てくる。

しかも7匹だ。


「ここはゴブリンの森とも言って、かなりゴブリンが出るらしいの。

それも出る時は必ず5匹以上で出てくると聞いているわ。

気をつけてね?」

「はい、大丈夫です」


再びヴェルダが剣を振るうと、ゴブリンたちはひとたまりもなく一掃される。

レベル170のヴェルダが相手では、レベル8程度のゴブリンはひとたまりもない。

護衛のタロスやラッシュは出る間もない。

しかし1匹は逃げたようだ。


「さすがね」

「恐れ入ります」


こんな具合で時々魔物が出てくるが、ヴェルダとラッシュが全力を出すまでもなく、二人のどちらかが戦えばこの森の魔物には十分なようだ。

ポリーナは感心して言った。


「二人とも凄いわね?」

「恐れ入ります」

「恐縮です」


ポリーナは安心して薬草摘みを続けた。

確かにこの二人が護衛についていてくれるなら安心だ。

順調に薬草摘みが出来たために、三人とも背中の背負い籠の中もずいぶんとたまってきた。

そうするうちに三人は広い草原のような場所へ出た。

形はほぼ円形で、直径200メルほどの草原だ。


「あら?ここはずいぶんと薬草があるようね?

今日はここで摘み終わったら帰りましょう」

「承知しました」


三人が黙々と薬草を摘んでいると、ヴェルダがピクリと反応をする。


「ポリーナ様、お下がりください。

 ラッシュ、ポリーナ様を頼む」

「承知した」

「え?どうしたの?」


ポリーナが驚いて周囲を見回すと、いつの間にか、そこには大量のゴブリンたちがいた。

グルリと見渡すと、すでに完全に囲まれていて、その数は50以上もいる。


「え?これは?」


さすがに見た事もないゴブリンの群れにポリーナが驚くが、ヴェルダは全く動じない。


「大丈夫です。

我らにお任せください」


そう言ってヴェルダは甲冑型タロスを50ほども出す。

ラッシュも同じような鉄色の甲冑型タロスを6体ほど出して、ヴェルダの護衛タロスと共にポリーナの周囲を固める。

ゴブリンはその数に躊躇した様子だが、すぐに襲い掛かってくる。


「グルァ~ッ!」

「ゲゲッ!」


無気味な声を上げかかってくるが、ことごとくヴェルダとラッシュの戦闘タロスに迎撃されて倒される。

中にはわずかだが少々体格の大きいゴブリンもいて、襲い掛かってくる。

ゴブリンチーフだ。

ポリーナ一人だったら単体でも手強い魔物だったが、ヴェルダやラッシュの敵ではない。

あっさりと倒されてゴブリンたちは見る見るうちに数が少なくなっていく。

やがて最初は指示を出していただけだったゴブリンが前に出てきて、驚いた事に火炎魔法を出して攻撃してきた。


「あれは・・・メイジゴブリン?」


ポリーナも魔法を操るゴブリンがいると聞いた事はあったが、実際に見るのは始めてだった。

しかしそのメイジゴブリンすらもヴェルダたちの敵ではなかった。

親玉のメイジゴブリンもやられると、残ったゴブリンたちは逃げ出したのだった。


「ふう、凄い数のゴブリンだったわね」


初めて見たゴブリンの大集団だったが、無事に薬草採取も終えて、三人は家に帰る。


家に帰ったポリーナは薬草や毒消し草から治療薬や毒消しを作る方法をジャベックたちに教えた。

取ってきた薬草を干し、干してあった薬草を薬研ですりつぶし、道具を使って丸薬にして、さらに場合によっては魔法をかけて、治療薬や回復薬にする。

3人のジャベックたちは、それを見て薬の作り方を覚えたのだった。


そして夕飯の時にアルマンに今日森でゴブリンの大群に出会った事を話した。

アルマンはその話を聞いてうなずいた。


「そうか、では奴はやはりまだあの森にいるのか・・・」

「ええ、でもヴェルダとラッシュがあっという間にやっつけてくれたので助かったわ。

二人もとっても強いけど、その二人が出すタロスもとても強くて驚いたわ」

「ああ、ヴェルダの出す戦闘タロスはタロス呪文限界値のレベル100で、ラッシュの出すタロスもレベル70はあるからのう」


通常の使役物体魔法で出せるタロスのレベル限界値はレベル100が限界だ。

その上限値のタロスをジャベックが出せると聞いて、ポリーナは驚いた。


「そんなに?道理で二人だけではなく、タロスたちも強い訳だわ!」

「うむ、今後森へ行く時は必ず、二人を連れて行くようにしなさい」

「はい、わかりました」


こうして数日の間、ポリーナはヴェルダとラッシュと共に森へ行って薬草を取り、家へ帰って回復薬や毒消しを作っていた。

ヴェルダ、ラッシュ、それにマギーラの三人は、ポリーナが作るのを見て、回復薬や毒消しの作り方を覚えていった。

ヴェルダたちと森に行くようになって以来、大量に薬草を取る事が可能になったので、治療薬や回復薬、毒消しもたくさん作る事が出来た。

それをポリーナは村の道具屋へ安く卸した。

この村で薬を作る事が出来るのはポリーナだけだったので、村では常に薬が不足気味だった。

そして足りない時は、わざわざ町まで道具屋が買いに出かけていたので、これほど大量に薬が安く手に入って、道具屋も大喜びだった。

しかもポリーナの作る薬はどれも品質がよく、町で仕入れる物よりもよく効くのだ。

やがて3人が薬草の採取から薬の作り方、そして道具屋に売りに行くまでのやり方を完全に覚えたので、いよいよポリーナは魔法の訓練をする事となった。

師匠である魔道士のアルマンがポリーナに尋ねる。


「まず、ポリーナは何の魔法を最初に覚えたいかな?」

「それは解毒魔法です。

村の人たちが毒にやられた時に毒消し草が無くて、何度悔しい思いをした事か・・・」

「なるほどな、では最初は解毒魔法からにするか」


アルマンがうなずいてポリーナに解毒魔法を教える。

数日のうちにポリーナは解毒魔法を覚えて使えるようになった。

そんなある日、たまたまポリーナが家にいる時に村人がやってきて、毒消しを求めた。

村のパン屋のおかみさんが、毒にやられた主人の手を引いてやってきたのだ。


「ポリーナ!うちの宿六が毒にやられちまったんだ!

連れて来たから毒消しをおくれや!

この場ですぐに飲ませるから水もおくれな!」

「あら、御主人が一緒に来たのならちょうど良かったわ。

私がすぐに治しますね」

「え?あんた解毒魔法が使えるようになったのかい?」

「ええ、ちょっと待ってくださいね」


ポリーナは患者の毒に犯された右手を取ると呪文を唱える。


「ベレーノ・フォロギィ!」


たちまち毒が抜け、痛がっていた男はケロリと治る。


「こりゃ大したもんだ!

ポリーナが解毒の魔法が使えるようになったとは助かる!」

「ええ、でもだからって無茶しないでください」

「全くだよ!しかしどうやってそんな魔法を覚えたんだい?」

「大御爺様から教えていただいたんです」

「大御爺様?ああ、噂のアルマンさんかい?

旅から戻ってきたっていう?」

「ええ、そうです。

アルマン大御爺様は正規の魔道士なので、今私は色々と魔法を教わっているんです」

「ふ~ん、そりゃ大したもんだ!」

「それにこのマギーラは魔法が使えるジャベックなので、私がいない時でもマギーラに言えば、解毒や治療もできますよ」

「へえ?そりゃ本当に大したもんだ!

ところで治療代はいくらなんだい?」

「大銅貨3枚で結構です」

「おや?そんなに安くて良いのかい?」

「ええ、この村で毒消しがその値段ですから同じで結構です」

「そうかい?

町で毒消しを買ったりすれば大銅貨5枚はかかるし、解毒魔法をかけてもらうのには銀貨1枚はかかるだろうに、そんなに安くて大丈夫なのかい?」

「ええ、大丈夫です。

それにこの村の人たちにはお世話になっていますし、これくらい安くした方が良いと思って」


もちろんポリーナは町の相場よりも安いのはわかっていたが、この村では魔法を使えるのはここだけだし、それならば自分の一存で、値段を安くしても良かろうと考えてこの値段にしたのだった。

パン屋のおかみさんはうなずいて答えた。


「わかったよ!

その代わり、あんたがうちにパンを買いに来る時は安くしてあげるからね!」

「はい、ありがとうございます!」

「それにしてもポリーナだけじゃなくて、治療や解毒まで出来るジャベックまでいて、その上に正規の魔道士のアルマンさんまでいるんだろう?

これで医者のいないこの村でも安心してくらせるね!」

「ええ、毒にやられたらいつでも来てくださいね」

「ありがとうよ!」


パン屋のおかみさんが主人を連れて帰った後で、ポリーナはふと思いついて看板を作った。


――――――――――――――――――――


「パーシモン魔法診療所」

魔法治療、解毒承ります

低位回復魔法、1回大銅貨2枚

中位回復魔法、1回 銀貨3枚

解毒、大銅貨3枚

治療薬・回復薬・毒消しも各種そろえてあります

どうぞ気軽に御利用ください


―――――――――――――――――――――


ポリーナは作った看板を満足げに眺めた。

ポリーナは自分では中位回復魔法は出来ないが、ヴェルダとマギーラは使えるし、いざとなれば高祖父アルマンもいるのだ。

それに低位回復と解毒だけならば、ラッシュも出来るのだ。

元々曽祖父の代から魔法診療所だったので、家の作りはそうなっている。

父が亡くなってからは、魔法士の母と自分だけだったので、ろくな治療も出来なかったが、今は正規の魔道士が一人と、魔道士級のジャベックが二人もいて十分な治療が可能となった。

これなら堂々と魔法診療所の看板を掲げても大丈夫だろう。

そう考えてポリーナは看板を掲げたのだった。


この看板は村で評判となり、パーシモン家が再び魔法診療を始めたと噂になった。

そしてパーシモンの家に魔法治療士であるポリーナだけでなく、正規の魔道士アルマンと治癒魔法や解毒も使えるジャベックがいると評判になった。

小さな村なので、すぐにその話は村中に伝わり、それは村だけでなく、近隣の村まで伝わり、医者や治療魔法士のいない近くの村からわざわざポリーナの家まで患者が来るようにすらなっていった。

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