ギルバートと仲間たち 07 不思議な少年
そんな日々を暮らしていた4人だったが、ある日デパーチャーで食事をしようとすると、目の前にいた若い男からいきなり話しかけられて来た。
「こんにちは!皆さん、組合員なのですね?」
若い男と言うよりも、まだ幼い少年のような感じだ。
しかも一見見た目は少年ではなく、少女と見まがうばかりの姿だが、ずいぶんと金持ちそうな格好のカップルの男だ。
女の方は男よりも少々年上の狼獣人だが、見た目は清楚な育ちの良い少女のようで、格好からすると、どうもどこかのお嬢様のようだ。
ちょっとした物腰や動作も、いかにもどこかのお嬢様っぽい。
一見すると、どこかの世間知らずで人のよさそうな、坊ちゃん嬢ちゃんのカップルに見える。
二人ともこれから登録するつもりなのか、まだ組合員でもないようだ。
だがこの少年は随分と愛想が良い。
まるで自分たちに対して、すでに友人のような話し方だ。
ギルバートも思わず釣られて返事をする。
「え?ええ、そうです」
「四人で組んでいらっしゃるのですね?
それで全員が黄色い線と言う事は、皆さん全員が魔法を使えるという事ですね?
すごいじゃないですか!」
この少年はギルバートたちを褒めちぎり興奮気味に話してくる。
しかしその少年の言葉にギルバートが慌てて両手を振って答える。
「いえいえ、魔法を使えると言ったって、全員が一つずつしか使えないのですよ」
「一つだけ?」
「ええ、以前は全く使えなかったのですが、ある事をきっかけにして使えるようになったのです」
「ある事?」
「ええ、我々の人生の分岐点と言っても過言ではありません」
そのギルバートの意味深な説明に少年は食いついて来た。
「それはとても興味深いですね。
差し支えなければ、そのお話をしていただけませんか?」
少年の要望にギルバートは快く答える。
「ええ、構いませんよ。
実は我々は全員あるいなかの村の出身でしてね。
そこはよくある貧乏な村で、我々は全員三男だの四男なので、出稼ぎを兼ねてこのロナバールに来た訳なのですよ。
そして御多聞に漏れずに組合員となって迷宮を探索したのですが、そこで一度酷い目に会いましてね。
まあ、何も知らなかった我々が馬鹿だったと言えばそれまでなのですが、ある人間に騙されて、こいつが迷宮で腕を切り落とす羽目になりましてね。
ロクに治療代もない我々が困っていると、そこで偶然出会った人が無料で治療して、あっと言う間に腕を繋げてくれたんですよ!
しかもその人は仲間の慰労のためにと、食事代まで下さったのです!
もちろん我々は固辞したのですが、その方は初心者が困っているのを見過ごす訳にはいかない、困っている時はお互い様、それが上級者の務めだと言って、慰安のためのお金までを我々にくれたのですよ!
聖人と言うのは、まさにあの方のような人を言うのでしょうね!
そして我々に魔法の才能まである事を指摘して去っていったのです。
我々はその方の指摘に従って、魔法を習ってみるつもりになったのです。
その方からいただいたお金はそのために使う事に全員一致で決めましてね。
幸い、組合では組合初心者に魔法一つまでなら格安で教えているので、我々は試しにその特典でそれぞれ魔法を習ったら、本当に全員が一つずつ覚える事が出来たのですよ。
まさか本当に我々に魔法の才能があって、使えるようになるとは思いませんでした。
おかげで魔物と戦うのも以前と比べて非常に楽になり、すぐに昇級する事も出来ました。
これも全てその方のおかげですね。
本当にどんなに感謝しても足りないほどです。
あの時に強引に御名前を聞かなかった事が悔やまれます。
魔法を知ってから思ったのですが、あの方の心得はまさに「マギア・デーヴォ」そのものだったのでしょうね」
「なるほど、それは良い話ですね・・・」
ギルバートの話をこの若い相手はずいぶんと興味深く聞いて、感心したようだ。
「ええ、本当に我々は運が良かったと思います」
「私も最初は私の腕を切り落とす羽目になった奴を恨みましたが、そのおかげで魔法が使えるようになったかと思うと、少々感謝しているほどですよ」
そう言ってウォルターが苦笑する。
「ええ、私達もこのまま精進して上を目指して行きたいと思います、あ・・・」
それまで話をしていたギルバートが突然何かを見つけて、ある場所を凝視している。
そこには紺色と金の制服を着た金髪巨乳のエルフが優雅に歩いていた。
しかも誰が見ても絶世の美女と言ってもいい。
そしてその大きな胸元には透明な登録証を下げている。
アレナック等級だ!
一緒に歩いている眼鏡をかけている長く黒い髪の知的な女性も同じく美女だ。
こちらは金色の登録証を下げている。
そして同じく紺と金の制服を着ている男性が二人いる。
ギルバートたちは初めてその姿を見たが、即座にそれが何者かを知った!
「
その姿を見て、ギルバートたちが興奮して、そこにいた少年に話し始める。
「見ましたか?今の人たち?
私も噂だけで、見たのは初めてなのですが、あの方たちは「
しかしその説明に相手の少年は何故か口ごもる。
「そ、そうなんですか?」
戸惑う相手に四人は争うように説明をし始める。
「ええ、今先頭を歩いていた方がエレノアさんと言って、副団長をしていらっしゃる方です」
「そしてあの眼鏡をかけていた人がシルビアさんと言って、以前は魔法協会の看板娘だったそうですが、今は団長補佐をしているそうです」
「なるほど」
「あの男性二人は知りませんが、同じ制服を着ている所を見ると、やはりさぞかしお強いのでしょうね。
それと見習いのような少女が一人いましたが、その少女ですら
「全く凄いものです」
興奮しながら感心する四人に、相手もその勢いに気圧されたようにうなずく。
「ええ・・・そうですね・・・何か・・・凄そうです」
しかしギルバートたちは、さらに興奮して説明を続ける。
「いやいや、凄そうどころではありませんよ?
何しろ聞いた所によると、登録されたのは我々と数ヶ月しか変わらないのに、すでに団長と副団長はアレナック等級ですからね!
まあ、我々なんぞと比較する事自体が間違っていますがね。
それに今日はいらっしゃらないようですが、あの
「え?一撃でマルコキアスを?」
ギルバートの説明に相手の少年は驚く。
やはり上位悪魔を一撃で倒したという話には驚いたのだろうとギルバートは思った。
「ええ、そうです。
それに先日はアレナック等級の試験の時に、やはりあっと言う間にカーロンを仕留めたそうです。
全く我々とは比較にもならないですね!」
「ええ、でも憧れます!」
「あやかりたいです」
口々にそう説明するギルバートたちの話を、その少年はニコニコと嬉しそうに聞いて再び尋ねる。
「そんなにあの
「ええ、そうですね」
「あれほど凄い
ギルバートたちがそう言うと、その少年は本当に嬉しそうだ。
その後、ギルバートたちは自分たちの
そしてどうやらこの少年はタロス魔法に興味がある様子だ。
ウォルターにタロスを見せて欲しいとせがみ始めた。
「是非、ここで見せていただけませんか?」
「え?ここでですか?」
「はい、タロス魔法は私も色々と研究していて、非常に興味があるのです。
是非後学のためにも見せていただきませんか?」
その少年の言葉に、ギルバートとウォルターは顔を見合わせた。
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