ポリーナ・パーシモン 18 ポリーナたちの迷宮訓練

 ポリーナは夜中の内に密かにシノブ少年のジャベックであるガルドやシャルルたちと共に、ロナバールの屋敷に行く事となった。

ロナバールに到着する頃には夜が明けて日が白み始めていた。


 シノブの屋敷に到着すると、そこまで案内してくれたミルキィと言う狼獣人の奴隷少女が色々と説明をしてくれた。

この狼獣人の少女は本当に可愛らしく、何でもハキハキとしていて羨ましい位だった。

シノブ少年がエレノア先生と共に、信用を置くのもよくわかる。

家令のアルフレッド、家政婦長のキンバリーもやさしくポリーナを歓迎してくれてポリーナはホッとした。


「ポリーナ・パーシモンと申します。

よろしくお願いいたします」


一緒に来たオーベルもそこにいたケット・シーに挨拶をする。


「やあ、ペロン、久しぶり!」

「あ、オーベルにゃ!久しぶりニャ~」

「はは、この間来た時は君はいなかったからね!」

「うん、あの時は出かけていたのニャ!

オーベルが来たと聞いて会いたいと思っていたニャ」

「はは、しばらくはここで厄介になるよ」

「嬉しいニャ」


そのケット・シーの姿を見たポリーナは驚いた!

それはアレックス支部長からもらって、自分の診療所に置いてきたペロリンにそっくりだったからだ!


「え?これはペロリン?」

「ボクはペロリンではありませんニャ。

ペロンと言いますニャ」

「ペロン?」

「はい、ペロリンはボクを元に御主人様とエレノアさんが作った治療ジャベックですニャ」

「え?ではあなたがメディシナーで魔法治療士をしていたというケット・シーなのですか?」

「そうですニャ。

ポリーナはペロリンを知っているのかニャ?」

「ええ、ペロリン11号というのをメディシナーの関係者からいただいて、今私の家で治療を行っています」

「そうニャンだ?」


その二人の会話にオーベルが興味深そうに話しかける。


「ほほう?ペロリン11号ね?

そういやレオンがアレックスにエステルとペロリンを一体ずつ取られたと言っていたな」

「え?オーベルさんはアレックスさんを御存知なのですか?」

「ええ、あいつとは高等魔法学校で同学年でしてね。

もっとも同じ学年と言ってもこっちはメディシナー校であっちはマジェストン校だけどね。

ポリーナさんも知っているのですか?」

「はい、アレックス支部長にはゴブリン退治でお世話になりました。

そしてエステル5号とペロリン11号をいただいたのです」

「なるほど、あいつも良い所ありますね」

「ええ、おかげで高祖父の治療にも非常に役立ちましたし、ペロリンはうちの診療所で大人気です。

とても感謝しています」

「はは、それは良かった。

今度レオンの奴に言っておきますよ」

「はい、お願いします。

その際には、私がとても感謝していたとお伝えください」

「わかりました」


家令のアルフレッドが部屋に案内をする。


「ポリーナ様のお部屋はこちらになります」


丁重に案内されたポリーナがアルフレッドに恐縮して説明する。


「あの・・・アルフレッドさん?

 私はお客ではなく、弟子か下働きのつもりで来たので、どうかそういう扱いにしてください」

「いえいえ、御主人様からも迷宮の訓練で疲れるだろうから世話をするようにと言われておりますからね。

どうか遠慮なさらずに」

「ありがとうございます」


翌日から数日はミルキィたちと訓練だった。

まずはミルキィが全員の確認をする。


「では私とガルドが皆さんと一緒に訓練をします。

御主人様とエレノアさんから、とにかく数日の短い間だけでも、レベルだけは上げておくようにと言われておりますので」


ミルキィの言葉に全員がうなずいて返事をする。


「はい」

「皆さんのレベルはいくつですか?」


ミルキィの質問に3人が答える。


「ボクは183だよ」

「僕は65です」

「私は53です。それとヴェルダは170です」


それを聞いたポリーナがうなずいて答える。


「わかりました。ではポリーナ様を基準に迷宮に行きましょう」

「あ、あの、私が皆さんの足手まといになっているのでしたら、私はヴェルダと共に自分で鍛えますので・・・」

「大丈夫ですよ。お気になさらないでください」

「それと必要でしたら私はロカージョというレベル135の戦闘専用ジャベックも持っていますので、そちらも出しましょうか?」

「ええ、わかりました。それは是非出してください。

それでしたら我々も2組に分けましょうか?

オーベル様、あなた様にガルドをつけますので、シャルル様と一緒に組んでいただいてよろしいですか?」

「ああ、もちろんそれは構わないよ?

ところでミルキィちゃん?

オーベル様ってのは仰々しいねぇ。

これから一緒に修行する身なんだし、オーベルで構わないよ?」

「え?しかし御主人様やエレノアさんからも、皆様には失礼のないようにと言われておりますし・・・」

「な~に、問題ないさ、二人ともそれで怒るような人たちじゃない事は、君だって知っているだろう?」

「はい、それはそうですが・・・」

「それにむしろ態度を考えなきゃならないのはボクたちの方だと思うしね」

「え?それは?」


不思議そうに質問するミルキィにオーベルがニヤリと笑って答える。


「君は建前は奴隷かもしれないが、実際にはそうじゃないって事さ」

「え?」

「だって、君は御主人様と二人っきりの時は何て呼んでいるんだい?」


そのオーベルの質問に今まではハキハキとしていたミルキィが突然しどろもどろになって答える。


「そ、そそそれは・・・そのシノブ君・・・と」


それを聞いたオーベルは、納得したようにうなずいて話す。


「だろうと思ったさ、何しろ彼の君に対する態度がとても普通じゃなかったからね。

ありゃまるで恋人か、お姫様に対する態度だよ」

「はい・・・」


オーベルの言葉にミルキィは赤くなってシュンとして答える。

それはポリーナも思っていた。

あのシノブ少年のこの少女に対する態度はとても主人と奴隷とは思えなかった。

もっともエレノアに対する態度はそれ以上だったが・・・


「そんな君をぞんざいに扱ったりしたら、後で僕らがシノブ君に恨まれてしまうさ」


そのオーベルの言葉をミルキィは慌てて否定する。


「そんな!御主人様はそのような方ではありません!」

「ははっ!もちろん、わかっているさ。

つまりはそれほど君が彼に大事に扱われているって事さ。

しかも僕たち同様にグリーンリーフ先生の弟子でもある。

ようは僕たちにとっても君は奴隷なんかじゃなくって友人だと言うことさ」

「はい、ありがとうございます。オーベル様」

「だからただのオーベルで良いって」

「僕もただのシャルルで良いよ?」


二人の後についてポリーナも慌てて言った。


「わ、わたしなんかオマケで無理やりついてきただけですから!

もちろん、ただのポリーナで結構です!」


3人の言葉にうなずいたポリーナが改めて話し始める。


「わかりました、

ではこれから敬意と親しみをこめて、オーベルさん、シャルルさん、ポリーナさんと呼ばせていただきます」

「ああ、それで構わないよ」

「うん」

「ええ」


一通り、話が済むとオーベルが改めてガルドを見て笑いながら話す。


「はは、それにしてもレベル300のジャベックの訓練護衛とは豪勢だねぇ?」

「ええ、では私はポリーナさんとヴェルダ、それにそのロカージョというジャベックと一緒に訓練をします。

オーベルさんとシャルルさんはガルドと共にお願いします。

ちょうど男性と女性に分かれますし、ポリーナさんも慣れたジャベックと一緒の方が訓練をし易いでしょう?」


ミルキィの提案にポリーナもうなずく。


「ええ、そうですね。

ありがとうございます」

「では、その組分けで訓練をしましょう。

数日後にノーザンシティでの講義を終えて御主人様とエレノアさんが戻ってまいります。

それまでに出来るだけレベルを上げましょう!」

「よ~し!それじゃ二人を驚かす位にレベルを上げておこうじゃないか?」

「はい!」


こうしてポリーナたちは2班に分かれて迷宮へ訓練に向かった。

迷宮に入ったミルキィがポリーナに話しかける。


「では、まずグリフォンを倒しに行きますね?」

「え?グリフォンですか?」

「ええ、ここのグリフォンは大抵は単体で出てくるし、とてもレベル上げに向いているんです。

私もエレノアさんとシノブ君にずいぶんとつき合わされました」

「そうなんですか?」

「はい」


2人はヴェルダとロカージョと共に、昇降機で九階へ着くと、迷宮の中へ向かう。


「ポリーナさん、ヴェルダとロカージョに、戦闘中は私の命令を聞くように命令をしてください」

「はい、わかりました。

ヴェルダ、ロカージョ、私達が迷宮で訓練する間は、ミルキィさんの言う事を聞くように、いいですね?」

「承知しました」


ヴェルダが返事をして、ロカージョも無言でうなずく。


「では、ヴェルダ、まずはタロスでポリーナさんを守ってください。

そしてグリフォンが出てきたら、まず私が片翼を切り取ります。

そこへ切り込んで致命傷を与えてください。

ロカージョは止めをお願いします」

「承知しました」


そう言うとヴェルダは護衛のタロスをポリーナの周囲に六体ほど出す。

ロカージョも無言でうなずく。


 グリフォンが出てくると、即座にミルキィが飛び出して、グリフォンの羽根を切り取る。

その速さはとんでもない速さで、ポリーナは目で追うのが精一杯だった。

さらにそこへヴェルダが強襲をして、ロカージョが止めを刺す。

あっという間の連携技だ。

10秒も掛からずに高位の魔物であるグリフィンが倒される。

この獣少女は頭が良く、可愛いだけでなく、これほど戦闘力も高いのかとポリーナは驚いた。

高祖父と同じ組合員一級なのは伊達ではないと思った。


「す、凄いです!ミルキィさん!」

「ええ、この調子で行きましょう」


その後もミルキィたちはズバズバとグリフォンを倒し、ポリーナのレベルを上げていった。

ミルキィは強くやさしく、気が利いてポリーナはすっかりこの白銀に輝く毛並みの少女が気に入ってしまった。

ポリーナはこの少女がシノブのお気に入りになるのは無理も無いと思った。



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