ポリーナ・パーシモン 03 ジャベックたちの登録
解毒魔法を覚えたポリーナにアルマンが再び尋ねる。
「次は何を覚えたいかな?」
「アルマン大御爺様、私、次は飛行魔法と使役物体魔法を覚えたいです。
空を飛べれば、遠い場所にいる体の具合の悪い人の所へすぐにかけつける事もできるし、森や危険な場所へ行くのもタロス魔法が使えれば、かなり役立つと思うんです」
「なるほど、それはそうだな。
しかしそうなると今のレベルでは少々心もとないな・・・
よし、しばらくポリーナはヴェルダと一緒にどこかの迷宮へ行って来なさい」
「え?迷宮へ?」
「うむ、航空魔法と使役物体魔法は、かなり魔力量が必要になるのでな。
今のポリーナの魔力量ではちと心もとない。
だからレベルを上げなければ、使えるようにはならないのじゃよ」
「でも、私は迷宮なんて・・」
迷宮には当然、夥しい数の魔物がいる。
まだ迷宮に行った事のないポリーナに取ってはかなり恐ろしい場所だ。
そんなポリーナをアルマンが勇気付ける。
「大丈夫じゃ。
ヴェルダが付いていれば十分じゃが、念のために他のジャベックもつけてあげよう。
そしてお前がヴェルダと迷宮で訓練している間は、ここの店番はマギーラに任せ、薬草取りの方はラッシュに任せなさい。
そうすれば診療所の方も薬草の方も何も問題はないじゃろう。
それに店番用に、あと三体のジャベックを出そう。
万一の時はわしもいるから大丈夫じゃ」
「はい、わかりました」
「ではもう一体出すとするか・・・
出でよ!ロカージョ!」
アルマンがマギアグラーノを取り出して解呪をする。
するとポリーナの目の前に身長2メルはあろうかと思われる岩石型のゴーレムが現れた。
「わしは全部で七体のジャベックを持っておってな。
あの三体は特別製だが、残りの四体も中々の物じゃ。
これは残る四体の内の戦闘ジャベックのロカージョだ。
レベルは135もあるし、力と体力だけならラッシュやマギーラより上じゃ。
迷宮の戦闘では頼りになるぞ。
連れて行くが良い」
「はい、ありがとうございます。大御爺様。
よろしくね?ロカージョ?」
ロカージョはしゃべれないようで、ポリーナの言葉に無言でうなずく。
さらにアルマンは3つのグラーノを取り出す。
「さて、もう三体も出しておくとするか。
出でよ、セルーヌ、セルディア、セルトリ!」
するとそこに今度は三体のジャベックが現れた。
三体ともポリーナより少々身長が高い程度の短い黒髪の女性型ジャベックで、区別はつかない。
ただ着ている服の胸元に大きく、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲと書いてあるのでそれで区別が出来る。
「これは人間型量産汎用ジャベックのセルーヌ、セルディア、セルトリじゃ。
魔法は使えぬが、三体ともレベルは50で、簡単な日常会話が可能で、日常的な仕事はかなり複雑な物でも大体出来るし、ここの仕事も教えれば覚えるだろう。
この三体がいれば、魔法治療以外の雑用や大抵の事は出来る。
水汲み、洗い物、掃除、家の修繕、もちろん薬草取りや薬作りも出来る。
じゃからラッシュと共に、こやつらも交代で薬草取りに行かせよう。
ちなみにわしがずいぶんと迷宮で学習させたので、戦闘もかなり出きるぞ」
「まあ、こんなジャベックまで・・・」
「ああ、だからこの診療所の事は心配をせずに安心してヴェルダ達と訓練に行って来なさい」
「はい、大御爺様」
こうしてポリーナはヴェルダとロカージョと共に迷宮へ行き、レベルを上げた。
最初は二人に守られるだけで、ただ二人の後をついて迷宮を歩いていたポリーナだったが、レベルが上がってくると、徐々に自分でも戦闘に参加して魔物を倒せるようになってきた。
アルマンからも自分一人でも魔物を倒せるようになっておいた方が後々楽になるから、その訓練をしておいた方が良いと言われていた。
数日経って、レベルが50ほどになると、アルマンがポリーナに魔法の修行を始める。
「うむ、ここまで上がれば、そろそろ訓練を始めても良いだろう」
ポリーナはアルマンから魔法を教わり、やがて2週間もすると、航空魔法とタロス魔法を使えるようになった。
新しく魔法を覚えたポリーナは大はしゃぎだった。
「嬉しいわ!大御爺様!
こんなにたくさん魔法を覚えられて私、嬉しいです!」
「ああ、ポリーナはこのジジイの欲目ではなく、中々魔法の筋も良い。
これならいずれ中等魔法学校へ行けば、間違いなく魔道士にもなれるじゃろう」
「本当にそうならよいけれど・・・」
「大丈夫じゃ。
わしの血筋は魔力量がかなり多い。
ポリーナもその血筋で普通の魔法使いよりも、かなり魔力量が多いようだ。
これは魔法、特に航空魔法と使役物体魔法を使うには非常に有利じゃ。
それにこの2つを覚えれば、かなり色々と役に立つじゃろう」
「ええ、そう思います」
航空魔法は急ぎの時に、使役物体魔法は何かの手が足りない時に大いに役立つのは間違いない。
「うむ、じゃがこの二つはただ覚えるだけではいかん。
両方とも覚えた後も向上させる事が肝心なのじゃ。
これからしばらくは航空魔法の速度を上げる事と、タロスで様々な事が出来るように専念するのじゃ」
「はい、大御爺様」
確かにポリーナは空を飛べるようになったとはいえ、まだ人が走るより早い程度の速度だったし、タロスの方も一体出して、それに水汲みなどが出来るかどうかという程度だった。
ポリーナはアルマンの忠告通り、素直に訓練を重ね、やがてそれはアルマンの目から見ても満足の行くようになっていった。
飛行速度も時速100メルほどになり、出せるタロスも1回で10体ほど出して、水汲みだけでなく、薪割り、皿洗い、薪集め、それに戦闘など、様々な事が出来るようになってきた。
アルマンは玄孫で弟子でもあるポリーナの素直で正直な性格を大いに気に入って、自分がこの村に来た本来の目的を話す気になって来た。
そしてさらに数日が経ち、ある程度ポリーナが魔法を操れるようになると、アルマンはついに自分の心の内を話し始めた。
「うむ、この程度出来るようになれば、まずまずじゃ。
所でポリーナ、わしには今、心残りが3つほどあってな。
それを順番に片付けようと思う」
「心残り?」
「ああ、そうじゃ。
時にポリーナや、この村から一番近い魔法協会支部はどこかな?」
「オリナスの町です」
そこでポリーナは初等魔法学校に通い、魔法士の資格を得たのだった。
「ふむ、ではそこへこのヴェルダたちを連れて行って、登録をしに行こう」
「登録?」
「ああ、このヴェルダとマギーラとラッシュの正式な後継所有者の登録だ」
「後継所有者?」
「うむ、ジャベックの所有は普通は口頭でそのジャベックに伝えておけばよいのだがな。
しかし重要な場合はそれを確実にするために魔法協会にジャベックを登録する場合がある。
このヴェルダとマギーラとラッシュがその特別な所有登録をしてあるジャベックでな。
マギーラとラッシュは正式にわしの所有なのじゃが、ヴェルダは訳あって預かり物なのじゃ。
ヴェルダの本当の所有者はシャルル・クロンハイムという御方じゃ。
だが現在、所有者はわしになっておる。
しかし万が一の時の事を考えて、次の正式な後継所有者をポリーナにしておきたいのだ」
「私を次期所有者に?」
「ああ、どの道カルロを次の所有者にするつもりだったのだ。
奴がいない今、ポリーナをわしの次の所有者にしても何も不思議ではないだろう?」
「ええ・・・」
「この村に来て、わしの病気もずいぶんと良くなった。
今日は体調も良いので、他にも色々としておきたい事があるから、その街へ行ってみよう」
「はい、わかりました」
出かける前にポリーナはマギーラ以外の全てのジャベックを連れて薬草取りに行った。
そして大量に薬草を集めてきて、しばらくは取りに行かなくとも、治療薬を作れるようにしておいた。
診療所には“休診”の看板を出しておいて、セルーヌ・セルディア・セルトリたち三人を店番として残しておいた。
これで魔法診療は出来ないが、回復薬や毒消しの販売は出来る。
残りのジャベックを全て連れて、ポリーナとアルマンはオリナスの街へ向かう事となった。
一同はヴェルダの集団航空魔法で空を飛び、オリナスの街へと向かう。
ポリーナは以前だったら数日かかる場所へ、ほんの数時間で到着したので、改めて航空魔法に驚いた。
オリナスの魔法協会に到着すると、一行はジャベック登録の窓口へと行く。
「すまぬがジャベック登録の所有権継承手続きをしたいのじゃが?」
「はい、どのジャベックですか?」
「このジャベック三体だ。
このジャベックの名前はヴェルダで、レベルは170、現所有者はわしでアルマン・パーシモンじゃ」
係員が登録名簿をめくって確認をする。
「はい、確認しました。
現在の所有者はアルマン・パーシモンさんで間違いありません。
本人確認のために魔道士章の掲示をお願いします」
「うむ」
アルマンが自分の魔道士章を掲示すると、係が魔法紋や登録番号などを確認する。
「はい、確認しました。
それでどなたに継承されますか?」
「ここにいるポリーナ・パーシモンじゃ」
「何か身分証明をする物をお持ちですか?」
「魔法士章を持っておる」
「はい、ではそれを見せてください」
ポリーナが自分の魔法士章を見せると、係員がそれを確認して、登録番号などを書き写す。
「はい、確認できました。
現在、このジャベックの後継所有者はシャルル・クロンハイム様になっておりますが、どちらを優先させますか?」
「ポリーナ・パーシモンを優先してくれ」
「承知いたしました。
それではその順序で所有権を記録させていただきます。
内容は来年のジャベック登録簿に記載されますが、お急ぎでしたら御希望の支部などへは登録通知をしますが、どうされますか?」
「いや、特に急ぎではない。
ここに登録しておけば、さし当たっては十分だ」
「承知いたしました。
それでは登録終了いたしましたので、これで大丈夫です」
「うむ、ありがとう」
同じようにしてマギーラとラッシュの所有者登録も行った。
こちらは完全にアルマンの所有物だったので、そのまま単純にポリーナが後継所有者として登録された。
それが無事に終わると、アルマンは大きくため息をついた。
「ふう~これで一つ肩の荷が下りた思いじゃ。
良かったわい」
「そうなのですか?」
「ああ、これでわしに万一の事があっても、少なくともポリーナは大丈夫じゃろう。
この三体がお前を守ってくれる」
そのアルマンの言葉にポリーナはうなずいて答える。
「ええ、確かにこの三人がずっといてくれるのは嬉しいですけれど、私は大御爺様に長生きしていただいた方がもっと嬉しいです」
「はは・・・それはありがたいが、わしも流石に寿命だてな。
いつコロリと言っても大丈夫なように準備をしておくのに越した事はないわ」
「・・・」
そのアルマンの言葉にポリーナは返す言葉がなかった。
無事に所有者登録を終えると、魔法協会を出たアルマンが、再びポリーナに話しかける。
「さて、では次の心残りを片付けたいが・・・その前に肩慣らしと行くか」
「え?肩慣らし?」
「ああ、この街には小さい支部じゃが、アースフィア広域総合組合もあるようじゃ。
そこでわしは少々仕事をしようと思う」
「組合で仕事?
大御爺様は組合員なのですか?」
アースフィア広域総合組合の存在はポリーナも知っていた。
そこで四級以上の組合員は世間でも尊敬され、信用がある。
「ああ、こう見えても一級の組合員じゃ」
「ええっ?一級?」
「うむ、ほれ、登録証はこれじゃ」
そう言うと、アルマンが銅の板に3色の宝石が嵌った登録証を見せる。
銅版の下半分は青い横線が一本と、もう一本紫色の線が入っていた。
それは確かに一級の魔法使いの登録証だった。
「これが一級の組合員証・・・」
ポリーナは組合員の中でも一級は上級者で、組合員内でも尊敬されると聞いていた。
まさか自分の高祖父がその一級組合員とは思わなかったので、ポリーナは驚いた。
アルマンはそれを首にかけると、二人はジャベックたちと共にこの街の組合支部へと向かった。
組合支部へ着くと、アルマンが受付に向かう。
受付嬢が二人を歓迎して挨拶をする。
「ようこそ!総合組合のオリナス支部へ!
まあ、一級の方ですね?
初めまして!
うちのような小さな支部で一級の方は珍しいです!
しかも紫線英雄章をお持ちの方は初めてです!
どういった御用事でしょうか?」
「うむ、わしはここの支部は初めてなのじゃが、何かわし向けの仕事がないかと思ってな」
「はい、どういった御仕事がお望みでしょうか?
一級の方であれば、どのような案件でも大丈夫だと思いますが・・・」
「もしゴブリン退治があればそれをしたいと思う」
それを聞いた受付嬢が驚いたように尋ねる。
「え?一級の方でゴブリン退治?
その風貌・・・そして緑色の髪や青い髪の同行者たち・・・
それに紫線英雄章・・・もしやあなた様は「ゴブリンキラー」様ですか?」
受付嬢の質問にアルマンはうなずいて答える。
「うむ、別にわしはそう名乗った事はないが、世間でわしの事をそう言っている事は知っておる」
その言葉を聞くと受付嬢は嬉しそうに対応する。
「お待ちしておりました!ゴブリンキラー様!
私達はあなたが来るのを待ち望んでおりました!」
ゴブリンキラーとは一体何の事だろうか?
そしてこの組合の受付の人はなぜこんなに喜んでいるのだろうか?
ポリーナは二人の会話を聞いて不思議に思った。
どうやら高祖父のアルマンには、まだポリーナの知らない一面があるようだった。
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