ポリーナ・パーシモン 19 白銀等級になる

 数日後には無事にシノブとエレノアが帰って来て、いよいよ本格的な修行となった。

その訓練は厳しい物だったが、ポリーナはそれに耐えた。

この頃には信じられない事に、ポリーナのレベルは153まで上がっていた。

そして組合員として登録するために、白銀等級シルバークラスまで上げたいと言われて、単独でグリフォンを倒す事となった。


「シ、白銀等級シルバークラスですか?私が」


あの尊敬する高祖父ですら一級だったのだ!

それが自分がそれを上回る等級になるとはポリーナには考えられなかった。

しかも今日まで一緒に訓練してきて、その強さを目の当たりにしてきたミルキィですら一級なのだ!

しかし師であるエレノアはごく普通の事のようにうなずいて返事をする。


「ええ、そうです。

その程度にはならないと今後の事もありますからね。

それにあなたはゴブリンキラーを目指すのでしょう?」


確かに組合の特級組合員には様々な特典があると聞いている。

今後独立して行動するには特級組合員になった方が良いのはわかる。

ましてやポリーナはエレノアの言う通り、高祖父と同じゴブリンキラーを目指すのだ!

それ位にならなければ確かに話にならないだろう。

そしてエレノアの話を受けてミルキィもポリーナを促す。


「では今日はグリフォンを一人で倒していただきます」

「はい、わかりました・・・」


最初の頃とは違って最近はただ見ているだけではなく、ポリーナもグリフォンの退治には参加していたが、いつもはミルキィやヴェルダと一緒に倒している魔物を一人で倒すのは恐ろしく時間がかかった。

ヴェルダやロカージョの助けもなく、一人でグリフォンを倒すのは恐ろしく困難だった。

ましてやまだポリーナはシノブたちのように強力な呪文が使えないので大変だった。

それでも時間がかかったが、ポリーナも何とか一人で倒す事が出来た。

その様子を見て師のエレノアは言った。


「約20分ですか・・・

これでは白銀等級シルバークラスに合格できませんね。

倒し方をもう少し工夫しましょう」

「はい、先生!」


エレノアやシノブ、それにシャルルにも色々と助言をしてもらい、何とかポリーナも15分以内にグリフォンを倒す事が出来るようになった。

それを見たミルキィも満足げに話す。


「これで組合の等級試験も大丈夫だと思いますよ?」

「ありがとうございます、ミルキィさん」

「ええ、これもポリーナさんの努力の賜物です」

「いいえ、ミルキィさんとエレノア先生や皆さんのおかげです」


そして数日後には組合の試験も受かり、本当にいきなり白銀等級シルバークラスとなった。

ポリーナには自分で自分を信じられなかった。

あの尊敬している高祖父アルマンですら一級だったのだ!

それを自分がその上の等級になるとは夢を見ているようだった。

しかも特級組合員になったその当日に、師であるエレノアから特級会員の心得と覚悟を教わった。

なんと、エレノアは自分たちに言いがかりをつけてきた一般組合員を特級権限で降級罰を与えたのだ!

これにはその場にいたポリーナも驚いたが、改めて特級組合員がどのような物かを自覚して気が引き締まる思いだった。


《私も特級の組合員になったんだ!

 先生の言う通り、これからはもっと気を引き締めていかねば!》


エレノアの行動を見て、改めてそう決心するポリーナだった。


 その夜、ポリーナは自分の部屋で高祖父の形見である一等勲章を出すと、報告をした。


「アルマン大御爺様、ポリーナはとても良い御師匠様に付く事が出来ました。

それだけじゃありません。

シノブさんにシャルルさん、それにミルキィさんにオーベルさんと、とても良い人たちとも知り合いになれてとても幸せです。

どうか安心してください」


白銀等級シルバークラスとなったポリーナは、いよいよシノブたちと一緒に実際に組合員としての仕事をする事となった。

最初はポリーナの希望により、ゴブリンを退治した。

ポリーナはアルマンの教えを守り、初めて一人でもゴブリンの巣窟を一掃する事が出来て嬉しかった。

その後もシノブたちと様々なミッションをこなし、組合員としても順調にこなしていたが、ついに義務ミッションをする事となった。


そして初の義務ミッションを聞いて驚いた。


「え?昇降機の設置・・?」


昇降機と言えば、あの迷宮にある上下に移動するための特殊ジャベックだ。

それは数体のジャベックが連動して動き、非常に複雑な物だと聞いている。

もちろんポリーナにはそんな物は欠片も理解できない。

そんな大仕事を自分が手伝えるのだろうか?

ポリーナは疑問に思ったが、師であるエレノアとシノブが協議した結果、その大事業を義務ミッションとする事になってしまった。

どうやらこの二人的にはポリーナには不可能と思われる事が遂行可能と判断したらしい!

しかもポリーナが対ゴブリンキング要塞を構築した時の知識が役に立つとまで言うのだ!

それを聞いたポリーナは不安に思った。


《あんな大事業を引き受けるなんて、この人たちは本当に凄いわ!

 でも私がそんな大事業のお手伝いなんて出来るのかしら?》


ポリーナは自分がそんな大事業の一部でも手伝う事が出来るのかと不安でしょうがなかったので、その不安をシャルルに言うと彼は笑って言った。


「気持ちは僕も同じだよ。

でもあのエレノア先生とシノブがやれると言うんだ。

大丈夫だよ!

君だってあの二人の凄さはもう知っているだろう?」

「そ、そうですね」」


シャルルと話したポリーナは少しは気が楽になったが、やはり不安はぬぐいきれなかった。

しかしポリーナが驚いた事に、あれよあれよと言う間に人材が集まり、あっという間に昇降機を設置する事になってしまった。


《やるからには私も頑張らねば・・・》


幸いな事にポリーナのする事は安全地帯の確保と魔物退治という自分にも十分出来そうな仕事だった。

しかもまだ魔物退治になれない自分に対して、師匠とシノブはシャルルを組ませてくれたのでポリーナはホッとした。


《シャルルさんと一緒なら安心だわ》


実際に作業が始まるとシャルルはポリーナを気遣ってくれて、想像以上に作業は楽だった。

その毎日の作業の合間にポリーナは今回の仕事で知り合ったグレイモン伯爵からグレイモン戦法の話を実際に聞いたり、逆にサイラスという魔道士に自分の知っているゴブリンの事などを伝授したりして、想像以上に有意義な時間を過ごしたのだった。

 

 そしてついに昇降機は完成した!

あまりに立派な出来具合に、ポリーナは本当にそれが自分が一部分でも手伝ったのか信じられないほどだった。

式典では組合や魔法協会の人たちから絶賛され、それを作った一員としてポリーナも褒め称えられたが、それがポリーナはこそばゆかった。


しかし驚くのはそれからだった!

シノブが開いた「肉まん」という物を売った店が大繁盛したのだ!

それを始めて食べた時、ポリーナは心底驚いた!

こんな食べ物は食べた事がない!


「これは凄いです!

柔らかくて、あたたかくて、とてもおいしいです!

こんな食べ物は食べた事がありません!

私、これを自分で作れるようになりたいです!

そしていつか私の村でもお店を出したいです!

シノブさん!これの作り方を是非教えてください!」

「うん、大丈夫だよ、教えてあげる」


感動したポリーナにシノブは丁寧に肉まんの作り方を教えてくれて、熱心に覚えたポリーナは目を瞑っても肉まんが作れるほどになった。

それを見たシノブがもう自分よりもポリーナの方が肉まんの作り方は上だと苦笑したほどだった。

その他にもシノブからは濾過装置の事や、今まで自分が知らなかった知識を大いに教わって、魔法以外の事では師であるエレノアよりもたくさんの事を教わったほどだった。


そんな時、シャルルの希望で一行がゴーレム街を訪れると、そこでシャルルの父親であるシモンさんの師匠だというバッカンという人に出会った。

シャルルはそこで弟子入りを促されて決心してバッカン氏に弟子入りをする事となった。

そしてポリーナも長く空けていた家の事が心配になり、師であるエレノアに頼み、一旦パーシモン村へ帰り、その後メディシナーへ魔法治療士の訓練に行く事となった。

その時、エレノアに餞別にジャベック4体ももらってポリーナは感謝した。

師であるエレノアやせっかく仲の良くなった人たちと別れるのは辛かったが、ポリーナは再会を約束して、自分の故郷へと旅立った。

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