ある男の話 05

組合の「昇級窓口」へ着いたアーサーは興奮して話し始める。


「毒消し草を3つ持ってきたんだけど!」


窓口の係はアーサーの登録証を見て言った。


「はい、九級への昇級ですね?」

「そうだ!」

「では大銀貨1枚と一緒に登録証と毒消し草を3つ出してください」

「はい!」


アーサーは勢い込んで首から登録証をはずして、大銀貨と毒消し草と共に相手に渡す。

登録に続いて、ここでまたもや大切な大銀貨を使ってしまった。

しかしそれで九級になれるのなら御の字だ。


「はい、アーサー・フリード100番さんですね」

「そうだ!」

「ではこれから簡単な面接を行います。

まずは質問です。

この毒消し草はどこで取ってきましたか?」

「え?」

「この毒消し草はどこで取ってきたのですか?」

「そ、それは・・」


それはアーサーの考えてなかった質問だった。

さすがのアーサーでも、この質問に店で買って来たと言ってはいけないのはわかっていた。

そんな事を言えばたちまち面接は落ちてしまうだろう。

アーサーが迷っていると、さらに窓口の女性は問いかける。


「さあ、答えてください。

どこで取ってきたのですか?」

「め、めめ迷宮です」

「どこの迷宮ですか?」

「ロナバールの迷宮です」

「どちらの?」

「だからロナバールのです!」

「ロナバールには迷宮が2つありますよね?

どちらの迷宮ですか?」


アーサーはロナバールに迷宮があるのは知っていたが、2つあるとは知らなかった。

ここは適当に答えるしかない!


「え?その・・南のです!」

「南?南西ですか?」

「そうです!」

「南西の迷宮に毒消し草を落とす魔物はいませんよ?」

「あ、間違えました!北です!北!」

「北?北東の迷宮ですか?」

「はい、そうです!」

「どんな魔物から取って来ましたか?」

「え?」


その辺で毒消し草を買って来たアーサーは最初何を聞かれているのかわからなかった。

そのアーサーに係りの女性が説明をするように再度質問をする。


「この毒消し草は魔物から取って来たのでしょう?

何の魔物から取ってきたのですか?」


ようやく質問の意図を察したアーサーが慌てて答える。


「あ、あ、それは・・・アプロです」

「アプロは毒消し草を落としませんよ?」

「え?あ、あ、間違えました・・・」

「で、何の魔物から取ってきたのですか?」


アーサーは必死になって思い出していた。

さきほど読んだ一般規約にも書いてあったはずだ。

毒消し草を落とす魔物を・・・

しかし気が動転したアーサーは、中々それを思い出せなかった。

ようやく思い出したアーサーがホッとして答える。


「そうだ!大サソリです!」

「そうですか?何匹倒しましたか?」

「え?3匹です?」


毒消し草を3つ持ってきたのだから3匹に決まっているだろうとアーサーは不思議に思った。

ここで1匹とか答える馬鹿な奴がいるのだろうか?


「3匹?それはまたずいぶんと少ないですね?」

「え?」

「大サソリは5匹に一匹くらいしか、毒消し草を落としませんよ?

普通は毒消し草を3つ手に入れるには20匹近く倒さなければなりません。

よく3匹で終わりましたね?」


しまった!

そうだったのか!

アーサーは馬鹿なのは自分だと悟ったが、今更数を誤魔化すことは出来ない。


「え?ああ、運が良かったから・・・」

「そうですか?

まあ、良いでしょう。

あなたのレベルは今いくつですか?」

「13です」

「九級にレベル制限はありませんが、推奨レベルは15以上です。

大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です!」

「一旦九級に昇級したら十級に戻る事は出来ませんが、本当によろしいのですね?」


そんな事を希望する訳ないだろう?と思いつつ、アーサーは力強く返事をする。


「はい、もちろんです!」


そのアーサーの答えに、昇級係は少々呆れたような感じだったが、それを口には出さずに、淡々と事務を先に進める。


「わかりました。

それではこれで面接を終わります。

少々お待ちください」


しばし待っていると、女性が新しい登録証をアーサーに渡す。

それは自分が先ほど持っていた木の札と同じような物だったが、白丸だった部分が黒丸になっていた。

それが何を意味するかは一般規約を読んでいたのでアーサーにはすぐにわかった。

九級だ!

これは九級の登録証だ!

早くも九級になる事が出来たのだ!


「はい、ではこれであなたは九級として登録されました。

もう希望しても十級に戻ることは出来ません。

そして九級からは義務ミッションが生じます。

義務ミッション書の指示に従ってミッションをしてください。

1ヶ月以内にこなさないと罰金か、登録抹消となりますので、注意してください」

「わかりました」


アーサーは新しくもらった九級の登録証を首にかけて、指示書を手に取ると、そそくさとそこから去った。

彼は自分の作戦がうまくいって御機嫌だった。

登録したその日の内に早くも等級を一つ上げる事が出来たのだ!

希望しても十級に戻れないって?

当たり前だ!

誰がわざわざ下の級に戻るなんて事を希望するんだ?

あの窓口の係は馬鹿なんじゃないのか?

そう考えながらアーサーは得意だった。


(ちょろいもんだ! やっぱり俺って頭がいいな!)


アーサーはそう考えていた。

これがアーサーの考えた作戦だった。

アーサーは1日も早く、上の等級になりたかった。

そのためには地道に魔物を倒してレベルを上げていかねばならない。

しかし中級の青銅等級ブロンズクラスはすぐには無理にしても、七級の陶器等級ポッタークラスにはすぐになれそうだった。

なぜならば、一般規約に書いてあった九級への昇級条件は、毒消し草3つを昇級窓口に持ってくる事だった。

それ以外は何も無かったのだ!

つまりわざわざ魔物を倒さなくても毒消し草を3つ持って行くだけで、九級に昇級できるのだ!

そう考えたアーサーは急いで組合を出て、近くの店で毒消し草を3つ買って来たのだった。

この町で毒消し草は自分の街での3倍もの金額だったが、それでも毒消し草三つの値段などたかが知れていたし、それで昇級できるのならば、安い買い物だった。

昇級するために御丁寧にも一々魔物を倒している連中は馬鹿なんじゃないだろうか?

アーサーはそう思った。

確かに面接では危うい所だったが、それも無事に切り抜けた。

面接で聞かれる事もだいたいわかったし、次はそこさえ気をつければ大丈夫だろう。


(この調子で八級まではあっさりと行けるな!)


アーサーはそう考えていた。

八級はボーンナイフ2つを持っていけば、それで昇級だ。

それもどこかで買えるだろう。

流石に今日それをやったら怪しまれるかも知れないが、明日ならば大丈夫だろう。

明日までにどこかでボーンナイフを買っておこう。

そうすれば明日には八級になれる!

たったの2日で2つも等級を上げられるのだ!

そして八級まで行けば、七級はその次だ。

七級になれば、憧れの陶器等級ポッタークラスになれる!

こんな不恰好な木片ではなく、あの真っ白い登録証を身につける事が出来るのだ!

早ければ3日もあれば、自分は七級になれるかも知れない!

そう考えたアーサーの心は躍った。


(この調子で行けば、自分は過去最高の速さで、一級まで行く事が出来るかも知れないぞ!)


アーサーはそう思った。

ちょっと頭を使えばこんな簡単に昇級が出来るのに、1ヶ月や3ヶ月もかけて、訓練所に通う奴らの気が知れなかった。

そう考えたアーサーは気分が良かった。


もちろん、アーサーは最近この組合で登録した、自分よりも2歳も年下の少年の存在など知らなかった。

ましてやその少年が、いきなり1日で一級はおろか、その上の白銀等級シルバークラスで登録し、過去最高記録を打ち立てて、騒ぎになった事などは夢にも思わなかった。


 気を良くしたアーサーはそのまま組合の売店に行ってみた。

実は先ほど毒消し草を探しに行った時に、気になる物があったのだ。


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