ギルバートと仲間たち 04 魔法を習う

 ギルバートたち四人は、翌日に組合で聞いた魔法訓練所に来ていた。

組合員で魔法を習いたい者は、そこで魔法を教えていると聞いたからだ。

そこには「アースフィア広域総合組合魔法訓練所」と書いてあった。


「ここが組合の魔法訓練所か・・・」

「ああ、ともかく入ってみよう」


四人が入ると受付が声をかけてくる。


「こんにちは、入所ですか?」

「あ、いえ、こちらで組合員には安く魔法を教えてもらえると聞いたので・・・」

「ええ、組合員の方で、まだ何も魔法を覚えていない方でしたら、初級魔法をお試しで、どれでも一つ銀貨3枚で教えておりますよ」

「銀貨3枚ですか?」

「ええ、そうです。

二つ目からは大銀貨5枚になってしまいますが」


魔法学校の学費は高い。

入学するにも金貨が何枚も必要だと聞いている。

それを最初の一つだけとはいえ、魔法をたったの銀貨3枚で教えてもらえるとは破格の安さだ。

4人はお互いの顔を見合わせると、無言でうなずいた。


「ではお願いします」

「ええ、ただその前にあなた方の適性審査をさせていただきますね?

残念ながら魔法の才能のない方にはいくら教えても、扱う事は出来ないので・・・」

「はい、お願いします」


しかしその受付が四人を鑑定すると、驚いたように説明する。


「あら・・・あなた方は全員魔法の才能がありますね?」

「そうですか!」

「ええ、魔法の才能と言うのは20人に一人位しかいませんからね。

4人いらして全員が魔法の才能があるというのは非常に珍しいです。

正直、普通でしたら一人でも魔法の才能があれば良い方です。

それが4人全員魔法の才能があるとは驚きですね?

特にあなたと・・・そちらのあなたは、正規の魔道士にすらなれるかも知れないです」


そう言って受付がギルバートとウォルターを指す。

それを聞いてギルバートとウォルターがうなずく。

まさにあの人が言った通りだったからだ。


「本当ですか?」

「ええ、後は本人の努力次第ですけれどもね?

才能だけで優秀な魔法使いになれる訳ではありませんからね?

とにかくここで魔法をお試し価格で一つ学ぶことは出来ますよ?

何にしますか?」


その質問にギルバートが答える。


「では私はリーダーとして回復魔法を!」

「俺は火炎魔法を!

これでウォルターが浮気した時には燃やしてやるぜ」


そのデボラの言葉にギルバートが突っ込みを入れる。


「おいおい、デボラ、お前は魔法を覚えるよりも、もう少し女らしさを覚えろよ?」

「何言っているのさ!兄貴!

これが俺らしさってもんでしょ!」

「そうそう、デボラはそれでいいよ」


そう言ってウォルターはデボラをかばう。

ギルバートの妹でもあり、4人のうちで唯一の女性であるデボラであったが、かなりの美人で胸もかなりあるにも関わらず、その見かけと言動は男にしか見えなかった。

事実、普段はその大きな胸に布をきつく巻いて隠しているために、彼女の事はこのロナバールでは、仲間内以外では誰からも男だと思われていた。

しかしこれでもウォルターとは恋仲であり、意外にも二人の仲は良好だった。


「ま、二人がそれでいいなら俺はいいけどな?

それでウォルターとヨハンはどうするんだ?」


そのギルバートの質問に最年少のヨハンが答える。


「じゃあ俺は逆に氷結魔法にするよ!」


しかしウォルターは考え込んでいる。

受付の女性がウォルターに尋ねる。


「そちらの方は?」

「私は・・・・少々考えさせてください」


ウォルターが仲間に尋ねる。


「なあ、俺はゴーレム魔法を覚えてもいいか?」

「ゴーレム魔法?使役物体魔法か?」

「そんな難しい魔法を?」

「大丈夫なのか?」

「ああ、何か初級魔法を一つ覚えられるんだろ?

だったら俺はゴーレムの初級を、タロス魔法を覚えてみたい」

「好きにするがいいさ」

「ああ、ありがとう。

では私は使役物体魔法を御願いします」


そのウォルターの希望を聞いて受付が驚く。

使役物体魔法は一番低位のタロス魔法ですら難しく、最初の魔法として覚えようとする人間は滅多にいないからだ。

普通は他の魔法をいくつか覚えるか、正規の魔法士になった者が学ぶ魔法だ。


「使役物体魔法ですか?

それは構いませんが、かなり難しいですよ?

大丈夫ですか?」

「はい、覚悟の上です!」


こうして四人は魔法を覚えるべく、魔法協会で習い始めた。

四人の担当になったのは、見事な金髪巻き毛の美人魔道士だった。


「初めまして、私は講師のボロネッソと申します。

正規の魔道士で、普段は魔法協会の受付をしている事が多いですが、たまにこうして組合の応援で魔法を教えに来る事もあります。

皆さん、魔法は全くの初めてですね?」

「はい、その通りです。御願いします」

「では、まずはマギア・デーヴォの心得から行きましょう」

「マギア・デーヴォ?」

「はい、魔法を使う者は心得ておかなくてならない事ですよ」

「はい、わかりました!」


魔法の講義はまず魔法使いの心得から始まって、その後で実際の魔法の訓練となった。

三人は一週間ほどでそれぞれの魔法を覚える事が出来たが、ウォルターだけは一ヶ月近くもかかった。

その間も迷宮へ稼ぎに行きながらの魔法訓練だったので、4人は大変だった。

稼ぎが悪い日は食事を優先し、寝床はあきらめて野宿した日すらあった。

それでもウォルターは使役物体魔法の訓練をして覚えるのに懸命だった。

中々魔法を覚えられないウォルターが仲間に謝る。


「すまないな、俺のために」

「なぁに、気にするな!」

「そうそう、これでウォルターがタロス魔法を覚えるなら安いもんさ」

「将来はこれも良い思い出になるさ」

「ああ、ありがとう」


そしてようやくの事でウォルターも低位使役物体魔法、すなわちタロス魔法を習得する事が出来た。

しかしようやくの事で覚えた使役物体魔法を使っても、出来たゴーレムは2分と持たないのだった。

それはロクに動かす事も出来ず、1分少々も経てば魔素屑に崩壊してしまう。


「やれやれ、これじゃあまり覚えた意味がないなあ・・」


ボヤくウォルターに講師のボロネッソが力づける。


「大丈夫、ウォルターさんは結構筋が良いですよ?」

「本当ですか?こんな1分ちょっとしか持たないタロスしか出せなくて?

しかもロクに動かすことも出来ないんですよ?」

「初めてはそんな物です。

タロス初心者にはタロスを出した物の、そのまま全く動かせない人もたくさんいます。

私も最初に出したタロスはロクに動かせませんでした。

ウォルターさんは最初からこれほど動かせるのですから大した物ですよ。

これからレベルが上がって慣れていけば、もっと良くなりますよ」

「そうなんですか?」

「ええ、そうですよ。

おそらく30分位持つ程度にはすぐになりますよ。

そもそも攻撃魔法や回復魔法と違って、使役物体魔法と航空魔法は一生訓練と言われています。

特に使役物体魔法は訓練するほど、複雑な動きが出来て、持続時間も長くなるんですよ。

私も現在15時間位しか持たせられませんが、まだ伸びるでしょうからね。

ですから安心してこれからも訓練していってください」

「はい、わかりました。

でも先生は15時間も持続出来るんですね?

流石です!」

「ええ、正規の魔道士のタロス持続規定が12時間ですからね。

その程度持続できないと魔道士にはなれないのですよ。

でもさらに上級者になると、もっと持続時間を延ばせますよ。

例えば魔法学士になる最低持続基準は24時間だし、最大持続時間は三日間ほど持続させる事が可能と聞いています」

「三日ですか!そりゃ凄い!」

「まあまあ、とりあえず、実戦で使ってみようじゃないか?」


ぼやくウォルターをなだめて一行は迷宮へ向かった。

いよいよ迷宮で呪文を使う事となった。

他の者はすでに魔法を使えたが、最初は全員が一緒に使おうと約束して、ウォルターがタロスを覚えるまでは、みんな迷宮で魔法を使うのを控えていたのだ。

そして遂にその時が来た!

デボラが叫ぶ。


火炎呪文フラーモ!」


そしてヨハンも叫ぶ。


氷結呪文グラツィーオ!」


一行が驚いた事に、迷宮1階や2階程度の魔物なら全てが魔法で一発だ!

それどころか迷宮3階の魔物ですら攻撃魔法一発で片がつく。

今までの苦労に比べれば、驚きだった。


「凄いな!」

「魔法って、こんな強かったんだ!」

「これじゃ使える奴と使えない奴で差が開くのはよくわかるよ」

「ああ、火炎魔法が一つ出来ただけでこれほど違うとはなあ・・・」

「全くだな」

「しかし本当に我々に魔法の才能があったとはなあ・・・」

「ああ、未だに信じられない位だよ」

「これもあの人のおかげだな」

「ああ、あの人には改めて礼を言いたいな」

「全く、もっと強引に名前を聞いておくべきだった!」

「だけど顔もわからないんじゃ探しようがない」

「そうだな」

「しかし俺のタロスは何の役にも立たないな?」


ウォルターは迷宮でタロスを出してみたものの、ほとんど何の役にも立たなかった。

攻撃をしようにも動きは遅く、ゴブリン相手にすら攻撃は当たらなかった。

そして2分もしないうちに消滅してしまうのだ。

しかもまだ魔力量が少ないために、1日にタロスをせいぜい2体程度しか生成できないのだ。


「まあまあ、これからさ。

ボロネッソ先生も言っていただろ?」

「そうそう、今だってとりあえず、囮位の役には立っているじゃないか?」

「囮ねぇ・・」


それでもウォルターが懸命に練習したので、次第にタロスの性能も上がっていき、少々の戦闘も可能になり、持続時間も15分ほどになった。


「ふう、ようやく、何も出来ないよりかはましになってきたかな?」

「いやいや、これは凄いよ!」

「ああ、確かにちょっとした仲間が一人増えたみたいだ!」


こうしてそれまでは四人で一日に大銀貨1枚を稼げるかどうかの一行だったが、魔法を覚えた事により、1日に大銀貨2枚程度は確実に稼げる程度にはなった。


「ずいぶんと稼げるようになったものだな?」

「ああ、まさに魔法様々だな?」

「そうだな・・・それでこれからどうする?」

「まずは全員の装備を整えよう」

「そうだな、さすがに鎧ムカデ相手に木の棒はないな」


四人は全員が普通の旅人の服に、銅の短剣や、木の棒とろくな装備ではなかった。

そこでまずはまともな装備をと考えて、組合公式推薦の初心者冒険揃えを4人分購入する事にした。

初心者冒険揃えは大銀貨1枚だったので、毎日の生活費を考えても、4日で全員分を揃える事が出来た。

これにより、四人は攻撃・防御が共に格段に上がり、魔物を倒す事が一層楽になった。

初心者冒険揃えは大正解だった。

おかげで4人は一日の稼ぎが大銀貨3枚近くにまでなったのだ!


「これは本当に買って良かったな?」

「ああ、組合が公式に推薦するだけの事はある」

「うん、特にこの盾はいいな!」

「ああ、鎧ムカデの甲皮こうひを3枚も重ねてあるらしいからな」

「カンテラを吊り下げて、かなり激しく揺れても火が消えないのは助かるな」

「ああ、今までの奴はちょっと戦闘で揺れるとすぐに火が消えてしまったからな。

これは地味に助かる」

「レベルも上がってきたし、次は等級だな」

「ああ、まずは全員が八級を目指そう」

「それがいい」


魔法を覚えたギルバートたちにとって、八級昇級条件の魔物であるスケルトンなどは、もはや敵ではなかった。

その週のうちにスケルトンを倒して八級昇級条件のボーンナイフを8本集める事が出来た。

節約したので昇級用の大銀貨も四人分溜まっていたので、四人は一緒に八級になる事にした。

そしてその昇級審査の前にウォルターが仲間に提案する。


「なあ、八級になる時の事なんだが・・・」

「なんだ?」

「俺たちの職種を変えないか?」

「職種を?」

「ああ、曲がりなりにも俺たちも魔法を使えるようになったんだ。

8級になる時には赤線を他の色に変えてみないか?」

「そうだな・・悪くないとは思うが・・・」

「ああ、そうすれば、俺たちも改めて気が引き締まると思うんだ」

「でも、まさか青や緑という訳にはいかないだろ?」

「それはそうだ」


青は純粋に魔法で攻撃する魔法使い、緑も剣は使うものの攻撃は魔法が主体の戦魔士だ。

どちらも魔法が一つしか使えないギルバートたちが名乗るには無理がある。


「ましてや赤に青を加えるなんてな」


そのヨハンの言葉に全員が笑った。

登録証に赤と青の線を両方加えるのは「双闘士」だ。

それはよほど、剣と魔法に自信がある者でなければ、はたから見ればただの物笑いの種になってしまう。

ましてや八級で双闘士になるなど笑い者以外の何者でもない。


「まあ、黄色が無難な所だろうな?」

「そうだな」


黄色ならば魔法を使える魔戦士となる。


「魔戦士は正規の魔道士や魔法士でなくとも、ちょっと魔法を使えるだけでも名乗っている人は多いから別におかしくもないしな?」

「ああ、そうしよう」


全員が賛成したので、ギルバートたちは八級に昇級する時に職種を「魔戦士」に変更する事にした。

今まで赤い線だった登録証が黄色い線になった事で、ギルバートたちは大いに満足した。


「何というか・・・確かに気の引き締まる思いだな?」

「ああ、これで他の組合員から見られた時に魔法を使えるんだと思われると考えるとな」

「いいじゃないか!本当の事なんだし!」

「そうそう」


そして魔法を覚えた四人は、今まで以上に迷宮での訓練に勤しむのだった。


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