ギルバートと仲間たち 10 タロス訓練

 四人は組合の宿に戻って、話し合った。

今日はいつも以上に儲かった上に2体もタロスがいるし、相談もしたかったので、奮発して4人部屋を借りる事にした。


「おい、どうするよ!」

「俺たち、凄い物をもらっちゃったな!」

「今日一日、いや半日でレベルが4つも上がった上に、凄い稼ぎだ!」

「ああ、それにしてもあの少年は、あんな初心者みたいな見かけで、実はレベル200以上もあったって事か?」

「うん、グラーノの方は誰かに作ってもらって持っていたのかも知れんが、このタロスは両方ともその場であの人が出したんだからな」

「それにしても・・・あの少年は一体何者だったんだ?」

「ボロネッソ先生が青き薔薇ブルア・ローゾの団長だと言っていたな?」

「ああ、でもすぐに勘違いだと言っていたぞ?」

「本当に勘違いだったんだろうか?」

「うん、何かあの時、慌てていたしな?」

「そういえば、あの少年は狼獣人の少女と一緒だったな?」

「ああ、そして今日初めて見た青き薔薇ブルア・ローゾは、団長の少年と狼獣人の少女はいなかった・・・」

「別行動をしていたのは間違いないが・・・」

「まさか・・・?」

「わからん・・・

しかしあの少年が青き薔薇ブルア・ローゾの団長ならば納得も行く。

何しろあの団長はレベル200を超えているんだからな?」


ギルバートたちにはシノブたちが囮捜査をしている最中だったなどとはわかりもしない事だった。


「仮にあの少年がその団長だとしてだ。

それが何で見ず知らずの俺たちにあんな凄いタロスをいきなりくれるんだ?」

「それもわからん・・・」

「そうだな・・・それは今度、青き薔薇ブルア・ローゾの団長を見ればわかるかも知れないな!」

「ああ、そうだ。俺たちもあの少年の顔は覚えているんだからな!」

「まあ、ともかくだ!

これの使い方によっては、今後の俺たちは大きく変わるぞ!」


そう言いながらギルバートが自分の傍らに立っている紺色の甲冑型タロスをペシペシと叩く。


「ああ、そうだ、明日も早くからこいつらを連れて迷宮へ行こう!」

「そうだな、明日までは持つんだ。

有功に使おう!」

「今夜はもう寝ようぜ!」

「そうだな、明日は早くから迷宮へ行って、このタロスが消滅するまでは稼ぐつもりでいよう!

それもいつもみたいに歩きではなく、馬車で行こう!

その方が時間を有効に使えるからな!」

「賛成だ!」


全員がそう言って賛成すると、デボラが立ち上がって話す。


「じゃあ俺は風呂に行ってから寝るよ!」


そのデボラにウォルターが苦笑しながら話す。


「それは構わないが、また風呂で男と間違えられるなよ?」

「大丈夫だっつーの!」


見た目は美形だが男に間違えられるデボラは、これまで何度も女風呂で男と間違えられていた。

もっとも胸を巻いている布をほどき、裸になれば、その大きな胸を見て誰もが納得はして、大騒ぎになる事はなかった。


翌日になって、ギルバートたちは朝早くから準備を整えて、再び迷宮へと行った。

もちろん二体のタロスも一緒だ。

迷宮に到着した一行が作戦を確認する。


「さて、今日の作戦はこうだ。

まずは昨日と同じように、6階まで行ってタロス中心で魔物を倒す。

いわゆる「上げ屋」としてタロスを使うんだ!

途中、多少休憩は取るが、基本夕方まで気合を入れて行くぞ!

こんな機会はそうそうないんだからな!

今日一日に一か月分を費やすつもりで行くぞ!」


そのギルバートの言葉に全員がうなずく。


「ああ、もちろんだ!

毒消しも体力回復剤も治療薬もたくさん持った!」

「用意万端!頑張るぞ!」

「ウォルターは念のために護衛用にタロスも出しておいてくれ」

「ああ、任せておけ!」

「そして万一、このタロスが戦闘中に消滅してしまったら、即座にその緑色のグラーノを一体出す。

俺たちの命に関わるんだから、出し惜しみはなしだ!

それでいいな?」

「おう!」

「それで構わない!」


一行は六階で順調にレベルを上げて、昼には多少の休憩を取った。

そして午後には迷宮の七階で訓練をし始めて、夕方頃には全員がレベル31までになった。


「凄いな・・・」

「ああ、たったの2日でこれほどレベルが上がるとはな・・・」

「レベルだけなら、もう俺たちは六級並だぞ?」

「確かにな」

「しかし流石に疲れた。

レベルも驚くほどに上がったし、今日はこれで引き上げるか?」

「そうだな、無理は良くない」

「賛成だ。それにそろそろこのタロスたちも限界だろう」


四人はうなずいて迷宮の外へと向かった。

外はすでに夜だった。


「おう!もうこんな時間だったのか!」

「まあ、迷宮の中では時間はわからないからな」

「しかし、これほど迷宮の中にいたのは初めてだな」

「馬車はまだあったかな?」


迷宮の外へ出ると、森の中を歩いている間に、ちょうどタロスは二体とも消え去った。

どうやら時間が来たようだ。


「あ・・・・」

「ついに消えたか・・・」

「惜しいな・・・」

「しかしこれほど持つとはな・・・」

「ああ、凄い」

「それで、明日からはどうする?」

「うん、まだ同じようなグラーノが4つもあるんだからな。

しかもそれは三日も持つと言っていた」

「そうだな、しかしまず俺たちの今の実力を確認しておいた方が良いんじゃないか?」

「ああ、あのタロスなしで俺たち四人が現時点でどれほど戦えるのか試してみよう」

「賛成だ」


次の日から四人はあの少年からもらったタロスなしで迷宮へと向かった。

レベルが31まで上がった四人は以前とは比較にならないほど、強くなっていた!


「凄いぞ!もう五階なら問題なしだ」

「ああ、しかしこれはウォルターの力が大きいな」

「全くだ!このタロス、三日前の俺たちより強いんじゃないのか?」

「そうだな、ウォルター、このタロスのレベルはいくつなんだ?」

「21だ」

「おいおい!それなら本当に三日前の俺たちよりも強いじゃないか!」

「それが2体もいるならありがたい!」

「しかも以前よりも戦闘の動きが格段に良くなっているしな!」

「それはあの人の助言のおかげさ。

拳の強度以外でも具体的にイメージしてタロスを生成すると、同じレベルのタロスでも、前よりも随分と強くなった」

「なるほどな」


レベルが上がり、最大魔力量も増えて熟練してきたウォルターは、今や一日に15体ほどのタロスを出せるようになっていた。

しかもそれを3時間は維持可能になったので、それが一旦消滅したとしても次のタロスを出せば、ほぼ1日中タロスを出している事が可能となった。

だからウォルターは、今やタロスを常に二体ずつ出していた。

そんな時、一行の前に忘れもしない魔物が出てきた!

その魔物を見てギルバートが思わず呟く。


「キラードール・・・」


三人が息を飲む中でウォルターが一人叫ぶ!


「みんな!ここは俺に任せてくれ!」

「いいのか?」

「ああ、俺一人で大丈夫だ!

アニーミ・エスト!」


ウォルターはさらにもう一体のタロスを出して、タロス3体と自分でキラードールを囲む。

ウォルターのレベルはまだキラードールより低く、タロスたちのレベルはさらに低いが、牽制には十分役に立つ。

タロス3体で牽制をしながらウォルターは隙をうかがい、キラードールを攻撃する。

しばらくの攻防の後、ついにウォルターはキラードールを葬る。


「ふう・・・」

「やったな!ウォルター!」

「ああ、だがまだタロスたちの助けを借りなきゃ無理だがね。

しかもそのタロスも二体はやられてしまった」

「それだって実力さ!」

「そうだな」


その後、ギルバートたちもその一帯の魔物を単独で退治する。

キャサリンと来た時には命も危なかった一行だったが、今やキラードールを単独で倒せる事でかなりの自信をつけた。


「どうやらこの辺でも俺たちは大丈夫なようだな?」

「ああ、これでようやく俺も使役物体魔法を覚えた甲斐があったってもんさ」

「では自分たちの力もわかった事だし、いよいよ等級を上げてみるか?」

「賛成だ」


どうやら最低でも七級相当には間違いなくなっているので、4人は等級を上げる事にした。


「等級はどうする?」

「ああ、今の俺たちはレベルだけで考えれば、六級相当のはずだ」

「しかしいきなり六級まで上げてしまって良いのか?」

「確かにそれは考え物だな」

「とりあえず、七級までは上げよう。

そうすれば正式な組合員になれるんだ。

それに義務ミッションも年に一度で、今みたいに毎月しないで済むようになる。

しかも俺たちは昇級して初年度だから、今年の義務ミッションは免除されてなしですむ。

だから七級までは昇級しておいた方が良い。

しかし六級になるのは、もっと色々と経験してからの方が良いだろう。

何しろまだ七級の義務ミッションだってこなせるかどうかもわからないんだ。

しばらくは七級で様子を見た方が良い」

「そうだな、とりあえず七級になれば十分だ。

そもそも予定ではこんなに早く七級になれるとは思ってなかったからなあ・・・」

「ああ、正規の組合員になるんだからな!」

「それとあの少年を見つけよう!」

「ああ、そうだな、あの人を見つけたら俺も礼を言いたい!」

「俺もだ。

何しろあのタロスをもらった時は、まさかあんな凄い物だとは知らなかったからな!

あんな物だと知ったからには、改めて礼を言いたい。

あの少年はあの狼獣人の少女とずいぶん仲が良かったから、探すのは意外に簡単なんじゃないかな?」

「そうだな、あんなナヨッとした少年と獣人の少女の組み合わせは珍しいからな」

「おいおい、自分たちの恩人にナヨッとしたはないだろう!」

「失敬、ではかわいらしい少年だ」

「それもなんだかな~」

「まあ、いいじゃないか?

ともかく色々なミッションをしながらも彼を探そう」

「ああ、そうだな」


しかしここでギルバートがため息をつきながら話し始める。


「しかし俺はまだまだ人を見る目がないな?

あのキャサリンがミスリルの装備をして俺たちの前に来た時は、立派な剣士だと思って騙されたし、逆にあの人が最初に俺たちに話しかけた時は、正直俺たちより年下で、まだ組合員にもなってない単なる初心者のカップルだと思っていた。

リーダーとしては全く失格だ、皆、すまん」


そう言って頭を下げるが、他の3人が慰める。


「いや、それは俺たちだって同じさ。

まさかあの少年がレベル200を超えているなんて、誰も思っちゃいなかったさ。

それに年下ってのは、間違いないだろうしな」

「そうさ、俺も単なる金持ちのボンボンと御嬢様のカップルが物珍しさで組合に来ただけだと思っていたさ」

「俺だってそうさ」

「ああ、これからも俺たちは腕を磨き、人を見る目を養おう!」


そのギルバートの言葉に全員がうなずく。

それ以来、四人はあの少年と狼人の少女を探しながらミッションをこなしていたが、中々あの二人は見つからなかった。


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