ポリーナ・パーシモン 09 パーシモン村の陳情

 アルマンは自分たちを囲んでいるゴブリンたちをねめつける様に見つめた。


「なるほどな・・・こうしてカルロの奴はやられた訳か?」

「・・・そういう事だったのですか・・・」


ポリーナもようやく理由がわかってうなずく。

アルマンはゴブリンたちを睨み、長年の恨みを吐き出すように呟く。


「つまりわしは息子だけでなく、孫までお前たちにやられていたと言う事か?」

「大御爺様・・・」

「くくく・・・全くわしの一族は、お前らとよくよく縁があるのかのう・・・」

「大御爺様?」


心配そうに高祖父を覗き込むポリーナに、一転してアルマンが笑顔で話しかける。


「うむ、だがわしらはカルロのようには行かぬぞ?」

「ええ!大御爺様!」


ホッとしたポリーナにアルマンが決然と指示を出す。


「いくぞ!ポリーナ!ヴェルダ!

マギーラ!ラッシュ!ロカージョ!」

「はい!」


ポリーナの返事と共にタロス魔法を使える5人が叫ぶ。


「「「「「アニーミ・エスト!」」」」」


途端に一行の周囲に1千近いタロスの壁が出来上がる。

たった6人だった森の円形広場は戦闘タロスで埋め尽くされた!


「行け!奴らどもを一匹残らず屠るのじゃ!」

「はい!」


アルマンの合図と共に甲冑騎士型戦闘タロスたちがゴブリンに襲いかかる。

ゴブリンたちも襲いかかってくるが、レベル100のタロスたちにたちまち倒されて押される。

しかしその後方から大型のゴブリンたちが現れる。

ホブゴブリン、ゴブリンチーフ、ゴブリンキャプテンなどの中位種のゴブリンだ。

しかしアルマンは怯む事なく、さらに戦闘タロスを追加して相手に送り込む。


「何の!」


その大型ゴブリンたちもさらに増えたタロスたちに押される。

するとさらにその背後から別のゴブリンが現れる。

そのゴブリンたちは魔法を放って来る。


「む、メイジゴブリンか!」


アルマンやポリーナたちも魔法で応戦してメイジゴブリンを倒す。

しかし、森の奥からさらに2匹のゴブリンたちがやって来る。

そのゴブリンの一匹は先ほどのメイジゴブリンとは桁違いの魔法を放って来る。


「ソーサラーか?ラッシュ!行け!」

「はっ!」


アルマンの命令と共にラッシュが切り進み、一気にゴブリンソーサラーを倒す。

もう一匹のゴブリンの周囲には突然200匹は下らないゴブリンの集団が現れる。

しかもそのゴブリンは通常のゴブリンよりもはるかに強い!

そのゴブリンの出現により圧倒的に押していたアルマンたちの戦闘タロスも進撃が遅くなる。


「む?ドルイドか!

よし!わしとヴェルダのタロスはそちらを集中的に攻めよ!」


その強いゴブリンたちはゴブリンドルイドの作り出したタロスだった。

それに対してアルマンは自分とヴェルダのタロスを集中的に攻めさせた。

レベル100のタロスの集中攻撃により、たちまちドルイドの作り出したゴブリンタロスは駆逐されていく。


「よし!ヴェルダ!今だ!

奴の首を取れ!」


ゴブリンタロスの層が薄くなって来た所で、アルマンが命令を出して、ヴェルダがタロスを掻き分けて行き、ゴブリンドルイドの首を取る。


このゴブリンソーサラーとゴブリンドルイドが集団の頭だったらしく、残ったゴブリンたちは逃げていった。

そのゴブリンたちを追って、戦闘タロスが掃討戦を始める。


「よし、ラッシュ!マギーラ!

奴らを追いかけて、本拠地を探って来い!

場所がわかったら無理はせずに村へ帰って来い」

「かしこまりました!」


その姿を見送ってアルマンが呟く。


「うむ・・・やはりここまで来ておったか・・・

ポリーナ、偵察はここまでじゃ。

村に帰るぞ」

「はい、大御爺様」


村へ帰ると、アルマンは村の者たちへ、近日中に大規模なゴブリンの侵攻があるだろうと伝えた。

そして出来れば他の村か街へ、しばらく避難するように勧めた。



 翌日からアルマンはゴブリン対策の作業を行い始めた。

ヴェルダとラッシュ、ロカージョ、セルーヌには、森へ薬草を取りに行かせがてら、可能な限りのゴブリンを撲滅させて、数減らしをしていた。

少しでも数を減らしておいた方が後々有利になるし、毎日攻撃をしていれば、相手がこちらへの侵攻をしにくくなるからだ。

そして先日の逃走したゴブリンの追跡とその後の調査で、ゴブリンの本拠地は森の奥にある山の大洞窟の中らしい事がわかった。

一方でアルマンは村長の許可を取り、マギーラと共に大量のタロスで森の入口から木を切り始め、その木を村へ運び、村の防護柵を強化し始めた。

そしてゴブリンの予想進入方向の村の近場にも防護柵を作り、その中心に防御のための巨大な倉庫兼家屋を作り始めていた。

また、自分たちの家であるパーシモン診療所も強固に作り直し、土塀などの崩れている場所も、セルディアやセルトリに補修させていた。

日に日に森は切り開かれていき、ゴブリンの巣窟と思わしき方向へ道を作っていった。

そしてパーシモン診療所は、見た目こそはそれほど変わらないが、堅固な要塞へと化して行った。

そんなある日、村長がアルマンを訪ねて来た。


「やあ、ポリーナ、アルマンさんはいるかい?」

「あ、村長さん、大御爺様はちょうど今帰って来た所ですよ」

「そうか」


村長はアルマンと話し始める。


「やあ、アルマンさん、調子はどうだい?」

「最近はお互いに手詰まりになってきましたな。

 奴らはゴブリン狩りをする者がいるのを知って、しばらくは動きを控えているようです。

 なので、ここ数日はあまり数を減らせておらぬ。

もっともその代わりに巣窟への道作りや要塞作りは順調じゃがね。

そういう意味では、こちらとしては日数が稼げる準備が出来て助かる」

「それでアルマンさん、やはりこの村は狙われているのかい?」

「そうじゃな、まず間違いはない」

「ゴブリンに?」

「その通りじゃ」

「・・・ゴブリンキラーとまで言われるあんたが言うんだ。

間違いはないのだろう。

ところで、村のみんなとも話し合ったんだが、アースフィア広域総合組合と魔法協会にこの村から正式にゴブリンの討伐を頼もうと思うのだが、どうだろうか?」

「それは良いと思うが、果たして相手の規模を信じてもらえるかどうか・・・

それにこれを頼むとなると、依頼料がとても足りませんぞ?

おそらく依頼料は金貨千枚でも足りないはずじゃ。

この村の金を全てかき集めても足りますまい?

わしが魔法協会や組合に話しに行かないのも、その2点が問題だからじゃ」


そのアルマンの言葉に村長がうなずいて答える。

確かにこれほどのゴブリン侵攻があるとは信じがたいし、信じたら信じたで、その討伐依頼料金は途方もない金額となるはずだ。

その点を村長も話し始める。


「そこであんたに頼みたいのさ。

ゴブリンキラーと異名を取るあんたに村の代表として、わしと一緒に町の魔法協会に陳情に行ってもらえれば相手にも信じてもらえるだろうし、依頼料の方も国家存亡の危機となれば、一つの村の問題ではなくなるから協会や組合も公的問題として扱ってくれるだろう。

それと陳情するに当たって、この村には今まで正式名称がなかったが、これを機会に正式に「パーシモン村」と名乗る事に決めた」

「パーシモン村?何故です?」


普通、村の名前はその地域や故事にちなんだ物か、さもなければ村長の名前がそのまま村の名前として通っていた。

それ以外の名称が正式に採用されるのは稀である。

アルマンの質問に村長は笑って説明した。


「あんたとポリーナの魔法診療所はこの村だけでなく、今やこの近隣の村で有名だ。

この近くの村で医師や魔法治療士がいない村では、ここを「パーシモンの治療村」と呼んで、それが定着してしまっているそうだ。

まあ、メディシナーやベープには遠く及ばないが、それでもここは医療の村として近隣ではそれなりの知名度になって来たというわけさ。

おかげで以前よりも行き来する人間も増えて、この村の収益にもなっている。

あんたとポリーナたちのおかげと言う訳だ。

それを今更他の名前に変更しては近隣の聞こえも悪い。

それでこの村の名前を正式に「パーシモン村」とした訳だ。

そしてそんな村が襲われて無くなってしまっては、この近隣の村々としては今後の治療に困るし、次に襲われるのが自分たちの村になるかも知れない。

この近くの村の連中もそう考えて、この村と一緒に国に訴え出る事にしたのさ。

そのつもりですでに近隣の村とも話し合って、この話はこの界隈の村や町の合同の依頼、いや、国への陳情という事になっている。

あんたにその代表になって欲しいわけさ」

「なるほど、事情はわかりました。

しかしわしはゴブリン対策のために、今はここを動くわけには参りません。

代わりにポリーナを代表にしてください」

「え?ポリーナを?」


まだ年端も行かない少女を陳情団の代表にしろと言われて村長も驚いた。


「うむ、ここから魔法協会の支部まで近隣の村々総出で陳情しに行くとなると、2日や3日では終わりますまい。

その間、わしがここを留守にした隙にゴブリン共が襲ってきたら、一体誰が奴らを撃退するのじゃ?」

「そ、それは確かに困る」


せっかく討伐を陳情しに行ったのに、その間に村が全滅してはたまらない。

そして現状でアルマン以外にゴブリンの大群を食い止める術を知る者はいないのだ。

村長はアルマンを代表にするのを諦めざるを得なかった。


「じゃから代わりにポリーナを連れて行って陳情団の代表にしなされ。

大丈夫、あの子は賢い子じゃし、わしと一緒にゴブリンウイザードも討伐したのですぞ?

それにオリナスの組合支部長や魔法協会支部長とも顔見知りじゃ。

特に組合支部長のエルネスト殿はポリーナを気に入った様子じゃ。

ポリーナが言えば、エルネスト支部長も話を聞いてくださるじゃろう」

「何と!ポリーナは組合の支部長とも知り合いなのかい?

そりゃ心強い!

ではポリーナに代表になってもらおう」


こうしてポリーナはゴブリン討伐陳情団の代表となってオリナスへ向かう事となった。

アルマンは本当に陳情が成功した場合には、どのような事を説明して、何を頼めば良いかをポリーナに教えた。

敵はゴブリンキングである事、その総数は数千を超え、場合によっては1万を超える可能性が高い事、一旦近隣の村々への侵略が始まれば、軍隊を派遣しても全滅させるのには数ヶ月から数年かかる事になるだろう事などだ。

そして討伐が決定された場合、何が必要になるかもだ。


オリナスの町に着いたポリーナは村長と共にまずはアースフィア広域総合組合に行った。

受付でポリーナが名乗り、支部長との面会を求めると、ポリーナを見知っている受付は、すぐさまにエルネストへ報告し、会う事が出来た。


「こんにちは、エルネスト支部長」

「おお、これはポリーナさん、今日は一体何の用事で来られました?」

「はい、今日は大御爺様の名代と、この村の方々の代表としてお話があって参りました」

「・・・なるほど、伺いましょう」


こうしてパーシモン村のポリーナを代表とする、ゴブリン討伐を依頼する陳情団の話し合いが始まったのだった。

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