ポリーナ・パーシモン 08 ゴブリンキングの侵攻

 ポリーナたちが帰った村は様子がおかしかった。

あちこちの田畑が荒らされ、家屋が損傷している建物も一つや二つではなかった。

ポリーナたちが村を歩いていると、パン屋のおかみさんが彼女たちを見つけて話しかけてきた。


「あんたたち!今帰って来たのかい?

昨日は大変だったんだよ!」

「どうしたの、おかみさん?」

「昨日の晩さ、ゴブリンどもが森から襲って来たのさ」

「ゴブリンが?」

「ああ、ここんとこ確かにちょいちょい夜は来てたみたいだけど、昨日はどうも凄い数で来たみたいでね。

家畜なんぞも結構やられちまったのさ」

「人は?村人は無事ですかな?」


アルマンの質問におかみさんが答える。


「ああ、ここは別名ゴブリン森の村なんて言われているくらいだからね。

どこの家もゴブリンの来襲に備えはあるから人間は無事だったけどね。

だけどこれほどの襲撃があるんじゃ次は危ないかもねぇ・・・」


この村にはよくゴブリンが襲ってくるので、各家庭には必ず塀か柵があって、簡単に家の中には入れぬようになっており、さらに家の中には避難所のような場所が設けられていた。

そこに入っていれば、少なくとも一晩位はゴブリンの攻撃を防ぐ事が出来た。


「うむ、これはいよいよ来るべき時が来たか・・・」

「大御爺様?」

「ポリーナや、よくお聞き。

これはおそらくゴブリンの総攻撃の前触れじゃ」

「ええ?総攻撃?」

「まずは家が心配じゃ。早く帰ろう」

「ええ」


家に帰ったポリーナは一安心した。

我が家は無事に残っていた。

留守番をしていたセルーヌたちも無事だった。


「大丈夫だった?セルーヌ?」

「はい、昨晩は家の塀などを少々壊されたようですが、私たちは無事でした。

我が家に侵入しようとしたゴブリンも数匹おりましたが、我々三人で撃退いたしました」

「そう、良かったわ、でも無理はしないで危なかったら家の中の避難所に隠れてね?」

「はい、承知いたしました」


考えてみればアルマンの持っているジャベックの中では一番弱いとは言っても、セルーヌたちはレベル50なのだ。

普通のゴブリン程度ならば、何匹かかってきても大丈夫だろう。

家が無事なのを確認すると、アルマンがポリーナに話す。


「ポリーナ、帰って来て早々に疲れている所で悪いが、これから森へ偵察に行くぞ。

お前も着いて来なさい」

「はい、大御爺様」


アルマンとポリーナは森へと入っていった。

もちろん、ヴェルダ、ラッシュ、マギーラ、ロカージョも一緒だ。


「どこまで行くの?大御爺様?」

「奴らが出てくるまでじゃ、それも大量にな」

「大量に?」

「ああ、おそらく数百匹は下らぬはずじゃ」

「数百匹?」

「まずは以前、お前がメイジゴブリンと出会った場所まで行ってみよう」


そう話しながら進むうちに一行は広場に出た。


「以前、ヴェルダたちと一緒に来たのはここよ」

「そうか・・・ふ~む・・・」


しばらくそこの草原を探っていたアルマンだったが、やがてある物を見つけた。

それを拾ったアルマンが思い出したように話す。


「む、これは!」


それを見たポリーナも叫ぶ。


「あ、それは、御爺様の!」

「やはりカルロのか?」

「ええ、それはカルロ御爺様のしていたペンダントですわ。

でも、なぜここに?」

「ふうむ、ポリーナや、カルロは流行り病で倒れたと言っておったな」

「ええ、そうですけど・・・」

「何かおかしな点はなかったか?」

「そういえば、祖母や父のお葬式は普通にしたのに、祖父のお葬式は遺体を見た記憶はないし、棺桶もありませんでした」

「それ以外には?」

「そうですね・・・いえ、そう言えば母が御爺様は森へ薬草を取りに行って、皆を守るために亡くなったと言ってました。

考えてみれば私、御爺様が流行り病で亡くなったと勝手に思っていましたけど、誰にもそんな事は聞かされていませんでした。

ひょっとしたら流行り病で亡くなったと思っていたのは私の勘違いかも知れません」

「ふむ、もし、わしの考えている通りならば・・・しかしカルロは一人前の魔道士だったはず・・・解せぬな・・・待てよ?」


そう言うとアルマンは一体のタロスを生成する。

それは魔道士の帽子を被りマントを羽織ったような、見た目の格好がいかにも魔道士然とした感じのタロスだった。


「ロカージョ!こいつを思いっきり空に投げて見せろ!」


ロカージョは無言でうなずくと、力いっぱいそのタロスを空に放り投げる。

すると空に放り投げられたタロスを狙ってどこからか火炎弾を撃って来た。

魔道士型タロスはその魔法攻撃で撃墜されて地表に落ちてきて、そこで四散して消えた。


「なるほどな」

「え?どういう事ですか?大御爺様?」

「カルロは流行り病で亡くなったのではない。

おそらくはここでゴブリンと戦って死んだのだ」

「ええっ?御爺様が?」

「おそらくカルロはここに薬草を取りに来たのだろう。

流行り病の者たちを治すための薬草をな。

魔道士なので、魔物に会っても問題なしと思い、一人で森の奥深くまで入ってきたのだろう。

しかしここで思わぬ強敵と出会い、航空魔法で逃げようとした所、今のように何者かに魔法で撃墜された。

そしてここでその強敵と戦い、最後におそらくすべての魔法力を放出して敵を倒したのだろう。

この円形の広場は、おそらくその攻撃の跡だ」

「ええっ?一体誰が御爺様を?」

「そいつはおそらくカルロと相打ちになって死んだじゃろう。

しかしそいつの同類は今度はわしらを葬り去ろうと、今もそこらにいるはずだ」


まるでそのアルマンの言葉を待っていたかのように広場の周囲に魔物の影が現れる。

それも30や40ではなく、少なくとも100以上の魔物の集団がポリーナたちを包囲していた。

それはゴブリンの集団だった。

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