ギルバートと仲間たち 01 田舎を出て

 その4人組は組合の大食堂デパーチャーで困っていた。


「しかし参ったな・・・」

「ああ、十級や九級が組合で初心者扱いすらされない理由がよくわかったよ」

「俺たち四人で一日の稼ぎが大銀貨1枚にもならないとはなあ・・・」

「その九級になったのだって、やっとなんだぞ?」

「ああ、しかも九級からは義務ミッションが毎月入る。

 試しに九級にするのを一人だけにしておいて正解だったよ」

「ああ、全員を九級にしていたら、今の俺たちじゃ義務ミッションは達成できないからな」

「ああ、組合員用の簡易宿舎がなかったら俺たち毎日野宿だぞ?

食事だってギリギリだ。

自由日や休日だって迷宮へ稼ぎに行かないとならないしな」

「その迷宮へ行くにも馬車にすら乗れない始末だからなあ・・・」

「これからどうするかなあ・・・」

「う~ん、そうだなあ・・・

誰か強い人が指導でもしてくれればいいんだけどなあ・・・」

「そんな夢みたいな事考えたって仕方がないさ」

「う~ん・・・困った」


そう言って、ギルバート、ウォルター、デボラ、ヨハンの4人は再び考え込む。

この四人は田舎の村からロナバールに来て、アースフィア広域総合組合の組合員になったばかりだった。

御他聞に漏れず、大都会のロナバールで冒険者になって一旗あげようと言う類の連中だ。

しかし現実は厳しかった。

実際にここロナバールに来たものの、ろくな事は出来なかった。

全員が村ではそこそこのレベルだったが、この大都会へ来れば底辺の冒険者に過ぎなかった。


そんな4人の前に突然一人の女性が現れる。


「あなたたち!困っているわね?」

「え?」


そこには全身ミスリル装備の女性騎士のような格好の人間が立っていた。

全身がミスリル銀の剣、盾、鎧で固められていて、銀色のマントを優雅に翻して悠然とギルバートたちの前に立っている。

その騎士然とした美女が、改めてギルバートたちに話しかけてくる。


「なんなら私が少々鍛えてあげてもいいわよ?」

「え?どういう事です?」

「私の名前はキャサリン・シャイロック!

 御覧の通り、剣士でレベルは51よ!」

「え?レベル51?」


レベル51と言えば組合の等級では4級のはずだ。

それはギルバートたち駆け出しの冒険者4人組からすれば、はるか上の存在だった。


「よければ私が迷宮で鍛えてあげても良いけど?」

「よろしくお願いします」


四人はレベル51の剣士と聞いて即座に飛びついた。

キャサリンは大喜びで、新しく仲間になった連中と迷宮へと向かった。


新しい仲間と共に迷宮へ到着すると、キャサリンは怯える仲間を強引にレベル不相応な迷宮の階層に連れて行った。

いくら初心者用の北東の迷宮と言っても、6階層にもなれば魔物のレベルは30を超える。

レベルが20にも満たない4人にはそこは余りにも危険な場所だった。

しかしキャサリンはどんな魔物が出ても自分が倒して見せると豪語して、無理やり連れて行ったのだ。

確かにキャサリンは楽に魔物を倒せるが、ギルバート達には総がかりで一匹倒せるかどうかという場所だ。


「ええ?こんな場所へ?」

「キャサリンさん!こんな場所は、今の我々にはまだ無理ですよ!」

「何を言っているの!

こんな程度の場所でそんな事を言っていたら話しにならないわよ!」

「そうは言っても・・・」

「我々は魔法も使えないし・・・」

「魔法?あんな物に頼らなきゃならないのは素人よ!素人!」

「ええ?」

「そんな馬鹿な??」


魔法を全否定のキャサリンに4人は驚く。

ギルバートたちはそのキャサリンの言葉に顔を見合わせて首をかしげる。

魔法を使うのは素人・・・そんな事があり得るだろうか?

4人はキャサリンの言動を疑うが、もちろんキャサリンは魔法を軽んじているので、そんな事は全く気にしていない。

意気揚々と四人を引き連れて迷宮へと入って行った。


「うわ!ミノタウロスだ!」

「大丈夫よ!こんな奴!」


必死に防御するギルバートたちを囮にして、キャサリンはミノタウロスを後ろから襲い掛かって倒す。

レベル51もあって、全身がミスリル装備のキャサリンにとってはレベル30のミノタウロスとて後ろから不意打ちすれば十分に倒せる。

ミノタウロスを倒したキャサリンは得意げだ。


「ほらね!」

「そりゃあなたは楽勝でしょうけど・・・」


これではギルバートたちには何の訓練にもならない。

確かにレベルの高い魔物を倒すので経験は上がっていくが、あまりギルバートたちの修行にはならない。

迷宮を進むにしたがって、次第にギルバートたちはキャサリンを怪しむようになっていく。


「なあ?あの人ちょっとおかしいんじゃないか?」

「そうだな?魔法を使うのが素人だなんて・・・」

「それにうっかりついて来たけど、よく見たらこの人、組合の登録証してないぞ?

 組合員じゃないんじゃないか?」

「やっぱりおかしいよ!」


しかもこのキャサリンという女性は自分の率いているパーティの総合力を全くわかっていないのだ。

確かに魔物のほとんどをキャサリンが倒しているが、仲間にはそれを褒め称える余裕すらない。

流石に初心者のギルバートたちでも、この状態が異常な事に気がついたようだ。


「もうダメです!キャサリンさん!

もっと弱い魔物が出る場所へ行きましょう!」

「何言っているの?

話にならないわよ!

これでも低すぎる位なんだから!」


そう言って強引にキャサリンは迷宮を進む。

ギルバートたちはそんなキャサリンに疑問を持ちながらも仕方なくついていく。


「なあ、大丈夫か?これ?」

「いや、どう考えてもおかしいだろ?」

「ああ、俺たちはおかしな人間に引っ掛けられたのかも知れない・・・

確かにこの強さから言って、レベルが51というのはウソではないかもしれないが、他の行動がおかしすぎる」

「どうする・・・?」

「これ以上この人に付き合っていたら、こっちが危ないぞ?」

「そうだな」

「やはり引き返させよう」

「ああ、賛成だ」


キャサリンはどんどん先に迷宮を進んでいたが、ついにギルバートたちが全員で抗議をし始めた。

全員で猛然とキャサリンに詰め寄り、引き返す事を提案する。


「やはり無理です!

キャサリンさん!」

「引き返しましょう!」

「だからだめだって言ったでしょ!」


あくまで引き返さないキャサリンに対してついにギルバートたちは別れを決意する。


「では我々だけで戻ります!

あなたは一人でこの先へ行ってください!」

「え?」


キャサリンは驚くがギルバートたちはクルリと踵を返して、昇降機のある場所へ戻り始める。


「ちょ、ちょっと!待って!待ちなさいよ!」


キャサリンは慌ててギルバートたちを追うが、そんなキャサリンを無視してギルバートたちは覚悟を決める。


「みんな気を引き締めろよ!」

「ああ、わかっている!」

「仕方がないさ!」


 ギルバートたちが昇降機へ向かっている最中に、運悪く、その辺りでは最強の魔物が出てきた。

レベル36、キラードールだ!


「これは!」

「確か・・・キラードール!」

「は、早い!」

「何とかしないと!」

「しかし早すぎる!」


4人が戸惑っている隙にキラードールは襲い掛かり、一人の腕を切り落とした!


「ウォルター!」

「大丈夫か!?」

「ああ、何とかな・・・」

「しかしこれでは・・・」


そこへキャサリンがキラードールの後ろから切りかかる。


「たあっ!」


キラードールが体制を崩したところで、すかさず残りの二人が切りかかり、さらにキャサリンが止めを刺して、何とかキラードールを倒した。


「早く!ウォルターの腕を!」

「ああ!」

「止血だ!」


そしてギルバートがウォルターの腕を拾って、腕を止血して、応急手当をする。


「ほらぁ!やっぱり私がいなきゃダメでしょ?」


得意げにキャサリンが話すが四人は無視だ。


「急ぐぞ!」

「ああ、もちろんだ!」


活躍した自分を無視されてキャサリンは不満げだ。


「ちょっとぉ!何で私を無視するのよぉ!

私のおかげで助かったんでしょぉ?」


自分の一撃でキラードールを倒したキャサリンは得意げだが、そんなキャサリンを仲間たちは無視だ。

その後は運よく魔物にも出会わず、何とか昇降機までたどり着き、傷つきながらも昇降機に乗って迷宮一階へと戻った。


「ふう、どうにか昇降機までたどり着けたな・・・」

「ああ、ここまでくれば一安心だ」

「後は一階の治療所で治療してもらえれば・・・」

「しかしそんな金はないぞ?」


腕を切り落とされたとなれば、最低でも接合魔法でなければ治療はできない。

そんな高等治療魔法には、おそらく金貨数枚がかかるだろう。

そんな金は4人は持っていなかった。


「仕方がないだろう!拝み倒してでも治療はしてもらわなければ!」

「・・・そうだな」


 昇降機で迷宮一階に着いた一行は、魔法協会の迷宮出張所の緊急診療所へ駆け込んだが、折悪しく、今日は接合魔法や再生魔法を使える魔道士がいなかったようだ。


「え?治療士がいない?」

「ええ、今日は接合魔法や再生魔法を使える魔道士はいないのです。

とりあえず、応急手当をして、回復魔法だけでもかけておきますから、後は急いで町の治療所か魔法協会へ行ってください」

「わかりました!」


一応、手当てをした上で、回復魔法だけはかけてもらって、急いで町の治療院へ行く事となった。

そして地上へ戻って、迷宮の入り口までたどり着いた一行は、文句を言いながらもそこまでついて来たキャサリンに縁切りを宣言をする。


「あんたとはこれで縁切りだ!」

「ああ、どこへでも行ってくれ!」


しかしキャサリンはへこたれない。


「何よ!

悪いのはあんたたちじゃないの!

あんたたちが弱虫で私のレベルについて来れないのが悪いんでしょ!

私のせいにしないでよね!

これじゃ仲間にしてあげた意味が全然ないじゃない!

全く今日の仲間は全然だめね!

それに比べて昨日までの私の部下は優秀だったわ!

私のどんな動きにもついて来て何も問題はなかったわ!

今日の部下は口先だけでロクなのがいないわ!」

「へえ?で、その優秀な部下とやらは今はどうしているんだい?」

「それは・・・」

「はっ!大方その連中にも見捨てられたんだろうよ!

こんな奴じゃな!」

「全くだ!」

「とにかくもうあんたは俺たちに付きまとうな!

迷宮で手に入れた物は全部くれてやるからとっととどこかへ消えうせろ!」

「ああ、二度と俺たちには声をかけるな!」

「ふん!わかったわ!

弱者に用はないわ!勝手に逃げ帰れば良いのよ!」


そのキャサリンの言葉についに我慢しきれなくなったギルバートが叫ぶ。


「いいか!良く聞け!

お前は迷宮に他人と入る資格はない!

ましてや指導者の資格など全くない!

人間として、それ以前の問題だ!

姿形に騙され、口車に乗った俺たちが馬鹿だった。

お前は永久に一人で迷宮を彷徨って、二度と人には声をかけるな!」


そのギルバートの言葉に唖然とするキャサリン。


「いいか!

とにかく絶対に俺たちについてくるんじゃないぞ!」


そう言うとキャサリンを置いて、一行は町へと急いだ。

早く治療しなければ大切な仲間であるウォルターが危ない!


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