ギルバートと仲間たち 02 謎の魔法治療士
ギルバートたちがウォルターを抱えるようにして森の中を町へ急いでいると、突然怪しげなフードを被った小柄な人物が声をかけてくる。
「おや、どうしました?
迷宮で負傷したのですか?」
その問いにギルバートが一瞬躊躇するが、素直に答える。
「はい、仲間の一人が魔物に腕を切り落とされたので、急いで街の治療院に向かっている所です」
するとその小柄な人物が意外な事を言ってくる!
「その怪我では歩くのも大変でしょう?
私がここで治してさしあげましょう」
「え?あなたは治療魔法が使えるのですか?
しかし彼は腕が切断されているので、最低でも接合魔法か、再生魔法でないと治せないと思うのですが?」
フードで顔が隠れてよくわからないが、この人物は自分たちよりも年下の少年のように思える。
そんな年端もいかない少年が、接合魔法のような高等治療魔法を使えるとは思えなかった。
しかしこの少年は自信ありげに答える。
「大丈夫です。
私は接合魔法を使えますし、あなた方は彼の腕を持っておいでのようですから、ここで治療できますよ。
腕を切り落とされたのです。
急いだほうが良いでしょう。
何、御代はいりませんので心配なさいますな」
治療魔法で仲間を治してくれる上に治療代はいらない?
その言葉にギルバートたちは驚いたが、藁をもつかむ思いで相手に頼み込む。
「本当ですか?それは助かります。
是非お願いします!」
「では、一応周囲を警戒していてください。
治療中は魔物に襲われたら大変ですからね」
「はい、それはお任せください」
迷宮に比べればこの森の魔物ははるかに弱い。
レベルが低いギルバートたちでも、この森の魔物程度ならば問題はない。
その男の言葉に従い、ギルバートたちは周囲を警戒する。
「では、いきますよ?」
「はい、お願いします」
男はうなずくと、接合魔法呪文を唱える。
「セメンタード!」
接合魔法は無事に成功して、治療は終わった。
「どうですか?腕は動きますか?」
「はい、大丈夫です!」
「痛みはありませんか?」
「ええ、何ともありません」
「それは良かった」
「ありがとうございます!
しかし御代は本当に良いのしょうか?」
「何、ほんのいきずりの気まぐれです。
それに難儀している時はお互い様ですからね」
本当に治療代がいらないのを知って、他の仲間も驚いているようだ。
「え?治療代はいらない?
本当ですか?」
「ええ」
その言葉に、ギルバートが頭をかきながらぼやく。
「ありがとうございます。
今日の所はお言葉に甘えさせていただきます。
全く今日は運が悪いんだか良いのだか、わからない日だ」
「え?」
相手が軽く驚くと、ギルバートは恥ずかしそうに説明をした。
「いや、実は今日は組合でとんでもない奴に会いましてね。
そんなのを信じて仲間にした我々も悪かったんですが、そいつのおかげで、こいつは腕を落としたような物なんですよ」
「そうなのですか?」
「ええ、ですが、ここで運よくあなたに会ったおかげで、こうして無事に腕を治す事が出来ました。
結果として多少迷宮でレベルも上がったので、それ自体は良かったのですが、もうこんな経験はこりごりです。
それで運が悪いのか良いのかわからない日だと言った訳でして・・・」
「なるほど、それは確かに難儀な日でしたね」
「ええ、本当にありがとうございました。
私はこの仲間の代表で、ギルバートと申します。
是非あなたの御名前を教えてください」
しかしギルバートのその質問にこの少年は笑い声で答える。
「いえいえ、名乗るほどの者ではありません。
それよりも急いで街に帰って、今日はお仲間をゆっくりと養生させてあげてください。
治療したとは言っても体調は万全ではないでしょうからね。
これはそのために使ってあげてください」
そう言いながら相手は大銀貨を3枚ばかり差し出して来たので、ギルバートたちは驚いた。
「とんでもありません!
無料でこんな難しい治療をしていただいた上に、そんな物まで受け取る訳には参りません!」
「その通りです」
「ええ、治療していただいただけで十分です!」
他の仲間たちも、そう言って辞退する。
しかし相手はその大銀貨を引っ込めない。
「いいえ、これも何かの縁です。
私も初心者の時には様々な人たちに助けられたものです。
これは私からその先人たちへの恩返しのような物なのです。
代わりに、もし将来あなた方が見知らぬ初心者が困っているのを見たら、こうして助けてあげてください。
そしてこれからも色々と困った事もあるでしょうが、頑張ってください」
その言葉に一同は感心し、代表でギルバートが深々と頭を下げて男に礼を言う。
「わかりました。
あなたは相当の迷宮探索上級者とお見受けします。
重ね重ねの御配慮痛み入ります。
この御恩は決して忘れません」
「いいえ、但し、今後は新しい御仲間を探す時は慎重にした方が良いですよ?
またその仲間の言動にもね」
その少年の言葉が余りにも身に染みたギルバートたちは、顔を見合わせるとうなずいて少年に頭を下げた。
「まったくあなたのおっしゃる通りだと思います。
御忠告痛み入ります」
「我々も人を見る目をもっと養いたいと思います。
今回の事は良い勉強になりました」
「ありがとうございました」
ギルバートたちがそう礼を言うと、その少年は再び話しかけてきた。
「おや・・・あなたがた・・・」
「何か?」
「あなた方、全員そこそこの魔法の素養がありますよ?
御存知でしたか?」
「えっ?」
ギルバートたちはそんな話は初めて聞いた。
まさか自分たちに魔法の才能などがあるとは思ってもいなかったのだ。
驚くギルバートたちにその男が説明をする。
「特にあなた・・・ギルバートさんでしたか?
あなたとそちらの私が今治療した方・・・」
「はい、ウォルターと申します」
「ええ、あなた方二人は、頑張れば魔道士になれると思いますよ?」
「本当ですか?」
その説明に四人が驚く。
「ええ、少なくとも全員間違いなく魔法士にはなれるでしょう。
今後機会があれば、是非どこかで魔法を習ってみなさい。
きっといくつかの魔法は覚えられるし、そうなれば迷宮での探索や、組合の仕事も楽になると思いますよ?」
その言葉に四人は色めき立って答える。
「ありがとうございます!」
「まさか我々にそんな才能があるとは思いませんでした!」
「御意見に従って、機会があり次第、是非そうしてみたいと思います!」
「ええ、組合には魔法を習得するために色々な特典があるし、物は試しです。
そうした方が良いとおもいますよ?
あなた方四人は仲が良く、連携は良さそうですが、やはり仲間に魔法を使える者がいないとこれから先は辛くなるでしょうからね」
「はい、今回は本当に色々とありがとうございました!」
「ええ、では今後も頑張ってください」
「はい、この御恩は決して忘れません!」
「ではこれで失礼をします」
そう言ってその人物は去って行った。
ギルバートたちはその人の事を感心して話していた。
「凄い人もいるもんだなあ・・・」
「ああ、本当の上級者は凄いな?」
「うん、やっぱり本物はあんな女とは違う」
「さあ、とりあえず、町まで戻ろう」
「そうだな」
感心した4人は、仲間が無事に助かった事を感謝して町へ帰ったのだった。
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