おねショタ好きな俺は転生したら異世界生活を楽しみたい! 外伝
井伊 澄州
戦いの始まり
その時、彼女の生まれ故郷の村は、突然魔物たちの襲撃にあっていた。
魔物は後から後から溢れるように湧き出てきた。
(一体、なぜこんな事に?)
魔法協会所属の女支部長は驚き、そして悩んでいた。
彼女は知り合いのとぼけた魔法学士のおかげで、魔法高等学校を卒業して魔法修士になる事が出来た。
そして故郷の村で魔法協会の分所を作って、数年・・・やっと支部に昇格して本格的な活動を始めたばかりだという矢先にこのざまだ。
自分はついていないのだろうか?
しかし、悩んでいる時間などない。
今この瞬間にも自分の砦である、魔法協会支部と故郷である村が魔物たちに襲われているのだ。
彼女は部下たちを指揮しながら、村人たちを鼓舞した。
「みなさん、頑張ってください!
まもなく、救援がきます!
それまでの辛抱です!」
声を限りに叫ぶが状況は厳しい。
確かに数日前に魔法協会総本部から「すぐに防衛を強化するように」と通達はされていた。
そして何とか急いで村の防御を固めた矢先だった。
指示通りに急いで防御を固めていなければどうなっていたかと思うと、女支部長はぞっとした。
なぜこうなったのかはさっぱりわからないが、とにかく突然村が夥しい魔物たちに襲われた。
その数はざっと数えただけでも数千以上にも上る。
一方、この村の魔法戦力といえば、魔法修士が自分を含めて3人、それに魔法学士が6名、魔道士が10名に、残りは魔道士補と魔法士が20名ほどだ。
確かに出来上がったばかりの小さい支部としては魔道士が多い。
それは彼女の地道な勧誘と人脈の成せた技だった。
それでもこの村の魔法戦力として理論上の戦力は1個魔法大隊には足りない。
多く見積もっても、半個大隊といったところだ。
平均的な魔法修士は一人で1個魔法中隊に相当するし、魔法学士は一個魔法小隊に匹敵する。
だが、理論上の戦力はともかく、実質的な数としてはせいぜい2個魔法中隊分もない。
何故ならば一応最上位である自分は、全体の指揮対応におおわらわで戦う余裕がない。
副支部長でもある、もう一人の魔法修士のミランダは、村の結界の魔法防御で手一杯だ。
彼女が倒れれば、すぐさまにでも魔物が村に雪崩れ込んでくるだろう。
この二人は戦闘には加われないので、実質数には入らない。
そして三人目の魔法修士で、もう一人の副支部長でもある甥は、魔法学士1人と魔道士3人の迎撃部隊を率いて最も魔物が多い村の西側で戦ってくれている。
魔法学士の2人は上空で対空迎撃を、3人はそれぞれ南、北、東の指揮を、そして魔道士の一人はロナバールとの連絡に、一人は敵の探知に、他の魔道士たちも、それぞれ村の外で魔物と戦ってくれている。
そして残りの魔道士補と魔法士たちは、村人たちの避難や怪我人の治療にと、全員頑張ってくれている。
それでも人手が圧倒的に足りなかった。
どうやって援軍が来るまで持たせようかと考えている女支部長に、声をかけてくる者がいた。
「やれやれ、全く切りがないな。
おい!支部長様!
援軍とやらは、まだ来ねーのか?」
それは女支部長の父だった。
この村の村長でもあり、近頃発足した娘の魔法協会支部で、正式な魔法士となった父は、魔法の方ではそれほどでもないが、腕に覚えがあるので、兄や村の腕自慢の連中と共に防衛隊を率いて戦ってくれているのだった。
そのおかげもあって、村はまだ魔物から襲われずにいたのだ。
「ロナバール支部に援軍要請は出しています。
まもなく来るでしょう」
ロナバール支部はこの支部のような弱小支部と違い、この辺りでは一番大きな管区支部だ。
まもなく、援軍が派遣されてくるだろう。
それまでの辛抱だ。
「そう願いたいもんだな」
父親がぼやく。
その時、索敵担当の魔道士から報告が来る。
「報告!敵!新たに村の西側に増援部隊です!」
「どれ位ですか?」
女支部長の質問に魔道士は当惑する。
「魔物が多すぎて地面が見えないそうです!」
「それではわかりません!どれ位なのですか?」
「魔物が七分に、地面が三分だそうです!
繰り返します!
魔物が七分に、地面が三分です!」
「そんなに・・・?」
現状でも戦線を支えるのがギリギリなのだ。
それほどの敵の増援が来たら、とてもではないが防ぎきれない。
「支部長!
ロナバール管区支部から緊急連絡です!」
通信担当の魔道士が報告する。
そのまま受け取った魔法念話の内容を、急いで紙に書き取る。
「おほっ!きたか!」
村長がうれしそうに叫ぶ。
「何と言っていますか?」
「読みます。
「現在、当方も魔物と交戦中!
目下、当方に余剰戦力なし、現在マジェストン総本部に援軍を依頼中」、以上です!」
「な・・んですって?」
その回答に女支部長は呆然とした。
ロナバールを除けば、この近辺にこれほどの魔物を相手にできる魔道部隊はない。
そして魔道部隊でなければ、とても勝ち目はないのは目に見えている。
通常の兵ではおそらく2個旅団以上の兵力が必要であろうし、そもそも今から徒歩や馬でかけつけても間に合わない。
この緊急時に間に合う戦力は空を飛んでこれる、航空魔道部隊のみなのだ!
確かに魔道都市であるマジェストンにならばいるだろうが、女支部長の要請した援軍は、最低でも正規の1個魔法大隊だ。
それぐらいの規模でなければ、この魔物の群れは倒しきれない。
そもそも半個魔法大隊ほどの現状規模で、防衛できている現状が不思議なほどなのだ。
果たしてマジェストンからその援軍が来るのが間に合うだろうか?
娘と一緒に報告を聞いた父親がぼやく。
「おいおい!なんだ?結局援軍はこないのかよ?」
「今の報告を聞いたでしょう?
総本部のマジェストンから直接援軍が来るわ。
それまで父さんも頑張ってちょうだい!」
「やれやれ・・・」
その時、再び通信魔道士が叫び始めた。
「あっ、今度は総本部から通信がきました!」
そう言って急いで通信内容を紙に書き取る。
「おっ?今度こそ援軍か?」
「はい、伝文を読みます。「要請は受理した。ただいまより援軍の編成を始める。編成しだい救援を送るので、それまで耐えて欲しい」・・・以上です!」
その通信内容に、女支部長はその場にヘナヘナと座り込みそうになってしまった。
「これから編成・・・」
援軍を引きうけてくれたのはありがたいが、今から編成していたのでは、救援に間に合う可能性は低い。
ましてやこの村は、マジェストンから数千カルメルもあるのだ。
正規の1個魔法大隊と言えば、100人以上もの魔道士の部隊となる。
そんな大所帯が、編成を終えて、航空魔法で飛んでくるのに、果たしてどれほどの時間がかかることか・・・
どんなに早くとも数時間はかかるだろう。
女支部長がそう考えていると、再び通信担当魔道士が叫ぶ。
「あ、また総本部から通信が入りました!「編成が完了した。これより援軍として5個魔法師団相当の戦力を送る」・・・です」
その報告に女支部長は仰天した。
「はっ?5個魔法師団?」
「はい、間違いありません!
5個魔法師団相当です!」
そう言って通信魔道士は自分の手にあった、書きとめた通信文を女支部長に渡す。
それを読むと、確かに5個魔法師団相当と書いてある。
聞き間違いではない。
「5個魔法師団・・・一体なぜ?」
自分が援軍を要請したのは1個魔法大隊だ。
もちろん援軍が多いに越した事はないが、5個魔法師団と言えば、中規模の国、いや、かなり大きな国を滅ぼせるほどの戦力だ。
そもそも正面からぶつかりあった場合、正規の魔法大隊一つが、ほぼ通常の兵士1個師団に匹敵すると言われている。
一個魔法師団ならば通常兵力16個師団分だ。
5個魔法師団と言えば、おそらく通常兵力80個師団以上の戦力となるはずだ。
確かに今この村を襲っている魔物の群れは数千を数えるが、これほどの援軍がくれば、瞬殺に近いだろう。
しかしながら支部長である自分で言うのもおかしいが、はっきり言って、こんな田舎村に増援される戦力ではない。
下手をしたら魔物の群れと一緒に、この村まで丸ごと消し炭にされかねないほどの戦力だ。
一体なぜ、こんな事になったのだろうか?
まさか総本部は面倒になったので、敵と一緒にこの村を焼き払うつもりなのではないだろうか?
そう考えると女支部長はぞっとした。
そんな彼女に父が質問をする。
「なんだ?おい!5個魔法師団って、どれくらいの援軍なんだ?」
「うちの今の人数がほぼ1個魔法中隊です。
それが5個集まって一個大隊。
それがまたさらに4つ集まって旅団、それがまた4個集まって、やっと一個師団です」
「なにぃ?なんだそりゃ?」
「つまり一個魔法師団で、うちの現有魔法戦力の50倍から80倍はあるという事です」
「80倍?」
「ええ、それが5個魔法師団という事は、うちの戦力を半個大隊として、おそらくはうちの300倍以上の戦力が援軍に来るという事です」
「うちの300倍だ~?そんな援軍が本当に来るのか?」
「私にも信じられませんが・・・総本部がそう言ってきたのですから・・・」
混乱する女支部長に副官の魔道士マルガリータが報告する。
「支部長!もう限界です!
特にミランダ副支部長の結界保持が・・・もう、持ちません!」
「わかりました、結界保持は私が変わりましょう」
「しかし、それでは指揮する者が・・・」
「結界が破られたらすべて終わります。
指揮権はクラウスに引き継ぎます。
彼を戻してください」
「無理です!
クラウス副支部長は、現在、西側前線で、ほぼ一人で戦って指揮しているのです。
今彼を抜いたら戦線が崩壊します!」
「!」
そうだった。
指揮に忙殺されて忘れていたが、副支部長である甥のクラウスは、現在ほぼ一人で西側の魔物を相手にしているのだった。
魔物の八割が村の西側に集中しているので、敵のほとんどを彼が相手にしていると言っても過言ではない。
彼は師匠から、この支部の副支部長になった祝いにと、特殊なミスリル銀の剣をもらっていた。
この剣は攻撃力が3倍になる特殊効果がついているだけでなく、相手の魔力と体力を吸収するという特殊効果までついている希少品だった。
甥のクラウスはそれを大層気に入り、自分の宝物扱いしていた。
そして今やその宝物のおかげで、この村は持っているのだった。
彼は一番魔物が多い村の西側をほとんど一人で引き受けて、ミスリル銀の3倍剣で魔物を倒しては魔力を吸収し、魔力が溜まると可能な限りの戦闘用ゴーレムを作り出して魔物と戦わせる事を繰り返すという無茶な戦い方をしていた。
いくら剣で魔力と体力を吸収できると言っても、そのような戦い方がいつまでも続けられる訳がない。
今や彼は蓄積された疲労で、ほとんど倒れる寸前のはずだ。
「一応、彼に現状を聞いてください」
「了解です!」
その甥は戦いの真っ只中にいて魔物と戦っていた。
魔物数千匹に対して、彼に付き従っている部下は、魔法学士1人、魔道士が2人と、たったの三人だった。
そんな彼に近くにいた部下が報告をする。
「副支部長!また敵の増援です!」
「なにぃ~またか!まったくきりが無いな!」
「それと支部長から現状はどうかと聞いてきています!」
「現状~?」
「どうしますか~?」
「どうするったってやるしかないだろう?」
「しかし副支部長はもう限界では?」
「大丈夫だ!任せろ!」
そう言うと、クラウス副支部長は魔物の群れに向かって叫ぶ。
「おるぁ!よく聞け!魔物ども!
シノブ・ホウジョウの一番弟子!
クラウス・サーマル様とは俺の事だ!
俺は7歳のガキの頃から魔物退治が趣味なんだ!
今からてめえらまとめて面倒見てやるから覚悟しろ!」
もちろん魔物どもに人間の言葉などわからないが、彼は景気づけに叫んだのだった。
そして確かにそれは効いた。
魔物ではなく、味方にである。
彼のそばにいた、たった三人の部下が奮い立つ。
彼らもそのほとんどが魔法力が尽き、ボロボロだった。
「我々も副支部長に続くぞ!」
「おう~!」
「やったるで!」
「よ~し!
お前らは今までどおり、俺の討ち洩らした奴らを始末してくれ」
「任せておけ!」
「わかりました!」
「合点!」
彼は援軍が来るまで、ほぼ一人でこのまま村を守り抜き、この戦い以降、「鉄壁のクラウス」と言われるようになったのだった。
「おば・・いや、支部長に伝えておけ!
西側は俺たちだけで大丈夫、安心しろってな!」
「はっ!」
「行くぞ!師匠直伝の戦い方を見せてやるあぁ~!」
そう言うとクラウスは魔物の群れに突っ込んで行った。
西側から甥の報告を受け取った女支部長は甥の身を心配しながらも一安心していた。
甥は子供の頃から魔物狩りが趣味で、この生まれ育った村の周辺の地理は知り尽くしている。
もちろん状況は厳しいが、クラウスに任せれば西側は何とかなるだろう。
「わかりました。
では私が結界保持をしながら、指揮を執ります。
上空のサルバー魔法学士を私の指揮補助に呼んでください」
「結界保持をしながら指揮を?
そんな!そんな事をしたら支部長が!」
「構いません、マルガリータ、早くサルバー魔法学士を呼んでください。
代わりに誰か一人航空魔道士を上空迎撃に上げてください」
そう女支部長が言っている間にも突然、村の防御結界が消失する。
どうやら結界を張っていた、副支部長ミランダが倒れたようだ。
すぐさまに女支部長が結界を張りなおす。
(まずい・・・このままでは・・・救援が来るまでは持たない)
そう考えた女支部長は、ついに一つの決意をした。
「倒れたミランダにはすぐに回復魔法をかけてください。
彼女が回復したら、ただちに指揮権を引き継がせます」
女支部長の指示に副官のマルガリータが不思議そうに尋ねる。
「指揮権を?どうして?」
「彼女が指揮権を引き継いだら、村の外に出ている人たちを一旦、中に入れてください!
クラウスたち防衛部隊も含めて全員です!」
「中に?そんな事をしたら魔物が・・・」
「大丈夫です。
魔物は一旦村の周囲からいなくなる筈です。
その間にあなたたちはミランダとクラウスの指揮の下、部隊を再編成して村を守ってください」
「再編成?それは構いませんが、なぜ副支部長たちに?
支部長は・・・まさか!支部長!」
女支部長の指示をいぶかしげに聞いていたマルガリータだったが、ある事に思い当たり、ハッ!として叫ぶ。
そのマルガリータに女支部長がうなずきながら指示をする。
「ええ、私が時間を稼ぎます。
その間に部隊の再編成をして村を守ってください」
「いけません!そんな事はしないでください!」
事ここに至り、支部長付副官の魔道士マルガリータにも上司の考えが理解できた。
女支部長は全魔法力を解放するつもりなのだ。
それで一時でも時間を稼ぐつもりなのだった。
「しかし、この支部でアレを使えるのは私だけです。
そしてアレでなければ時間を稼ぐ事はできません。
幸い魔物のレベルはそれほどではありませんから、その分、効果範囲を広く展開する事ができます。
おそらくアレを使えば、敵を一旦ほぼ壊滅できるでしょう。
すでに援軍は出発していますから、何とかそれまでの時間を稼がなくては・・・」
自分は通常の魔道士よりも魔力が少ない。
それを補うために威力を増すには全魔法力の開放だけでなく、体の魔素全てを放出しなければならないだろう。
それは命をも投げ出す事を意味する。
そう女支部長は覚悟したのだった。
しかも自分が持っていた魔力回復剤はそのほとんどを戦っている部下たちに渡し、持っているのは最後の一個だった。
それを使うのは今しかない!
正直、女支部長は生涯でこの魔法を使う事はないと思っていたし、この魔法を覚えたのは興味本位と、博士号を取得するためだった。
しかし女支部長は今この魔法を覚えていて良かったと、心から思っていた。
そんな覚悟を決めた女支部長を副官のマルガリータが必死に止める。
「それはわかりますが、それだけはやめてください!
お命に関わります!」
「大丈夫、アレを使ったからとて、必ず死ぬとは限りません。
事実、私の友人のアンジュはアレを使って生き残っているのですから」
「それは私もあなたから聞いて知っています!
映像記録も拝見させていただきました。
ですが、今はあの人の場合とは明らかに状況が違います!
あの時の実験は健康状態も良好で、万全に準備を整えた状態でした。
しかし、疲労している者がアレを使用した場合、死亡率はほぼ100%と聞いています!
そして今あなたは疲労困憊で倒れる寸前です!
お願いですからやめてください!」
必死になって頼み込むマルガリータに女支部長は首を横に振って答える。
「いいえ!これ以外にこの村を守る方法はありません!」
「支部長!」
二人がもめている所に敵の戦力分析をしていた探知魔道士が報告する。
「支部長!凄まじい魔力がここへ急速接近中です!
西から飛行体接近!
高度825メル、速度・・・あの・・時速、何と12000カルメルです!」
その報告に女支部長とマルガリータが愕然とする。
「時速12000カルメルですって?」
「そんな物がある訳ないでしょう?」
女支部長とマルガリータが絶叫するように叫ぶ。
「間違いありません!数は8個です!」
時速12000カルメルと言えば、音速の10倍にも相当する。
魔法協会の航空魔法の一級取得ですら1音速以上なのだ!
そのような物体が存在するとはとても思えない。
しかも複数だ!
「あと40秒ほどで到着します。
魔力数計測・・・申し訳ありません!
私の能力では計測不能です!
推定では最低でも魔法総力は3000万クラリッサ以上です!」
その報告は絶叫に近かった。
「さっ、3000万クラリッサですって?」
その魔力の凄まじさに女支部長は驚愕した。
自分たちとは比較にならない戦力だ。
もしこれが敵ならば、もはや救援など、待つまでも無く、この村は壊滅だ!
女支部長の父の隣にいた青年が尋ねる。
「な、なんだ?そのクラリッサってのは?」
その質問に女支部長が答える。
「魔力の単位です!
今ここへ高速接近中の集団は、ここにいる我々の総魔法戦力の最低でも500倍以上という事です!」
「500倍ぃ~?
なんだ?そりゃ?一体何者なんだ?」
「・・・わかりません」
「あっ!
そのうちのかなり強力な個体が急激に速度を上げました!
速度時速1万5000カルメル・・・2万カルメル・・・
未確認飛行物体!まもなく到着します!」
カシャーン!と、その物体が村の結界を突破した破壊音が響き渡る。
支部長である、女支部長の結界を易々と破り、村の広場に到着したそれは、あまりの速度で着地したせいか、もうもうと土煙を上げて何がきたのかわからない。
その土煙の中から声がして、ようやく姿が見えてくる。
全身に紺と金色を基調とした服を着ている人物だ。
それは一見少女のように見える少年だった。
その少年が気安い挨拶を女支部長にしてくる。
「やあ、こんちわ、久しぶりだね、サーマル支部長」
土煙の中からようやく姿を現した人物を見て女支部長が叫ぶ。
「シノブさん!」
「やあ、サーマル村長、久しぶりです」
「先生!きてくだすったんですかい?」
「ええ、要請を受けてね」
「はっ!先生が来てくださったんなら、もう大丈夫だ!」
「その通り、皆さん、もう寝ていてくださっても大丈夫ですよ」
「あはは、相変わらずですね?
でも助かりました」
女支部長が助かった安心からか、嬉し涙が出て笑えてくる。
そう、この人たちが来れば、もう絶対に大丈夫だ。
そういう女支部長の周辺には、次々と着陸してくる者たちがいる。
形は違えど、全員が少年と同じく、紺と金を基調とした服を着ている。
全部で7人だ。
「うん、とりあえず君は全部隊に引き上げの命令をして、休んでいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「支部長・・・これは?この方々は?」
驚くマルガリータに女支部長が説明をする。
「この人たちが、かの有名なシノブ・ホウジョウさんと、その御仲間の皆さんよ!」
「この方が・・・あの生きた伝説の・・・奇跡の青い薔薇・・・」
「そう、この人やエレノア先生なら、確かに一人で2個魔法師団以上の戦力になるわ。
5個魔法師団相当の戦力というのはそういう意味だったのね!」
ロナバールから間接的にサーマル支部の要請を受けたマジェストン総本部では大騒ぎだった。
「サーマル支部?そんな支部あったか?」
「比較的最近に分所から昇格した支部です!」
「だからそれは一体どこなんだ?」
「ロナバールの東50カルメルにある小さな村です」
「遠いな?そこにそんな魔物の集団が?」
「そうです、緊急援軍要請です」
「しかし、今はうちも出払っているぞ」
「もう、あと3時間も持たないそうです」
「誰かそこへ3時間以内に行ける者は?」
「マジェストンには誰もいません!」
「緊急魔法念話だ!」
直ちに長距離通信要員の魔道士がマジェストン周辺に魔法念話を飛ばす。
「緊急要請!緊急要請!
現在、魔法協会サーマル支部が、村ごと全滅の危機に瀕しています!
現在マジェストン周辺にいる方の中で、どなたかサーマル支部へ移動魔法で3時間以内で行ける方は直ちに本部まで来てください」
誰も返事は無かった。
それは当然の事だった。
マジェストンからサーマル村までは数千カルメルもある。
それは一級の航空魔法の所持者でも間に合わない距離だ。
その事を十分にわかっている総本部が絶望しかかる。
しかし、しばらくすると、一つの返事が来た。
「シノブ・ホウジョウ了解、総本部には寄らず、今から私の特別独立魔法小隊「
「総本部了解しました!お願いします!」
こうしてシノブ・ホウジョウとその一行はサーマル村に向かったのだった。
音速の10倍以上という凄まじい速度で駆けつけた一行は数分で現地へ到着した。
久しぶりのサーマル村に降り立った彼はやる気満々だった。
「さて、じゃあ行くとするか?
エレノア、結界保持を彼女に代わってやってくれ」
「はい、すでに始めております」
エレノアと言われた美形の女エルフは静かに返事をする。
「ミルキィとライラは東側の防衛を頼む」
ミルキィと言われた頭の上にピンと狼のような白い耳を立てた品の良い感じの獣少女と、ライラと呼ばれた勝気な感じの20代前半に見える体格の良い女性が返事をする。
「はい、大丈夫です」
「了解!任しとき!」
二人とも笑顔でやる気満々のようだ。
「アンジュは北側をね」
アンジュと呼ばれた少女は、全身を紺と金の魔道士風の服で身を固め、頭に紺色に金の線が入った三角の魔法使いの帽子を被っている。
その少女が興奮して目を輝かせながら返事をする。
「はい!任せてください!
私の爆裂魔法で魔物など一気に蹴散らして見せますよ!」
その魔法使いの少女に少年が困ったように話す。
「いや、張り切るのはいいんだが、頼むから地形は変えないでくれ!」
「では、凍結魔法で一気に全部を氷付けに!?
それともゴーレム魔法で1万のゴーレム軍団で蹂躙を!?」
それを想像してうっとりするような表情で話す魔法使いの少女に、少年がため息をついて話す。
「・・・地形を変えないなら後は任せる」
「承りました!」
少年はそれから他の者たちにも指示をして、自らは村の西側へと向かう。
村の外へ行くと、ちょうど副支部長のクラウスが引き上げて来る所だった。
「やあ、クラウス!大丈夫かい?」
「師匠!援軍にきてくれたのは師匠たちだったんですか?」
「ああ、後は任せてお前は休んでいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
女支部長は意識が薄れていくなかで安心して父に話していた。
「これで・・・安心です。
あの人たちに敵う者など、いません・・・」
「ああ、そうだな」
そう父が答えた時には女支部長は疲労が頂点に達し、意識を失っていた。
村の西側に出た少年は周りを見渡す。
そこは見える限り魔物だらけだ。
「いや~、しかしこれはうようよいるな?
まずは軽く掃除するか!
・・・マギア・インディクト・ミル・フラーモ!」
少年が火炎魔法を使うと、1千以上もの火の玉が飛び出し、そこにいた魔物の9割方が一掃される。
こうしてこの村の形勢は一気に逆転した。
しかし、これはこれからの戦いの始まりでしかなかった・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます