ポリーナ・パーシモン 07 ゴブリンウイザードの最後

 一行は順調に中を進んでいた。

時折生き残っているゴブリンが立ち向かってきたが、ロカージョやレベル100の護衛タロスの敵ではなかった。

ロカージョが先頭となってゴブリンたちをなぎ倒しながら古城の中を進む。

途中で反対側から入って来たヴェルダと出会い合流して、なおも進む。

やがて一行は大きな広間に出ると、そこには明らかに格の違うゴブリンがいた。

そのゴブリンは玉座のような場所に座っていた。

そしてその周辺には3匹の大型のゴブリンがいる。


「うむ、奴がウイザードじゃな。

周辺にいる護衛はカーネルか?

しかし3匹もいるとは、ちと計算が違ったわい」


それはゴブリンキャプテンの上位種のゴブリンカーネルだった。


「ヴェルダ!ラッシュ!ロカージョ!

まずはカーネルを倒せ!」

「かしこまりました」


ただちにヴェルダたちがゴブリンカーネルの掃討に入る。

しかし本来ならば一撃で終わるほどのレベル差があるにも関わらず、ゴブリンカーネルは中々抵抗をする。


「ふむ、わしらが来る前に防御魔法をかけておったか?

それとこれはワンドの力か?」


アルマンが予想した通り、本来ならば、高位種のゴブリンカーネルと言えど、レベル100を越えたヴェルダたちの相手ではないはずだった。

しかしゴブリンウイザードは防御魔法を部下たちにかけ、また装備なども、かなり良い物を装備させていたので、思いのほか時間がかかる。

しかし、それもせいぜい数秒で、瞬く間にヴェルダたちがゴブリンカーネルを圧倒する。

10秒と経たないうちにヴェルダがゴブリンカーネルを倒し、ラッシュとロカージョもそれに続く。


その間、アルマンはウイザードを牽制する。

しばらく巧みに逃げて牽制していたアルマンだが、足場が悪くよろけてしまう。


「むっ!」


足がもつれたアルマンが地面に倒れる!

その隙をついてゴブリンウイザードが高位火炎呪文を放った!

老体の身では素早く避けられるわけもなく、アルマンは必殺の火炎魔法によって黒焦げになってしまうであろう、その瞬間だった!


「危ない!大御爺様!」

「やめろ!来るな!ポリーナ!!」


とっさにアルマンを庇いに入ったポリーナにゴブリンウイザードの高位火炎呪文が当たる!

しかし、パキーン!と言う音と共にその呪文が弾かれる。


「あ・・!」


その時、ポリーナの脳裏に武器屋の主人の言った「3回までは高位呪文でも弾ける」という言葉が蘇る。

この魔法外套マギオマンテロはその言葉通りに自分の主人を守ったのだった。


自分の必殺の呪文が弾かれた事により、動揺したゴブリンウイザードに隙が出来た。

その隙を逃すヴェルダとラッシュではなかった。

すぐさま二人は戸惑っているゴブリンウイザードに突撃し、左右から切りかかった!

ヴェルダとラッシュの連携により、ゴブリンウイザードがよろける。

そこへアルマンが中位電撃呪文を放つ!


「おのれっ!」

「うぎゃ~っ!!」


広間中に響く断末魔を上げて、ゴブリンウイザードは倒された。

ポリーナは急いでアルマンを引き起こす。


「大丈夫ですか?大御爺様?」

「ああ、大丈夫じゃ。ポリーナのおかげでのう」

「いいえ、これは大御爺様が買ってくださったこの魔法外套マギオマンテロのおかげよ」

「そうさな、やれやれ、それにしても年は取りたくはないわい。

肝心な所で足がもつれるとはの」

「でも無事でよかったわ」

「そうじゃの」


一行は城の主を倒した後で、そこの広間を確認する。

すでにポリーナたち以外に動く者はいない。

ゴブリンウイザードの倒れた場所には一つの品物が転がっていた。


「ふむ、やはりゴブリンワンドか・・」


アルマンはそれを拾う。


「大御爺様、それは?」

「これはゴブリンワンドと言ってな。

ゴブリンウイザードが持っている品物じゃ。

これがあると、手下のゴブリンたちの能力が大幅に向上すると聞いている。

実際、本来ならば、ゴブリンカーネルと言っても、ヴェルダたちが数秒とはいえ、てこずるはずもない。

わしのレベル100の戦闘タロスがかなりやられたのも、これでゴブリンたちの能力が上がっておったせいじゃな」

「そうだったのですか・・・」

「ああ、以前から話には聞いておったが、実物を見るのはわしも初めてじゃ。

前回、戦ったウイザードはこれを持っていなかったからの。

しかしこれは良い物を手に入れた。

これはゴブリンが持てば部下のゴブリンたちの能力を上げるが、逆に人間が持てば、周囲のゴブリンの能力が下がると聞いている」

「まあ、ではそれならこれからのゴブリン退治が多少は楽になりますね?」

「そうじゃな」


さらにアルマンたちが周囲を見渡すと、そこにはいくつかの宝箱があり、開けると中にはいくつもの魔法具が入っており、滅多にない貴重な物さえあった。


「ふむ、これはウイザードの奴が集めていたのじゃろうな」


その箱をタロスたちに持たせて出口へと向かう。


アルマンたちが古城から出て来ると、エルネストが尋ねてくる。


「首尾はいかがでしたか?」

「うむ、無事にウイザードは倒しましたぞ!」

「それは重畳、お見事です!」

「いや、これも支部長始め、皆さんのおかげですわい。

それと中でいくつかの宝箱を見つけましての、中には様々な魔法具が入っておりましたわ。

おそらくこれはウイザードの奴が自分のために手下どもに集めさせたのでしょうな。

これは今回参加した皆さんで換金して分けてくだされ」

「承知いたしました。ありがとうございます」


各門に散らばっていた者たちも戻って来て人数が確認された。

軽傷者はいるものの、死亡、重傷者はいなかった。

討伐隊は無事にオリナスの町へ帰る事となった。


帰り道でエルネストとアルマンが和やかに話す。


「それにしても噂どおり、いえ、それ以上にお見事な手際でした!」

「いやいや、わしも年じゃての。

中では危うく大怪我をする所だったのをこのポリーナに助けられましたわい」

「ほう?このお嬢さんに?」

「うむ、ウイザードの高位呪文を体を張って助けてくれての」

「それは凄いですね!」

「全く助かりましたわい」


無事にオリナス支部へ戻った組合員たちに報奨金が分けられる。

等級により、公平に賞金が分配された。

さらに持ち帰った魔法具が分けられる事となった。


「まずはアルマンさんとポリーナさんからどうぞ。

この中で御二人に役に立つ物があれば、お持ちください」

「うむ、それではわしはこのゴブリンワングをいただいてよろしいですかな?」

「もちろんどうぞ。

ポリーナさんは?」

「わ、私は組合員ではありませんし、別に・・・」


遠慮するポリーナにエルネスト支部長が首を横に振って話す。


「いいえ、ポリーナさんも十分活躍したのです。

確かに組合員ではありませんが、相応の報酬をいただく権利がありますよ。

それにポリーナさんに遠慮されてしまいますと、他の者が受け取りにくくなってしまいますので、どうぞ何か希望をしてください」

「わかりました。

では、私はよくわかりませんので、大御爺様が選んでください」

「そうか?・・・ではこの指輪が良かろう」


そう言ってアルマンが選んだ指輪は、ミスリル製の魔力消費半減の指輪だった。


「後はいかがですか?

アルマンさんのジャベックに使える装備などがあれば、それもどうぞ」

「そうですな・・・それではこの盾を一ついただきましょう」


そう言ってアルマンは魔法反射の効果がついた盾をもらう。


「それだけで良いのですか?」

「ええ、後は皆さんでどうぞ」

「ありがとうございます」


残りの魔法具は五人の魔道士に優先して分けられて、さらに残った魔法具は、討伐に参加した魔法具が欲しい者の中から希望者に分けられた。

最終的に残った物は全て換金されて、魔法具を受け取らなかった物たちへの特別報奨金として公平に分配された。

その金額は思ったよりも大きな物となり、参加した者たちは意外な収入に大喜びだった。


「今回はお疲れ様でした!

今日はお疲れでしょうからどうかうちの宿に泊まって疲れを癒してください。

それともしよろしければ、晩餐を御用意させていただきますので、御一緒にいかがですか?」

「うむ、ではお言葉に甘えてそうさせていただきますかな」


アルマンとポリーナはエルネストの薦め通り、もう一泊してから村へ戻る事となった。

晩餐会にはオリナス魔法協会の支部長も招かれて、一緒に食事をする事となった。


「はじめまして!アルマンさん!

私はここオリナス魔法協会支部の支部長で、アレックスと申します」

「これは御丁寧に、魔道士のアルマン・パーシモンです。

こちらはわしの玄孫のポリーナ・パーシモンと申します」

「ええ、エルネストから聞いております。

今回は折悪しく、私が留守でしたが、もし次の機会があれば、是非私もお誘いください」

「はは・・・なんだ、お前もゴブリン退治がしたいのか?」


からかうように話しかけるエルネストにアレックスが憤然と答える。


「もちろんだ!

ほかならぬ、かのゴブリンキラーのアルマン氏と御一緒できるならな」

「アルマンさん、こいつは私の昔からの友人で、お互いにここオリナスの組合支部長と魔法協会支部長をやっている仲なんですが、たまたま昨日から出張でおりませんでしてね

先ほど帰って来て、あなたのお話をしたら是非一緒に食事をさせろと言われましてね」

「ほほう、それはそれは・・・」

「当たり前だ!

全く、あと一日待ってくれれば、俺も参加出来た物を・・・」

「はは・・・お前さんや俺なんぞいなくとも、アルマンさん御一人でも十分だったさ」

「だからそれを見たかったのだ!」

「まあ、次の機会にでも期待するんだな」

「全くだ!」


どうやら話を聞くとアレックス支部長はゴブリンキラーたるアルマンの信奉者だったようすで、かねてよりアルマンの話を聞いてみたかったらい。

自然と食事中の会話は主に今までのアルマンのゴブリン退治の話の内容となった。

それはポリーナも聞いた事のない話であって、エルネストも興味深く聞いていた。


「いやあ!それにしてもゴブリンキラーのアルマンさんにこれほど色々な話を聞けて嬉しいです!」


アレックスの言葉にアルマンも笑って答える。


「ははは・・・この程度の話でよろしければ、いつでも構いませんがな」

「いえ、私も今日のウイザード退治と言い、非常に勉強になりました。

ありがとうございました」


エルネストも改めてアルマンに礼を述べる。

こうして晩餐会はにぎやかに終わった。

翌日になり、アルマンとポリーナはエルネストたちに挨拶をすると、自分たちの村へ引き返したのだった。

しかしそこでは恐ろしい事態が待っていたのだった。

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