キャロル・マーカス 01 中等魔法学校で

 私の名はキャロル・マーカス、13歳。

父はアムダール帝国の男爵で、母は魔人の名家の生まれよ。

生まれた私は魔人で、アムダール帝国貴族と言う珍しい存在なの。

魔人として優秀な私は当然の事ながら魔法初等学校を優秀な成績で卒業して、このたび中等魔法学校へ通う事となったわ。

同じクラスになった、初等魔法学校から一緒の友人たちが私に話しかけてくる。


「キャロル様!また御一緒できて嬉しいですわ!」

「私もです!」

「私もですわ」

「ええ、あなたたちも、またよろしくね?」

「「「はい」」」


初等魔法学校からの友人たちも良いけれど、せっかく中等魔法学校に入学したのだから、新しいお友達が欲しいわ。

でも実は私こう見えても友人選びにはうるさいのよ?

別にとりまきを作って悦に入ろうって訳じゃないけど、ワクワクするような人が友達に欲しいの。

さて、どこかにそんな面白そうな人はいないかしら?

私、面白そうな事なら大抵の事には付き合えるわよ?

何と言っても私は魔人で、お父さまにも鍛えられているから、これでもレベルだって45もあるのよ?

あら?あそこに仲の良さそうな娘が二人いるけど、ちょっと年上な感じね?

でも何だか気になるわ。

話しかけてみようかしら?


「ねえ、あなたがた、年はおいくつかしら?」

「え?私は15歳ですが?」

「私は18です」


やはり二人とも年上だ。

でも二人とも物腰は柔らかでおっとりとしている。

あら?しかも一人は狼獣人で、その上奴隷だわ?

中等魔法学校に奴隷の生徒とは珍しいわね?

でも私はそんな事気にしないの!

お父様も相手が魔人だろうが獣人だろうが関係ない!とおっしゃっているしね?

奴隷だって面白ければ良し、だわ!

それよりもこの二人は絶対に普通じゃないと思うわ!

これは付き合う価値アリね!

もう一人はおとなしいと言うよりも、ちょっとおどおどしている感じね?

私はそこまで即座に判断すると、再び声をかけた。


「私、キャロル・マーカスと申します。

年は13歳で年下ですが、これから3年間、よろしくお願いしますね?」

「え?ええ、私はミルキィ・ハーベイと言います。

御覧の通り、獣人で奴隷ですけど、よろしくお願いしますね?」

「わ、私はポリーナ・パーシモンと言います。

ミルキィさん同様、よろしくお願いします」


うん、まずはこの二人の素性調査からね?


「御二人はずいぶんと仲がよろしいようですが、どのような御知り合いなのでしょうか?」

「ええ、私たちは魔法の師匠が同じで姉妹弟子同士なんです」

「ええ、それと私がミルキィさんの御主人様の所に大変御世話になった事があって、その時から仲がいいんです。

今もその方にお世話になって、一緒に住んでいるんですよ」


なるほど、そういう事か?

つまりは仲の良い姉妹弟子同士という訳ね。


「なるほど、私は父が帝国男爵なんです。

でも母が魔人で、私はそちらの血を引いているので、私も魔人なんですよ」

「え?お父様が帝国男爵?

では男爵令嬢なのですか?」

「ええ、そうですわ。

でもどちらかと言うと、私は魔人である事に誇りを持っているので、そちらは気にしないでください」

「魔人ですか?」

「アンジュさんと同じですね?」


あら?珍しい!

この人たちの知り合いに魔人がいるのかしら?


「え?お知り合いに魔人がいらっしゃるのですか?」


その私の質問にミルキィという少女が答える。


「ええ、私と同じく、私の御主人様の奴隷なのですが、今ちょうど私たちと同じようにマジェストンの高等魔法学校に通っています」


その説明に私は驚いた。


「え?魔人なのに奴隷?しかも高等魔法学校に通っているのですか?」

「ええ、御主人様ともう一人の奴隷と一緒に今日から通っていますよ」

「え?その奴隷も魔人なのですか?」

「いえ、その方は平人ですが・・・」


その時、教室の扉が開いて、教師が入ってくる。

まだ若い平人男性の教師だ。

私達は慌てて自分の席へと戻る。


「おはよう!諸君!私が今日からここの担任となる。

ブロンデルだ。

3年間よろしくな!」


一通り、教室の中を眺めたブロンデル先生が、また話し始める。


「早速だが、キャロル・マーカスというのは誰だ?」

「はい、私です」

「ふむ、君か?では君がこの組の級長だ。

よろしくな」

「はい、承知しました!」


級長と言うのは大抵が下の魔法学校の持ち上がりの中で優秀な者がなると決まっている。

ま、私がなるのも当然ね?

しかしここでブロンデル先生は、少々驚く事を話し始める。


「それとミルキィ・ハーベイと言うのは誰だ?」


あら?その名前は今聞いたばかりね?

そのブロンデル先生の質問に先ほどの獣人、ミルキィが答える。


「はい、私です」

「うむ、ではポリーナ・パーシモンというのは?」

「はい、私ですが?」


今度はポリーナが答える。


「ふむ、なるほど、君たちか?

いいか、他の諸君、よく聴き給え。

この二人は奨励生、まあ知っている者もいるかも知れんが、高等魔法学校で言う、特待生のような者だな。

この二人は魔道士に必要な魔法はもう半分以上覚えていると聞くし、何よりもレベルが凄まじい。

二人とも今のレベルはいくつかな?」


ブロンデル先生の質問にミルキィとポリーナが答える。


「私はレベル235です」

「私はレベル187です」


何ですって?

レベル235と187!?

途端に教室が騒がしくなる。

私も驚いた!

当然だ!

初等魔法学校を卒業したての生徒など、レベル30がせいぜいだ!

20台程度でもいくらでもいる!

私のようにレベル45などという者すら珍しい。

このクラスは20歳未満のクラスなので、私も自分が一番上のレベルかと思っていた!

そもそも高等魔法学校を卒業した魔法学士でも、せいぜいレベル70から100程度なのだ。

それが二人ともレベルが100を遥かに超えているとは・・・

この二人は完全に10代の魔法士のレベルではないわ!

私は自分のレベルをこの二人に自慢げに言わなくて良かった・・・

そんな事をしていたら二人に鼻先で笑われて、恥ずかしさで自爆していた所ね?

二人の答えを聞いてブロンデル先生が呆れたように話す。


「なるほど、聞いた通りだな。

私のレベルは153だ。

やれやれ、教師の私よりも高いとはな?

こいつは参ったな?」


ブロンデル先生は本当に困ったといった感じだ。

いえ、先生!レベル153でも十分に凄いんですけど?

それ、普通にその辺にはいませんよ?

あの二人がおかしなだけです!

思わず私はそう突っ込みたくなったわ!


「諸君!聞いた通りだ。

この二人は少々特別なので、そのつもりでいるように!」

「「「は~い!」」」


休み時間になると私は早速二人に話しかける。


「あなた方、レベルが冗談みたいに高いけれど、何でそんなに凄いのかしら?」


しかし少々興奮気味な私の質問に、二人はキョトンとした感じで答える。


「凄い・・・ですか?」

「やはりそうなんでしょうか?」

「当たり前でしょ!

魔法士でレベル180だの200越えなんて、普通ありえないでしょ!

そもそも私たちの先生が153なのよ!

私、レベルが150を超えている人なんて生まれて初めてあったわ!

私はレベル45だけど、これだって珍しい方なのよ?」


しかしやはりこの二人は反応が鈍い。


「そうなんですか?」

「そうですね・・・」

「・・・ひょっとして、あなたたち、二人とも自分が大した事ないと思っている?」

「え~と・・・まあ、そうでしょうか?」

「そうですね?実際、私達は大した事ありませんよね?」

「そうですね」


その二人の会話に私はあきれ返って答える。


「何を言っているの!そんな訳ないでしょう!」

「す、すみません・・・」

「申し訳ないです・・・」


何が何だかわからないが、この二人はレベルの割に異常なまでに謙虚だ。

私がこの二人ほどレベルが高かったら、どれほど得意げになった事か・・・

しかしこの二人と仲良くなった私は、次の自由日の予定を聞いた。


「ねえ?あなた方?次の自由日に何か予定は入っているのかしら?」

「私は特にないですね。

もっとも最終的には御主人様次第ですが」

「私も特に予定はないです」

「まあ、じゃあ、もし二人とも時間があれば、一緒に町へ出てみない?

案内してあげるわ!」

「ええ、構いません。

御主人様に予定を聞いてみます」

「私もミルキィさんに合わせます」


そして、どうやら御主人様とやらの許可が下りたので、私達は三人で待ち合わせをしてマジェストンの町へ繰り出した。


私は二人にマジェストンの町を案内してみた。

あちこちを見て回った後で、私達は軽食屋で食事をして、楽しくおしゃべりをしていた。

二人とも大都市は初めてかと思ったので、私は聞いてみた。


「あなたたち、今まではどこに住んでいたの?」

「私はロナバールです」

「私の出身は田舎の村ですが、御師匠様に弟子入りしてからはロナバールにいて、つい最近まではメディシナーにいました」

「メディシナーに?」

「ええ、私は治療魔道士を目指しているので、メディシナーの無料診療所で修行をしていたんです」


まだ魔法士なのに、実際に無料診療所で働くとは驚きだ。


「へえ?メディシナーの無料診療所で?凄いわね?もう実践で訓練しているんだ?」

「はい、少しでも早く1人前の治療魔法使いになりたくて」

「ポリーナさんは偉いわ~」


私は素直に感心した。

しかしここでミルキィさんがクスクスと笑いながら話し始める。


「ふふ・・でもポリーナさんは、もう1人前も同然ですよ。

レオンハルト様やレオニー様も御手紙で感心していましたからね?」

「あの方たちは絶対に贔屓目で見すぎですよぉ~」

「え?レオンハルト様とレオニー様って誰?」

「はい、メディシナー家の御当主様のレオンハルト・メディシナー様と、先ごろメディシナー最高評議会評議長に就任されたレオニー・メディシナー様ですよ」


ぶふ~っ!

私は思わず飲んでいた飲み物を噴出した!

メディシナー家当主と言えば侯爵家のはずだ!

男爵家の我が家とは格が違いすぎる!


「ごっ、ごめんなさい!

でも、あなた方、メディシナーの御当主様や最高評議長様とお知り合いなの?」

「ええ、まあ・・・」

「正確には私達の御師匠様や私の御主人様が知り合いなのであって、私達はオマケのようなものですけどね?」

「そうですね」

「え?あなたたちの御主人様ってメディシナー家とどういう関係なの?」

「御主人様はレオンハルト様の御友人ですね。

レオニー様とも仲が良いです」

「そうですね」

「え?あなたの御主人様って、どこかの貴族なの?」

「いいえ、御主人様は普通の庶民ですよ」

「御師匠様は?」

「私達の御師匠様はメディシナーの御二人の師匠でもあるんです」

「え?メディシナーの御当主様の?

だって、あそこって侯爵様でしょう?」

「ええ、そうなんです」


どうやらこの二人の御師匠様と、ミルキィの御主人様とやらはとんでもない人物のようだ!

私は俄然、この二人に興味が今まで以上に湧いてきた!


その夜、夕食時に私は両親から学校の事を聞かれた。


「どうかね?キャロル?

中等学校へ行ってからそろそろ1週間近く経ったが?」

「ええ、御父様、とても楽しいですわ。

それに興味深い新しい友人も出来ましたの!」

「ほほう?それは良かったな?」

「ええ、これからの学校生活が楽しみですわ!」

「まあ、それは良かったわね?」

「ええ、お母様」


そう、あの二人にはまだまだ話してみたい事がたくさんある!

これからの学校生活が楽しみね!

今までにないほどワクワクして来るわ!

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