ポリーナ・パーシモン 10 ゴブリンキング討伐隊結成!

 エルネスト支部長はゴブリンキングの脅威を熱心に語るポリーナの話に耳を傾けてうなずいた。

そしてエルネスト支部長は状況を理解して、すぐさま行動を起こした。

近くゴブリンの大侵攻があるであろう事、今のうちに攻撃を仕掛ければ、撃滅は可能であろうが、このまま放っておいて相手が侵攻をし始めるのを待てば、国軍を動かしても掃討に苦労するであろう事などをあちこちに報告し、討伐隊の編成を意見具申した。


エルネスト支部長は熱心に組合の上層部と帝国、それに魔法協会に話をつけ、その結果ゴブリンキング退治は正式に帝国による魔法協会とアースフィア広域総合組合の公的事業と認定されて、国軍を動かさない代わりに、帝国政府が討伐費用を出す事となった。

そして討伐内容は魔法協会と総合組合に一任される事となった。


直ちにゴブリン討伐隊、正式名称「ゴブリンキング討伐部隊」が編成されて、魔法協会からは代表として支部長のアレックス魔法修士が自ら参加し、それ以外に魔法学士が2名、魔道士が30名、魔法士70名が近隣の支部からも派遣され、さらに魔法協会所有のレベル70から120までの戦闘ジャベックが30体加わった。

組合からはゴブリンウイザードの討伐経験により、エルネスト支部長自らが参加する事となり、それに近隣の支部からの応援も含めて6級以上の組合員希望者280名が加わった。

さらにアルマンからの要請により、小荷駄隊が用意され、大量の松明を作るための布、油、煉瓦、漆喰、木材、幕屋や、長期戦に備えての水・食料、炊事道具などが運ばれ、現地で防護柵や小屋を作る工作隊や大工、料理人も数十名連れ立った。

これにより討伐隊の総数はミッションとしては稀に見る400名以上の大人数となったが、それでも総兵力1万を超えるゴブリンキング相手では兵力としてはまだ不安だった。


討伐隊は予定ではパーシモン村に本部を置き、エルネスト組合支部長とアレックス魔法協会支部長を討伐隊の副隊長として移動をして、現地に到着次第、ゴブリンキラーたるアルマン・パーシモンその人を討伐隊長にして討伐を開始する事となった。


 パーシモン村に到着した討伐隊は村で歓迎をされた。


「おお、エルネスト支部長、よく来て下された!」

「どういたしまして、アルマンさん、またあなたと御一緒出来て嬉しいですよ」

「遠路はるばるようこそ!

アレックス支部長も先日の晩餐会以来ですな。

よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。

いよいよゴブリンキラーたるアルマンさんと御一緒できるとは光栄の限りです」


アルマンの熱心な信奉者だったアレックスは嬉しそうに挨拶をする。

挨拶が終わると、エルネストが今回の討伐隊の説明をする。


「帝国は今回の件の重大性を考慮して、国軍こそ動かしませんでしたが、正式に討伐隊を派遣しました。

私とアレックス支部長がその討伐隊の副隊長に任命されました。

そして討伐隊長にはあなたが任命されました」


そのエルネストの言葉にアルマンが驚く。


「何と!一介の魔道士のわしがですか?」


組合支部長のエルネストは白銀シルバーの組合員で、アレックス魔法協会支部長は魔法修士であり、二人ともアルマンよりは格上である。

それを一級の組合員とはいえ、ただの魔道士であるアルマンを討伐隊長に抜擢するとは破格の待遇だった。


「ええ、経験と技量を考慮した結果、そうなったのです。

それに今回の計画は全てアルマンさんが計画をしたものですからね。

指揮を執っていただくのは当然の事です。

これがその任命証です」


そう言ってエルネスト支部長が討伐隊隊長の任命証をアルマンに渡す。

しかしこれは実はエルネストとアレックスの熱心な運動の結果だった。

最初帝国はエルネストか、アレックスに討伐隊長をするように言って来たのだ。

しかし二人ともそれを固辞して、討伐隊長はゴブリンキラーたるアルマン・パーシモンその人しかありえない!と説明した。

それにこの討伐計画の人員構成も攻略方法も、全てアルマンが考案した物だったので、それを実行するには考案者が頭に立たなければ実行不可能だと帝国政府に詰め寄った。

その結果、帝国も折れて、アルマンを討伐隊長として認めたのだった。


「わかりました。

微力を尽くしましょう」


アルマンが決意を固めてうなずくと、二人もうなずく。

その後でエルネストが嬉しそうにポリーナに1枚の紙を渡す。


「そうそう、ポリーナさんにもこれをいただいて来たのですよ」

「え?私に?」


その紙には「ポリーナ・パーシモンをゴブリンキング討伐部隊の隊長補佐に任命する。なお任命行動中は、便宜的にアースフィア広域総合組合の三級組合員相当、魔法協会のC級ツェークラーソ会員相当とする事を認める」と書いてあった。

それを読んだポリーナは驚いた。


「隊長・・・補佐?」

「ええ、そうです。

これであなたも正式に討伐隊の隊員という訳です」

「でも・・・隊長補佐というのは何をすれば良いのでしょう?」

「な~に、隊長であるアルマンさんの手伝いを今までどおりにすれば良いだけですよ」

「わかりました」


こうしてポリーナも正式に討伐隊の一員となった。

もちろんヴェルダたちジャベックもアルマンの直属として参加する事となった。


「では早速概要を伺いたいのですが、現状はどうなのでしょう?」

「さよう、今の所、私の所有するジャベックを使って敵の数減らしを行っております。

すでにざっと1200ほどは減らしたはずですが、まだまだですな。

それと平行して敵の本拠地への道作りと防護柵・防護砦の建築ですな」

「なるほど、それにしてもすでに1000匹以上ものゴブリンを倒しているとは流石です。

やはり敵はキングなのですか?」

「もちろん相手の本体を見た訳ではありませんが、相手の規模、ゴブリンドルイドやゴブリンソーサラーなどの上位魔法種を何体も配下としている状況からして、この群の統率者はゴブリンキングと考えざるを得ません」

「なるほど、それでどのような作戦で?」

「基本的には他のゴブリンの巣を叩く場合と同じですな。

但し、規模が段違いになるために、そこの部分を修正いたします。

最も大きな違いは、かかる時間と、それに伴い夜戦がある事です。

キングを除けば最強だったウイザードですら、1日あれば掃討は終わりましたが、今回は数日かかると見なければなりません。

従って夜戦が入る事となります。

特に初日の野戦は大規模な物になるでしょう。

明日はその事を皆さんと話し合い、作戦を決定し、明後日の朝には進発したいと考えております」

「承知しました」


村の広場に寝るための幕屋がいくつも立てられて、夕食の用意が出来ると、その前に討伐隊の全員が集められてアルマンが演説を行う。


「諸君、私が今回のゴブリンキング討伐隊の隊長を勤める、アルマン・パーシモンじゃ!

知っている者にはゴブリンキラーと名乗った方が早いのかも知れん。

まずは今回の討伐に加わってくれた事を感謝する。

そして最初に重要な事を言っておく。

今回の事は基本的には他のゴブリン退治と同じだが、実質は戦争だと思っていただきたい」


アルマンの戦争という言葉に少なからず動揺が走り、討伐隊がざわつく。

そこでアルマンは一段と声を高めて話す。


「そう、戦争じゃ!

相手はゴブリンキングじゃ!

諸君も知っている者は多いだろうが、ゴブリンという魔物は1匹1匹では大した事のない魔物じゃが、集団となると全くの別物となる。

この点は非常に我々人間と似ておる。

そして今回はその数が1万を超える集団じゃ。

決して侮ってはならない!

これは文字通りゴブリンの王国、すなわち一国を攻めるのと同じだと思っていただきたい。

対する我々はたかだか300人少々である!

したがってこれは一日や二日で終わる物ではないと言っておく。

おそらくは1週間以上、場合によっては1ヶ月近くかかると思っていただきたい。

ただし勝つ算段は十分にしてある!

諸君がわしの指示通りに動いてくれれば、決して難しいミッションではない!

しかしもう一度繰り返す!

相手がゴブリンだと思って決して侮ってはならない!

そう考えている者は、この作戦から抜けてもらう事になる!

よろしいな?」


アルマンの言葉に一同がうなずく。


「明日は作戦会議のために、ここで一日を過ごす事になるが、明後日にはここを進発し、敵の本拠地近くに砦を建設し、そこを根拠地として攻撃を行う事になる。

そしてここパーシモン村を補給兼後方基地とする。

明日は中隊長以上の者で作戦会議を開く予定だ。

残りの諸君は各小隊長の指示に従い、持ってきた道具と、ここに用意された材料で松明、弓矢、投石器などの製作を頼みたい。

今日の所はこれから食事をして、各自幕屋ではあるが、安眠されたい。

今日・明日はキングを倒すまでは諸君がゆっくり眠れる最後の夜となろう。

諸君の健闘を祈る」


討伐隊長であるアルマンの話が終わると、各自が食事をしてから幕屋に戻り、就寝する。

ポリーナはアルマンと共に家へ帰ったが、中々明日以降の事を考えると寝付けなかった。


「大御爺様?私達は本当にゴブリンキングに勝てるのかしら?

敵は1万以上だというのに、私達は戦う人は300人程度、これで大丈夫なのかしら?」

「大丈夫じゃ、作戦は考えてあるし、優秀な者たちが揃っておる。

安心するがいい」


そのアルマンの言葉にポリーナは安心してうなずいたが、しばらくするとまた尋ねる。


「ねえ、大御爺様?ゴブリンを倒すのに一番良い方法は何かしら?」


そのポリーナの答えにアルマンは意外な事を答えた。


「そうじゃな・・・まずは自分がゴブリンだと思う事かな?」

「え?ゴブリンに?」

「そうじゃ、そして自分がゴブリンだったら一番されたくないと思う事を考えるのじゃ」

「自分が一番されたくない事?」

「そうじゃな、その考えを推し進めて行けば、ゴブリンを掃討できるじゃろう」


(自分がゴブリンになって一番嫌な事を考える・・・)


ポリーナはその今まで考えた事もない、不思議な事を考えているうちに深い眠りに落ちていた。

夢の中でポリーナはゴブリンとなって生活をしていた。

そこでポリーナは森の木の実を取ったり、栗を取ろうとして、落ちていた栗のイガを裸足で踏んだりして、驚いていた。

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