「やはりきおったか」

ワシのいる部屋の扉を叩き招き入れると巴殿が本来の姿で現れた。


「二人に手荒な真似はしてないじゃろうな?」


「大丈夫でありんす、少し幻術で眠られせただけでありんすよ、今頃ぬしとの逢瀬を楽しんでいるでありんす」

キセルの煙を吸い巴殿は吐き出した。


「それでお主が来たのはワシが目的なんじゃろう?」


「そうでありんすよ、わっちが封印していた間にわっちより強い存在が昔より多くいるのが分かったんでありんすよ、ぬしにはその者達の相手をしてもらいたいのでありんす」

ニヤリと笑いながら巴殿は言った。


「お主はどうするんじゃ?」


「もちろん欲しい物を手に入れながらわっちより弱い存在を蹂躙するのでありんすよ、強い存在との戦いなどつまらないでありんすから」


「はぁ、お主の戦いはワシは好かん」

巴殿は人間達を蹂躙していくうちに、だんだんとその行為に快感を得るようになっていた、だが[七星剣]との戦闘のせいで強い者達との戦いを恐れている。

戦い好きのワシと違うのはその部分。


「ぬしは強い存在と戦えてわっちは弱い存在を蹂躙する、お互いにとっていい話だと思うでありんすが?」

ベッドに座るワシの横に座り顔を近づけてくる。


「はぁ、確かにお主にはいい話じゃのぅ、ワシは相手は強かろうが弱かろうがどっちでも構わんよ、まあ強い方がワシの好みじゃがな」


「ではぬしが協力してくれたらわっちの体を好きにしてもいいでありんすよ?」

着物の半襟を両手で掴み開げ、上半身を裸にした。


「遠慮しておこうかのぅ」

ワシは一瞥した後懐中からキセルを出し一服する。


「あら、ぬしは女に恥をかかすでありんすか?」

さらに顔を近づけ、耳元で呟いた。


「据え膳という言葉もあるんじゃが、レベッカにワシを好いてないおなご、女を抱くことを禁じられておるんじゃよ」


「でもフィーライヌは抱いたじゃない?あの子は強さが欲しいから抱いて欲しかったんでしょ?」


「それは最初だけじゃよ、フィーヌはレベッカの影響で心の鎧が剥がされて本来の女の子に戻ったんじゃ」


「確かにフィーライヌとレベッカは仲良しでありんすが、ぬしを好きになる理由がないでありんすよ?」


「簡単じゃよ、フィーヌはやっと頼れる存在を見つけんじゃ、その存在に好意を抱くのはどの世界でも一緒じゃよ」

ワシはニヤリと笑い答える。


「ぬしはあの女を抱くためにわざと助けでありんすか?」

少し眉間を寄せて巴殿は聞いてくる。


「どうじゃろうのぅ、それを決めるのはフィーヌ次第じゃろ」

キセルの煙を吐きながら言う。


「ずるい男でありんすね」

上半身に着物を戻しながら巴殿が言った。


「かっかっかっかっ!ワシがただのお人好しでないのは確かじゃな。じゃが、ワシを好いたおなごは絶対守るぞい、それだけは間違いないのぅ」


「ではわっちがぬしに惚れて抱いてもらったら、わっちも守ってくれるでありんすか?」


「当たり前じゃ、お主にワシに惚れるのはちと難しいじゃろぅ」


「どうしてでありんす?」


「お主は欲が強すぎる、その欲のせいで惚れるという概念が分からなくなっておるのじゃよ」


「確かにそうでありんすね、わっちは欲しい物は沢山ありんすが、男を欲しいと思った事は今回が初めてでありんす。これを惚れたというのか分からないでありんす」


「答えは惚れてないじゃ。お主はただ楽に欲しい物を手に入れたいだけじゃよ」


「どうすればぬしに惚れる事ができるでありんすか?」

キセルを袂に戻しながら首をかしげて聞いてくる。


「それはお主次第じゃよ、助言を与えるとすれば、もっとその欲を強くするとええじゃろう」


「ぬしはさっき強くすぎるから分からないと言ったでありんすよ?」

右に傾げていた首を今度は左に傾げて聞いてきた。


「じゃから難しいんじゃよ、欲が強すぎるから分からない、じゃが欲を強くしないと分からないんじゃ。難儀な性格じゃのぅ」


「はぁ、もう訳が分からないでありんす、とりあえずぬしはわっちを抱く気はないんでありんすね?」


「そうじゃ、ワシは惚れたおなごとの約束は守る男じゃからのぅ」


「はぁ、まさかわっちの誘いに乗らない男がいるだなんて、幻術も効かないんてお手上げでありんす」

巴殿は男を誘惑し、幻術の中に閉じ込めその間に欲しい物を手に入れるのが常套手段だ。

だから当然巴殿は生娘。


「じゃあわっちは部屋に戻るでありんすよ、ぬしはわっちを抱かなかった事を後悔するでありんすよ」


「後悔するのぅ、巴殿は良いおなごじゃから」

ワシが正直に言うと入り口に向かっていった巴殿が足を止めた。


「ぬしは本当にわっちが良い女だと思っているでありんすか?こんな欲深い女を」

顔だけワシの方に向けて聞いてきた。


「おなごことに関して嘘は言わん。お主は良いおなごじゃよ」


「そうでありんすか、わっちを良い女と呼ぶ男達は見た目だけを見て言ってきたでありんす。ぬしがいうと違う風に聞こえるでありんすな、少し胸がキュンとなったでありんす。

では失礼するでありんすよ」

巴殿はアルサ殿の姿に戻り、部屋を出て行った。


「巴殿も困ったもんじゃのぅ、じゃがあの者もまだまだ強くなるのぅ。

かっかっかっかっ!実に楽しみじゃ」

この世界に来て初めて思った事はもったいない。

レベッカに始まりリリス、クレアなどワシのもとに集まってきた才能の塊、それを開花させてないことがもったいない。


必ずワシが開花させてやろう、ワシが楽しむ為に、まあおなご達は餌じゃがな。

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