呪文

「お前達何をしている!」

決闘場に入るための入り口で男が叫んだ。


その男を見ると銀の守護騎士団の人々は立ち上がり、握った右手を左胸に当てた。


男はそれを見たあと周りを見渡し、ワシらを見つけ、

ワシらのところに歩いて近づき、ワシの目の前に立った。


「何故貴様が我が銀の守護騎士団の拠点にいる?殺されにでも来たか?」


「それはワシのおなご、あそこにいる彼女にお主らが喧嘩を売ったからじゃよ」


「本当か?」


「そんなはずはありません!彼らは迷宮都市に相応しくない存在がいたから注意をしただけです!そして注意を受け入れる事ができなかったあの女から決闘を申し出たと聞いております!」

銀の守護騎士団の団員の一人が答えた。


「そうか、ではあの五人は破門とする」


「え?」


「俺のスキルが嘘だと言っているからな、それにあのような娼婦に負けるような団員など騎士団には必要ない」


「ほう、随分とあっさり切り捨てるのじゃな」


「当たり前だ、この騎士団は常に最強でなくてはならない。一度の敗北も許されん」


「ではワシに負けたお主はどうなるんじゃ?」


「それは銀翼の騎士団の時だったはずだ、今は銀の守護騎士団。貴様に負けてなどおらん」


「屁理屈じゃのう」

ワシは顎髭を触りながら言う。


「事実を言ったまでだ。それより今日は特別に見逃してやるからさっさと拠点から出て行け!」


「見逃してくれるとは優しいのぅ」


「俺の『神の神託』が今はその時ではないと言っている。だがいずれ貴様を殺す」


「神の神託のぅ、その神に伝えといてくれ。

ワシは見逃さんと」


「どういう意味だ?」


「こっちの事情じゃよ、では皆帰る事にしようかのぅ」


「はっ我が主!」


「リリスー帰るよー!」

ファルシーが立ち上がり、レベッカはリリスを呼び、呼ばれたリリスは五人組を引き連れこちらに来た。


「もう帰るの?もう少し下僕を増やしたかったのに」


「リリス、その言い方怖いからやめて」


「大丈夫よ、レベッカ達には何もしないから」


「本当よね?」

少し不安そうにレベッカがリリスに聞いた。


「本当よ、というかレベッカ達にはこの力効かないのよ。わたしの仲間だからね」


「一応信じてあげるわ」


「まあ今はそれで良いわよ、さっゴンベエ帰りましょう」


「そうじゃな、ではパトス殿いずれまた」

銀の守護騎士団の団長に挨拶をしてワシらは決闘場の入り口に向かった。


「ファルシー元団長、その男に付いていくと後悔しますよ」


「それはない、銀翼の名にかけて」

ファルシーは振り向きもせずにが答えた。


リリスの貢物のおかげで買い物する必要もなくなったので、宿にそのまま帰ると食堂にローニャとアルミール殿が菓子を食べていた。

ワシを見つけたローニャは立ち上がりお辞儀をし、アルミールは手を振った。


「ローニャどうじゃった?」

二人の近くに行き質問した。


「あまり上手くできませんでした、やはり練習と実践では雲泥の差を感じます。

次はもっと上手くできるようになりたいです」


「そんな事ないよ!初陣であれだけできれば上等だよ!権兵衛聞いてよ、Fランクダンジョンの半分まで、ローニャ一人で行ったんだよ!」


「それはすごいのぅ、ローニャ良くやった」

ローニャの頭を撫でると頬を少し赤らめ照れた。


「ローニャご褒美にこれをあげるわ」

リリスは貢物の中から桃色の髪飾りを取り出し、ローニャの頭につけた。


「リリスお母さんありがとう」


「いいのよ、頑張った子にはご褒美をあげるのは当たり前なんだから」


「おかえりリリスお母さん!」

声のする方を見ると青い前掛けを着たカリンが走ってきて、リリスに抱きついた。


「ただいまカリン、どうだった?」


「料理長はすごいよ!まるで魔法のように包丁や調味料を使って美味しい料理を作っていたよ!あっ今日の夕食は僕も手伝うから楽しみにしてね!」


「それは楽しみね、美味しく作れたらカリンにもご褒美あげるわ」


「じゃあ包丁がほしい!」


「ゴンベエ包丁とかある?」


「あるぞ、美味しかったらカリン専用の包丁をワシが作ってやろう」


「本当!ご主人様ありがとう!」


「よいよい、頑張って料理作るじゃぞ」

カリン頭を撫でながら言う。


「うん!」

笑顔でワシに答えた、最近ではカリンがワシにこのように話してもローニャは何も言わなくなった。ローニャも少しずつ心を開いてくれるようになったようだ。


「そういえば下僕の一人から聞いたんだけど、ゴンベエを探している人がいるらしいわよ」


「私も八百屋のおっちゃんからその話聞いた!」


「僕も聞いたね、何でもお願いしたい事があるらしいんだって、それで今迷宮都市に向かっているみたいだよ」

リリスとレベッカ、アルミール殿はワシに伝えた。


「お願いしたい事のぅ」


「ゴンベエは何か分かるの?」


「分かるぞ、じゃが間に合うかは運次第じゃな」


「運?」


「そうじゃ、桜やローニャ達と一緒じゃな」


「それって、、、」


「ご主人様!どうか救ってあげてくれませんか?ご主人様ならできますよね?」

ローニャがワシの着物を掴みながら言ってくる。


「できるかできないかで言えばできる、しかしのぅ、世界にはさだめと呼ばれる理があるんじゃ、それを無視してワシが動くとよくない事がこの世界で起こってしまうんじゃよ」


「そんなぁ」


「そんな顔をするなローニャ。しょうがないのぅ、ちと無理をすることにするわい」

ワシは親指を噛み血を出す、その血を左手の手のひらに当てた。


「木、木は燃え火を生み、

 火、火が燃えれば灰が残り土に還る、

 土、土の中を探れば金が現れ、

 金、金の表面には水が生じる、

 水、水与えることで木の命を繋ぐ」

ワシは血で上から下に下から上に円を描く、線が繋がると円の中に上から右下に緑色の線、右下から左上に茶色の線、左上から右に青色の線、右上から左下に赤色の線、左下から上に金色の線で五芒星が浮かび上がった。


ワシはその五芒星の真ん中を左目に合わせるように当てた。


「理を司る者よ、我が左眼を贄にし縁を深く結べ。点は線となり線は円となれ。

急急如律令」

呪文を唱えた瞬間にワシの左目の感覚は無くなった。


「これでなんとかなるじゃろう」


「ねぇゴンベエ今贄って言わなかった?もしかして左目を犠牲に何かしたの?」

レベッカが眉間に皺を寄せながら言ってくる。


「そ、そうなのですかご主人様!」

ローニャが泣きそうな顔をして言った。


「大丈夫じゃよ、犠牲といってもいずれ元に戻るからのぅ」


「そうなのですか!」


「そうじゃ、まあ条件があるがのぅ」


「それは何かしら?」


「簡単に言うと今のはこの世界の理を管理する者、皆が神と呼ぶ者と契約をしたんじゃ、左目を代償としての、その代償を返してもらうには神からのお願いを一つ叶えればいいんじゃ」

リリスに聞かれたので答える。


「お願いってどんな内容なの?」


「そうじゃのぅ、ワシがこれまでお願いされたのはある国が滅びる事に干渉するなや、ワシの好みのおなごを口説くな、ある人を救え、一番嫌じゃったのは五年間が経つまで刀を抜くなで、一番好きだったのは城に一人で討ち入りしろじゃな」


「なんかすごい振り幅あるのね、今回はどんな内容になりそうなの?」


「レベッカそれが分かったら契約など結べんよ」

ワシがそういうと宿の入り口にある扉が開いた。


「すいません!この中にゴンベエという名前のお方はおりませんか!」


どうやら間に合ったようじゃ。

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