吸血鬼

「ほれ」


「えーとなんですか?」


「お主は吸血鬼になったんじゃ、血を吸わんと生きられん」

ワシは二人の前に両腕を出した。


「吸っていいんですか?」


「ええぞ、というかワシくらいじゃないと死んでしまうからのぅ」


「ではありがたくいただきます」

涎を垂らした母親はワシの右腕に牙を刺し血を吸いだした。


「ねぇおじさんボクも吸っていい?」


「ええぞ」

坊主は左腕に牙を刺し吸いだした。


二人の姿はここに来た時とまるで違う、

赤ん坊を抱いていたおなごは女将さんと同じ年齢ぐらいの姿だったのが、アルミール殿と同じ年齢に若返り、茶色だった髪は白よりの金色に変わり、茶色の目も赤くなっている。

畑仕事で日焼けした肌は透きとおった白いに変わり、しみも無くなった。


赤ん坊は三尺童子ほどの年齢になっている。

母親譲りと思われる茶色の髪も目も今の母親と同じように変わっている。


「ぷは!ありがとうございますゴンベエさん、あっそういえば大丈夫でしたか?確か吸血鬼に血を吸われると、、」


「大丈夫じゃよ、あの程度の快感なと本物の快感に比べればたいした事ない、それに禁断症状で人を殺されても困るからのぅ」


「え?」

驚いた顔で母親が言った。


「母上、禁断症状って言うのはね、吸血鬼が一日でも人の血を吸わなかったら起きるんだよ。理性を失って近くにいる人間を気がすむまで血を吸い続けるんだ。もちろん一人で満足するとは限らないだよね」

純粋な吸血鬼である坊主が母親に教えた。


「そうなのね、ヴラはなんでそんな事知ってるの?そもそもなんでそんなに大っきくなったの?」


「ワシが教えてやろう。

吸血鬼は、最初の授乳際に母親から知識と遺伝子にある情報を採取するじゃよ、じゃから吸血鬼の事に詳しいんじゃ。


そして急成長した理由は二つ、吸血という行為を自らできるようにするためじゃ。赤ん坊のままじゃと母親からしか吸血できんからのぅ。

そして吸血鬼として力を使えるように身体を適応させたんじゃ」


「吸血鬼の力ですか?」


「そうじゃ、見た目では分からんだろうが、その子は素手で岩を砕けるんじゃ、弱い身体じゃ自らを壊してしまうんじゃよ」


「そうなんですね、もしかして私もその力があるんですか?」

手を握ったり開いたりしながら母親が聞いてきた。


「それはないぞ、何故ならお主は吸血鬼の遺伝子を取り込んでないからのぅ。

まあ普通の人よりは頑丈じゃがな」


「ゴンベエさんも随分お詳しいのですね、もしかしてゴンベエさんも吸血鬼なんですか?」


「ワシは吸血鬼ではない、何故詳しいかは内緒じゃ。

それよりお主には決めてもらう事でがある」


「決める事ですか?」


「お主とお主のお子は吸血鬼じゃ、つまりこれから人の血を吸う生活が待っておる。

選択肢は三つ。

一つ目はこの世界の吸血鬼のように人を襲い、生き続ける。

二つ目はワシのもとで生活し、ワシの血を毎日吸う。

三つ目は眷属を作り出しその者から血をもらう」


「ボクは一つ目がいいなー、きっと処女の血なんて美味しそうだ」

くったくな笑顔で坊主が言う。


「純粋な吸血鬼らしい発言じゃのぅ、じゃが人の血を吸うということは人を殺すと言う事だぞ?」


「殺す?」

坊主は首を傾げた。


「そうじゃ。お主には人間は餌にしか見えんじゃろうが、人間だってお主やお主の母親のように生きているのじゃよ。

そして吸血鬼の吸血は絶対に最後や一滴まで吸い出すんじゃ」


「途中でやめられないんですか?」


「無理じゃ、人間の魔力を含んだ血を吸血鬼が吸うと理性を失い止められないんじゃ、もし奇跡的に止められたとしても吸われた人間は生きた屍になる」


「グールですね」


「そうじゃ、じゃから一回でも吸えばその人間は死ぬ」


「あれ?でもおじさんはなんで生きてるの?

それにボク達普通に途中で止められたよ?」


「それはワシが魔力なしだからじゃ、だから二人は純粋に血液だけを吸ったので理性をうしなわなかったんじゃよ。

それにワシの身体は特別での、グールなどという低俗なものにはならんのじゃよ」


「だから二つ目にゴンベエさんの話が出てきたのですね」


「そうじゃ」


「眷属というのはなんなのでしょうか?」

三つ目の事を母親が聞いてきた。


「それはボクが答えてあげるね!眷属っていうのは僕達吸血鬼に絶対服従する下僕なんだ!」


「お主が取り込んだ吸血鬼の遺伝子は随分と偏った考え方をするんじゃのぅ。


正確にいうと眷属は番のようなものじゃな」


「番ですか?」


「そうじゃ、そもそも眷属というのはある一人の吸血鬼が愛した人間とずっと一緒にいたいがために作られた呪法なのじゃ、呪法を受けた人間は半分が人間、半分が吸血鬼になり、吸血鬼と同じように長生きするようになる。


そして副産物として、眷属の身体の中で半分人間である血液を作り出し、その血を吸うことで吸血鬼は他の人間を襲わずに済み、吸われた眷属は半分は吸血鬼なので全て血を吸われても死なないのじゃ。

そうしてその吸血鬼と眷属は永遠に過ごしたんじゃよ、ちなみにじゃが眷属は血を吸わんでも普通の食事だけで生きられるぞ、吸血鬼は無理じゃがな」


「なるほどです、つまり眷属を作れば他の人を襲わずに普通の生活を送れるということでね?」


「じゃが条件が合ってのぅ、先ほど言った通り番、つまりお互い愛し合っておらんと呪法は成功せんのじゃよ」


「そんな知識僕のは知らないんだけど」


「おそらくお主の取り込んだ吸血鬼は魅力を使って無理矢理眷属にしたんじゃろ、そのせいで眷属の自我が消えたんじゃろ?」


「うんそうみたい、おじさんなんでも知っているんだね!」


「なんでもじゃないがのぅ、選ぶ時間は好きにとってもええが、必ずワシに報告してからにするじゃぞ。さすがにすぐに死なれてもいやじゃからな」


「はい、ゴンベエさん」

母親は納得したようだ。


「よろしい、では最後にお主達の敵の話をしよう。

まず当たり前じゃが人間達じゃ、吸血鬼は禁忌と呼ばれる存在じゃかはのぅ。


次は吸血鬼専門の狩人じゃ、人間には吸血鬼と聞いても普通に接してくれる人もおるが、狩人は問答無用で殺しに来る、先祖返りの子供の吸血鬼であっても。


最後は吸血鬼じゃ」


「吸血鬼ですか?」


「今もこの世界には先祖返りではなく、純粋な吸血鬼かおる、その中には強さを求め他の吸血鬼を狙うんじゃ。


何故なら殺した吸血鬼の心臓を喰らうと力が一段階上がるんじゃよ。そしてそれは殺した吸血鬼の力は関係ない、つまりお主とお主のお子は恰好の的なんじゃよ。

じゃからワシのもとを離れるということは、そういう輩に狙われることも考えなくてはならん」


「じゃあゴンベエさんのところにいた方がいいのでしょうか?」


「それを決めるのはお主達じゃよ、それに出て行く時は吸血鬼と分からんようにしてやるから安心せい」


「そんな事がでるんですか?」


「ワシにかかれば造作もないわい、どれそろそろ夕食の時間じゃ、お主達も来るといい。

吸血鬼になっても食事は普通にとれるからのぅ」


「分かりました、ヴラ行くわよ」


「うん!初めて人間のご飯を食べるから楽しみ」

坊主の手を取りベッドから降りた。


「そうじゃお主達の名前を聞き忘れたのぅ」


「あっすいません言い忘れてましたね、私の名前はミラです!この子はヴラ。選択が決まるまでよろしくお願いします」


「ミラさんにヴラ坊か、よろしくのぅ。

ワシの血を吸っている間に目を青くしておいたから吸血鬼とばれんから安心せい」


「青ですか?」


「そうじゃった、食堂に来る前に鏡で自分の姿を確認するとええ、では先に行ってるぞい」

部屋を出てしばらく歩くとミラさんの絶叫が聞こえた。

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