私は昔より夢を見ている。

まだ幸せだった時の。


「父様!おかえりなさい!

フィーは今日もお勉強頑張ったよ!」

小さい女の子が帰ってきた男の人の足に抱きついた。

これは八歳の時だ。


「フィーヌお前はいい子だな!

俺とは大違いだ!フィーヌの歳の時は勉強が嫌でよく逃げ出していたよ」


「父様悪い子だったんだね!」


「そう悪い子だったんだ、フィーヌが俺に似なくて良かったよ」

そう言って私を抱き上げてくれた。


この頃は父様が騎士団長に選ばれ爵位も侯爵になり、そして母様も身篭り貴族としても家族としても順調だった。


そして五年後悪夢が訪れた。


「母様!何故父様が捕らえられているのですか!父様は国家に反逆などしません!

父様の忠誠心は本物のです!」


「そうね。わたくしもそう思います。

大丈夫よフィーヌ、きっと陛下がなんとかしてくれるわ」


「ですが」


「本当に大丈夫よ、陛下とマゼルは友達だから。

きっと。

それより自分のすべき事をしなさい」


「分かりました、では失礼します」

この時の私は凄い嫌な予感がしていた。


そしてその予感は的中した。


「父様!やめて!父様を殺さないで!

父様!」

父様の手足は存在しなく、体には鞭に打たれた形跡があり、今国民から石を投げつけられている。


そして今、断頭台の刃が落ちた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

そこからの人生は地獄だった。


あんなに綺麗だった母様は娼婦のような格好をして体を売り、髪の艶がなくなり肌もがさがさになっていった。


四歳になった弟は貴族の生活を経験してなかったのが幸いして、無邪気に他の平民と遊んでいる。


私は母様が心配で私も身売りをしようとしたが凄い形相で叱られ、

それでも隠れて売ろうとしたらすぐに見つかり、初めて母様に叩かれました。


それから母様はどんどん衰退していきついに身を売れなくなるまでになりました。


「フィーヌ。誇りを持って、生きなさい。

フィーヌは私た、ちの誇りよ。

ゼル、あなた、には、何もして、あげれなかったわね。

でも母は、貴方達、を愛しています。

これ、から」

それを最後に母様は亡くなった。

母様が稼いだお金でしばらく過ごしていたが、やはり何もせずに暮らすことはできない。


とうとう身売りをするしかないというところで、父様の知り合いというおじ様に話を持ちかけられた。


それは悪と悪になりえる者の処刑を頼みたいと、それをすればお金をやると。


悪、それは私の心に深く刻みついている。


父様は言っていた。


「悪は許してはいけない。

悪を許せばこの国に多くの被害が出る。

いいかいフィーヌ、決して悪を許すな、そして正しいことをしなさい」

騎士団長として常に心がけていた。



ここで私は間違ったんだろう。

悪、その意味を分かっていなかった。



「ここは?」


「起きたかい、ここはワシが泊まっている宿じゃよ」


「お前は、、、そうか私は間違っていたんだな」

あの時の幼児の記憶を思い出し下を向いた。


「そうじゃな。

お主は悪に拘りすぎたんじゃ、

悪は人の立場によって違うのじゃよ。

お主の父はこうも言っておったはずじゃ、

本当の悪が必ず見極めろと」


「そうだな、確かにそんな事を言っていたな。他人に言われるがまま悪と決めつけるのは間違っていた。

はぁ、私はだめだな」


「他にもあるがのぅ、守りたかったんじゃろ弟を。

じゃから思い込む事にしたんじゃよお主は。

今から殺すのは悪じゃと、これは正しいことじゃと。

そうせんと賃金を得られんからのぅ」


「全てお見通しというわけか。

お前は何者なんだ?

私しか知らない父様との話や弟の事も知っている。

只者じゃないだろう?」


「じゃから言っているじゃろう、スケコマシじゃよ」


「なんだそれは。

名前を聞いてもいいか?」


「権兵衛じゃ」

男は顎髭を触りながら言った。


「私、いや俺はフィーライヌ・テオストーラ。

元貴族だ。

特別にお前はフィーライヌと呼ばせてやる」

夢のせいで自分のことを私と呼んでいたので元に戻した。


「ワシのことは好きに呼んでくれて構わんよ、フィーライヌ」


「では略してスケさんと呼ばせてもらおう」


「そっちからとったかまあ構わんよ。

それでどうするんじゃ?」


「とりあえず弟のもとに一度帰るよ。

世話になったね、帰るよ」

ベッドから降りて部屋の入り口に向かう。


「それはやめておいた方がいいのぅ」


「何故だ?」


「存在しないからじゃ」


「え?」


「よく思い出すのじゃよ。

妖術『遡及』」

男は私の頭に手を置いた。


「そ、そんな。記憶まで、、」

私は思い出した、私の記憶は改竄されていた事を。


「待って!あの子は!ティアラは!

ティアラはどこにいるの!」

母様が産んだのが弟ではなく妹だということを。

そして今一緒に暮らしていた弟と思っていた男の子は赤の他人だと。


「知ってどうするのかのぅ」


「もちろん会いに行く!いや助けに行く!」


「左様か、それは無理じゃな」


「知っているなら教えろ!」


「ダマラスキの屋敷じゃ」


「ダ、ダマラスキ」

父様が騎士団長の時に副騎士団長をしていた男。

そして騎士団長になった男。


「その男のもとで娘として育てられている。

まあ最終的には手込めにするつもりらしいがのぅ。

そしてそれを餌にお主もの」


「なあスケさん、スケさんはもしかして本当に全てを知っているのか?」


「知りたいかのぅ?聞いても辛いだけじゃ。

何も知らない方が幸せな事もあるぞい」


「聞かしてくれ。俺は全てが知りたい」


「はぁ、女性の涙はあまり見たくないんじゃがのぅ」


俺はこの日全ての真実を知った。

俺は泣き叫び何度も壁に頭を叩きつけた。


復讐。

絶対に復讐してやる。

今日私は誓った、父様と母様に。

そして奪い返すティアラを。


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