「はぁ、はぁ。なんだあの男は」


「そうじゃのう、リリスが言うにはスケコマシじゃのぅ」


「何故お前がいる!まさか殺しに来たのか!?」


「そうではないのぅ、少し気になったのでな。お主沢山の人に恨まれておるぞ」

ワシの目には怨霊と呼ばれる者たちが彼女の周りにいた。


「なにを言っている!俺は常に正しい事をしてきた!その俺が恨まれるなどあり得ん!」


「お主、何人の幼児を殺した?」


「幼児?あれは悪魔だ!この国の法を破り盗みなど犯す!そんな者達は将来もっと酷い犯罪を犯すに決まっている!」


「なるほどのぅ、言っておくがその子達は無罪じゃよ」


「無罪?」


「見よ、妖術『記憶』」

ワシは高速で動き手を甲冑の頭に当てて妖術を発現する。


「あ、ああ、あ、ア゛ァー」

彼女の頭には殺した幼児の記憶が流れている。


妹を養うため糞尿にまみれて下水を掃除している姿。

家族を養うために体を売っている少女。


家族を守るために暴力を受ける少年。

たまたま犯罪を見てしまった幼児。


そしてその幼児を楽しそうに殺す算段している大人達。


妹を養っていた男の子は彼女に殺され妹は売られた。

体を売っていた少女は売っていた貴族が都合が悪くなり彼女殺された。

家族は他国の奴隷商に売られた。


暴力を受けたていた少年は騙され、家族はすでに貴族の玩具にされていた。

それを聞いた少年を彼女は殺した。


貴族の犯罪を見てしまった少女は訳もわからず彼女に殺された。

罪状はもちろん不敬罪。

他にもたくさん。


「分かったじゃろ、これは全て事実じゃ。

少し調べれば分かるはずなのに、お主は貴族や権力を持つ者に踊らされ罪なき者を殺した」


「嘘だ嘘だ嘘だ!」


「本当は分かっておるんじゃろう。

お主の記憶に触れた、心が壊れかかっておるぞ、ここで止まれ。

お主が目指した正義は違うじゃろ?

安心せい、怨霊はワシが何とかしてやる」


「違うこれはお前が見せた幻影だ!認めない!俺は正義を貫いただけだ!

悪を!悪を殺しただけだ!

そうだお前だ!お前がいなければこの苦しみから解消される!

ははははは!

死ねぇ!」

ワシはしばらく彼女の攻撃を受け続けた。

もちろん彼女の拳や足に影響がないように。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「満足したかの?」


「ぐ、ぐぅ、ア゛ーア゛ーア゛ー」

彼女は地面に寝転んでいるワシの胸ぐらを掴みながら泣きはじめた。

その涙と同じように怨霊達も泣きはじめた、

おそらく同調したのだろう。


あの子らの悲しみと彼女の悲しみが。


泣いた後彼女はワシの胸のに顔をうずめ寝た。

彼女を横抱きにしワシ等の泊まっている宿に帰った。


「ゴンベエ!それ何、まさかまた女の人?」


「まあそうじゃのぅ」



「はぁ、ゴンベエこの街に来て数日で何人の女の人を口説くつもり?」


「そうじゃのぅ、おなごはおればおるだけいいからのぅ。

なんじゃレベッカはやきもちを妬いてくれるのかのぅ?」


「ゴンベエ嫌い!もう知らない!」

レベッカは顔を真っ赤にして二階に向かって行った。

この宿に居るのはワシを待っていたんだろう、相変わらず素直じゃない子だ。


どうやら待ってたのはレベッカだけで他のおなごはいないらしい。


「店主殿、この子も宿に泊めたいのだが良いかの?」


「無理矢理ってわけじゃなければいいぜ」


「もちろん部屋は別々じゃよ。

部屋はあるかの?」


「すまないな今日の部屋は満室だ」


「なるほどのぅ、だから先程の言葉か。

安心せいワシは無理矢理襲うほどクズではないぞ」


「そうだな、あれほどの女達に囲まれても何もしてなかったからな!

じゃああんたのお仲間さんの間で決めてくれや」


「承知」

ワシは銀貨五枚を渡してとりあえずワシの部屋に彼女を寝かした。


彼女はこの国の元騎士団長の娘。

すでに没落し今は平民だ。

見た記憶によると父親である元騎士団長は無実の罪で処刑されたようだ。


どうやら副騎士団長が暗躍して彼女の父親に罪をなすりつけたみたいだ。

罪は国家反逆罪。

元騎士団長の時の功績により他の家族は生かされて平民に落とされたが、

その副騎士団長の息がかかった者達に騙され、罪のない者達を殺す羽目になった。


この子は純粋に悪を憎み、ただ正しい事をしたかっただけ。

怨霊となっている幼児も分かっているようだ。

彼女の純白の魂を。

だから間違った行いをする彼女をとても悲しく思い、荒れている。


「ゴンベエ、もしかしてその子も私と同じ?」

リリスがノックもせずに入ってきた。


「よく分かったのぅ」


「分かるわよ見れば。

わたしと同じように罪を背負った人の顔よ。

でも違うわね、わたしとは違う。

この子は純粋すぎるわ」


「リリスは本当に人の見る目があるのぅ」


「そんな事ないわ、ゼイクなんて盗賊に体を許したんですもの」

少し悲しそうな顔をした。


「リリス、安心せい。もうあの程度の男にお主はやらん。

よしよし」


「もう、子供扱いしないでよね」

そんなこと言いながらリリスは少し満足そうな顔をしていた。


「ねぇゴンベエ、なんで兜とらないの?」


「この兜は彼女にとって信念なんじゃよ。

女を捨てた証なんじゃ」


「ふーん。ゴンベエが言うならこの兜は大事なんだね。

顔を隠すほどの」

寝づらいと思うが鎧や顔を隠す兜を取っていない。

彼女は一人きりになるまで顔を見せないし、鎧も脱がない。



「ゴンベエどうするの?

この子起きたら暴れない?」


「それはあるのぅ。今日一日は彼女に付き合うことにするかのぅ」


「あれ?おなごって言わないの?」


「この世界では伝わらんからのぅ、少しずつ変えようと思っての」


「ふーんじゃあわたし達だけおなごって使ってよ!

なんか特別感あるから」


「良いぞ、本当にリリスは2人きりだと可愛いのぅ」


「そうよ!なるべく二人きりになりたいわ」

リリスは相変わらず抱きついてきた。


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