剣と棒


「来たか」


「アルミール様、ゴンベエ殿をお連れしました」


「ご苦労。

ハルバスには開始の合図をしてもらいたいから、この場に残れ」


「はっ!」

ハルバスに訓練所と呼ばれる場所に案内された。

ここに来る間にアルミールについて聞きいたけど「自分の口から話すわけにはいかない」と言われたので諦めた。


「ゴンベエこちらにこい」

ワシは頷きアルミールがいる訓練所の真ん中あたりに向かった。


「先ほど言った通り、僕と剣を交えてもらう。

安心しろ刃は潰してあるから斬れることはないし、スキルもお互い禁止だ。


それに僕はこの街で一番強いからちゃんと手加減してやる」


「ほう、ワシに手加減とは楽しみじゃの」


「随分と自信家みたいだな。


まあいい、ゴンベエこれを使え」

アルミールが両手で持っていた剣の一つをワシに投げた。


「ふむ。

これじゃだめじゃな」


「たしか剣のような物と言っていたな。


気にすることはないただ剣を少し交えるだけだ、お前の実力を測るためではない」


「そう意味じゃないのう。


これを使えばお主を斬ってしまうんじゃ」


「ゴンベエ忘れたのか、刃を潰しているから斬れない」


「それでも斬ってしまうんじゃよ。


どれ、何かいい物がないか探すとしようかの」

ワシは剣を置きもっと弱い武器を探した。


訓練所の周りを見て回ると良さそうな武器を見つけた。


「アルミール殿これでお相手しよう」


「ふざけているのか?


そんな棒切れて何ができるというんだ!」

訓練所に落ちていた一尺ぐらいの棒切れを持って対峙した。


「ふざけておらんぞ。

本当は扇子があればよかったんじゃが没収されておるからの。


バルバス殿開始の合図をくれんかの?」


「アルミール様どうしますか?」


「一度痛い目に合えば素直に剣を使ってくれるだろ。


ハルバス」


「はっ!


それでは、、、、、、、始め!」

バルバス殿の合図でアルミールはワシのもとに駆け出し、剣の刀身はワシから見て左斜め下になるように握られている。


ワシから動いてもいいが面倒なのでこちらに来るのを待つ。


「後悔しろ!


せりゃぁぁぁぁぁぁぁ」

アルミールさんは剣はワシから見て左上に持ち上げた後、右斜下に向けて振り下ろしきた。


ワシは右手に持っている棒の先端が右にくるように横にしアルミール殿の剣に当て持ち手を上に持ち上げる。

そうすると棒の先は右斜め下に下がり剣に斬られないように力を流していく、そしてワシの持ち手が剣のところいくとドン剣を叩き完全に力の流れが右にずれた。


ワシは右足を引いて横向きになり振り下ろされるアルミール殿の剣を避ける。


アルミール殿の剣は地面に向かって振り下ろされた。


ワシはその隙に棒で頭ペシっと優しく叩いた。


「これで勝負あったのう」


「な、何をしたんだ!まさかスキルか!

ハルバス!」


「いえスキルは使われておりません。


魔眼を発動して確認していました!」


「ではゴンベエお前は何をしたんだ!

体が勝手に動いたぞ!」


「アルミール殿の剣は剛剣じゃろ。


昔南蛮人の侍と戦い終わった時に聞いたが、剣は斬るのではなく叩き潰すと聞いておる。


ワシの使っている刀という剣はとても薄く、

斬ることに特化しておって、

お主のような使い方ではすぐに折れてしまうのじゃ。


じゃからアルミール殿の力を別方向に流し、

最小限の力で避けたんじゃよ。


これを流刀とワシは呼んでおる、

まあ南蛮人には柔剣と呼ばれたがな」 

かつて南蛮人に喧嘩をふっかけ刀と剣を交え、友となったことを思い出す。


「リュウトウ。

スキルではなく個人の技量というわけか。


一つ聞きたい。

それほどの技量があるなら僕が渡した剣でも戦えたはずだ。


何故わざわざ木の棒などを使った。」


「簡単なことじゃ。


おなご、女性に剣は向けん」


「お、おまえ僕の正体を知っていたのか!」


「当たり前じゃ。


男と女の間ような見た目と声じゃが、

ワシは魂を見ている。


お主が女性だと会ったときに分かったぞ。


実に美しい」


「う、美しいだと!


僕は冗談が嫌いなんだ!

スキルを使い本気で斬るぞ!」


「かっかっかっ!

それも面白い!


アルミールは美しい!美しい

美しいぞ!」


「殺す!

スキル『剣聖』『身体強化』『天剣召喚』


殺さないように気をつけるけど大怪我は覚悟しろ!」

刃を潰した剣を捨てて召喚した剣を握っている。


「面白い!

さあワシに傷をつけてみよ!」

たしかにワシに傷をつけるに値する力だ。

本当に傷がつくのか楽しみだ。


「アルミール様おやめください!」

バルバス殿がこちらに近寄ってくるが間に合わないだろう。


「死ねー!」

ワシは何もせずただ攻撃を受ける。


「うむ。

素晴らしい一撃だ」


「何故お前を斬れないんだ」

ワシの首を刎ねようとしたアルミールの剣は首に当たりそこで止まった。


「そうでもないぞ。

充分首に痛みを感じておるわい。


痛みを感じるなど久しぶりじゃな」


「ふっふっふっはははははははは!


僕の本気の一撃を受けてそんなこと言うなんて、こんな経験は初めてだよ!


そうか、僕じゃ君の全てを知ることはできないんだね。


君の名前を聞いていいかな?」


「ワシの名前はかす、

じゃのうて権兵衛じゃ」


「ゴンベエ、違う。

ごンベイ、ごんベイ。

ごんべイ。


権兵衛!これで合ってる?」


「初めてここでちゃんと呼ばれたぞ!


アルミールどの感謝する、少しだけ感動した」 

久しぶりにワシの名を正しく呼ばれた。


「合ってたんだよかった!


ゴンベエ、死ねなんて言ってごめん、

僕はすぐに頭に血が上っちゃってこんなふうにしちゃうんだ。


本当にごめん」


「それは呪いじゃな、解いて欲しいか?」


「呪い?

じゃあすぐ怒りで暴走することがなくなるの!

権兵衛解いてよ!」


「解けるが呪いをかけた術者は死ぬぞ」


「かまわない!呪いを解いてくれ!」

ワシは彼女の真剣な目に使うことを決め、

彼女に近すぎ右手をかざす。


「妖術『反転』」

アルミールから黒い物が出てどこかに向かっていく。


ワシは黒い物の正体を見えている、正体はアルミールの母親だ。

おそらくアルミールを産んだ後死んだんだろう。


彼女は呪いと共に娘に呪いをかけた者に復讐する、

きっと術者はとんでもない拷問を受けて死ぬだろう。


「母上?」


「よく分かったの。


アルミール殿の母のおかげで呪いの影響を最小限に抑えてられておったんじゃ。


今呪いをかけた者のもとに向かったようじゃよ、娘を苦しめた恨みをはらすために。


愛されておるの」


「そうなんだ。

会ったことないけどなんとなく母上のような人に抱きしめられた気がしたんだ。


そっかずっと守ってくれたんだね」


「そうじゃよ。

これからもずっと守ってくれるみたいじゃ、

アルミール殿とアルミール殿の母はとても強い糸で繋がっておるからの」

アルミール殿とアルミール殿の母親は緑の糸で結ばれている。


「教えてくれてありがとう権兵衛!


改めて自己紹介するよ、

僕の名前はアルミール・サンジェシカ。


この街の領主である父の娘だよ。


よろしくね」


「よろしく頼む。

どうやらその姿が本来のアルミール殿なのじゃな」


「あ!えーとそうなんだ。

一応この街で一番強いし、兵師団の団長だから偉そうにしなくちゃいけなくてさ。


兄様にも偉そうにしなくちゃいけないから嫌なんだけどね」


「ハルバス殿じゃろ」


「よく分かったね!


ハルバス兄様、権兵衛が僕達のこと気づいていたみたい」

少し遠くにいるバルバス殿にアルミール殿が話しかけた。


「顔がまるで違うのによく気づいたな。


それと妹の呪いを解いてくれてありがとう。


呪いをかけられているとは気づかなかったよ、

昔からお転婆だったからな」


「ハルバス兄様余計なことは言わないでください!」


「すまん。


それと気づいてあげられないで本当にすまん」

ハルバス殿は喋りながらこちらに来てアルミール殿に頭を下げた。


「気にしないでよ、

鑑定士に鑑定してもらっても気づかれなかったんだから、

ハルバス兄様の魔眼でも気づかないよ」


「いや兄として不甲斐ないなと思ってな」


「ハルバス殿のそういう気持ちがワシをここに呼んだんじゃよ。

兄として立派じゃ」


「そうだよハルバス兄様!

ハルバス兄様だけが僕を怖がらずに接してくれたんだ!


そのおかげで僕は僕でいられたんだよ!」

アルミール殿がハルバス殿に抱きついた。


「ところで2人に聞きたいんじゃがワシは街へ入れるのかの?」


「私はいいと思うぞ。

アミーの呪いを解いてくれたしな」


「うーんじゃあ権兵衛はこの街にいる間は常に僕といることが条件。


権兵衛が暴れても僕が止められるからね、

権兵衛の弱点が女性って分かったから」


「かっかっかっ!

たしかに弱点じゃな。


よかろう、美しい女性と常にいられるのはワシにとっても嬉しいことじゃ」


「う、美しいなんて軽々しく言わないでよ、

言われ慣れてないから少し照れる」


「その姿は可愛らしいの。


そうじゃ2人に相談事があるんじゃが聞いてくれるか?」

ワシは街に入る前にあの男とおなご達の話をした。

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