王太子

「感謝する」


「構わんよ、一応この国で生活しているからのぅ」


「それでも感謝しよう。

お主がいなければ余か他のものが殺されていた」


「それは間違いないのぅ」

ワシは会場にある応接間に案内され、王太子と向かいあって座っている。


あの後主催者は殺されていたのが見つかり、

ドラゴセルの本物は見つからなかった。


「それでお主は何をしておるんじゃ?」


「首を差し出したく」


「いらんのぅ」


「そこを何とか!王族の皆様を救ってくれたお方に剣を向けるなど私のプライドが許さん!

一思いにやってくれて構わない!」

ワシに剣を向けた護衛の一人が剣を差し出すようにして頭を垂れている。


「はぁ、王太子殿どうにかしてくれんか?」


「それはできない、この男は一度決めたら余の命令でも刃向かう」

首を左右に振りながら言う。

 

「それは不敬罪ではないのか?」


「子供の頃からの付き合いだからな、もう慣れた」

どうやら心が知れた仲らしい。


「どれでは一思いにやるかのぅ。

ほれ」


「これはなんだ?」

紫に光るわ緑色の液体の入った瓶を渡す。


「ワシが趣味で作ったこの世で最も苦い飲み物じゃ。

これを飲んだ動物達は皆死んだ、

どうじゃ、これならお主の覚悟も王太子殿に伝わるし罰にもなる」


「よかろう!このバチスタの忠義を見せる!

イグラシア王国に栄光あれ!」

一気に飲んだ男は白目を剥き両膝をついた後前方に倒れた。


「すまないな」


「やはり王太子殿にはバレておったか」


「これでも王族だ、人を見る目はしっかりと心得ている」


「そうじゃろのぅ、こんな馬鹿正直な護衛を側においておるんじゃからな」

そう男は死んでいない、ただ苦さが男の限界を超えてしまっただけ。

つまり気絶しただけだ。


「そういえば自己紹介がまだだったな」


「それは会場で聞いたから大丈夫じゃ」


「そうだったな、じゃあそちらの自己紹介をしてもらおう」


「ワシは権兵衛、

仲間と迷宮都市に向かっておる。

あとは特にないのぅ」


「そうか、では最後に聞こう。


お前が旧アランデラの王女、アンジェリカを逃したのか?」

鋭い目をして聞いてきた。


「そうじゃ、悪いかのぅ?」

顎髭を触りながら軽く答えた。


「いや悪くはないさ、兄上が会場に来なかったからな。もし彼女がオークションで兄上に落札されてたら大変なことになっていたよ」


「それはその者の嫁の話じゃろ?」


「驚いた、あの女狐に騙されていない男がいたとは」


「噂はよく聞くがあまりにも綺麗なものばかりじゃからな。情報統制しているんじゃろ」

いろんなところでそのおなごの話は聞くが、

一度も悪口を聞いたことがない。

そのおなごの手下がいい噂話を広めているのだろう。


「正解だ、あの女狐は手下に都合の良い噂を流させて、自分の都合の悪い事を言う奴らを処分している。

つまりこの世から消している。

もし女狐の話をする時はゴンベエ気をつけろ」


「承知。まあする相手もおらんから大丈夫じゃろ」


「そうか、なら余は帰るとしよう。

また会おうゴンベエ」

王太子は倒れている護衛を連れ部屋を出て行った。

あれが次期国王、なかなか面白い男だ。

倒れた護衛を除き、護衛を下がらせてワシと会うとは。



「ゴンベエ大丈夫だった?」


「大丈夫じゃよレベッカ。

王太子は見事な傑物であったわい」


「当たり前だよ、兄が上に四人もいるのに王太子になったお方だからね。

僕の父上様も王太子の派閥に入っているし」


「そうだなあの王太子は子供の頃からの優秀だったと父様聞いている。

まあ俺は会ったことはなかったがな」

アルミール殿とフィーライヌが王太子を評価した。


「ふーんわたしは嫌いね、なんか順風満帆に生きてきたって感じがするわ」


「私も嫌いね、部下がゴンベエに剣を向けたのに何も言わなかったんだもの」

リリスとレベッカも王太子を評価した。


「私はどっちでもいいですね、あの人の周りにいた護衛に欲しい品物を落札されましたけど」

アルサ殿の欲しがった品物は王太子の周りにいた護衛や貴族に落札されていた。


「そういえばゴンベエ様主催者の方は死んでいるんですよね?」


「そうじゃ」


「では護衛代は」


「護衛できておらんから無しじゃろ」


「そんなぁー私の白金貨十枚が」

アルサ殿は四つん這いになり落ち込んだ。


「まあ仕方ないじゃろ。

どれ子供達にお土産でも買って帰ろうかの」

会場にはオークションの他に出店している店がある。

そこにはお土産用として少し裕福の家庭に向けた子供用の商品があった。

でもワシは皆にそれを任せて書物を売っているところに行く。

そこには魔法や歴史書いてある本などが置いてあった。


「店主殿これをいただけるかな?」

魔法書を取り店主に言う。


「はい!銀貨十枚になります」


「ほれ」

銀貨十枚と丸めた紙を渡した。


「お客様そういうのはお断りしております」

おなごは少し勘違いをしているようだ。


「よいから確かめてみよ、お主にどうしても渡して欲しいと頼まれての」


「本当に困り、、」

ワシの方を睨みつけてきたので頷く。


「お客様ありがとうございます、

とても大切な方からのお手紙でした。

お礼に半額にしますね」

笑顔で銀貨五枚を返してくれた。


「では店主殿お気をつけて」


「はい、ありがとうございます」

ワシは皆がいるところに戻った。


「魔力の無いゴンベエが魔法書を買うなんて驚いた」


「ちょっと野暮用があってのぅ」

先ほどの店主は姫さんの仲間。

どうやら念のために会場に潜入していたらしい、だから姫さんがこの都市を出た事を伝えた。

そしてその行き先も。


「ふーんじゃあみんなの買い物も終わったし帰ろう!」


「そうじゃな」


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