リリス

わたしは暗い場所にいる。

怖くはない、だってゴンベエが近くにいることが分かるから。


絵のようにわたしの過去が並んでいる。

わたしはそれを見て歩いている、そこにはわたしの知らない記憶が沢山あった。


母親はわたしのを産みたくなかったと父に言っている。


父もわたしがいなかったら他の女のところに行けると。


ああわたしは望まれてない子なんだ。


全て壊せばいい壊せば!


「リリス」


「ゴンベエわたしは、生きててはいけなかったの」


「しっかりせいリリス」


「でも」


「それはお主の厄運が見せた幻想じゃ、

よく思い出してみぃ。

母親と父親や本当の姿を。

リンちゃん」

その名前を言われると知らない記憶が蘇る。


「この子を殺せとおっしゃるのですか!」


「そうです、いいですかその子は厄災を起こす存在です!」


「母様そんなことはありません!この子は皆に幸福をもたらす子です!

何故ならわたくしが今幸せなのですから!」


「族長である私に逆らうのですか!」


「おぎゃーおぎゃー」


「はぁ、リンアーテその子をとりあえず部屋で寝かしつけてからもう一度話し合いましょう」


「はい」


母様はわたしを赤ん坊が寝るように作られた柵の中に入れた。


「大丈夫よリリン貴方のことは私が守るから。今はお眠りなさい」

母様はわたしの頭を撫でてた。


目を覚ますと母様いなくなっていたが、目つきの悪い男の子がわたしを見つめていた。


「こんな弱そうな赤子が僕より魔力が多いなんて信じられないなまったく。

まあ今日でそれも終わりだけどね。

僕には人の記憶を改ざんするスキルと、名前を奪うことでその者の魔力を奪うスキルがあるんだ。


族長は君を厄災を起こす存在と僕が記憶を改ざんしているから、君を殺せと言っているんだよ。可哀想に普通に産まれれば僕のお嫁さんにでもしてあげたのに。


じゃあ二人の話し合いも終わりそうだから君の名前を奪わせてもらうよ。

君の名前は今日からリリス。

かつて召喚された勇者が語られた悪魔の一人の名前。

安心してよ、両親の記憶も改ざんするから。

あっそうだ名前と共に我が一族のまじないをかけてあげる。

きっと楽しい人生になるよ。

気が向いたら迎えに行ってあげるよ、僕のペットとしてね」

そう言ってわたしの顔に手をかざした。


「混沌たる闇よヤガラスの契約のもとに現れこの者に災いを与えよ。

それは慈悲なき災い、希望なき災い、救いなき災い。

『廻厄』」

わたしは黒い羽に包まれ眠りについた。



また目が覚めると今度は母の腕の中にいた。


「リリス起きたのね、大丈夫よ母様と父様が貴方を守るから」

この時にはわたしの名前はリリスになっていた。


「リンア追っ手が近くまで来ている」

若い父がそう言っている。


「ごめんなさいカイル、私が里帰りしたいと言ったばかりに」


「気にするな!俺はリンアとリリスがいればいいんだ!」


「カイル」


「さあ急ごう」

母様の腰を抱きながら荊道を歩いて行く。


そこからは地獄の日々だったが、母と父はいつも優しかった。

わたしが具合悪い時、母はいつもそばにいてくれて父は頭を撫でてくれた。

母が具合悪くなった時はいつもわたしに謝っていた。でも父と三人でいられて嬉しいと何度も言ってくれた。

最後には幸せだったと。


路上生活している時も父は明るく、わたしがいればどんな所でも生きていけると何度も抱きしめてくれた。


祖父が来て家が手に入り仕事もできるようになり順風満帆の時は、父は自分の物よりわたしにいろんな物をプレゼントしてくれた。

それも全部奪われてしまったけど。


でも母と父に愛されていることだけは真実。


そして理解したわ。


元凶が何かを。


「あらわたくしの姿が見えるのね。

いらっしゃい深淵の世界へ」

わたしと同じ紫の髪に紫に光る目、背中から蝙蝠のような翼が生えて、お尻から先っぽがハートになっている黒い尻尾も生えている。


「貴女がリリスね」


「そうよ、あの男の子のおかげでこの世界に産まれた悪魔よ。

種族はサキュバスっていったかしら」


「そう。わたしの不幸は貴女のせいなのかしら?」


「そうでもあるしそうでもないのが答え。

わたくし名前を核に呪いのようなものがかけられたのよ、わたくし自身は何もしてないわ」


「じゃあ貴女を消せばもう不幸は訪れないのかしら?」


「何言っているのよ。ゴンベエっていったかしら?あの男がもうその呪いを解いているわよ。

一番初めに抱きしめた時にね」


「ゴンベエ」

嬉しくなって名前を呼んでしまった。


「あとわたくしを殺しても厄運は消えないわよ、


ねぇ、リリンわたくしと契約しない?」


「契約?」


「そっ、契約。正直不幸になる貴女を見てて嫌でしたの。だってわたくしは貴女で貴女はわたくしだもの。


よく分からないわよね、簡単に説明するとこの体と心は貴女が心を保つために作った負の感情をもとに作られたのよ」


「負の感情?」


「そうよ、沢山の不幸な目にあったのに、

貴女が今も平気で人間として生きているのは、わたくしという存在が負の感情を取り込んでいたからよ」


「えーとありがとう」


「どういたしまして。

どうやら少しは理解してくれたようね。

それでどうする?契約する?」


「契約するとどうなるの?」


「そうね、まずはわたくしも貴女が一つになるわ。

そしてあの男の子みたいにまじないみたいなものが使えるようになるわね。

もちろんあの男の子の何倍も強力なやつをね。


まあ当然でしょ、わたくし達は厄運に愛されていたのだから。

負の力も人一倍よ、それに厄運もあるし」


「ねぇリリス厄運って何?ゴンベエが解いたなら呪いとは違うのよね?」

わたしが不幸だったのは厄運のせいだと思っていた。


「それは契約すれば分かるわよ。

ヒントを出すとしたらわたくしと貴女の力よ」


「その力があれば復讐できる?」


「余裕ね。スキル?そんなの関係ないわよ。

わたくしは悪魔、この世界の理から外れた存在だからね」

ウィンクしながらリリスが言ってきた。


「じゃあ契約しようかしら」


「やはり貴女はわたくしね、そう言うと思ってたわ。

じゃあ貴女にわたくしを返すわね」


「リリスとはもう会えないの?」


「会えるわよ、だってわたくしは貴女ですもの」

リリスがわたしの額に自分の額を合わせて言った。

そしてわたしとわたくしは一つになった。

そして厄運の意味を理解する。


「リリス、いやリリンかの?」


「どっちでもあるわ、面倒くさいからリリスで良いわよゴンベエ。

でも二人っきりの時はリリンて呼んでくれる?」


「良いぞ、リリスはさらに色っぽくなったのぅ」


「当然でしょ。

わたくしはサキュバスなのよ、男を手玉にとるのが役割だもの」


「本当にどちらでもあるんじゃのぅ」


わたし達の名前はリリンとリリス。

二人で一つ。


「この程度の相手に呪文なんて必要ないわね。

『狂い』」

魔物達は全身から血を流し狂ったように味方を攻撃している。


リリスの呪術『狂い』、血を操りその者の認識を改ざんする。

味方は敵に、敵は味方に。


「リリーが一番怖いですね」


「ありがとうクレア」

わたしの半身は悪魔、恐れられるのは本望。

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