制覇

「えーともう一度言ってくれますか?」


「だからFランクダンジョンを制覇したのよ」


「えーと御三方は今日冒険者登録されたはずですよね?えーと一応強い方を連れての制覇は違反とされていますがいいのですか?」


「あー最初に説明されたあれね、ギルド証には討伐したモンスターの名前が刻まれるからズルができないってやつ。

じゃあわたし達のギルド証を確認すればいいわ」


「本当によろしいのですか?」


「クレア、アルサ安心してギルド証を出しなさい」


「はいリリー」


「はいご主人様!」

三人は受付がいる机の上にギルド証を置いた。


「はぁ、たまにいるんですよねバレないと思っている人達が、じゃあ調べますね。

え?」

調べた受付にいるおなごは驚いて固まった。


「どうなのよ?」


「も、申し訳ございません!きちんと制覇されたようです!」


少し大きめの声で受付が言ってしまったので、冒険者ギルドで酒を飲んでいる者達が反応した。


「おい!そいつらは今日冒険者登録したはずだ!何で今日の今日でFランクのダンジョンを制覇できるんだよ!」

顔を真っ赤にした短髪の男が文句をつけて来た。


「あ゛!姉御達に文句あんのか!」.

酒を飲んでいたバリールが立ち上がり文句を言ってきた男に言った。


「バリールよいよい、文句があるなら彼女達が何とかするわい」


「わかりやした兄貴」

素直に椅子に座った。


「へっ腰抜けが。じゃああんたが言う通り女達に相手してもらおうじゃねーか」


男はクレアの胸を触ろうとする。


「無理よ、貴方はわたし達に触れることすらできないわ」


リリスがそう言ったように、たまたま男が床のとんがっている部分に足を取られ転んだ。


「女!何をした!」


「ただ貴方の厄運を操作しただけよ。

あと起きない方がいいわよ気絶したくないなら」


「う、うるせい!

がぁっ」

奇跡的に飛んできた椅子が後頭部に当たり気絶した。


「だから言ったのに。

あらわたくしに挑むのかしら?」

リリスからドス黒い気が出てきた、その姿はまさに南蛮の侍から聞いた魔女だ。

その姿を見た男の仲間の冒険者達は冷や汗を流しながら目線を逸らし、椅子に座った。


「り、リリス様おち、落ち着いて下さい」

受付のおなごがリリスを止めようとする。


「あら原因は貴女のせいなのよ?」


「リリー落ち着いて下さい、大丈夫ですよ、わたくし達は大丈夫ですから」


「ふぅー、ありがとうクレア少し感情的になりすぎたわ、

ごめんなさいねわたくしは少しあのような男が嫌いなのよ。

わたしを汚した男に似ているからね」

リリスの目は紫に光っていた、おそらく悪魔のリリスが怒っているのだろう。


「リリーそれをレベッカさんに言ったら怒られますよ!」


「えーと内緒にしてくれる?」


「さあどうしましょう、わたくしの親友が汚れたなんて言うのはレベッカ同様に許しませんわ」


「クレアごめんなさい」


「よしよし」

ワシの言った意味が分かったようだ、クレアには暴走しそうになるリリスを宥める、頭を撫でて。

リリスの激情を受け止めれる者が一人増えた。


リリスの厄運は己に厄災を呼ぶのではなく、

リリスに敵対する者に厄災を与える凶悪な物。


リリンとリリスが一つになったおかげで見えるようになった運命に、相手に己の厄運を与えることができる悪魔のリリスと、呪術適正があるリリンだからできる技だ。


「ま、魔女だ」

気絶している男の仲間が小さな声で呟きた。


「失礼な方ですね、リリーはどう見てもただの美人な女性です。

死にたいのですか?」

クレアが一瞬で動き叫んだ男に弓を引く、矢の先端は男の右目の所にあった。


「や、やめてくれ!」


「く、クレア様おやめください!冒険者同士の争いは違反になります」


「そうよクレア、怒ってくれるのは嬉しいけど少し過剰すぎるわ」


「分かっています。ですがここにいる皆様は理解していただく必要がありましたから。

リリーを侮辱すれば怒りを感じる存在がいる事を」


「クレア」

リリスがクレアに抱きいつく、

クレアはワシのことを見てニコリと笑った。


クレアは本当に理解しているのだろうリリスの危険性を、リリスが本気を出せばここにいるワシ以外の者が息絶える事を。


「お主はもう怒らせんようにこの場から離れた方がいいわい、身内が怖がらせたお詫びに金貨一枚やるからどこかで酒でも飲んで今日の事は忘れるといい、あとあの男を頼む」

気絶している男を親指で指差して言う。


「あ、ああそうするよ、悪いな兄ちゃん」


「気にするでない」

男は気絶している男を担ぎ少しフラつきながらギルドから出て行った。

ギルドの中はお通夜のように静かになっていて、チラチラとワシ達のことを観察している。


「どれ受付さん、先ほどの続きをしてもらえるかのぅ」


「は、はいではギルド証に制覇した印を刻んできますので少々お待ちください」


「分かったわい、その間依頼書でも読んでおくかのぅ」


ギルド壁には依頼書が貼られていて、

個人や商会など色々な所から依頼されている。


どうやらこの冒険者ギルドの依頼で一番多いのは国からのようだ。

そして難易度も高い。


「ゴンベエ様確かレベッカさんとレッドドラゴンを討伐されたのですよね?

この依頼を受けてはいかがです?」

クレアがレッドドラゴンの牙の納品の依頼書を指差した。


「牙か、ほとんどハム殿に売ってしまったが五本でもいいのかのぅ?」


「それは大丈夫だと思いますよ!これは商会からなので一本でも買い取ってくれます!

というかなんでハム商会に全部売ってくれなかったんですか!」

アルサ殿がワシの服を何度も引っ張りながら言う。


「それがのぅ、ハム殿の話じゃと一つの商会で全てを独占するといかんらしいのじゃと、

ワシにはよく分からんが経済が回らんらしい」


「あーそういうことですね、ハムの考えが分かりました。

ゴンベエ様の価値を上げたいんですねハムは」


「どういうことじゃ?」


「今ゴンベエ様と最も親しい商会は我がハム商会であり、ゴンベエ様から買い取った素材も豊富にあります。


そして他の商会が手に入れるのは残り物、つまり品物の数が少ないということです。

そして他の商会は考えます、ゴンベエ様と仲良くなればもっと沢山の素材を手に入れられると。


じゃあ他の商会はどうするか、ゴンベエ様に特別は待遇を用意するでしょう、そしてそのゴンベエ様と親しい新参者のハム商会は一目置かれるということです。


つまり新参者でありながら、ゴンベエ様という大きなカードを持つことで、他の商会との商談を有利に運ぶつもりなんですよ」


「よく分からんがハム殿が儲かるなら利用されてあげよう」


「ありがとうございますゴンベエ様」

アルサ殿は嬉しいのか抱きついてきた。


「皆様終わりましたのでこちらに来ていただきますか?」

どうやら終わったようなので皆は受付に集まった。


「ではクレア様、アルサ様、リリス様こちらがFランクダンジョンを制覇した証を刻んだギルド証になります。

皆様はFランクダンジョン制覇されたのでEランク冒険者になり、Eランクダンジョンに入ることができます。

Eランクダンジョンでは大勢の群れで行動する魔物がおりますのでお気をつけ下さい」


「分かったわ、忠告ありがとう。

それでゴンベエはこれからどうするの?」


「決まっておろぅ、一人でFランクダンジョンを制覇してくるわい」



ワシは宣言通りFランクダンジョンを速攻で制覇し、Eランク冒険者になった。


もちろん受付のおなごはびっくりして大きな声を出していたが、ワシに絡む者は誰一人いなかった。

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