領主


「私はこの街、サンジェシカの領主をやっているレイモンド・サンジェシカだ。


お前がハルベーリを治せると言っている詐欺師か。

残念だったな。この国一番の治癒師に見せたが治せなかったんだ。

お前如きが治せると病ではない。


アルミールもこんな詐欺師を連れてくるんじゃない!」

貴賓車で屋敷に着き、アルミール殿が初老の男に報告した後洋風の書斎のような場所に案内された。

そこには先程の初老の男とハルバス殿によく似た顔の男が座っていた。



「父上様、本当に治せると思うんだよ!


その治癒師が治せなかった、ハルバス兄様の目を治して見えるようにしてくれたんだ!


一回でいいからハリーを見てもらおうよ!」


「ハルバスの目を治した?それこそ信じられん。アルミールは二人に揶揄われただけだ。


そういうことだからお前はこの屋敷から出て行ってくれ。

私も暇じゃないんでな」


「父上様!」


「時にその右足はどうなされたのかのう?

レイモンド殿」

本人はうまく隠していると思うが少しだけ右足を庇うように歩いている。


「何のことだ」


「レイモンド殿の体の軸が少しずれておったので調べてみると、どうやら右足に古傷が残っておることが分かったんじゃが、

その傷は治さんのか?」


「治す?古傷をか?

詐欺師は常識も分かってないのか、

治癒師というのは現在の病気や怪我しか治せないんだ、だから私の右足の傷は治すことは不可能。


もういいだろう」

レイモンド殿は呆れた顔をした後、部屋の扉に向かって行った。


「ワシは治せるんじゃがのう。


どうじゃ詐欺師に騙されたと思って治されてみんか?」


「くだらない」


「父上様お願い一度でいいから権兵衛の力を試して!

権兵衛は普通の治癒師じゃないから!

お願い!

お願いします!」

アルミール殿は必死に頭を下げてレイモンドに懇願する。


「はぁ、一度だけだぞ。治らなかったらあの男を詐欺罪として牢屋に入ってもらうからな。それでいいか?」


「もちろん!ありがとう父上様!

権兵衛もいいよね?」


「もちろんじゃ。必ず治せるから牢屋に行くことはないからの」

ワシは座っている柔らかい長椅子から立ち上がり、扉近くにいるレイモンド殿のところへ向かった。


「それでは治すとするかの、

妖術『遡及』どうじゃレイモンド殿。ちゃんと治っておるじゃろ?」


「たしかに違和感がなくなり痛みも取れた!

君が言っていたことは本当だったのか!


ゴンベエ殿といったか?どうもありがとう」

レイモンド殿の太ももに手をかざし妖術を使った。


その後レイモンド殿は足をあげたり地面を踏みつけたりして、足の具合を確かめていた。

治ったことが分かり両手を掴まれてお礼を言われた。

「すごいでしょ父上様!

どうハリーを権兵衛に見せてもいい?」


「それは少し考えてさせてくれ。

権兵衛に見せるということは、ハルベーリに治る期待をさせるということだ。


この国一番の治癒師に見せた後ハルベーリは泣きじゃくり、もう期待させないでくれと頼まれた。


権兵衛殿は普通の治癒師ではないことは理解したが、本当に治せるか不安で仕方がないんだ。


一日、一日だけ考えさせてくれ」


「そんな時間はないようじゃのう」


「旦那様!ハルベーリ様の心臓が止まりました!」

部屋の扉が勢いよく開かれ若いおなご入って来て叫んだ。


「なんだと!ゴンベエ殿なんとかできないか?」


「権兵衛!」


「できる決まっておるじゃろ。

レイモンド殿、ハルベーリという者の部屋に入る許可をいただけるかな?」


「もちろんだ!ハルベーリが助かるならなんでも許可しよう」


「レイモンド殿、アルミール殿。

先に行っておる。

妖術『移行』」

ワシの体は消え、洋風の布団で心臓が止まったの子が寝ている部屋に移動した。


男の子の周りには先ほど扉を勢いよく開けたおなごと同じ服を着て、おなご達がなんとかしようと胸の辺りを押したりしている。


「お主達ちょっとどいてくれるかの?」


「だ、誰ですがあなたは!

ここはハルベーリお坊っちゃまのお部屋です!すぐに出ていきなさい!」


「一応レイモンド殿に頼まれたんじゃが、その子の止まった心臓を動かして欲しいとな。


お主達にはその子は治せん、ワシに任せるんじゃ」


「そうはいきません!

皆のものハルベーリお坊っちゃまを守りなさい」


「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」

一番最初に気付いたおなごの命令で守るように男の子の前に並んだ。


「困ったのぅ、早く治さんと魂が体から完全に離れてしまうわい。


そうなるとワシでも干渉できんし、仕方がないのう。


妖術『波動』」

妖術により彼女達が倒れ込むのを受け止め、優しく床におろした。


「男の子よ、今は治してやるからの。

妖術『触診』」

ワシの右手が緑色の妖気に包まれた。

ワシは男の子の心臓の場所に右手を当て、沈むように体の中に右手を入れた。


直接心臓を握り妖気に流し込むと心臓は動きだし、息を吹き返した。


「次はもう一つを解決せんとな。

妖術『清流』


まさか器官ではなく魔力の流れそのものが止められていたとわのぅ。


じゃがこれで大丈夫じゃな」

器官だと予想していたがある場所で魔力の流れが止まっていた。

その場所から返ってきた魔力とその場所に向かう魔力が重なり、異常を起こしていた。


「う、ううん。おじさん誰?」

男の子が気が付いたようだ。


「ワシは権兵衛。お主の病気を治しに来た者じゃ」


「治す?無理だよ、国一番の治療師でも治せなかったんだから。


お願いだからもう治る期待をさせないでよ!」


「何を言っておるじゃ?もう治っておるじゃろ。まだ具合でも悪いのかのう?」


「へ?本当だいつもの怠さが全然感じない!

ゴンベエさん本当に治してくれたの?」


「そうじゃよ、アルミール殿から治してほしいお願いされてのぅ」

男の子と話していると部屋の扉が勢いよく開けられた。

そして男の子の近くにいたワシの近くにアルミール殿が走ってきた。


「権兵衛!ハリーは?」


「アルミール殿、すでに治療は済んだ。

レイモンド殿もこちらに来て男の子の様子を見るといい」


「ゴンベエ殿本当に生き返してくれたのか?」


「それだけじゃないわい、

きちんと病気の方も治したぞ。なっ男の子よ」


「うん!たしかに治った気がする!いつも感じていた怠さも痛みも感じないんだ!


アミー姉様、父上様ご心配をかけました。

ハルベーリは完治いたしました!」


「ハリー」


「ハルベーリ」

二人は涙を流しながら男の子を抱きしめたい。


「なんで床で寝ているの私」


「すまんの緊急事態じゃったから気絶してもらったんじゃ」


「あなたは先程の!皆のもの旦那様とアルミールお嬢様とハルベーリお坊っちゃまを守りなさい!」


「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」

さっきも命令をしていたらおなごがまた命令すると、他のおなご達も立ち上がり、抱きしめ合っている三人とワシの間に前に立ち塞がった。


「困ったのぅ。

まあ気長に待つとするかの」

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