ハム殿とあの子達

「うむ、目を覚ますと美女がおるとはいいのぅ」


【早く起きろ。そなたが退かぬと森へ帰ることができぬ】


「すまんのぅ、もう少しだけよいかの。

ワシは体温が少しだけ高いんじゃ、お主の身体の温度が心地よい」


【変わった男だな。

皆妾の冷たさに怯える】


「他の男にもこんな事をするのか?」


【必要とあらば】


「んー少し妬けるのぅ」

ワシは少しだけ抱きつく力を強めた。

レベッカがワシの部屋に来る気配がしたので彼女を離し、彼女は森へ帰った。


「ゴンベエいつまで寝ているのー、

アルミール様がもう来てるわよ」

扉の外からそう聞こえた。

ワシは扉を開けてレベッカに答える。


「少し寝心地が良くてのぅ。

どれアルミール殿は食堂かのぅ。

ん、どうしたんじゃ?」

レベッカはワシの体の匂いをスンスンと嗅いでいる。


「なんかいい匂いするから、なんか森の中にいる時みたいな匂い。

ゴンベエなんかした?」


「秘密じゃのぅ」


「まさか!」

レベッカはワシを押し退けワシが泊まっていた部屋に入った。

しばらくドタバタとした後戻ってきた。


「おかしいなー絶対女の人が居ると思ったのに。ゴンベエ夜のうちに帰したの?」


「そんな事するわけないわい。

おなごを泊めたら朝までいるのがワシの流儀じゃ」


「確かに。ゴンベエならそうするわね。

でも何か隠している事だけは分かったわ。

今度教えよね?」


「条件はレベッカを抱く事かのぅ」


「もうゴンベエったらそればっか!」


「かっかっかっ!

レベッカ二人を下に待たせて終わるじゃろう、いくぞ」

歩いて行くと後ろからレベッカが付いてくるのが分かった。


一階に降りて二人の座っている机の周りにある椅子に座る。


「二人とも待たせたのぅ。

アルミール殿今日からよろしく頼む」


「うん!権兵衛と今日から一緒なんて面白そうだよ!」


「ゴンベエ今日はどうするのかしら?」


「リリスは行きたい所はあるかのぅ?」


「はいはーい!ゴンベエ商会に行かないと!

ハムさんがゴンベエが来るのを待っているよ!」

元気よく挙手したレベッカが提案した。


「そういえばそうじゃったのぅ。

では商会に行った後アルミール殿屋敷に向かう事にするかのぅ」


「あれ?またアルミール様の屋敷に向かうの?あっハルベーリ様の経過観察か!」


「レベッカそれもじゃが忘れたのかのぅ。

あの子達の事じゃよ。

アルミール殿準備はできているんじゃろ?」


「もちろん!権兵衛に頼まれたからね!

引き取る準備は完了しているよ!」

レベッカはどうやら思い出せないようだ。


ワシ等は朝食を食べた後アルミール殿案内で商会に向かった。


商会に入り冒険者ギルドで聞いた受付のようなところにおるおなごに話しかけた。


「すまんがハム殿を呼んでいただきたい。

ワシは権兵衛という」


「ゴンベエ?、、、え!本当に存在してたの!少々お待ちください!」

おなごは慌てたように何処かに走って行った。

そして身なりの良いちょび髭を生やした太った男が現れた。


「ほう、あなたがゴンベエという男ですか。

すいませんがハムはクビにしましてね、この商会にはいません。

ですからお帰りいただけますかな、詐欺師殿」


「ほう詐欺師。

何故そう思われるのかのぅ?」


「ふっ当たり前だろ。

その見窄らしい色の服を着て無精髭を生やし、娼婦のような女と野蛮な冒険者を連れているんだ。


大方買ったんだろうその女共は。

もう一人の男は護衛か?


まあいい、

早く我が商会から出て行ってくれ、

ハムのホラ話に付き合う時間などないんだよ」


「ほう、ならば帰ることにしようかのぅ」

ワシ等は商会を出た。


「アルミール殿あの男は見る目がないのぅ。

こんな綺麗な女を男呼ばわりとは、同じ男として情けない」


「き、綺麗だなんて、言ってくれるのは権兵衛だけだよ」


「そんなことないぞ、のぅリリス」


「そうね、そこら辺の女達よりよっぽど綺麗ね。特にゴンベエを見ている時の表情はね」


「り、リリス殿、揶揄わないで下さい」


「嘘じゃないわよ。ねぇーレベッカ」


「そ、そうね。きっとそうよ!」

どうやらレベッカは気付いてなかったみたいだ。


「どれハム殿を探すかのぅ。

妖術『狐火』

皆これに付いていけばハム殿の所に着くぞ」

狐火、火と言っているが妖怪の類だ。

ワシが思い描いた人物の気を探してその者のところに移動する。


本気を出せば使わなくても探せるが、面倒臭いので狐火に任せることにした。


狐火の案内で古びた民家に着いた。


「ハム殿、権兵衛じゃ。

出てきてくれるかのぅ?」

ドタンバタンと音が鳴り扉が勢いよく開かれた。


「ゴンベエ様!やっと来てくださったのですね」


「すまんのぅ、少し遅くなってしまったわい。

商会に行った門前払いを受けてしまったわい」


「ゴンベエ様のせいじゃありません!

あのにっくきあの男のせいです!

副支店長のゼーニス!」


「それはちょび髭を生やした太った男かのう?」


「そうです!

あの男は王都に定例報告に行った支店長がいないことを利用して、副支店長の派閥ではない社員をどんどんクビにしていったんです。


そして支店長が帰った時に、支店長の座を奪うつもりなんですよ!」

ハム殿はすごい形相でそう言ってきた。


「なるほどのぅ謀反という訳か。

ハム殿はどうするんじゃ?」


「ふっふっふっふっ!よく聞いてくれました!

ゴンベエ様が来てくれれば鬼に金棒、竜に翼を得たる如し!

さあ反撃の開始です!」

そこからのハム殿の行動は早かった。

すでに新しい商会を立ち上げて見せも手に入れていた。

そしてクビにされた職員を雇い、ワシが持っていた素材を店の前に並べ、叩き売りを始めた。

どんどんと人は集まり、奥にあった素材も全て売れた。

その売れたお金でワシから素材を買い、明日も同じことをするらしい。


ワシは用事があるのでそこまで見た後、

新たな商会、ハム商会の場所を離れた。


そして屋敷に向かったいる時に悔しがるあの男の姿を見かけた。


「どれここで出せば良いのかのう?」


「うん、とりあえずここに出してもらって僕から説明するよ」


「では妖術『幻界』

皆のものお疲れ様じゃった。街に着いたぞ」

おなご達がキョロキョロしていたのでそう言うと、皆泣き出し、抱き合っていた。


「みんな僕はこの街の領主の子供で、


アルミール・サンジェシカ。

まずはこの街の近くに盗賊に拠点を作らせてしまったことを謝る。

そして、被害にあってしまったことに対しても謝る。

すまない。


君達はこれから僕達が一度保護する。

もし帰る場所があれば必ず送り届けよう!

サンジェシカの名前に誓って!」

アルミール殿は剣を抜きに掲げた。


それ聞いたおなご達はさらに泣き出した。


そして一人のおなごがリリスのもとに来た。


「リリスさんありがとうございます」


「わたしは何もしてないわよ。

全部ゴンベエがやってくれたのよ」


「いえ、リリスさんが外にいるという事実が大事なんです。

必ずあそこから出られるという証ですから」

リリスは少しみんなが心配だったので、二、三回幻界入っていろいろ説明していた。


「別に、ただの気まぐれよ」


「リリスさんは素直じゃないですね。


ではゴンベエ様にも感謝をお伝えします。

本当にありがとうございました」

クレアは頭を下げてお礼を言ってくれた。


「よいよい、おなご、女性を助けるのは男の仕事じゃ。

気にせんで良い。それよりアルミール殿の指示に従うとよいぞ」


「はい。

ゴンベエ様またお会いできますか?」


「お主の会いたいのはリリスじゃろ」


「いえ助けていただいたご恩を返さなくてはいけません」


「じゃから気にせんで良い」


「いえ、我が家訓に受けた恩は必ず返せとありました。

必ず返します!」


「はぁ、そんな目をされると断りにくいのぅ。では今度酌でもしてくれるかのぅ?」


「はい!そんなことなら何度でもやります!

ではシャリーが呼んでおりますのでまた」

クレアはクレアの名前を呼んでいるシャリーというおなごのもとに行った。


「ゴンベエ、手を出したらだめよ」


「分かっておるわい。

最初はレベッカときめておるからのぅ」


「それでいいわ!」


「だったらゴンベエにさっさと抱かれなさいよ」


「うるさいわねリリス!

心の準備くらいさせてよ!」


「一体いつになるのかしらね。

はぁ、これだから生娘は」


「その喧嘩買ったわ!

おりゃおりゃおりゃ」


「ちょっと、や、やめてって!

ごめん謝るから!

や、ふふふふ」

リリスは懲りずにレベッカを揶揄い、また体をくすぐられている。


ワシはキセルを懐から出して一服した。

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