【魔王討伐ご苦労。

君のおかげでこの世界は救われたよ】

真っ暗で何もない空間で男と女の声が混じった声が頭の中で聞こえた。


「姿も見せんとは気に食わん奴じゃのう」

髪を後ろで結んでいる男が顎髭を右手で触りながら言う。


【姿なんて見せたら君の魂なんて弾け飛んでしまうよ】


「大丈夫じゃろ、

あの邪神と呼ばれているやつも普通に見えたからの」


【あんな紛い物と一緒にしないでよ。

邪神なんて呼ばれているけどただの力が強いだけの存在だよ。


まあこんな話はどうでもいい、

魔王討伐のご褒美になにか望むことはあるかい?

もちろん元の世界に返すことも可能だよ】


「いまさらあの世界に帰っても、

ワシはつまらない人生を送ることになるわ。


ごめん被る」



ワシはこの世界の神に勇者として呼ばれた、

強さを求めるあまり辻斬りを繰り返していたこの春日 権兵衛を。


ワシが来たこの世界は人類がおらず、

獣ようなものが支配する世界だった。


最初はとても楽しかった。

人間ではできない動き、能力。


何よりワシが斬ることのできない存在がいることに。

だがある時から普通に斬れることが出来るようになってしまった。


体の中なら何やらよくわからない力がでて、

それを刀に纏わせるといとも簡単に獣を斬ることができた。


そこからはひたすら斬って斬って斬りまくった。


常に強き獣を探しだし殺す。

そうしたら魔王と呼ばれるものを討伐したらしい。


最後はつまらなかった、

ただの一撃で屠ってしまったから。


【確かに君はあの世界との適合率が高かったからね、

どんな世界に行っても君は化け物だよ。


それを知った上で何か希望はあるかい?】

「そうじゃな、

おなごがいる世界に行きたいのう、

あとワシより強い者がいるところがいいのう。


歳も若くしてくれると嬉しいかのう」

前の世界にいたときはよく、

遊女に通っていたからそろそろ女を抱きたい。


【じゃああの世界がいいかな?

でも君より強い者って条件はあまり期待しないでね。


君は規格外なんだから】


「よいよい、

少しでも可能性があるならそれでよい」


【あと他に何か望むことはないかい?】


「刀。

ワシの力に耐えられる刀が欲しい。


この刀もどうやら限界のようじゃからな」


【ではその刀を不壊の能力を与えよう。

あと着物にもね】


「それはありがたい。

ワシにはこの服しかないからな。


さて神よ。

一つ聞きたい」


【なんだい?】


「何故ワシを選んだ?」

ワシはずっと考えていた、

何故人間をこの世界に呼んだのかを。


ワシならもっと強きものを呼ぶ。


【そうだね君の思う通りだよ。

何故人間を呼んだのかは、

理性のない強い存在は新たなる魔王になるからだよ。


そのギリギリの範囲にいた君を呼んだんだ。


大丈夫、もう次は君は呼ばないよ。


君の存在は僕も恐ろしい】


「本当は消されるのが怖いから姿を現さないのかい?」


【そうだよ。

神と呼ばれる僕を恐れさせる君は化け物なんだ。

気をつけて、

君が本気になれば世界は壊れる。


ご褒美として異世界に送るけど、

決して本気で戦わないで欲しい】


「わかっておるわい。

前にワシが本気で刀を振った時、

周りに何もかも無くなってしまったことがあったからのう。


それからは何年も本気で戦ってないんじゃ、

じゃから力の制御はできておる安心せい。



じゃが条件が揃えばええんじゃろ?」


【もちろんさ。


普段は僕の力で手加減して戦えるようにしてあるから、

好きに戦ってよ、

決して生き物を殺さないようにしてあるから。

殺したい場合はアレが必要だから忘れないでね】


「面倒ではあるがワシの力で斬れば皆死んでしまうから仕方ないの」



【じゃあ送ることにするけど何か要望はあるかい?

街でも森でも好きなところに送ってあげるよ】


「分からないから面白いのじゃよ。

じゃからお主に任せる」


【了解した。

ではな春日 権兵衛】

この声を聞いたあとワシの体はこの場所から消えて、

異世界に送られた。




「ふむ、ここは洞窟のような場所かの?

どれ若返っているか確認確認」

昔住んでいた鉱山のような場所に似ていることから洞窟と判断すると、

次元袋から鏡を取り出して自分の顔を見る。


「ほう、

確かに若返っておるな。


歳は25歳というところかの」

ワシの顔は勇者として召喚された時と同じ歳の顔になっていた。

髪はあの時のように艶があり白髪もない、

顔も張りがありツヤツヤと言ったところだ。



「さて、何やらすごい音がしている場所に向かうとするかの」

さっきから戦闘音が聞こえる場所にワクワクしながら向かっていく。

場所に着くと服がところどころ破けている長い赤い髪の、色っぽいお嬢さんが、

赤いトカゲと戦っていた。


ワシは色っぽいお嬢さんのいるところに向かい、こう言う。


「色っぽいお嬢さん、

ワシと団子でも食わないか?」

びっくりしたような顔を色っぽいお嬢さんはしている。


「に、逃げて!

あのレッドドラゴンが今からブレスを出すわ!


あたしのことはいいから逃げて」

色っぽいお嬢さんはワシに向かって叫ぶ。


「ふむ、

たしかにお嬢さんと団子を食べるにはあのトカゲは邪魔じゃのう。


どれ少し待っていてくれるかのう、

あのトカゲをどうにかしてくるとしよう」


「ちょっと!

死ぬ気」

刀を鞘から抜き、

トカゲにゆっくり歩き近づいていく。

トカゲがワシに向かって赤い炎のブレスをはいてきたが、

刀を振るい風圧でそれを相殺する。

「あ、あなた何をしたの?」

大したことはしていないのにお嬢さんが驚いた顔で聞いてくる。


「ただ消しただけじゃよ。


トカゲは逢引きには邪魔じゃ。


『飛び鳴り』」

右手に持つ刀を左から右に振ると、

パンっと音が鳴り、

ワシの刀から斬撃を飛び出してトカゲを襲った。

トカゲは胸に大きな傷をつけて倒れ込んだ。



「やはり弱すぎるわ、

お嬢さんトドメを頼むわい。


ワシは生物を殺せんのだよ。

と言いたいがまずはお嬢さんの傷を治そう」

ワシはあの世界で身につけた不思議な力でお嬢さんの傷を治した。


「これで動けるじゃろ。


ではあのトカゲのトドメを頼むぞ」

死にかけのトカゲを指差して言う。


「えーとわかったわ」

お嬢さんは言われた通りトカゲにとどめをさしてくれた。



「あのー助けてくれてありがとう」


「気にするな、

色っぽいお嬢さんを見かけたら助けるのは男のさがじゃ。


どうしてもお礼をしたいなら、

一緒にお団子を食べてくれればよい」


「お団子?」


「これじゃ」

次元袋から団子を出しお嬢さんに渡す。


「安心せい、

毒など入っておらん」

渡したお団子を見て怪しんでいるお嬢さんに言う。


「おいしー!

なんて甘いの!」


「そうじゃろ!

ワシの手作りじゃ!


もっと食べるか」


「食べたいけど、

その前にアレをどうするか考えないと」

お嬢さんがトカゲを指差した。


「しまえばよい」


「無理よ、

あたしのアイテムボックスじゃあれは入らないわ」


「じゃあこの袋に入れるかの」


「え?」

次元袋にトカゲを入れるとお嬢さんはまた驚きた顔をしていた。


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