第117話 聖女服
2023/09/11 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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捧げものをする人々の波は夜更け過ぎになって途切れ、ようやく俺もホテルに帰ることができた。立ちっぱなしだったせいもあってか、かつてないほどの疲労感から俺は部屋に入るなりそのままベッドへと倒れ込み、夢の世界へと旅立った。
そして今、またあの真っ白な空間に立っている。
さすがに今日はゆっくり眠らせて欲しいんだが……。
「何よ。会うなりいつも文句ね」
「あ、はい。すみません」
最近はこのだ……アルテナ様との付き合いにももう慣れてきたので、どうすれば話が早く終わるかも大体理解しているつもりだ。
「……まあいいわ。アタシをちゃんと敬うのはいいことね」
「はい。それで、今度は何をすればいいんでしょうか?」
「ああ、そうだったわ。十分な供物が集まったから、さっさと神殿建立の儀をやっちゃって」
「神殿建立の儀ですか?」
「そうよ。ちゃんと必要なアンタの聖女服も用意したわ。アンタのあっちでの記憶にあった聖女の服をアレンジして、アンタの好きそうな感じのデザインにしておいてあげたわ。感謝しなさい」
「えっ?」
「だから、聖女服よ。アンタの制服みたいなものね。ほら、レティシア、だっけ? あの娘だって外に出るときはいつも聖女服を着てるでしょ?」
「はい……」
なんだかものすごく嫌な予感がするのだが……。
「じゃ、そういうことで。あとはよろしくね」
「えっ? ちょっと待――」
なんとか呼び止めようとしたものの時すでに遅く、気付けばいつものベッドの上に戻ってきていた。
「ああ! もう! その神殿建立の儀とやらはどうやればいいのよ!」
相変わらずの駄女神に俺は結局頭を抱えるのだった。
◆◇◆
そのままふて寝し、気付けば朝になっていたのだが、どうにもまだ疲労感が残っている。やはり立ちっぱなしはかなり疲れ……いや、違うな。疲労が抜けきっていないのは駄女神のせいな気がする。
ああ、そうだ。駄女神といえば、聖女服がどうとか言っていたな。
ううむ。嫌な予感しかしないが、一応確認しておこう。
そう考え、アバター一覧を確認してみるとたしかに一着増えている。増えているのだが……。
駄女神よ。これが聖女服でいいのか?
豪華な髪飾りやネックレスはまあいいとして、スカートの丈が膝上でどう見ても絶対領域がまぶしい系なんだが、この世界のモラル的に大丈夫なのか?
こんな服を着ている女性なんて見たことないぞ?
一体どこからこんなデザインが駄女神の中に……って、そういえば俺の記憶を見てデザインしたって言ってたっけか。
いや? そもそもだ。俺はこれと似たような聖女服なんて見たことないぞ?
こういうのが好きなのは剛……あっ! そういうことか! また剛が俺のパソコンに勝手に保存してたやつを見たんだな?
ああ! あの駄女神はどうして! いつもいつもいつもいつも!
「……はぁ」
なんだか馬鹿らしくなってきた。駄女神だし、腹を立てても仕方ない。
これも仕送りのためだ。仕事だと割り切ろう。
そう考え、俺はとりあえず試着してみることにした。
アバター設定から聖女服を選択し、姿見がわりのライブプレビュー画面で確認する。
画面に映る俺は大きな赤い宝石があしらわれた金の髪飾りを身に着け、さらに胸元にはさらに大きな赤い宝石のあしらわれた金の首飾りが輝いている。
トップスはぴっちりしてボタンのない白いハイネックのシャツの上に肩から二の腕までをカバーする不思議な形の上着、そして腰は赤い宝石と金で細工されたコルセットベルトできっちり絞られており、胸がこれでもかと強調されている。
ボトムスは赤のミニスカートで、その下からは二重の白いレースが覗いており、さらにレースのフリルがついた太ももまであるハイソックスを履いている。
いや、うん。なんというか、似合ってる。なんと表現したらいいのか分からないが、ものすごく似合っている。悔しいが、駄女神の美的センスは認めざるを得ない。
だが、だ。本当にこれが聖女服でいいのか?
こんな聖女服を使徒に着させたら、記録の女神じゃなくてコスプレの駄女神として認識される気がするのだが……。
うーん。まあ、いいか。そもそも駄女神がこの服を指定してきたのだし、こんな服を着るのは恥ずかしいと信者が集まらなかったとしてもそれは駄女神の責任だろう。
いや、しかし駄女神の性格からして、その尻拭いをするのは俺になりそうな気がする。
でも言ったってどうせ無駄だろうしなぁ。
……まあ、なんだ。これは仕事だ。きっとこの服を着てライブ配信したら視聴者は喜びそうだ。
そうだな。うん。それで良しとしよう。
こうして自分の心に折り合いをつけるといつものワンピースに着替え、朝食に向かうのだった。
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