第15話 ゴブリンの実態

2023/07/24 誤字を修正しました。

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 翌朝、俺はロラン君に連れられて領主が住んでいるというお城・・にやってきた。お城といっても、それは昨日遠くから見張り塔に見えていたあの建物だ


 近づいてみればこの村の他の家々と同じ木造の家なのだが、二階建てなうえに背後には高い見張り塔のようなものが併設されている。


 そのうえこのお城は恐らく人工的に作り上げたであろう丘の上に建築されていて、きっと外敵に対抗するための司令塔の役割も兼ねているのだと思う。


 そんなお城にやってきた俺たちは、領主の執務室へと案内された。そこにはかなり高齢の男性が執務机に座っている。


「あ! 領主様」


 ロラン君がひざまずいたので、俺もそれにならって跪く。


「ほっほっほっ。お掛けなさい、エルフのお嬢さん。ワシはミニョレ村の領主、ジスラン・ド・ミニョレですじゃ。まさかエルフのお嬢さんをこの目で見ることができるとはのぅ。長生きも悪くないのぅ」


 そう言って嬉しそうに目を細めた。


「リリス・サキュアです。はじめまして」

「うん? そういう事情でしたか。座ったままで失礼しましたじゃ。リリス様、ワシのことはどうぞ気軽にジスランとお呼びくだされ」

「え? はい。じゃあ、ジスラン様?」

「ワシなどただの村長じゃ。リリス様に敬われるような立場ではございませんのぅ」


 ……なんの話だろうか?


 だが俺だって領主に敬われるような人間ではないはずだ。まあ、そもそも人間ですらないわけだが……。


「私だって敬われるような立場じゃないです。だからジスランさん、私のことはリリスと気軽に呼んでください。クロエさんにもリリスちゃんって呼んでもらっていますから」

「うむ? ううむ、そういうことなら仕方がないのぅ。リリスちゃん、よろしくのぅ」


 そんな俺たちのやり取りをロラン君はポカンとした様子で見ていた。


「さて、ゴブリンを発見したとのことでしたのぅ。それはどのあたりかのぅ?」

「はい。ロラン君もこっちにおいで」

「は、はいっ!」


 俺はロラン君の助けを借りながら、状況を説明した。


「ううむ。それほどの数がおったということは、どこかの村がやられた可能性がありますのぅ」

「やられた?」

「ええ、そうですじゃ。リリスちゃんは、ゴブリンには詳しくないのかのぅ?」

「はい。実はあまり……」

「うむ。ゴブリン、それとオークもじゃが、奴ら害獣は雄しかおらず、他の種族の雌をさらって子供を産ませるのですじゃ」

「え!?」


 なんだそれ?


「ゴブリンであれば猿や人間を攫って子供を産ませるのですじゃ」


 エロ同人などで見かける設定ではあるが、それが現実のこととなると吐き気を催すほどにおぞましい。


「そして生まれてくるのはすべてゴブリンなのですじゃ」

「あの、雌は……」

「生まれないですじゃ。すべて雄のゴブリンになりますのう」


 ……雄しか生まれないって、遺伝子どうなってるんだ? それに猿と人間のどっちにも受精するってあり得るのか?


「じゃから、今から女が村から外に出るのは禁止としますじゃ。それとロランに案内させ、現場の確認も必要ですのう」

「え? でも今村に男は……」

「うむ。じゃが、証言だけでイルトール公に派兵を要請できんのじゃ。ただでさえ戦争に若い男を取られておるのじゃ」

「……」


 ロラン君はそのまま黙り込んでしまった。


「あの、戦争って?」

「む? ああ、そうじゃのう。儂らの国イストール公国はラテル帝国の属国でのう。ラテル帝国の戦争に協力させられておるのじゃ」

「それで男の人が……」

「うむ。そうなのじゃ。働き盛りの男が狩りだされてしまってのう。戻ってくるのは死体になったときか、あとはジャンのように戦えなくなったときじゃ。村の者たちには申し訳ないことをしておるが、逆らえば儂らがラテル帝国に殺されてしまうのじゃ。ままならぬ」


 ジスランさんは寂しそうに目を伏せ、首を横に振った。


「そんな状況じゃからのぅ。派兵してもらうにもきちんとした書類が必要なのじゃ。儂がもっと動ければ良いのじゃがのう」


 女性はゴブリンを増やすことにもなりかねないので外には出せない。


 そのうえ国全体として男手が不足しているため、そう簡単には兵士を派遣できない。


 だからきっちり申請書を書いて、証拠と共に提出する必要がある、と。


 ん? 証拠なら動画でも?


 調べてみると、昨日ロラン君が襲われた場面の画像が消えずに残っていた。それをすぐに保存し、プレビュー画面を見せてみる。


「あの、ジスランさん。これじゃダメですか?」

「なっ!? これはっ!?」


 ジスランさんは顎が外れるのではないかと思うほどにあんぐりと大口を開けた。


「もしやこれが?」

「はい、そうです」

「それは……すばらしいですのぅ。これならば場所も分かりますし、きちんと報告できますのぅ」


 そういうとジスランさんは懐から紙を取り出し、何かを書き記していく。


「ああ、そうじゃ。リリスちゃんのことも報告に含めていいかのぅ? 自分たちで倒せるならと却下される可能性がありますじゃ」

「ああ、そうですね。大丈夫ですよ」

「助かるですじゃ」


 そう言うとジスランさんはすぐに手紙を書き終えると、封筒に入れて封蝋を施した。そしてベルを鳴らすと一人のメイドさんがやってきた。


「これを公都の公爵邸に」

「かしこまりました」


 メイドさんはうやうやしく手紙を受け取ると退室していく。


「さて、あとは待つだけじゃのう」

「あの、どのくらいで兵士は来るんですか?」

「そうじゃのう。一週間くらいかのぅ」

「そうですか」


 それまでにゴブリンが攻めてきたら……やはり俺が戦うしかないんだろうな。

 

「リリスさん、大丈夫です! 僕が、僕が守りますから!」


 そんな俺の様子に何を勘違いしたのか、ロラン君が鼻息荒くしながらそんなことを言ってきた。

 

「ロラン君? 大丈夫よ?」

「そうじゃぞ、ロラン。お主はまだ子供じゃ。子供は大人に守られておれば良いのじゃ」

「僕だって、僕だって来年は十五です! あと一年で大人なんだから僕だって! 母さんや村のみんなを! それに……」


 そう言ってロラン君は恥ずかしそうにちらりと俺に視線を向けてきた。


 なんと! この見た目でロラン君は十四歳だったのか!


 ああ、うん。まあこのくらいの年頃の男の子は女の子の前では見栄を張りたいものだもんな。


 ただ、なんというか、そうして俺を守ると言って見栄を張っているロラン君はすごく美味しそうだ。


 ……!?


 俺は今、何を考えた?


 あまりの思考に俺は頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けたのだった。


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 ちゃんと望みどおり(?)のオークもいるようです。次回は村の紹介動画を撮影します。

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