第16話 ミニョレ村を紹介してみた
「異世界からこんにちは。リリス・サキュアです♪」
木造の建物の入口で、極上のスマイルを浮かべたリリスが可愛らしくお決まりの挨拶をする。
「今日はここ、ミニョレ村を紹介しようと思いまーす。まずミニョレ村はイストール公国という国の西の外れで、私が生まれた黒の森という深い森の中にあるんだそうです。黒の森はかなり広いらしくてですね。なんと四か国にもまたがっているんだそうです。すごいですよね。なんだか秘境って感じで、ワクワクしませんか?」
やや興奮気味にリリスはそう語る。
「そんな黒の森の自然の恵みを利用して、農業と牧畜をしながら生活しているのがミニョレ村です。そちらの感覚だと、昔ながらの生活をしている村ってことになりますね。それじゃあ、さっそく見に行ってみましょう♪」
リリスはそう言うと、歩き始める。
「今私が歩いているのは村のメインストリートなんですけど、ご覧のとおりお店は一軒も開いていません」
リリスが左腕を広げて解説しているが、その身振りと歩いた振動で豊かな丘がたゆんたゆんと大きく揺れている。
「このメインストリートにお店が開くのは市が立ったときだけです。私のいる間に市が開いたら、その様子も紹介しますね」
リリスはそう言ってニッコリと微笑んだ。
そして画面が切り替わり、門のところへやってきた。
「ここが村の出入口の門です。今は……見張りの人はいないみたいですね。ちょっと行ってみましょう」
リリスはそのまま村の門をくぐった。
「見てください。こんな風に、村の周りは深い堀と木の柵で囲まれています。きっとこの堀と柵で森のゴブリンや動物から村人を守っているんだと思います」
リリスは橋を渡りながらも説明を続けていく。
「堀の外側にはご覧のとおり、畑が広がっています。昨日の食事もきっとこの畑で育てたものですね」
リリスは畑を背景に画面のほうへと向き直る。
「それじゃあ、村の中に戻ろうと思います。ゴブリンに襲われたら困りますからね」
そして画面が切り替わる。
リリスは少し変わった形の木の建物の前に立っていた。
「ここはですね。この村の教会なんだそうです。ちょっと入ってみましょう。お邪魔しまーす」
リリスはそう言うと、そっと扉を開けて中に入った。
扉からは一直線に祭壇へと向かって道が伸びており、左右に木の長椅子が並べられている。内装もシンプルで、わずかにステンドグラスがあるだけだ。
中は無人で誰もいない。
「誰も……いませんねぇ」
リリスはそう言って教会を祭壇の前まで歩いていったが、そこにもこれといって目ぼしいものはなかった。
「何もなさそうですね。それじゃあ、次の場所に行きましょう。お邪魔しましたー」
再び画面が切り替わった。リリスは屋外におり、背後には水の張られた堀と数メートルほどの盛り土のようなものがある。
「ここは領主のお城だそうです。この土の上にちょっと広い家が建っていて、塔みたいなものもあるんですよ。かなりおじいちゃんの領主が住んでいます。お城の中には人が住んでいるので、撮影は遠慮しておきますね」
そう言ってリリスは堀沿いをゆっくりと歩いていく。
「あ、見てください。あそこに水車があります。行ってみましょう」
やがて水車の前にやってきたリリスは目を輝かせながら画面のほうを向いてレポートを始める。
「見てください。大きな水車ですよ! すごーい。私、水車を見るのは初めてなんです。すごい迫力ですね」
ゆっくりと回る水車にリリスは興奮を隠しきれない様子だ。
「ちょっと水車小屋の中をのぞいてみましょう。こんにちはー」
リリスが声をかけながら中に入ると、そこには一人の老人が座っていた。
「ん? ああ、たしか昨日ロランと一緒にいたエルフの嬢ちゃんじゃな。なんの用じゃ?」
「ちょっと見物にきました。この水車では何ができるんですか?」
「ん? ああ、嬢ちゃんは水車を見たことがないのか?」
「はい。私の生まれたところに水車ってなかったんです」
「ほぅ。そんなところもあるんじゃな。この水車はほれ、そこの石臼で粉ひきをするんじゃよ。上に穀物を入れるところがあるじゃろ?」
老人はそう言ってガタガタと大きな音を立てて回る石臼の上に取り付けられた大きな漏斗状の箇所を指さした。
「あそこに入れた麦なんかが少しずつ石臼の中に入って、下に落ちるんじゃよ」
「へぇ、すごいですね」
リリスは興味津々のようすで回転する石臼を見ている。
「石臼と一緒に回っとる
「はい」
「その袋一つ分にをひいたら、こっちの小さい袋一つ分を利用料で払うんじゃ」
「そうなんですね」
リリスは二つの袋を持って見比べている。大きさの比率は恐らく二十分の一程度だろう。
「今日はもう、多分客は来んぞ。見たければまた明日の午前中にでも来るんじゃな」
「わかりました。ありがとうございます」
リリスはお礼を言うと、水車小屋を出る。
「すごかったですね。電気がない時代はみんなこうやっていたんでしょうかね? 私、あまり詳しくないのでコメント欄で色々と教えてくれると嬉しいです」
リリスはそう言って両手を胸の高さまで上げ、人差し指を下に向けて上下させる。
「というわけで、ミニョレ村の紹介でした。なんだかとっても素朴で、昔の人ってこういう生活をしていたのかなって、思いました。みんなはどう思いましたか? よかったらコメントで教えてくださいね。それといいねボタン、チャンネル登録をしてもらえると嬉しいです。それじゃあ、また会いにきてくださいね。バイバーイ」
◆◇◆
俺は作った動画の最終確認を終え、アップロードボタンをタップした。すぐさま動画はアップロードされ、公開状態となる。
さて、明日からはどうしようか?
この狭い村にそれほど動画のネタが転がっているとも思えないが、動画はたくさんアップロードしたい。
というのも、朱里と剛に仕送りをしてやるためにも早くGodTubeでの収益化の基準を達成したいのだ。それには千人のチャンネル登録者と一年で四千時間の総再生時間が必要で、とてもではないがまだまだ手が届くレベルの水準にはなっていない。
ただ、それとは別にこのところ配信が割と楽しいと感じてきている。
画面の中のリリスが視聴者にコメントで可愛いと褒められると、なぜか無性に嬉しいのだ。
この先どうなるのか不安ではあるが、もしかすると俺は意外とVTuberという仕事に向いているのかもしれない。
そんなことを考えつつも、俺はベッドに体を横たえるのだった。
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