第84話 捜査チーム
その後、俺たちは警備隊の本部へと移動した。そして一人で出されたお茶をすすりながら応接室で待っていると、アンリが何人かを引き連れてやってきた。
「リリス・サキュア様、昨日は大変失礼いたしました。にもかかわらず、この度はご協力いただき感謝いたします」
アンリはそう言って頭を下げてきた。どうやらかなり律儀な性格の人のようだ。レティシアからも悪い印象を持たれている様子はなかったし、きっと信頼できる人なのだろう。
「こちらこそ、よろしくお願いします。それに昨日のことはもう気にしていません。ちょっとびっくりしただけですから」
「寛大なお言葉を頂戴し、恐悦至極にございます」
アンリは再び俺に向かって一礼すると、一緒にやってきた人たちのほうへと視線を送った。
「リリス・サキュア様、麻薬捜査チームの主要メンバーをご紹介いたします。まずこの者がチームを率いておりますウスターシュと申す者です」
「ウスターシュと申します。記録の女神アルテナ様の使徒として名高きリリス・サキュア様にお会いできて光栄です」
「はじめまして。リリス・サキュアです」
ウスターシュさんは三十歳くらいだろうか? 筋肉質のがっしりした体型なうえに強面なため、丁寧に話していてもどこか威圧感がある。
「リリス様、チームのメンバーをご紹介いたします。こちらから順にダルコ、パトリス、ヴィヴィアーヌです」
三人は二十歳そこそこといったところか。
「僕はダルコっす。よろしくお願いしまっす」
ダルコさんはかなり短い赤髪に鋭い目つきが特徴的だが、口調のおかげかそれほど威圧的な印象はない。
「俺はパトリス。いやぁ、リリスちゃんマジ可愛いね~。ねえねえ、これ終わったらお茶にでもいてっ!? ちょっと? ヴィヴィちゃん?」
「私はヴィヴィアーヌです。リリス様、よろしくお願いします」
パトリスさんは長い金髪のイケメンだが、チャラいようだ。そしてそのパトリスさんを小突いて止めたのがヴィヴィアーヌさんだ。
ヴィヴィアーヌさんはなんというか、不思議と印象に残らない。特に美人というわけではないが不細工というわけでもなく、体型もごく平均的だ。髪だってこの町ではよく見かける茶髪のセミロング、瞳も茶色で、そう、何もかもが平均的なのだ。
影が薄い、とでも言えばいいのだろうか?
雑踏に紛れたヴィヴィアーヌさんを見つけるのは至難の業な気がする。
ただ口調は穏やかなので、悪い印象はない。
「リリス・サキュアです。よろしくお願いします」
「リリス様、彼らが捜査チームの主要メンバーとなります。それとは別に、リリス様の護衛として女性の近衛兵から一名出向してくることになっております。その者が到着しましたら――」
するとまるで計ったかのようなタイミングでドアがノックされた。
「誰かね?」
「近衛隊より出向して参りましたレオニーです」
「リリス様、どうやら到着したようです。入りなさい」
アンリが入室を許可すると扉が開き、黒髪で妙に色気のある妖艶な美女が入ってきた。
「アタシはレオニー、本日付けで近衛隊より出向して参りました!」
レオニーさんはその見た目とは裏腹に、凛としたよく通る声で敬礼をしながら挨拶をしてきた。
「うむ。私はアンリ、警備隊の副長だ。彼女が捜査にご協力いただくリリス・サキュア様だ」
「よろしくお願いします!」
「リリス・サキュアです。よろしくお願いします」
それから俺たちはもう一度レオニーさんに自己紹介をし直したのだった。
◆◇◆
それから別の仕事が入っていると言ってアンリが退席し、残った俺たちは捜査の状況や撮影条件について共有した。
「つまり、アルテナ様に記録していただくにはリリス様がその場にいらっしゃる必要があるのですね」
「はい。ただかなり遠くからでも後からこんな風に拡大できます」
ウィンドウを開いてついさっき俺たちが自己紹介したときの映像を拡大してみせた。
「おお! これはすごい! 窓枠の木目まではっきりと!」
「やはりイストール公とアスタルテ教会が認めただけあってすさまじい力ですね」
「そうですね」
俺もその点については同意だ。どういう理屈なのかは分からないが、この力で撮影された映像はスマホなどで撮影したものと違い、拡大してもくっきり見えるのだ。ザラザラになって細かい部分が潰れるようなことがない。もちろんいくらでも拡大できるわけではなさそうだが、少なくとも五十メートルほど離れた雑踏を歩く人の顔を画面いっぱいに拡大しても潰れは発生していない。
「でもリリス様の周囲を常に記録してもらえるなら心強いですよね! リーダー!」
「ああ、そうだな。リリス様、よろしくお願いします」
「もちろんです。全力で頑張ります」
俺がそう言うとウスターシュさんは小さく
「そんじゃ、リリスちゃんの服選びに行こうよ」
「え?」
「その服じゃ目立って仕方ないでしょ? だからここは一つ、リリスちゃんの服を買いに行こうよ。プレゼントするからさ」
な、なんだと?
「たしかにね。私も服を買い替えるのには賛成かな」
「やっぱり? ヴィヴィちゃんもそう思うよね? やっぱりリリスちゃんにはそんな地味な服じゃなくてもっとオシャレな服が似合うはずだよ。そんなに可愛いのに地味な服を着るなんて損失だよ!」
はい!? 捜査のために目立ちづらい服を買うんじゃないのか?
「パトリス、ダメよ? あなたの服の趣味、最悪じゃない。それに貧民街の捜査に行くんだからオシャレしたら余計目立っちゃうでしょ?」
「え~? 絶対可愛い服着たら似合うと思うんだけどなぁ」
「パトリス、そのくらいにしておけ。服については女同士のほうがいいだろう。ヴィヴィアーヌ、レオニー、貧民街を歩けるような服の手配を頼めるか?」
「もちろんです。ただ……」
ヴィヴィアーヌさんが俺の胸をじっと見つめてきた。
「少々苦労するかもしれませんね」
「う、うむ。頼んだぞ」
ウスターシュさんはなんともバツが悪そうにそう答えたのだった。
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