第82話 依頼
動画のおかげでごろつきたちは警備隊に綱紀粛正され、晴れて無罪放免となったわけだが、さすがにこれ以上ティータイムをする雰囲気でもなくなってしまったので早めにホテルに帰ってきた。
その道中、これまで以上にジロジロと見られていたのだが、やはり空を飛んでいたところを見られたからだろうか?
まあ、墜落するのが怖くてあまり高いところを飛んでいなかったせいもあり、目撃者が多かったのかもしれない。
とはいえ表だって俺に何かを言ってくる人もおらず、特に身の危険を感じることもなかったのは幸いだったが……。
とまあそんなわけでさすがに気疲れしてしまい、俺はそのままベッドに潜り込んだわけだ。するとあっという間に睡魔が襲ってきて、気が付くと再びあの真っ白な場所にいた。
ああ、またか。やれやれ、今回は一体なんの用だ?
「またって何よ? 相変わらずね。アンタはアタシの使徒なんだからちょっとは敬いなさい?」
「あ、はいはい。すみません」
「なんだか気のない返事ね。まったく。これからは心を入れ替えて、しっかりアタシに仕えるのよ。いいわね? わかった?」
「……はい」
「なんだか嫌そうね?」
「そ、そんなことはありません。いつも感謝しています。アルテナ様」
「ふーん」
だ……アルテナ様はそう言って疑いの目を俺に向けてくる。
色々と思うところはあるものの、二人に仕送りができているのはアルテナ様のおかげだ。その点について感謝しているのは間違いない。
「……まあいいわ。そんなことよりも大事な話があるわ」
アルテナ様は真剣な表情で俺のほうを見てきた。何やら少し怒っているようにも見えるが……。
「大事な話ってなんでしょうか?」
「最近、アタシのことを悪魔だとか言っている連中が増えてきているみたいなのよ。だからそいつらをなんとかしてきなさい」
「え?」
まさかあのときのごろつき警備兵が言っていたことを気にしてるのか? さすがにあれはあの場で俺を
「じゃ、そういうことで。しっかりやんなさい。アタシは今ちょっと忙しいのよ」
「ちょ、ちょっと!」
慌てて呼び止めようとするが、気付けば俺はホテルのベッドの上に戻ってきていた。
「あ……また、なのね」
俺は深いため息をついた。
これまでだったら怒りをぶつけていたところだが、今日は疲れも相まってそんな気力もわいてこない。それにこれまで説明不足だったことしかないため、怒りよりもまたか、という諦めのほうが先に立ってしまっている。
はあ。もう面倒だし、考えるのは明日にしよう。
そうして俺はそのままベッドの上でまぶたを閉じるのだった。
◆◇◆
翌日、あまり気乗りはしないものの駄女神に言われた件を調査するためギルドに向かったのだが、なんとその場でイストール公からの指名依頼が入っていることを聞かされ、お城に直行した。
お城の応接室で待っていると、すぐに険しい表情をしたイストール公が二人の男性を伴って入ってきた。
「リリス殿、待たせて申し訳ない」
「いえ、私も今来たところです」
「うむ。早速だが二人を紹介しよう。この男は我が国の宰相レナルドだ。儂の右腕と言っても過言ではない優秀な男だ」
いかにも切れ者といった雰囲気を漂わせ、スラッと背の高いメガネの男性だ。なんというか、ザ・宰相といったイメージだ。
「記録の女神アルテナ様の使徒リリス・サキュア様、お初お目にかかります。宰相のレナルド・クラヴェルでございます」
「リリス・サキュアです」
「続いてこの男は公都警備隊の隊長ボドワンだ」
ボドワン隊長はレナルドと違い、どこか温和な雰囲気のある中年男性だ。
「お会いできて光栄です。ボドワン・ディブリーでございます。昨日は部下が大変なご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでいた」
「リリス・サキュアです。ええと、昨日のことはアンリ副隊長が、その、はい。対処してくれましたから……」
「そう仰っていただき恐縮ではございます」
「うむ。昨日の件は儂からも謝罪する。部下が申し訳なかった」
「いえ、もう大丈夫ですから」
イストール公まで謝罪してくれた。どうやら彼らも昨日の事件を相当重く見ているようだ。
「さて、それで今回の依頼の件だが」
イストール公が話を切り出してきた。
「はい」
「まず、今回の件は内密にお願いしたい」
「内密に、ですか?」
「うむ。関係者以外、それこそ冒険者ギルドにも何をしているのか知らせてはならない。それほどの案件だということだ」
「……危険な話なんですか?」
「うむ。かなり危険な話だ。だから断っても構わないが、アルテナ様の使徒であるリリス殿は必ずこの依頼を受けるはずだ」
うん? どういうことだ?
しばらく考えた末、昨日駄女神にぶん投げられた件を思い出す。
「もしかして悪魔、ですか?」
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