第6話 魔法を使ってみた

 俺はたった今、次の動画のアップロードし終えたところだ。


 今回の動画のタイトルは「魔法を使ってみました」だ。


 いきなり魔法なんてどうしたのかと疑問に思ったかもしれない。


 何かネタはないかと考えていたところ、エロフは魔法を使える種族だと言っていたあの駄女神の言葉を思い出し、試しに念じてみたら魔法が使えてしまった。


 殺されたのもエロフに転生させられたのも業腹ごうはらではあるが、魔法が使えたということには少し興奮してしまった。


 だからといって許せるものではないわけが……。


 それはさておき、アップロードした動画を見てほしい。


◆◇◆


「異世界からこんにちは! リリス・サキュアです♪」


 画面にはややあどけなさの残る極上の美少女が微笑んでいる。


「今日もみんなに会えて、私、とっても嬉しいです」


 リリスはややテンション高めな様子で、彼女が少し動くたびに白いワンピースに包まれた巨大なふくらみがたゆんと動く。


「それと、応援のコメント、ありがとうございます。質問もいただいたんですけど、それは追々お答えしていきますね♪」


 リリスはそう言うと首をこてんとかしげ、再びニッコリと微笑んだ。


「今日はですね。せっかく異世界に転生したので、魔法をみんなにお見せしたいと思います」


 そう言うと、リリスは右側を注目してもらうように腕を広げた。するとその動きで再び双丘がたゆんと揺れる。


「ここははじめましての動画を撮ったのと同じ森なんですけど、ちょっと歩いて近くの小川まで来ました。見てください。水がとってもきれいですよね」


 リリスは慎重に川辺へと歩いていった。そしてしゃがんで両手で川の水をすくいうと立ち上がり、両手の間から水川へと落とした。


「ふふっ。すごいきれい」


 彼女は感動したように水が落ちていく様を見届けた。画面にはそんな彼女の横顔が映し出されている。


「ね? すごいきれいでしょ?」


 そう言うとリリスはぴょんとジャンプして、カメラの正面に向き直った。


「それでですね。せっかく川があるので、今日は水の魔法を披露したいと思います」


 リリスは少しはにかんだような表情になった。


「えへっ♪ どんな魔法だと思いますか?」


 リリスはそれから少しタメを作った。


「私はまだ始めたばっかりなんですけどね。なんと、水が動かせるんですよ。見ててくださいねー」


 リリスは手を川面かわもに向けると、何やらパワーのようなものを送るような仕草をした。するとすぐに水面が不自然に波打ち始める。


「えいっ」


 リリスが可愛らしい掛け声を出すと、まるで噴水のように川面から水が上へと噴き上がった。


 噴水の高さはリリスの背丈よりもかなり高い。


「ほら! すごくないですか? 私、魔法のある世界に転生したんだなって、実感しちゃいました」


 興奮を隠しきれないといった様子でリリスは右手の平を上に向け、噴水を紹介しようと腕を広げている。


 するとリリスの右手が噴水に触れてしまった。


「ひゃんっ!?」


 可愛らしい悲鳴を上げてリリスは後ずさった。だが時すでに遅く、噴水の水は盛大に跳ねてリリスの右半身を濡らす。


「ああん、もう。失敗しちゃったぁ」


 服が濡れて貼りつき、大きな胸の形とキュッとくびれたウエストが強調されているのだが、それに気付いていないリリスはしょんぼりした様子でそう言った。


「すみません。失敗しちゃいましたけど、こんな感じで魔法が使えるんですよ。異世界、すごいですよね!」


 すぐに気を取り直し、リリスは説明を続ける。


「他にもちょっと風を吹かせたり、小さな火を出すのもできましたけど……それはまた今度お見せしますね♪」


 そういってリリスはニッコリ微笑んだ。濡れて顔に貼りついた髪と体に貼りついた服が妙になまめかしい。


 くちゅん。


 リリスは可愛らしいくしゃみをした。


「あっ、ごめんなさい。このままだと風邪ひいちゃうかもしれないので、今日はこのへんで終わろうと思います。いいねボタン、チャンネル登録をしてもらえると嬉しいです。それじゃあ、また会いにきてくださいね。バイバーイ」


 そう言ってリリスは笑顔を浮かべ、右手を振って視聴者に別れを告げるのだった。


◆◇◆


 とまあ、こんなわけだ。


 動画でも話したとおり、火を出す魔法も風を吹かせる魔法も成功した。


 だが火はライターくらいの火を指先にともすくらいしかできず、風だってそよ風を起こす程度だった。


 これではさすがに動画映えしないかと思い、これらはあえて紹介しなかったというわけだ。


 もっと派手な魔法が使えるようになってから投稿しようと思う。


 それはさておき、俺は今大問題に直面している。


 それは食事だ。


 動画を撮っている最中にも感じていたのだが、どうにもお腹が空いて仕方がない。


 撮影中は頑張って元気に振る舞っていたが、もうそろそろ限界だ。


 ゴブリンの精気を食べて大丈夫になったと思ったのだが、どうやらまるで足りなかったらしい。


 早く食べ物を見つけなくては!


 俺は空腹を押し殺し、食べ物を求めて歩きだすのだった。

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