第77話 魔法の実験
二度目のライブ配信で盛大にやらかした翌日、魔法についてきちんと確認することにした俺は街壁の門にやってきた。すると検問を担当している兵士がすぐに声をかけてくる。
「おや? 君はたしかパン屋の?」
「はい。リリスです。ちょっと外に出たいんですけど」
そう言って俺は冒険者票を提示する。
「はいはい。ええと、リリス・サキュアちゃん、職業は魔法使いで等級は一般、と。はいはい。依頼かい?」
「いえ、ちょっとそこの森に行くつもりです」
「いつごろ戻るつもりだい?」
「今日のお昼過ぎくらいまでには」
「はいはい。じゃあ、気を付けてね」
「ありがとうございます」
こうして俺はイストレアの町を出て、物見の塔で見た森へと向かって歩いていく。
ああ、ちなみに冒険者の等級が一級となっているのは、リオロンでのオーク退治でその実力が認められて昇級したからだ。レティシアは俺を特級にすべきだと進言したそうだが、規定により飛び級は認められていないためできなかったと聞いている。
そんなこんなで俺は近くの森に入り、少し歩いていたところで小さな池泉を発見した。
よし、ここにするか。それなりに深さはありそうなので、もし魔法が暴走して引火してもすぐに消火できるだろう。
そう考えた俺は早速手のひらを上に向け、そこに小さな火が浮かんでいる様子を想像してみる。
すると手のひらの上に拳大の火の玉が発生し、浮かんでいる。
……どういうことだ? 普通にできてしまったぞ?
ライブのときのようにするには――。
「ひゃっ!?」
突然火の玉が火柱となり、天高く噴き上がった!
慌てて止めるとすぐに火柱は消えてくれたが、上にあった枝や葉が焦げており、一部の葉っぱから何やらぶすぶすと白い煙が上がっている。
「いっけない! 早く消さなくちゃ」
大急ぎで泉の水で消火しようとすると、なんと池の水がまるで消防車の放水のようにものすごい勢いで水が枝に向かって噴き上がり、燻っていた葉っぱを枝ごと吹き飛ばしてしまった。
「……」
ええと、これは一体どういうことだろうか?
転生したてのころは小さな火を出したり川の水で噴水を作るくらいしかできなかったはずなのだが……。
あ、もしかしてあれか? あのエロゲなオークの精気を食べたせいか?
たしかに精気を食べると自分の力が強まるのは知っていた。精気を搾り取れる距離は長くなるし、今では獲物の居場所がなんとなく分かるようにすらなっている。
今までそれは俺が淫魔の一種だからだと思っていたのだが、もしかすると精気を食べることで魔力が増強され、そのおかげでそういった能力が強化されていただけなのではないだろうか?
いや、でも待てよ? レベルのような概念があって、エロフは精気を食べることでレベルアップしていくという説もありかもしれない。
まあ、どちらにせよ、今の俺はかなり強い魔力を持っていることだけは間違いない。
それにいくら強い魔力を持っていたとしても、きちんと使えなければ宝の持ち腐れもいいところだ。
よし! もう少し何ができるのかを確認していこう。
風は……ここではやめとこう。さっきの感じだともっと広い場所でやらなければ危なそうだ。
となると次は……そうだ! 配信のときに失敗した飛行魔法を試してみよう。あのとき浮くことはできていたのだから、もう今度は上手く飛べるかもしれない。
そう考え、配信のときと同じように翼が生えて浮上するイメージで魔法を使ってみる。するとふわりと俺の体が浮上した。
お? おおお? これは……すごい! 数十センチではるが、体が浮いているぞ! もう少し高く飛べるかな?
試してみると、なんと行きたいと思った場所に自由に移動できるではないか!
おお! 素晴らしい!
そのまま泉の上へと移動し、水面に映る自分の姿を確認する。
すると俺の体は淡い光に包まれており、背中には鳥のような蝙蝠のような、不思議な形をした光の翼が輝いているではないか!
自分の顔や体型にはもう慣れているつもりだったが、これはヤバい。神々しいというかなんというか、とにかく次元が違うレベルだ。
気分が良くなり、そのまま木よりも高い空へと浮上してみる。すると森の向こうにイストレアの街壁と物見の塔が見えてきた。
おお! すごい!
よし、もっと高く飛んでみよう。
そう思ったのだが俺はふと下を見てしまい、あまりの高さに体がひゅっ竦んでしまった。
と次の瞬間、突然俺はバランスを崩して落下し始める。
「ひえっ!? た、助け……」
頭が真っ白になり、体が強張って上手く動いてくれない。そして……。
バシャン!
池へと落下した。
「ごほっ! んんんんっ!」
ワンピースが水を吸って重くなり、上手く泳げな……って、あれ? 足、つくじゃん。
ふう。危なかった。そこまで深くなくて助かった。
なんとも幸運なことに落ちた場所の水深は俺の肩ぐらい、つまり怪我もせず溺れもしないなんともちょうどいい場所だったようだ。
足がついたことでようやく落ち着いた俺はワンピースをアバター設定画面から脱ぎ、裸で岸へと上がる。そして再びアバター設定画面からワンピースを選択肢、新品のワンピースに着替え、そして何度かワンピースを着直すことで濡れた体を乾かした。
「はぁ」
ついため息をついてしまった。楽しい気分で魔法を使っていたが、急にテンションが下がってしまったのだ。
いや、楽しい気分というのがそもそも良くなかったのだろう。今回はたまたま下が泉だったから助かっただけで、地面だったら大変なことになっていた。魔法が危険だということが分かってここまで試しに来たのだから、もっとしっかりしなければいけなかったのだ。
そう反省したところで俺はもう日がかなり高い位置にあることに気が付いた。
「もうこんな時間なのね」
そう
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