第100話 イストール公の提案

2023/07/24 誤字を修正しました。

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 その後、駆けつけたダルコさんとレオニーさんによって男は逮捕され、牢屋に入れられることとなった。襲われていた女性の話によるとこの男は近所に住んでいるごろつきで、最近は麻薬におぼれ、ラリった状態で何度も迫られ、あろうことか麻薬を勧められていて本当に困っていたとのことだ。


 とはいえ麻薬常習犯の男を逮捕でき、持っていた麻薬も押収できた。さらに女性には駄女神が悪魔ではなく記録の女神だということを理解してもらっただけでなく、嬉しいことに神殿が出来たら感謝の祈りを捧げに行くとまで言ってもらえたのだから、これぞまさに一石二鳥というやつだ。


 こうしてレティシアの発案で始めた空からのパトロールだったが、最初の人助けでいきなり素晴らしい成果を挙げることができたのだった。



◆◇◆


 最初のパトロールで成功して以来、味を占めた俺は貧民街を中心に度々空からのパトロールを行い、その度に犯罪者たちを捕えることに成功した。そのおかげで貧民街の治安はかなり改善し、さらに麻薬捜査も予想外の進展を迎えることとなった。


 というのも、犯罪者のほとんどが麻薬にもなんらかの形で手を出していたのだ。麻薬中毒となってラリった者もいれば、自身が麻薬の密売に手を染めている者、さらに悪質な者だと売人と中毒患者を引き合わせ、マージンを取っていたというのもあった。残念ながら、麻薬は貧民街に本当に広く、深く浸透してしまっているようだ。


 とまあ、そんなわけで捜査チームは今、情報の整理に追われて嬉しい悲鳴をあげているところだ。そんな中、俺は突然イストール公から呼び出しを受け、お城にやってきた。


 いつもの応接室で待っていると、イストール公がフェリクスさんと一緒に入ってきた。


「リリス殿、待たせてしまってすまなかったな」

「いえ。ついさっき来たところですから。それより、今日はどうしたんですか?」

「うむ。リリス殿が最近、貧民街の治安改善に協力してくれていると聞いてな」


 イストール公はニコニコと上機嫌な様子でそう話を切り出してきた。


「え? あ、はい。そうですね」

「空から颯爽さっそうと舞い降りてくると噂になっておるそうではないか」

「はい」

「そのときの動画は残っているのかね?」

「え? はい。そうですね。証拠ですからきちんと残していますよ」

「ふむ。ならば提案がある」


 イストール公が突然真剣な表情でそう言ってきた。


「提案ですか?」

「うむ。アルテナ様の使徒として町の弱い者を守るリリス殿の活躍を動画にしてはどうかね?」

「え?」


 ええと、それを動画にしてGodTubeに公開……なんてことを言うはずないよな。イストール公はGodTubeのことなんて知らないのだから。


 となると、どういうことだ?


「ピンと来ておらんようだな。連中の狙いはアルテナ様をおとしめることだ。だがリリス殿が正義の味方と広く知られるようになればアルテナ様の名声も高まることになり、連中の狙いを阻止できるだろう。ならばあのパン屋でやっていたような動画広告を作り、貧民街で上映すればよかろう」

「あ!」


 なるほど。そういうことか。たしかにラ・トリエールで動画広告をやったときはものすごい人だかりだったし、中央広場で報告したときもかなりの人が集まった。


 ならば実際に人々の生活を脅かしている犯罪者を捕まえ、人々を助けている動画と一緒に駄女神が記録の女神だと宣伝すればものすごい効果があるに違いない。


 そんな案を考えつくなんて、さすがイストール公だ。国のトップとして人々を動かしているだけはある。


 ……あれ? でもよく考えれば日本ではネットやテレビで散々広告が流れているし、そもそも選挙のときには政党の広告も流れていたよな。


 これ、本当は俺が思いつかなきゃいけないことだったんじゃ……?


「どうかね? やってみるならそこのフェリクスが取り計ろう」

「はい! ありがとうございます! お願いします!」


 俺は二つ返事でイストール公の提案に乗り、駄女神のイメージアップ動画を作ることとなったのだった。


◆◇◆


 それからフェリクスさんと相談して動画の内容を決め、必要なシーンの撮影を行った。そして第一弾の動画としてようやく満足のいく内容のものができたので、これから最終確認をしていこうと思う。


 俺は早速動画のプレビュー再生ボタンをタップした。すると、警備隊の本部の前で、警備隊の制服を着た俺の姿が映し出される。


 ……やはりサイズが合っていない。特に胸のあたりはボタンがはじけ飛びそうなほどにパツパツだ。いや、実際最初はボタンがはじけ飛んだのだが……。


「イストレアの皆さん、こんにちは。私は記録の女神アルテナ様の使徒、リリス・サキュアです」


 そんな恥ずかしいエピソードを思い出していると、画面の中の俺が微笑みを浮かべながらも真剣な表情でそう話し始めた。


「私は今、警備隊の皆さんに協力し、町の皆さんの安全を守るお手伝いをしています。今日は私がどんなことをしているのかをですね。記録の女神アルテナ様のお力で記録しましたので、ご覧の皆さんに紹介したいと思います。というわけで、早速パトロールに出発しようと思います」


 俺はそう言うと光の翼を展開し、一気に上空へと舞い上がる。


 こうして改めて動画で見ると、光の翼を展開して空を飛ぶ姿はまるで天使のように神々しい。


「私がパトロールに行くときは、いつもこうやって空を飛んで、地上でトラブルがないか見回りをしているんです。あ! 見てください! あそこで女性が男たちに襲われています!」


 そう言うと画面が俺の視点からのものに切り替わり、ぐんぐんとズームアップされていく。すると拡大された先で男たちが女性を襲っている様子が映し出された。


 一人の人相の悪い大男が女性の髪の毛を掴んで引っ張り、路地裏へと引きずっていっており、さらに三人の明らかに危険そうな男たちがニヤつきながらその後ろをゆっくりと歩いてついていく。


「急いで助けます!」


 すると画面の中の俺は一気にスピードを上げ、あっという間に男たちの前に立ちふさがるように舞い降りた。


「何をしているんですか! その女性を離しなさい!」

「ん? なんだお前?」

「お前も混ざりたいのか?」

「おい! 警備隊の制服を着てるぞ?」

「知るかよ! どうせ〇〇打っちまえば関係ねぇよ」


 ピー、という音とともに男の言葉の一部がカットされ、『どうせ麻薬打っちまえば』というテロップが表示される。


「そうですか。あなたたちは彼女に麻薬を打とうとしているんですね」

「おうよ。最高級の○○だ。天国に行けるぜぇ?」


 再びピー、という音とともに『麻薬』というテロップが表示される。


「お前も試してみろよ。その体、有効活用させてやるぜ?」

「そうですか。では、現行犯で逮捕します」


 すると男たちは突然地面に崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。ありがとうございます。でもこいつらは……」

「大丈夫ですよ。魔法で眠らせただけですから。それより、すぐに応援を呼びますね」


 画面の中の俺は上に向かって手を伸ばし、光の玉を上空に向けて放った。そして画面が一瞬暗転し、警備隊の兵士たちが駆けつけて男たちを縄で縛っている光景が映し出された。


 続いて男たちの顔が大きく映されると一人一人の名前と罪状と物証が表示さされ、さらに顔面を腫らした男が自白をするシーンが流され、最後に処刑の日時と場所がリリスの声で読み上げられた。


 それから画面が切り替わり、同じように空から事件現場を見つけては被害者を助け、犯罪者を捕縛するというシーンが繰り返し流れる。


 そして再び画面は再び警備隊の本部の前に立っている俺を映し出した。


「皆さん、いかがでしたか? 今日は私が普段どんな活動をしているのかの一部をご覧いただきました。記録の女神アルテナ様のお力があればこのように罪が行われたそのときの様子を記録し、動かぬ証拠として残すことができます。よかったら皆さんも記録の女神アルテナ様に祈りを捧げてみてくださいね」


 それから俺はニッコリと微笑んだ。


「それでは、今日はこれで失礼しようと思います。皆さんが空を見上げたときにもし私を見かけたら、パトロールを頑張っているんだな、と思って応援してくださいね」


 俺が笑顔のまま手を振ると、画面はフェードアウトしていくのだった。

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