第28話 ミレーヌとレティシア
俺たちはヤニックさんに案内され、森の中にある小川のほとりにやってきた。方向が違うので、この小川はきっと俺が歩いてきたものとは別なはずだ。
「こ、ここを行った先が、ミレーヌの姐さんが落ちた崖っす。あっしは他の連中を呼んでくるっすから」
「え? ちょっと?」
ヤニックさんはそう言うと、軽い身のこなしで森の中へと消えていった。
……もしかして、逃げられた?
面倒だから森の中で始末しようと?
そう思っていると、正面からゴブリンの群れがやってきた。
「レティシアさん、下がってください」
「ええ。頼りにしていますわ、リリスさん」
俺はレティシアさんを
イカ臭い臭いが漂ってきて、俺たちは思わず顔をしかめる。
「レティシアさん……」
「ええ、参りましょう。ゴブリンの群れの中に落ちたのでしたら、一刻も早く助けないと大変なことになりますわ」
俺たちはゴブリンの死体を乗り越え、ヤニックさんの言っていたほうへと歩いていくのだった。
◆◇◆
「くそっ! やってくれたな! トマめ!」
ミレーヌはゴブリンの群れに囲まれながらも懸命に双剣を振るっていた。
彼女が双剣を振るうたびにゴブリンは血しぶきを上げて崩れ落ちる。
ミレーヌはそうして突き落とされてから今までずっと、股間のポークビッツを立ち上がらせたゴブリンを殺し続けることでなんとか耐え抜いてきたのだ。
おびただしい数のゴブリンの死体があたりを埋め尽くしているが、それでも押し寄せるゴブリンの数が減ることはない。
そうしていると、ミレーヌは自分たちに向かってくるゴブリンの一部が別の方向へ向かっているのを見つけた。
「っ! 救援か? いや、だがゴブリンは女に反応する。冒険者の中に女は……」
そう
「レティシア! させるか!」
ミレーヌは前へ進もうとするが、ゴブリンがそこに立ちはだかる。
「どけぇぇぇぇぇ!」
ミレーヌが叫んだそのときだった。
ゴブリンたちがビクンと体を震わせたかと思うと、イカ臭い白濁液をまき散らしながら地面に崩れ落ちる。
「あ……な……な……」
ミレーヌはあまりのおぞましいその光景に目を見開き硬直したのだった。
◆◇◆
「ミレーヌ!」
レティシアさんがイカ臭いゴブリンの死体の上を走ってミレーヌさんの許へと駆け寄っていく。
俺は近寄ってくるゴブリンから次々と精気を抜き取り、殺していく。
ここに来るまでにかなりの数のゴブリンから精気を抜き取り、食べてきたわけだが、それで分かったことがある。
それは精気を食べることで俺の力はどんどん強まっていくということだ。
今では十メートル以上離れているゴブリンからも精気を抜き取ることができる。
そのおかげで安全にここまでやってくることができたというわけだ。
周囲のゴブリンの精気を食べ終えたところで、レティシアさんたちの様子を確認する。
「どうしてこんなことに! 崖から足を滑らせるなんて!」
レティシアさんはかなり強い口調でミレーヌさんを問いただしている。するとミレーヌさんは複雑な表情を浮かべながら謝ってきた。
「すまない。まさかトマに突き落とされるとは思っていなかったのだ」
「あ゛!?」
レティシアさんの口から聖女らしからぬ声が聞こえてきた。まるで般若のように恐ろしい顔になり、拳をわなわなと震わせている。
「あんだと!? あの野郎! あたしのミレーヌを突き落としただぁ!?」
!?!?!?
あの? レティシア……さん?
「ただじゃおかねぇ! ぶっ殺してやる!」
「お、おい。レティシア……」
「ああん? 大体ミレーヌもミレーヌだ! どうしてあんなクソオスなんかに突き落とされてんだ!」
「そ、それは……」
「油断してんじゃねーよ! 大体なぁ!」
「ご、ごめんなさい……」
キレて完全にキャラ崩壊を起こしているレティシアさんに気圧されたのか、ミレーヌさんが小さくなって謝っている。
俺もあまりのことにゴブリンのことがすっかり頭から抜け落ち、レティシアさんをただただ眺めていた。
するとそこに一匹のゴブリンがやってきてレティシアさんたちに飛びかかる。
まずい!
慌てて精気を抜き取ろうとしたのだが、レティシアさんの反応のほうが早かった。
「あ゛!? 邪魔すんな!」
ゴブリンの顔面にそれはそれは見事な右のストレートを突き刺し、ゴブリンはそのまま数十メートル吹き飛ばされた。
これは……一体?
「あたしがどんだけ心配したと思ってるんだ! 帰ったら寝かさねーからな!」
「ひ、ご、ごめんなさぁぁぁぁい」
なんというか、ミレーヌさんまでキャラ崩壊を起こした。
「ったく。ほら」
かっこいい女騎士キャラだと思っていたミレーヌさんがまるでか弱い少女のようにめそめそと泣いており、レティシアさんはそんなミレーヌさんの頭を胸に押し付けて優しくあやしている。
ええと、そうだな。ここは……よし! 見なかったことにしよう。
俺は考えるのをやめ、周囲のゴブリンから精気を奪い続けるのだった。
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怒らせると怖い剛腕聖女様でした。次回、二人の過去が少し明らかになります。お楽しみに!
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